民間委託を問う!
1:本当に経費削減などの「合理化」になるのか?
自治体が民間委託の検討に入る段階では、その自治体における「経費節減」の具体的な試算が明確にされません。つまり、
民間委託が経費節減になるというのはあくまでも「仮説」でしかありません。仮に、モデル的な試算が出されても、単年度か、中長期的な計算か、
人件費以外のどのような項目が入っているかなど、見方によって「経費節減」効果はずいぶん異なってくるはずです。しかし、実際の「合理化」
議論では、自治体も、議員も、時には反対する側さえも、「人件費」に対して経費節減になるということを前提にしていることがあります。
本当に経費節減になるのか、経費節減のみならず、コストバランスがよいかどうか、すなわち費用対効果が優れているかどうかを、
学校給食関連予算全体の中で明確にすることが経費節減を論じる自治体の責任です。
2:食教育としての学校給食
学校給食は、子どもたちが成長期を過ごす学校における大切な食教育です。地域、伝統的な食文化を知り、適切な食生活、
食習慣のあり方を学ぶ貴重な体験となるはずです。
この学校給食の可能性を最大限に活かすためには、地域、学校の実状に応じ、栄養士、調理員、保護者、教職員を含んだ地域全体が、
密接なコミュニケーションをもち、創意工夫をこらすことが大切です。
しかし、民間委託された場合、たとえ自校方式であっても栄養士と受託業者の間には「指示書」
という形での限られたコミュニケーションしかありません。食材から後かたづけまでを通した学校給食という考え方がくずれます。
委託業者は民間企業である以上、利潤を確保することが必要であり、同じ献立、食材料、手間を直営と同じ質でできるとは考えにくく、学校給食の
「質」が変わらないという自治体の説明には説得力がありません。
3:食以外の学校運営
学校は、子どもと教職員によってのみ運営されているわけではありません。栄養士、調理員など直接学校で子どもたちと関わる大人と、
保護者をはじめとする地域の人々の参加により、子ども達は社会的な教育を受けています。学習とともに、これら社会的な教育を通して、
子どもたちは成長します。
学校運営に関わる大人たちが、常に連携して子どもに接することは、子どもたちにとってとても大切なことです。たとえば、直営・
自校式の調理員が学校行事に参加し、子ども達と交流していることで、
学校給食に対する子どもたちの関心と信頼が高まっていることなどの事例があります。
利潤を追求せざるを得ない民間委託を行うことで、これらの子どもたちへの工夫の余地が減っていきます。
4:はじめに民間委託ありき~地方行政における教育ビジョン不在
合理化通達や行財政改革の名のもとで、地方行政には「人件費」削減という観点しかないかのように見えます。はじめに民間委託ありきではなく、
地域における教育ビジョンに基づいた教育行政が必要です。地域の子ども達にとって、どのような給食がもっとも望ましいかを考え、
理想に至るための方策を打ち出すことが大切であるはずです。この視点なくして、民間委託を議論することは、行政の基本的な間違いです。
●中学校は要注意
中学校は小学校に比べ給食完全未達成の自治体が多くあります。実施されていない校区では実施要望が多く、そのため、
民間委託やセンター方式だけではなく、仕出し弁当方式(名古屋市や広島市)など、問題の多い方式で給食開始されることがあります。保護者も、
給食がないところへの導入であるため、反対しにくかったり、栄養士、調理員なども当事者として見なされないため反対しにくく、
運動の形成が困難です。
東京都小平市のように、まず、反対が少ない中学校でセンター化、民間委託方式を導入し、その後小学校への導入を図ろうとした例もあります。
学校給食が不完全な中学校を抱える地域では、この点に注意しておく必要があります。
(学校給食ニュース0号 1998年2月)
[ 98/12/31 委託・合理化 ]