学校給食ニュース
委託・合理化 | カテゴリ別記事一覧 | 時系列記事一覧 | トップページ |

2002年3月8日 市川市民間委託住民訴訟 原告側陳述書

2002年3月8日 市川市民間委託住民訴訟 原告側陳述書

 

 千葉県市川市では、平成12年(2000年)より、小学校の学校給食調理の民間委託化がはじまりました。この決定に対して、 市民グループが市川市との交渉や、支出に対する監査請求を行いましたが、民間委託化を止めるにはいたらず、 民間委託にともなう不法な公金支出であるとして流通経済大学経済学部助教授の植村秀樹さんが原告になり、住民訴訟を起こしました。現在、 裁判は進行中ですが、その中で、植村さんが裁判所に提出した意見陳述書があります。民間委託の問題点や保護者としての考えを示されています。 許可を得て転載します。(編集)学校給食ニュース紙版02年6月号掲載

 

陳述書
平成14年3月8日   植村秀樹 
  


はじめに
 私は十余年前から市川市に住み、子どもを市立大野小学校に通わせている。 同校を含む市内の6小学校で平成12年度から学校給食調理の民間業者への委託が始まった。この過程で私は、文教都市との触れ込みとは反対に、 市川市が教育を軽視している実態を目の当たりにし、失望を禁じ得えなかった。平成13年度は大野小学校のPTA副会長を務め、 子どもたちの健全な成長のために微力ながらも力を尽くしている。学校教育の観点から見て、給食調理の民間委託は、 子を持つ親の立場からは看過できない重大な問題を孕んでいるため、訴訟を提起するに至った。ここにその経緯と給食の民間委託の問題点を述べる。

1.学校給食民間委託の経緯
 市川市が学校給食の調理業務を市による直営から民間業者への委託に転換する計画は、 平成12年度から委託を予定していた6つの小学校の保護者に対して説明会を開くという通知によって、初めて市民の知るところとなった。 平成11年11月から12年にかけて、当該小学校で説明会が開かれたものの、時間は1時間と短く、 説明の大半を磁器食器導入の話に費やした学校もあるなど、民間委託についての説明は甚だ不十分なものであった。 説明会に先立って配布された資料には委託する理由が示されておらず、むしろ委託がすでに決まっているかのような印象を与えるものであり、 もう決まったことなのかと考えて出席しなかった保護者も多かった。また、保護者以外の出席を一切認めなかったため、 12年度に子どもを小学校に入学させる親たちには、説明を聞く機会さえ与えられなかった。説明会での質問する者には子どもの学年、クラス、 名前を言わせるなど、ものを言いにくい雰囲気をつくったうえで、説明に当たった教育委員会幹部は高圧的な態度で保護者を威圧し、 「市民の意見は議員を通じて聞く」、「いくら反対しても撤回しない」など、保護者の意見には耳を傾けないという姿勢に終始した。 「教育委員会の職員の態度が高圧的で不愉快だった」という声は6校すべての保護者から聞かれ、 平成12年2月に開かれた市議会でもしばしば問題となった。
 やがて、小中学生の保護者をはじめ、市民の間に委託への疑問や反対の声が高まり、平成12年1月には 「市川市学校給食の民間委託に反対する市民連絡会」が結成され、活発な活動が始まった。こうして計画の撤回を求める運動が広がりをみせると、 市の広報『いちかわ』や教育委員会事務局作成のリーフレット『これからの市川市の学校給食』などで説明を始めたが、 いずれも市民の疑問に答える内容ではなく、一方的な宣伝に終始するものであった。しかもリーフレットについて、当時の学校教育部長は、 「苦情の電話がたくさんかかってきたので作成した」と市議会で答弁した。つまり、 当初は学校給食の全体的な構想を市民に提示して理解を求めようとさえしなかったのである。まず、現在の学校給食の現状と問題点、 および将来の構想を示して市民の理解を求め、それから具体的な改善計画を提案するのが当然の順序であろう。 そうした手順を踏まえていないばかりか、教育委員会が配布したリーフレットは、 前年の同時期に隣りの船橋市がやはり民間委託導入に際して作成したものの焼き直しに過ぎなかった。このように隣接自治体のやり方を真似たのは、 教育委員会に学校給食に対するビジョンがなかったからである。
 そもそも調理の民間委託が教育委員会の発案によるものでなかったことがその背景にある。学校給食の問題点やその改善方法については、 教育委員会では特に議題とはなっておらず、給食調理の民間委託についても一度も論議されていない。このことは同委員会の議事録から明らかである。 つまり、学校給食の改善の方策のひとつとして調理の民間委託という方法が出てきたわけではないのである。当時の教育長は、 市職員組合との折衝の際に、本当は委託したくないと本音を漏らした。市議会でもこの点について質問を受けたが、答弁はなかった。
 市議会には市民連絡会による委託反対の陳情をはじめ、一旦計画を凍結した上で話し合いを求めるもの、 委託に当たっては給食の質を下げないよう厳しい条件を求めるものなど、数件の陳情が寄せられたこと自体、 この問題に対する市民の関心の高さを示していた。予算は平成12年3月に議会で可決されたが、議会での審議の過程で教育委員会は、 誤解を与える説明や事実と異なる答弁を繰り返した。すでに「見積もり合わせ」という方法で業者をすべて決定していたにもかかわらず、 議員の質問に対して「ただいま選定している」との答弁を繰り返した。すでに選定が終わっているという事実が発覚し、 委託自体には賛成の議員からさえ、「議会でその場しのぎのウソを言ってはいかん」と叱責を受けるありさまであった。
 以上のように、市長と教育委員会は、保護者をはじめとする市民の疑問に誠実に答えようとせず、に十分に説明し、理解を得るための努力を怠り、 委託を強行した。

2.学校給食と委託の実情
 委託にあたって私をはじめ保護者が最も心配したのは、それが大きな事故につながるようなことにならないかという点である。 市川市では学校給食を開始して以来、40年以上もの長い間、一度も食中毒を起こしていない。しかも、食材選びから衛生管理に至るまで、 また献立の工夫や味付けの面においても、高い水準が維持されてきていた。一部にあるいわゆる親子方式を除いては、保護者の立場からすれば、 変えなければならない必要性を感じていなかった。これまでうまく行っているのだから、このまま続けて欲しい、 というのが保護者の最大公約数的な声であったと思われる。
 実際に委託された学校のひとつである大野小学校で実際に調理の現場を見せてもらい、栄養士からも話を聞いた。委託の場合、 パートタイムで働く調理補助(無資格)も含めた全体の人数は多いものの、釜などを扱える調理員(正社員)の数が少ないため、責任者(チーフ) の力量に負うところが大きくなる。人数は少ないものの、ほぼ全員が調理師の資格を持つ直営とは調理の様子は一目瞭然の違いがある。大野小の場合、 今は技量の優れたチーフであるために、栄養士の信頼も厚く、大きな事故はなく、無難に1年を過ごしたといえる。そのため、 翌年も同額で委託契約をしたが、教育委員会は同一業者との契約は3年までとしているので、その後はどうなるかは不明である。
 隣接する船橋市でも前年から民間委託が始まったが、1学期の間にパート調理員が述べ20人以上も入れ替わったという学校があった。 市川市では大柏小でこの業者に委託した。人の頻繁な入れ替わりは、当然ながら事故につながりやすい。市による直営の場合と比べて、 パートタイマーの数が増えるのが民間委託の特徴のひとつである。平成12年度に委託した6小学校では、 パートタイマーの入れ替わりはそれほど頻繁ではなく、過半数が1年間を通じて勤務したが、反対に正規調理員(給食会社の社員) の入れ替わりがかなりあった。中には、事故(異物混入等)が多いなどの理由で保護者から苦情が寄せられ、業者に責任者(チーフ) の交代を申し入れたが業者が拒否した宮久保小のケースや、大柏小のように、校長からの要請によって責任者を交代させた例もある。最初の1年間で、 委託した6校のうち、大柏小、新井小の2校で責任者が交代し、大柏小、大野小、宮久保小の3校では副責任者が交代している。このほか、大野小、 新井小の2校で資格を持つ社員が交代している。このような頻繁は交代は直営ではあり得ないことである。直営に比べてパートが多く、 調理の責任を負っている社員(調理師の資格を持つ者)が頻繁に交代するようでは、給食の安定性が揺らぎ、 ひいては信頼性に疑問が生じるのは当然である。
 幸いにして食中毒などの深刻な事故は起こらなかったものの、異物混入、調理事故(加熱不足など)、衛生上の問題 (洗浄不十分で前日の汚れが食器に付着していたなど)などはかなりの数に上った。平成12年度から市川市では、委託か直営にかかわらず、 すべての公立小中学校で給食における事故を逐一教育委員会に報告することになったが、事故は委託校で圧倒的に多い。1年間に、 委託6校のうち4校から合計41件の事故報告が挙がっている。そのうち、異物混入が28件と最も多く、大柏小、大野小、 宮久保小では食器の洗浄不良が報告され、宮久保小ではアメリカンドッグが半生状態で配膳されるという事故もあった。大野小では、 事故として報告されてはいないが、シシャモが生焼けのまま出されたこともある。これが原因だと特定できるわけではないが、 ある児童はこの日の午後から体調をくずし、ジンマシンが出たために翌日は学校を休んだ。数の上で圧倒的に多い直営校からの事故報告は、 1年間に3件だけであった。
委託校、直営校を問わず、必ずしもすべての事故が報告されているわけではないかもしれないが、事故報告のこのような大きな差は、 市川市直営の信頼性の高さをあらためて認識させるとと同時に、民間業者による学校給食調理には不安があることをうかがわせるに十分といえる。
 これは1年目だからという言い訳は通用しない。市では委託するに当たって業者の選定に十分な注意を払ったと説明している。しかも、 教育委員会は、業者が慣れるまで調理の簡単な献立にするよう栄養士に指導していたのである。にもかかわらず、これだけの事故が起こったことは、 民間委託そのものに問題があることを示していると考えるのが適当である。短時間に大量の調理をするという学校給食には、 かなりの熟練が必要なのである。さらに、平成12年度は委託した6校すべてにおいて、 市が作成した基準を上回る人員が配置されていたにもかかわらず、これだけの事故が起こったのである。市の基準通りの人員であったら、 さらに深刻な事態になった可能性は十分に考えられる。平成13年度に新たに3校を委託したが、そこでは不手際によって調理が時間までに終わらず、 給食開始が大幅に遅れるという事故がたびたび起こっている。ただし、どういうわけか、学校運営に大きな支障をきたす給食の遅れは、 事故としては報告されていない。教育委員会の管理が不十分であるといえる。

3.民間委託の問題点
 市川市が給食の民間委託に踏み切ったのは、 経費節減がその目的である。平成12年度予算を審議した市議会で、経費の試算を出すように議員が求めたにもかかわらず、教育委員会は、 長期的には節減になるとの答弁を繰り返すばかりで、具体的な根拠を示さなかった。市職員組合は市の人事課立ち会いのもとで、 給与など基礎となる数字をすり合わせた上で試算を行った。その結果、最も甘い試算でも、実際に節減効果が出始めるまでに十数年もかかる。つまり、 確かに経費の節減になるというわけではないのである。
 先に述べたように、平成12年度においては、委託校の大半が市の基準を上回る人員配置をしている。今後、 利益を上げるために規定ぎりぎりまで人員を削減する可能性は少なくないと考えられる。実際に人員削減を行えば、 それだけ事故が増える可能性も高まると考えられる。それを防ぐ最も確実な方法は、献立を簡単なものにすることだろう。市川市ではこれまで、 地元の食材を使い、できるだけ手作りによる学校給食を提供してきた実績がある。さもなければ、委託費の値上げである。実際、千葉県柏市では、 市と業者の間で折り合いがつかず、しばらくの間、給食が実施できなかったという実例がある。 市川市でこれが再現されないという保証はどこにもない。これを防ぐには委託費を上げざるを得ず、 経費節減という目的すら達成できなくなる可能性も小さくない。
 しかし、最も大きな問題は、委託が学校教育の一環である学校給食の目的に適合しているかどうかということである。 経費の節減を図るという財政の論理から始まった委託は、利益を上げるという企業の論理を学校内に持ち込むことになった。 それが教育の一環としての給食という目的を蝕むことになるという点である。
 現実には学校給食の要に位置しているのは栄養士であるが、その栄養士は職業安定法上の制約から、 調理場に入って実際に調理を指導することができない。業者が利益を上げるには、人員削減、委託費の増額の他には、食材の購入をも引き受け、 そこから利益を上げるという方法が考えられる。食材選びに業者が関わることになれば、給食の質のみならず、 献立作りという栄養士の最も重要な仕事にも影響が出てくることになる。業者の都合に合わせた食材選びや献立作りが余儀なくされ、 教育目的は後ろに追いやられることになろう。学校内に持ち込まれた企業の論理が給食から教育の論理を駆逐しかねない状況が生み出されるのである。 すでに被告の千葉光行市長は、業者の利益のために食材購入を業者にまかせることを口にし始めている。これが実行されれば、 市川市の学校給食は業者主導のものになってしまい、教育目的が軽視されることになろう。
 さらに今後は、栄養士の育成にも影響が出てくることが懸念される。 これまで直営の調理場で経験を積むことで若い栄養士は学校給食についての理解を深め、その技量を磨いてきた。それが今後、 委託校が増えるに従ってそうした機会を失い、調理の現場を知らない栄養士に対して業者のほうに給食の主導権が移り、 栄養士は業者の都合に合わせて単に献立を作るだけの存在になってしまう可能性が高い。学校給食とは、児童・ 生徒に昼食を提供すればいいというものではないのである。食材選びや調理も含めて、全体でひとつのものであり、 その全体を責任を持って運営することで学校給食法に定めた教育目的を達成することができる。
 飽食の中の貧困な食生活が大きな問題となっている今日、民間の給食業者という異質のものが学校に入ることで生じる弊害は、 見過ごすことのできないものであり、子どもたちの将来のために、学校給食の民間委託はただちに中止し、 行政がすべての責任を負って行う直営方式に戻すべきである。

(2001.03.08)

[ 02/12/31 委託・合理化 ]


Copyright 学校給食ニュース desk@gakkyu-news.net (@を大文字にしています。半角英数の@に変更して送信ください)
Syndicate this site (XML) Powered by Movable Type 5.2.9

バナー バナーは自由にお使いください。