学校給食ニュース
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記念講演:地域が支える学校給食 星寛治さん

学校給食全国集会 結果報告
2002年2月25日開催しました


 2002年2月25日に開催した、学校給食全国集会記念講演の第2段をお届けします。
(学校給食ニュース2002年4月号)


記念講演:地域が支える学校給食 星寛治さん

 

 山形県高畠町の星です。私は教育行政に24年ほど関わりましたが、町の教育委員長を離れて2年半ほどになります。 現場のことからややうとくなっておりますので、テーマに沿えるかどうか、少し心配なところもありますが、 みなさんと一緒に考えていきたいと思います。私は今も現役の農民です。 この年になってもひたすら大地に汗を流して有機農業で作物を育てております。
1973年高畠町有機農業研究会を立ち上げ、それ以来手探りの実践を積み上げ、今日にいたりました。
 その中でも、特に、都市のめざめた市民の方々、地域の学校現場、 とりわけ給食の現場の中で子ども達の健康を支えるためにがんばっておられる調理員のみなさん、栄養士のみなさん、と一緒になりながら、 食と農を結ぶ、あるいは教育と農を結ぶという視点で汗を流してきたと思っています。
 24年も子ども達の成長と変化を見ていますと、日本の近代化がもたらしたたいへん深刻な影響が地域の子ども達にも表れてきました。 できるだけマイナスの変化をきたさないように願いながら先生方や地域の方々と共に取り組みました。
 21世紀に入って、本来なら環境と生命の世紀が開けると言われていましたが、残念ながら、世界はますます混沌とした暗闇の中に放り込まれ、 不安な時代を迎えています。営々と築いてきた物質文明が崩れていって、日本の高度な産業社会も完全に行き詰まってしまいました。 今までの延長で日本を立て直そうとか、もっとお金や物の面で豊かにしようとしても、それはむなしいのではないかと思います。むしろ、 本当の豊かさとは一体なんだろうかと、根元的な問い直しをしながら、人類の歴史の中でも何度もないような転換期にさしかかっている今、 私たちの生き方を考える時になっていると思います。先が見えなければ見えないほど、むしろ身の回りのことを見つめ直して、そこから固めていく。 一歩一歩確実な歩みを続けていく以外にないと思います。その場合、なにより大事なのは健康です。健康なくして、理想論を語ってもむなしいです。 困難な時代だからこそ、食べものや健康に今まで以上に意を注いで、ていねいに大事につくり、食べていくことが求められていると思うのです。 大人はもちろん、これからの時代を担う子ども達に、大人の何倍も留意しながら食べものを与え続けていかなければなりません。
 みなさんは専門家ですから我が国の自給率についてもご存じだと思います。カロリーベースで、40%、穀物だけで27% というのが国が公表している自給率です。しかし、研究者によればもっと低下しているという見方が一般的です。カロリーベースであるいは39% とか、穀物ベースで26%と指摘する方もいます。つまり、 私たちの胃袋の3分の2は外国から輸入したものによってまかなわれているということです。東京や大阪など大都市だけではなくて、 日本列島津々浦々の農村、漁村、山村にいたるまでスーパーやコンビニが進出し、そこにあるものはほとんど都会と同じものなのです。 自然豊かな環境の中で育っていると思っていた地域の子ども達もたいへんな危機の中にいるととらえなければなりません。農水省に、 国の農業政策を提案する役割を持つ、農林水産政策研究所があります。そこの機関誌に興味深いレポートがありました。「フードマイレージ」 という考え方です。
 地球の果てからまで輸入している食品。生産された国から日本の港まで輸送に要するエネルギーは膨大です。同時に、 吐き出す汚染やエントロピーも多くなります。国内で生産するのをやめ輸入に頼るというのは、 地球環境を悪化させるのに大きく荷担することは明らかです。中田哲也さんという方が研究の中間報告のようなものを書いていますが、 輸入相手国からの食糧輸入量に我が国への輸送距離を掛け合わせて数量化する試みです。日本は食糧の総輸入量が5千300万トンにものぼります。 それに地球の裏側となると1万キロぐらいありますから、相手国と日本との距離を丹念に調べていくと、フードマイレージは5千億トン・ キロメートルという数字になるそうです。外国のフードマイレージと比較すれば、韓国の3.4倍、 アメリカの3.7倍という驚くべき数字になります。アメリカは、輸出大国として知られています。せいぜい、北米、中南米からの輸入ですむため、 2億数千万人の人口がいても意外とフードマイレージは小さいのです。
 我が国の惨憺たる状況が、新しい農業基本法に描くように急速に改善されて自給率が高まっていくかと言えば、残念ながら、 目標とは裏腹に低下傾向にあるということが、農水省が公表したデータの中に裏書きされています。
 都道府県別に行けば、北海道は、カロリーベースで176%の自給率、2番目が秋田県で157%、3番目が山形県で128%と続き、 東北各県はほとんど100%前後を維持し、食糧基地としての面目を保っています。反対に大都市での自給率をみますと東京都1%、大阪府2%、 神奈川県3%、埼玉県12%、京都府13%という数字が並びます。九州各県は比較的がんばってじりじりと自給率を上げていますが、全体では、 農業県といわれる県の自給率が徐々に減っており、国としての自給率も低下傾向にあります。
 その我が国の食卓の中身をみれば、質の面では、完全に食糧危機の段階に入っています。本間先生がご指摘されましたが、 本当の食べものと呼ばれるものがこの国にどれだけ出回っているのか、お寒い限りです。スーパーやコンビニの商品に、 貼られているシールの原産国を見てみれば、ありとあらゆる国があります。毎日、国際見本市を開いているようなものです。最近は、 ポストハーベスト農薬、環境ホルモンなどの不安、あるいは遺伝子組み換え作物が、 次世代に対してどれだけ深刻な影響を与えていくのかの研究がしっかり行われていません。ヨーロッパ諸国に比べると非常に無防備で、 丸腰で受け入れてきたきらいがあり、これからの子ども達に負の遺産を残しているのではないかと思います。
 幸い、市民運動、消費者運動が盛り上がり、厚生労働省、農水省に対して様々な要請活動を行い、ようやく30数品目ほどに限ってですが、 遺伝子組み換えの表示を義務づけるところまでにたどりつきました。しかし、輸入の遺伝子組み換え食品だけでなくて、 我が国においても外国の多国籍企業などと結びながら、国内において、たとえば、遺伝子組み換えコシヒカリの開発が着々と進み、 筑波の研究所段階では成功し、ほ場実験へ移すところまで来ていて、安全性が確認されているのを待っているという状況があります。
 今まで作りにくかった良質米を、倒れにくく、丈夫に、病虫害にも強いという生産の側面とともに、たとえば、人のゲノム、 人間の遺伝子を米の中に組み込んで、おばけのような米をつくったわけです。不思議というか、おそるべきことに、 生活習慣病のひとつの要因である血糖値を高くしていくのを抑えるホルモンをお米の中に生成していき、 食べ続けることで糖尿病を予防するような人造の品種が世に出ようとしているそうです。
 このことについては、昨年の集会で天笠先生などから勉強されていると思います。

 さて、日本の子ども達が発しているSOS、赤信号は、経済優先で突っ走ってきた日本の中にもたらしてきた深刻な矛盾です。たとえば、 キレル子ども達、犯罪に衝動的につっぱしるような体質を作り出した一番の根底に食べものの乱れ、食の荒廃があると実感してきました。 このことを解決しないで、純教育的なもので日本の子ども達を心身ともに健康に育てるのは非常に難しいと考えています。
 子ども達にとって生きる力とは何かと考えれば、命の糧である食を、労働と、技と、文化的な力で生み出す能力に他なりません。 日本の教育にはその視点がすっぽりと欠け落ちています。いくら抽象的な文言を労しても、 子ども達の健やかな育ちを取り戻すことはできないと思います。
 日本の子ども達をもう一度自然に帰すことが何より大事ではないでしょうか。緊急の課題としてあると思います。 子ども達が豊かな自然の中に入って、自ら身体を使って、汗を大地にしたたらせながら、命を育てるという取り組みをするときに、命の不思議さ、 かけがえのない生命の尊厳に目覚めるのではないかと思っています。
 具体的にどういうところから、このような時代の流れを作っていけばいいのでしょうか。
 それは、「身土不二」から再出発だと思います。土と私たち人間の身体は不離一体の関係であるという意味です。「身土不二」 はもともと中国の仏教に由来する言葉であり、思想です。ここ20年ほど、日本の消費者運動、 有機農業運動はこの言葉をひとつのスローガンにして展開されてきました。最近では、自治体なども、「地産地消」 という言葉をよく使うようになりました。私の住む山形県でも農業基本条例が昨秋に制定され、その太い柱に、 安全な食糧を県民に安定的に供給することをうたっております。つまり、農業生産者だけでなく、県民全体のための基本条例です。これは、 国の新しい農業基本法と同じ理念に立っています。もうひとつは、このために環境保全型農業を推進するという柱を立てています。そうして、 地産地消で県民の食卓を作ると明言しています。そのための予算措置をさっそく14年度予算の中に入れ、知事がかなり力を入れて地産地消、 食農教育の推進事業を全県的に展開する運びになっています。地産地消の動きは県レベルだけでなく、市町村でも広がっています。
 やさしく言えば、畑と食卓を結ぶと言うことです。今までの日本人の食生活が海の向こうに依存しているということは、 ものすごく距離が遠いわけです。この距離をできるだけ近づけてくる。農と食の距離を至近距離まで縮めていくということです。場合によっては、 食と農が重なり合う関係を意識的に作り出していくことがたいへん大事な課題だと思います。
 そのために重要な要素は地域に豊かに脈打っている食文化です。それを大事にしながら、現代の食生活の中に受け継ぎ、 新たな創造を加味していくことが大切です。そのような営みが具体的に実現していき、はじめて、子ども達の健康と、 人の一生の健康なライフスタイルが創造されるのではないかと思います。
 そのような健康なライフスタイルを形成していく基本のところに学校給食だがあると考えます。
 じっくりと現場をみていますと、現実に、バランスのとれた、しかも、安全でおいしい、 作る人の心の伝わるような給食を実践されている学校の子ども達は、のびやかに心身ともに健全に育っていくという事例がとても多いです。 筋書きの正しさが見えてきます。
 人間教育のもっとも基本を担うのが、食を通しての教育であり、その一番大切な部分をいまや学校給食が担っています。 孤食化が際限もなく進んでいく現代社会において給食はともに食べるという楽しい、にぎやかな場を作り出しています。おいしければ、 子ども達はきれいに食べます。皿をなめるようにしていただきます。作ってくださった方への感謝の心はそこから育っていくと思います。そして、 今日の給食はこんなにおいしかったと、家庭で母親に同じものを作って欲しいとせがまれたとき、お母さんは、努力をして良い食卓をつくり、 家庭においても食の面から子どもの育ちを支えていくという思いが働いてくると思います。学校給食は、その波及効果の中で、 家庭の食卓をも正常化し、地域全体の食文化をさらに豊かなものにしていく役割を持っていると思います。
 日本の食料事情に即していえば、特にご飯、米の消費が落ち込んで、30年以上も減反政策が続いているという情けない状況にあります。 水田もぼうぼうに荒れ果ててしまい、やがて原野に返ってしまうという風景に、どこにいっても出会います。 私たちのような農を営んできたものだけでなく、心ある人々はみんな胸を痛めています。この風景は、 日本の列島の環境がしだいに衰えていることを意味するわけです。だから、なんとかして、 米の消費を上向きにしていくような食教育をやっていかなければならないと思うのです。
 ある研究者の説によりますと、人間の食べものの嗜好、好みはおおかた14歳ぐらいまでに決まるそうです。つまり、 中学校卒業するまでに一生の食べものの好みが決まってしまいます。またある研究者は、中学校では遅い、 小学校6年生ぐらいまでにはおおよそ決まるという方もいます。いずれにせよ、義務教育の段階での食生活が、一生を規定するのですから、 たいへんなことです。
 高畠町は、人口2万7千弱ぐらいの小さな田園都市です。小学校7校と中学校4校があります。給食は、小学校だけで、 中学校は弁当をちゃんとつくってもらって持参するようにという方針で一貫しています。これについては、議論が分かれるところです。 小学校については、センター方式はとらず、はじまっていらい自校方式にこだわっています。週4回ごはんを提供し、1食だけ、パンとか、 たまに麺類が出るようです。児童数が多いところでは、町内のパン工場のパン焼きかまどで、 昔ながらのアルミの麦缶でクラスごとに量目を合わせて40分ぐらいで炊きあげています。それを保温し、各学校に運んでいます。 おかずは自校で調理しています。
 小さな学校は、ご飯まで自校炊飯です。
 かつて、給食用のお米は、政府米を使うこと、そうでなければ、国の補助金がでないという規制がありました。しかし、 どうしても地場産のおいしいごはんを食べさせたいとの思いがあり、1990年から、宮城県の多賀城方式に学び、 地元でとれたおいしい米に全面的に切り替えました。補助金分は行政と農協が応分に負担して地場産米を提供しました。
 食材の質を限りなく向上させることが、食べものを本当においしく安全で、栄養価がたっぷりで、新鮮であるという条件を生み出すことができます。 最近は、機能性まで加味されるようになりましたので、そこに配慮することも必要かと思います。
 一昨日、高畠町に農水省の食品総合研究所の堀田博先生を招き、有機農法と減農薬、慣行農法の野菜に品質の差があるのか、 その研究の成果に基づいた話をいただきました。データを示してのお話でしたので説得力がありました。有機農法の特徴として、葱の場合では、 葉の色と硝酸の含有量にかなりの差があるそうです。色があわくて、硝酸の含有量が少ない。玉葱ではりんとマグネシウムの含有量がたいへん多い。 桃や洋なしではポリフェノールの含有量が多く、ポリフェノールオキシターゼの含有量が高い。 温州みかんでは糖度が高いというデータが出されました。米については、でんぷんのねばりが向上し、食味が上がります。キャベツでも炭水化物、 りんの含有量が多く、レタスは貯蔵性、外観、肉質などが向上し、ブロッコリーは、ビタミンC、カロチンなどが高いということでした。 品目ごとの特徴を上げられました。
 食べものとして身体に入れた場合、健康に増進する働き、が、機能性だと思います。とりわけ、生体調整機能が取り上げられています。 有機農法産であれば、生理活性分子とか、ホルモンとか、機能性アミノ酸などが高い数値を示し、抗変異原性、抗腫瘍性、抗酸化性、消化促進性、 抗便秘性、抗肥満性、血圧調整能力、免疫賦活能、学習知力調節能などが高まるとされています。つまり、 本当にいい食べものを日常的に取り込んでいると体力だけでなく、学習能力も向上していくということを科学的に裏付けているわけです。
 このように見ていけば、給食の食材の質がいかに大事かということがわかります。
 可能な限り有機無農薬で、価格の面でなかなかそこまで手が届かないものであっても、減農薬で、安全なものを、 できるだけ新鮮なものを使うシステムを作り出すことが大事だと思います。現実に、日本列島の津々浦々で実践が行われています。
 そういう望ましい学校給食を食べて育つ子どもは、望ましい食習慣を自ずと身につけて、それを持ち続け、 健康と自立性を養うことができると結論づけられるのではないでしょうか。
 私の足元の高畠町立和田小学校給食について触れてみます。
 昭和39年、1964年に、地域のお母さん方が集まり、毎日の給食の野菜を自分たちの自給野菜を多めに作って1年を通して提供しようと考え、 自給組合を作りました。その前は、家庭から手元にある野菜を持ち寄っていたという段階がありましたが、安定的に確保できなかったり、 品質鮮度の問題があったようです。
 発足以来、38年に渡って、地域のお母さん方が、給食のある日は、校門が開くと同時に、朝採った野菜を給食室に届けています。 最初に取り組んだ方は70代中頃か後半になり、その娘さんやお嫁さんがあとを引き継いで自給野菜組合を守り続けています。あるいは、 都会から移住された方が高畠町には50数名いますが、その中で女性の方々が積極的に自給野菜組合に参加して、元々の地域住民と一緒になり、 学校給食を支えていただいています。教育行政の方からはとても頭の下がる取組みです。
 今から10数年前からは、町立保育所でも同じ方々の野菜や無農薬のコシヒカリを使い、ご飯は白米ではなく、 7分や5分づきのご飯を提供しています。
 小学校の児童は、町内で1687名います。1食あたりの予算は、250円ぐらいです。でも、流通経費が一銭もかからず、 いいものが安く手に入り、おかずを一品ぐらい多めに作ってもらえます。
 私は職務柄いろんな学校の給食室を見せてもらったり、食べる姿を見たり、試食させてもらってまいりました。今でも、 子ども達はほとんど残しません。これは、野菜をつくってくださるお母さん方の顔が見える、と同時に、自校調理で、 心を込めてつくって下さる調理員さんの姿が目に見えるわけですから、作る方と食べる子ども達の距離が近く、重なり合っているわけです。 いただく子ども達は感謝の思いが膨らむのです。毎年1回、給食記念日には、 子ども達の作文や手作りの金メダルなどが給食の原料を届けるお母さん方に渡されています。
 これは、和田小学校だけでなく、高畠の他の学校でも可能なところから取り組み、レベルを高めていこうという体制になっています。県内外、 秋田県の労農市民会議が音頭をとって、知事、市町村長、議会なども動かし、全県的に地産地消の学校給食を推進しようと考え、 「子どもの食と健康を守る会」というのを地域ブロックごとに形成しながら取り組みがはじまりました。あと2~3年たったら、 めざましい成果が見られるのではないかと思います。
 たとえば、湯沢、雄勝地方の子どもの食と健康を考える会は、いろんな団体のリーダーで構成されていますが、私たちの給食をみたいと、 2日間にわたり、食材をつくる現場、給食をつくる現場、食べているところをごらんになり、自給野菜をつくるお母さん方と交流会をを持ちました。 帰られた後、すぐにその地域でのあらたな取り組みがはじまっていると思います。
 高畠町では、今から約30年前に若い農民達が38名集まって、高畠町有機農業研究会を立ち上げました。この初期の取り組みについては、 有吉佐和子さんの「複合汚染」にかなりのページをさいて紹介されています。最初の頃は、本当に手探りの失敗の連続で、成果が上がるまでには、 3年、5年、10年と長い歳月を必要としました。それが、安定した生産の段階に入って、 しっかりと支援してくださる都市の消費者の方々との提携のネットワークが広がるに従って、 多品目少量生産の有畜小農複合経営と呼ぶ有機農業をベースとした小さなアジア的な経営が成立することを立証することにいたりました。その後、 多様な団体が町内に誕生し、それぞれに固有のやり方で、環境保全型農業、有機農業に取り組んできました。今、大体1000戸ぐらいの農家が、 多かれ少なかれ実践しています。97年に町が音頭をとって、農林課の中に事務局を置き、有機農業推進協議会を結成し、 10ぐらいの集団の会員をトータルしたら500戸ぐらいを数えました。その後、すぐにJAのライスセンターで減農薬有機米を生産し、 首都圏の大口事業者に供給している管理組合500戸が加入しました。そこも、年々レベルを上げていこうといういうことで、 そこも広い意味で環境保全型ということで、合わせると1000戸となりました。町内には、2185戸しか農家がありませんので、 約半数を環境保全型農業の陣営の中に包括したということです。そうなると、町の農業政策にも一定の提案能力を持つようになりますし、私も、 町の振興審議会の委員として、新しい総合計画を作るときに一生懸命提言し、「有機農業を核とした環境保全型農業を推進する」 という大きな柱をうち立てることができました。
 町作りのキーワードは、「参加」「創造」「共生」です。とりわけ、共生に大きな重心を置いたことが、 21世紀に向けての総合計画の特徴ではないかと思います。これは、新しい農業基本法が制定される前の段階での取り組みです。
 有機農業運動は、新しい村作りの運動から、都市と農村のダイナミックな交流活動へと発展し、今では東京墨田区の小学生を夏休みに受け入れ、 反対に、春休みに東京に村の子どもがホームステイでお世話になる、相互交流研修の場を作り出し、17年ほどにもなります。墨田区の学校給食にも、 最初はブドウ、リンゴなどの果物を提供することからはじまり、十数年の積み上げで、ようやく一昨年の秋から、高畠町の米が、 墨田区の給食米として全面的に取り入れられるようになりました。最近では、中学生、高校生の修学旅行なども受け入れられています。中学生は、 千葉県の八千代市、八千代台西中学校から1年生と3年生のときに季節をかえてホームステイします。150名ほど来ますので、JA、 観光協会が窓口になります。神奈川県の総合高校の2年生は、4つぐらいのメニューのうち高畠の有機農業の研修の希望者が多く、 6年の積み上げで毎年40名ほどを受け入れています。これには有機農業をずっと実践している団体と高畠共生塾という学習集団と教育委員会、 農業委員会が官民一体となって受け皿を作っています。しかし、100名近くの希望者のうち半分ぐらいしか受け入れられないため、 13年度から長野県の飯田市に半数の子どもが出向くことになったようです。
 さらに、13年前、立教大学の学生部が主催する「環境と生命」ゼミの学生がはじめてフィールドワークに訪れ、それ以来、ずっと続いています。 さらに、法学部、栗原ゼミが10年前から、次いで去年からは、コミュニティ福祉学部の学生が訪れます。早稲田、明治、東京農大、 千葉大など10ぐらいの大学が次々とやってきて、農業体験をしています。
 それらがきっかけになり、移住してきたという若者も少なくありません。そのように、農業の豊かさが見直され、地域の子ども達だけでなく、 都会の子ども達の教育ファームとして農村が機能していきます。交流から定住への流れが出てくれば、たいへんな活力源になっていきます。
 私は、ちょうど、40歳の時、20数年前、教育委員会にひっぱりだされ、うち16年間は教育委員長を務めました。 新米の教育委員が何を考えているか、聞いてみようと、町内の200数十名の教員が集まる機会に、90分ほど時間をいただいて、「耕す、 農の教育論」というタイトルでお話をさせていただいたことがありました。
 家庭において土と向き合い、作物を育てるという取り組みが難しいのであれば、学校において、学校農園を開設し、 小学校1年生から中学校3年生まで発達段階に応じた取り組みをやっていただけないかと問題提起をしました。先生方は、 意外に敏感に的確に反応していただき、次の年から地域の人々やPTAの協力を得つつ、11の小中学校全校に学校農園、学級農園が開設されました。 以来26年ほど積み上げてきました。
 ようやく、文部科学省も一昨年あたりから学校農園、学童農園を都道府県や市町村ごとにモデル農園を開設する動きをみせていますが、 ヨーロッパにおいては、
20年以上前から教育ファームは重要な国家施策として行われているわけです。ずいぶん遅れてしまったという思いはありますが、 これからでもやらないよりは、やったほうがいいのです。遅れを取り戻すぐらいのエネルギーを注いで、耕す教育をやっていただきたいものです。
 今、日本人は、毎日、650キロカロリーに上る残飯を出しているそうです。2100キロカロリーの供給量と摂取量との差をはじきだすと、 そういう計算になるそうです。小学生3年生、4年生の給食のカロリーは650キロカロリーらしいですね。学校給食の発祥の地、 山形県の鶴岡市では、エコピッグ、すなわち、学校の残飯、残さを集めて乾燥し、豚の餌に生かすリサイクルをつくり、 その肉が鶴岡の学校給食に使われるようになりました。地産地消を学校給食で実践している例ですね。
 つい先日、群馬県甘楽町を訪ね、学びました。ずいぶん長いこと、東京都北区と友好関係を結び、北区でふるさと館の事業を立ち上げ、 区民が大人も子どもも足を運んで過ごしています。北区の給食にも、朝どり野菜を運び、安全でおいしい給食を実現しています。北区の65校全校が、 生ゴミを処理する設備をもっていて、一次発酵したコンポストの形態で、量を7分の1にしてから群馬県に運び、そこで2次発酵させて、 もみがらや米糠とまぜて完熟たい肥にして畑に運び、また、野菜づくりに役立てる。 甘楽と北区の距離は100キロぐらいあったとしてもそれを超えていくような見事なとりくみを展開しておられました。
 全国環境保全型推進会議の中で、そういう農業に取り組んでめざましい成果を上げているところを表彰していますが、愛媛県の今治市での実践は、 「食料の安全と安定供給を確立する都市宣言」を早くから行い、有機農家と、市民と、農業委員会と、JAが協力そ合い、 全校の給食には地元の減農薬米や野菜が使われています。
 例を挙げればきりがありません。
 いずれにせよ、地産地消の給食の実現は、給食の質を飛躍的に高めます。よい食べものは、子ども達を変える力があります。 日本の子ども達の心と体の健康を取り戻す鍵を握っています。もちろん、壁にぶつかっている教育の問題も打開することができます。 年々衰えて行くように見える日本人の資質も、また、挽回できる可能性が出てくると思います。
 私たち大人の夢をかなえてくれるのは子ども達です。今を生きる大人の自己責任として、学校給食における、公的な、 社会的な重さを自覚しながら取り組んでおられる皆さんに象徴されるように、まさに女性の活躍できる場でもあります。 それぞれの地域において取り組まれていることをさらに充実発展していただきますように最後にお願い申し上げ、期待を込めて、 つたない話を終わらせていただきます。ありがとございました。

 

[ 02/02/25 集会案内 ]


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