市川市の民間委託と住民訴訟 学校給食全国集会報告
2001年2月19日 学校給食全国集会報告
■市川市の民間委託と住民訴訟■
植村秀樹さん 市川住民訴訟原告
流通経済大学経済学部助教授(国際政治学)、市川市在住。
■委託までの経緯
98年に新設の妙典小学校に委託計画がありました、これは市川市職員組合との話し合いで計画撤回されます。
これについては市民はまったく知りませんでした。99年11月に妙典小学校ではない6校に民間委託通知が突然され、
はじめて市川市で調理の民間委託が計画されたことを市民、保護者が知ることになりました。
99年12月に、委託予定の6校で教育委員会による説明会がありました。しかし、その時間は1時間で、
アルマイトから磁器食器に導入する話に大半を費やしたところもあり、民間委託についての説明は十分ではありませんでした。保護者から不信、
不満が出ます。しかも、事前に説明会への出席を申し込み、子どもの名前やクラスを名乗らせ、圧力をかける、発言しにくい状況でした。
ある学校では反対を言ってもだめだという発言さえありました。
翌2000年1月、この不満、不信から市民が集会を開き、「市川市学校給食の民間委託に反対する市民連絡会」が結成されます。
市川市は「広報いちかわ」で1面全面を使って調理の民間委託について説明します。また、「これからの市川市の学校給食」
というリーフレットを全保護者に配布。これからの学校給食として方針を示し、ビジョンを示したと説明しました。
2月には、見積もりあわせで委託業者を事実上内定します。このころ、市議会がはじまりました。
委託には賛成のある議員が、「業者が決まっているか、決まっているなら教えろ」という質問をしましたところ、
教育委員会は選定中であると答えます。ところが、その4日後、内定を受けていた業者のひとつが、パート募集のチラシを新聞に折り込み、
内定されたことを議会が知ることになります。それによって議会の賛成派からも不信の声が上がりました。
環境文教委員会では教育委員会にその場しのぎの嘘を言うなと、議長が叱責しました。しかし、市議会で予算は成立し、
4月1日に内定業者と本契約を結び、6校の委託が実施されました。
議会では、この業者選定についての嘘の他にも、調理員の勤務時間、人件費などの数字を操作し、統計をいじったものを議会に報告、市民に伝え、
導入をはかった経緯があります。
■委託の背景と実状
民間委託導入には、背景として85年の合理化通知があり、98年に市川市の行政改革懇話会提言があったとされています。懇話会は、
98年の12月に提言しています。ところが、最初の民間委託導入が計画された妙典小学校については98年に委託方針が出ています。
つまり提言以前のことです。
また、懇話会の審議の過程では、行政行為を行うときに、計画段階から市民に情報の公開、透明性を高めようというのが重要なポイントでした。
ところが、実際には、密室で民間委託の計画が決められました。
「リーフレット」が言うところのビジョンについても、その前の「広報いちかわ」についても、その1年前に隣の船橋市がやったやり方、
順番と同じです。リーフレットの作り方も、猿まねにすぎません。市川市には教育についてのビジョンがないことは明らかです。
そこで、情報公開条例を使い、5~6年さかのぼり、教育委員会の議事録公開を求めました。その中には、
学校給食のビジョンや民間委託の議論は直前までほとんどありませんでした。保護者に通知をして、委託説明するまで、
教育委員の中で話し合っていないのです。
では、どこから出てきた話なのか、お金がない、経費を節減しよう、人件費を節減しよう、という論理から、財政のところから出てきたのです。
教育の話は二の次、三の次で、お金の話だったのです。
経費については、市の職員組合と教育委員会は、人事課立ち会いのもと、経費のシミュレーションを行いました。それによりますと、
必ずしもそれほど大きな節減効果がある訳ではありませんでした。
そこでシミュレーションを長期的にやろうと職員組合が提言したが教育委員会は逃げてしまったと言います。
賛成する議員からも、議会の委員会で経費の試算数字を出せという要求がありました。しかし、教育委員会はそれを無視し「長期的には安くなる」
としか言いませんでした。そこで、この経費問題は追跡していきたいと考えています。
一方、民間委託を導入する少し前から、全小中学校に学校給食運営協議会がひっそりとできました。ほとんど誰も知りませんでした。
委託されているところでは、学校、保護者代表、業者、教育委員会の4者で協議会を運営することになっています。これは、学校任せなので、
学校によって活動に差があります。しかし、保護者の立場からすれば、協議会が委託された学校の質を握る部分になると思っています。
委託ははじまって1年足らずです。はっきりとは言えませんが、業者によって差があると言われています。
委託校については、事故はすべて教育委員会に報告することにとなっています。また直営校も小さい事故でも報告するようになりました。
これも情報公開条例で内容を知ることができます。
昨年秋までの事故報告は、ほとんど委託校です。そして、事故の多い業者とそうではない業者で差があります。
委託校で児童数の割に調理者が少ないところは事故が多いという例もあります。協議会で保護者は、人数を増やすよう要求し、
教育委員会も賛同したが、業者がいったん断りました。あとで増えたようです。
そういう事例を見ていると、委託では業者により差があり、どうやら、
今までのように安心して任せられるということではないようだということが分かりました。市川市の直営給食は、
これまで過去40年1度も食中毒を出したことがありませんし、食材は、地元からの調達を基本に、各校に配置された栄養士が献立を立てていました。
親の立場からすると、市川市の学校給食に問題を感じていなかったのです。
市川市では、3年間同一業者となっており、3年ごとに見積もり合わせというやり方で、業者選定をするとなっています。つまり、民間委託だと、
3年安心しても、もう一度どうなるか分からない状態がやってきます。最初だから一生懸命やっているだけかも知れないという不安もあります。
もっとも信頼でき、安心できる「市川市」という業者から、
不安のある業者になったというのが保護者の立場から見た民間委託の最大の問題だと思います。
■住民監査請求から住民訴訟へ
予算が成立したすぐ後に、地方自治法による住民監査請求を使って、市川市職員措置請求つまり、
この民間委託は違法で不当だという請求をしました。それは、棄却されました。住民監査請求が棄却されると訴訟を起こすことができます。そこで、
住民訴訟を提起したわけです。
法的な論点としては、学校給食法2条、地方自治法234条(入札選定について)を主に取り上げています。職業安定法44条については、
現在弁護士と検討中です。
何かできることはないかと住民監査請求、住民訴訟を起こしたわけですが、この問題が住民訴訟になじむかどうかという法律上の問題もあります。
しかし、できることは何でもやろうとはじめたわけです。
裁判には労力と時間のほか、費用がかなり必要です。どうかぜひ裁判費用のご支援をお願いします。
学校給食訴訟を支援する会ができましたので、できる範囲でご支援ください。
(裁判費用支援活動は終了)
問い合わせは、全国学校給食を考える会または電子メールにて学校給食ニュース宛にお願いします。
■質問
Q:民間で事故が起こった場合、民間の責任、教育委員会はどうなるでしょうか。
A:最終的には教育委員会が責任を負うと言っています。もちろん、業者も責任を負うことになると思います。
Q:住民訴訟のような同様の事例はありますか?
A:知っておられる方がいたら教えていただきたいぐらいです。たぶんないと思います。
Q:平成13年4月から中学校給食がはじまります。これが民間委託になります。住民訴訟の一番の争点を教えてください。
A:難しいところがあります。住民訴訟の性質もあり、きちんと正面に掲げるのは学校給食法になります。 手続きや職業安定法のようなものではなく、学校給食法の目的で争うことになりそうです。 住民監査請求は違法でなくても不当な支出に対してできますが、住民訴訟は、財務上の違法性がないとできません。監査請求は、たとえば、 決まっていないのに業者がチラシを配るのはけしからんというようなことも言えますが、住民訴訟では、 地方自治法などを出さなければならないと思います。
Q:大勢の人々の声が必要なので、直接請求のような方法はとれなかったのか。
A:市川市学校給食の民間委託に反対する市民連絡会では、市議会に3万を超える署名を添えて委託をやめて欲しいという陳情をやりました。 これは否決されました。これ以外にもいくつか陳情や請願が出されています。 ひとつの問題についてこれほど陳情がでるのは市川市ではめずらしいことです。賛成の陳情もありましたが。ただ、 議会では難しかったということです。
Q:市川市職労もなんらかの動きがあったと思いますが、一緒に運動を進めた経緯はありませんか。
A:それが、市川市学校給食の民間委託に反対する市民連絡会です。市の職員組合、教職員組合などの団体のほか、 保護者ら一般市民で取り組みました。
Q:妙典小の委託撤回の経緯と6校の選択理由を
A:妙典小の経緯は市職員組合との交渉なので私どもはまったく知りません。1年後に6校の民間委託の話が出たのでそのときに 「こういうことがあった」と知ることができました。妙典小を最初に上げながら、別の6校が選定されたのか、 この6校は市の中心部から少しはずれたところにあるからではないかという人もいます。周辺から、 穴を開けやすいところから選んだところではないかと思い、市民連絡会と市長や教育長との交渉の中で問いただしましたが、 きちんとした回答は得られませんでした。
Q:委託前後で食教育の面で変わったところがあるか?
A:食教育、調理員の関わり、その変化を明らかに言えるほどの情報が私の手元にはありません。ただ、ひとつだけ言えることがあります。 毎年新年度に顔写真入りで職員の紹介があります。昨年度までは調理員も全部名前と顔写真が載っていました。 委託されてからは栄養士だけになりました。調理員が身近な存在ではなくなったことだけははっきりと言えます。
(2001.2)
[ 01/02/19 委託・合理化 ]