千葉県市川市の民間委託差し止め訴訟 控訴審でも敗訴、しかし、民間委託に一定の歯止めの判決
千葉県市川市の民間委託差し止め訴訟
控訴審でも敗訴、しかし、民間委託に一定の歯止めの判決
千葉県市川市では、2000年4月に学校給食調理の民間委託を開始しました。これに対し、
市民有志が委託契約は不法な財政支出だとして住民監査請求を行い、差し止めを求めましたが、棄却されてしまいます。この棄却を受けて、
住民代表が住民訴訟を起こしました。千葉地方裁判所の一審は2002年に棄却の判決を出しましたが、
原告側が求めていた証人尋問などが行われないままの判決でした。そこで、東京高等裁判所に控訴していました。2003年9月24日、
判決が出され、ここでも差し止めは棄却されてしまいました。
判決文をほぼ全文掲載するとともに、この判決について全国学校給食を考える会・事務局長の野田克己さんに解説をお願いしました。また、
原告である植村秀樹さん(流通経済大学教授)からのメッセージもいただいています。
■判決は間違い。
しかし、民間委託への一定の歯止めに
この判決は、1985年に当時の文部省体育局長が出した学校給食のセンター化、調理員のパート化、民間委託化を推進させるいわゆる
「合理化通知」と2003年7月の文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課長による「合理化通知を徹底せよ」との事務連絡をひきあいに、
調理の民間委託が学校給食法上違法でないことを前提とする判断となっています。
まず、この点で、そもそもの間違いがあります。学校給食の民間委託には法的な根拠がなく、法的根拠のないままに、文部省(当時)が
「合理化通知」を出しているわけで、そもそもこの「合理化通知」が間違っています。
学校給食の大切さ、教育としての位置づけ、安全性の確保などについては、判決でも再三述べられていますが、学校給食をコストにとらわれ、
センター化、パート化、民間委託させようという「合理化通知」は、学校給食の目的や安全性の確保に反するものです。現に、センター化については、
1997年の文部省(当時)の保健体育審議会答申で、教育面、安全性の確保から自校方式が望ましいと軌道修正しています。また、判決でも
「もっとも、民間委託においては、衛生・安全の確保、必要な運営改善措置等が図られることが特に求められるところであり、上記体育局長通知
(合理化通知のこと)においても、この点が留意事項として示されている」(()内は筆者追記)と、民間委託の問題点を特記しています。
コスト削減を目的とした民間委託が、求められる給食の質を落とすことは避けられず、
民間委託に法的根拠がない点を正しく判断して欲しかったところです。
「民間委託に違法性がない」との判断は、しかし、法的根拠がないことを、暗に示しています。文部科学省(行政)が通知を出している以上、
学校給食法(立法)でも禁止していない限り、裁判所(司法)
としては踏み込んで違法と言えないという今の司法全体にみられる消極的な立場をとったということでしょう。
この判決は、もちろん、市川市の子ども達、学校給食にとっては大きなマイナスです。しかし、よく読めば、
市川市ならびにすでに調理の民間委託を行っていたり、これから行う自治体に対して、一定の歯止めをかけていることがわかります。
まず、市川市の民間委託については、多発する異物混入などの事故に対し、「給食事故は、児童生徒の健康に直接影響をもたらすものであるから、
絶対にあってはならないものであり、原因の究明及び有効な改善策の実施が喫緊の課題であることもいうまでもない」と、注文をつけています。
市川市に限ったことではなく、「学校給食の民間委託に当たって、不特定多数の給食業者の参加者を求め、
競争によって受託業者を選定することは適当ではなく、価格の有利性をある程度犠牲にしても、資力、信用、経験、
理解等を備えた受託業者を選定し契約を締結する方法を採ることが、教育目的を究極的に達成する上でより妥当であると考えられる」と判断を示し、
コスト削減に陥りすぎてはならないこと示しています。また、「合理化通知」の留意点である、献立作成は委託対象としないことや、物資購入、衛生、
安全の確保に対して設置者が意向を十分に反映させるための管理体制などを、民間委託の条件にも示しています。
ここから読みとれるのは、学校給食の民間委託をコスト削減のみで行うことには、慎重であるべきという裁判所の判断です。この点は、
私たちが危惧する民間委託の問題点を採用したものとして評価しています。
たとえば、新潟県新津市がすすめているPFI方式の学校給食センター建設・運営などは、この判決から問題があると言えるでしょう。新津市では、
委託会社に、献立の作成、食材の購入など学校給食の実体のほとんどをまかせ、
献立の確認を行うことや食材の質の指定を契約書に入れることで違法性がないとうそぶいています。これなどは、本判決の趣旨からして違法です。
また、全国で民間委託を導入する際に住民や保護者に示される「いくら安くなります」についても、本判決をふまえて、その根拠を明確にし、
自治体の言うコスト削減が、その犠牲となるものにふさわしいかあらためて判断する必要があります。
裁判そのものは負けましたが、この判決を最大限に活かして、各地の民間委託に少しでも歯止めをかけていきたいと思います。
(全国学校給食を考える会事務局長・野田克己)
■民間委託については今後も検証を。
安全性と学校教育の一環との視点を裁判所が示したことは重要です。
学校給食の民間委託そのものの違法性を裁判所が認めなかったことは、誠に残念です。委託の実情、実態を多少なりとも知れば、
委託の持つ構造的な問題をわかってもらえるだろうと考えていましたが、裁判所の認識はそこまで及びませんでした。
しかしながら、判決文には、市川市で実際に起こっている数多くの事故が、委託と関係している可能性を示唆するような表現も見られます。つまり、
これまでの直営と遜色ない水準を維持できるのならば違法とはいえない、という認識に立っているのではないかと思われます。つまり、
経費削減を目的に委託を進めていくことには慎重さが必要だという点は、裁判所も認めているといえるでしょう。
民間委託については今後、経費、安全性、教育の一環としての給食の質など、さまざまな面から検証していかなければなりません。
民間委託の本質的な問題にまで裁判所の認識が至らなかったことは遺憾ですが、
あくまで安全性の確保と学校教育の一環という学校給食の最も重要な面をおろそかにしてはならないということを裁判所が明示したという点は、
今後の運動にとっても意義のあることだといえるのでないでしょうか。(原告 植村秀樹)
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■判決文
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り戻す。
2 被控訴人は、千葉県市川市に対し、1億1666万6068円を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事実の概要等
1 控訴人は、千葉県市川市(市川市)の住民であるが、市川市が平成12年4月、協立給食株式会社との間で、学校給食調理業務委託契約
(本件契約)を締結したことにつき、同契約は、学校給食における責任体制を崩壊させるとともに、
極めて高度の安全性が要求される学校給食に係わる安全管理を受託業者任せにして児童の健康管理を危険にさらすものであり、学校給食法に違反し、
裁量権の範囲を逸脱、濫用するものであるなどして、地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下同じ)
242条の2第1項4号に基づき、市川市に代位して、当時市長の職にあった被控訴人に対し、
1億1666万6068円の損害賠償を求めたものである。
原審は、本契約に違法はないなどとして、控訴人の請求を棄却したので、控訴人が控訴した。
2 「争いの事実等」及び「争点」
次のとおり、当審における当事者双方の主張を不可するほか、原判決の「事実及び理由」第2の1及び2に摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1)控訴人の当審における主張
ア 学校給食法は、昭和29年に制定された学校給食に関する基本法であって、義務教育諸学校における学校給食が児童、
生徒の心身の健全な発達に資し、国民の食生活の改善に寄与することから、学校給食の普及、充実を図ることを目的とし(1条)、
義務教育諸学校における教育の目的を実現するために、同2条各号所定の目標の達成に努めるべきこと(2条)、学校設置者は、
学校給食が実施されるように努めるべきこと(4条)、国及び地方公共団体は、学校給食の普及、健全な発達に努めるべきこと(5条)を定めている。
平成9年の当時の文部省保険体育審議答申においても、学校給食が多面的かつ重要な機能を有することを明らかにしている。
学校給食法は、義務教育諸学校設置者に対し、学校給食の直営を義務付けており、例外的に業者への委託(民間委託)によって実施する場合には、
給食の質、教育的意義、危機対応等の全てにおいて直営と同一水準であることが保障されていることを要するとともに、民間委託するに当たっては、
法令上の根拠が必要であると解すべきである。
イ 学校給食は、献立の作成から始まって食事に至るまでの一連の過程全てが緊密に関連しており、教員、
栄養士及び調理員が一体となって教育的見地に立脚して行われるものであり、民間委託によってはそれを実現することは実質的に不可能である。
学校給食法は、学校栄養教員は、
栄養士の免許を有するもので学校給食の実施に必要な知識又は経験を有するものでなければならないと定めている(5条の3)。栄養士とは、
栄養士の名称を用いて栄養の指導に従事することを業とするものをいう(栄養司法1条)。栄養士は、教員・児童生徒・
調理員の意見を反映した献立をし、材料を調達し、調理指導を行う能力が求められ、児童生徒の関心を高め、献立作りに参加する意義を引き出し、
健康と食物に関する関係を理解させるように指導する立場にあり、教員・児童生徒・調理員を有機的に連携させるものとして、
学校給食の要としての重要な役割を担っている。
ウ 学校給食の民間委託は、栄養士を排除し、調理場との連携を断ち切り、学校給食法で定められた義務教育諸学校の設置者、
地方公共団体の任務を放棄し、学校の責任を遂行しないものであって、学校給食の本質に反しており許されるものではない。
現に民間委託された事例によれば、次のような弊害が生じており、これでは学校給食の目的及び目標を到底達成する事は出来ない。
(1) 栄養士と教員・児童生徒・調理員(受託業者の従業員)との意思疎通の欠如等によって教育の場としての機能が失われた。
(2) 栄養士は、調理場に立ち入ることができず、指示書によってしか指示ができない。
(3) 栄養士が現場で経験をつむ事ができず、能力が養われない。
(4) 栄養士の指示書による指示と受託業者の指示が衝突する場合には、現場の従業員は後者の指示に従う
(5) 栄養士の指示には限界があるため、受託業者の調理についての責任体制が崩壊している。
(6) 受託業者が栄養士の指示に見合う受託料を受領していないとして義務を拒否し、学校給食が停止した事例もある。
(7) 調理員と児童生徒との触れあいの機会が失われている。
(8) 調理員の配置転換が、学校教育と関わりなしに受託業者のみの都合で行われる。
(9) 受託業者の経費削減、手抜きがされ、熟練の調理員が育たず、分業化・マニュアル化システムの進行、非常勤調理員が多数雇用され、調理・
衛生管理上の問題が生じており、充実した学校給食を実施することができない。
(10) 市川市における学校給食の民間委託は、平成12年度から始まり、その調理場は合計45箇所ある。
学校給食事故の発生について市川市教育委員会に報告(甲21の1以下)されたもののうち民間委託関係では、委託6校中、大柏小学校12件、
大野小学校10件、宮久保小学校14件、国分小学校5件となっており、その他報告漏れが数件ある。
事例としては、毛髪・調味料中栓・輪ゴム・ビニール断片・糸・虫の死骸・止め金・裁断機断片等の混入、トレー・スプーン等に前日の残りが付着、
アメリカンドックの半生等の事例が実際に起きている。これに対して、直営関係では、学校給食事故が発生したのは、39校中、
僅かに3件に過ぎない。また、平成15年5月31日付け報告書(甲25)によれば、重大な結果に繋がりかねない給食事故が多発しており、針金・
ホッチキス針・芋虫・ハエ・蟻の混入、回転釜の空焚き等が起きているが、有効な改善策は何ら講じられていないのが実情である。
このように民間委託における学校給食事故の多発は、民間委託が本質的な欠陥を有していることを集約的に表しているものである。
エ 控訴人は、第1次的に本件契約の締結が裁量権の逸脱、濫用に当たると主張しており、仮にその主張が認められないとすれば、
見積もり合わせによる契約方法が違法であることを主張しているのである。後者については、学校給食の目的・目標、栄養士の役割、
民間委託の弊害等に付きこれまで述べてきたこと及び見積もり合わせ方式の実質は、特定業者に利益を与えることを目的としていること、受託会社は、
2回目以降は見積もり合わせもなく、事実上再契約が出来る措置が採られていること等によれば、学校給食の民間委託には重大な危険性があるから、
本件契約において競争入札を採用せず、見積もり合わせ方式が採用されたことには合理性がなく違法であり、被控訴人には故意、
過失により指導監督を怠った義務違反の責任がある。
オ 損害の発生については、本件契約の締結そのものが違法である以上、それに基づく経費(委託料)の支出も当然に違法となるのであるから、
それが相当因果関係にある損害になることは明らかであって、直営と民間委託との各経費の比較はそもそも問題にならない。
(2)被控訴人らの当審における主張
ア 市川市教育委員会は、市川市教育委員会事務委任規則(委任規則、丙41)を定め、同教育委員会の職務権限に属する事務のうち、
委任規則1条各号に掲げる事項を除く事務を教育長に委任している。市川市学校給食調理業務委託の決定に係わる事務は、教育長に委任されており、
その決定に基づいて同教育委員会学校教育部長(教育部長)が、その専決により民間業者と業務委託契約を締結することとされているから、
教育部長による業務委託契約の締結は、同教育委員会から委任された教育長の決定が著しく合理性を欠き、
そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存在するときを除き、財務会計上の義務に違反する違法があるということはできない。
また、被控訴人は、専決権者たる教育部長が財務会計上の行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、
故意又は過失により教育部長の財務会計上の違法行為を阻止しなかったときに限り、損害賠償責任を負う。控訴人の主張は、
この判断枠組みに従った主張になっていないし、本訴はもともと代位請求訴訟に乗らない訴訟である。
イ 控訴人は、学校給食の民間委託は許されないと主張する。しかし、学校給食法4条から直営の原則を導くことはできない上、 直営と民間委託の差違は、従事職員の身分上の差違に過ぎず、同法2条所定の目標の達成とは関係がない。 民間委託は昭和60年1月21日付け文部省(現、文部科学省。以下同じ)体育局長通知「学校給食業務の運営の合理化について」(丙4) によって推奨されており、学校給食の運営の合理化及び人権費等の経常経費の適正化を目的として実施されているものである。一方、 財務省も今後学校給食の民間委託を推進することにより、調理員1人あたりの人件費を削減すべきことを指摘している。そして、文部科学省は、 平成15年7月18日付けスポーツ・青少年局学校健康課長事務連絡(丙47)により、市町村教育委員会に対し、 上記昭和60年通知の趣旨を再確認し、学校給食の運営合理化を一層推進するよう示達した。これは、 民間委託が学校給食法2条の目標達成にとって何ら支障にならず、弊害が生ずるものではないことを前提とするものである。 元来教育方針により学校給食を実施しないことが学校給食法上許容されているにもかかわらず、民間委託だけが許されないと解することはできない。
ウ 控訴人は、民間委託が栄養士を排除することになる、民間委託によって栄養士が排除されるなどと主張する。
しかし、学校給食の運営に係る様々な問題は、民間委託と直営とで異なるところはなく、民間委託に固有な弊害等があるわけではない。
民間委託による業務は、調理、給食の配食・運搬、調理後の調理器具・食器等の洗浄、調理室の清掃・点検、
ごみ処理等の比較的機械的なものである上、委託に当たって学校給食に理解があり、実績があって協力的な業者を選定しており(丙6)、
日常的に栄養士と連絡調整している。受託会社は、調理員に対する安全、衛生等の各種研修が義務付けられている(丙28)。
栄養士の職務内容は、昭和61年3月13日付け文部省体育局長通知(丙3)に示されており、民間委託の場合でも支障はなく遂行することができる。
また、市川市の民間委託は新規のものであり、導入の段階で仮に支障が生じるとしても、改善策を講ずることで対応が可能である。学校給食の目標は、
児童生徒が作業の過程を見学し、調理器具に触れるなどの実体験を通じて達成される。教員や栄養士と調理員のコミュニケーションも、
円滑に行われているし、調理員が児童生徒に給食を直接手渡し、厨房器具、調理方法等の説明をしている。調理の手抜き等は現実に生じておらず、
受託会社が契約上の義務を履行する限り、問題は生じない。非常勤の調理員の増加、
熟練の調理員が育たないこと等の雇用関係の問題は市川市が関与すべき事項ではない。
食材の衛生管理は、文部科学省の学校給食衛生管理の基準(丙25)、市川市学校給食の手引き(丙26、27の1・2)に従って行われている。
事故の発生については、民間委託が直営に比較して特段に多いわけではなく、試行錯誤の段階で発生したものであり、
むしろ現在では民間委託の方が評価が高くなっている。直営よりも民間委託の場合に給食事故が多いのは、
一つには報告すべき基準とされている事故の範囲が広いことによるものであり、また、異物混入が調理中に発生したことを特定することはできない。
いずれにしても事故の報告を受けた受託会社は、すべて直接現場を確認して改善策を講じている。安全管理、
危機への対応が受託会社任せになっているということはなく、財政的効果によって学校給食の一層の充実、向上が図れている。
市川市の民間委託が保護者、児童生徒、教員、栄養士ら関係者に評価されていることは、アンケート(丙31、32の1、37の1ないし4、
38の1ないし4、53ないし57等)によって明らかである。
エ 市川市は、学校給食の安全性が強く要請されることにかんがみ、学校給食調理等業務委託業者選定基準(丙6)を定め、 14のすべての条件に適合した業者を選定し、競争性を発揮するため見積もり合わせを行ない、本件契約を締結したものであり、 3年後の新契約の締結に当たっても、上記と同じ手順を踏んで適正に選定を行っている。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 学校給食に関する規定及び本件契約締結に至る経緯
上記争いの事実等、証拠(甲6ないし11、17、18、丙1の1ないし4、2、4、5ないし8、9の1ないし6、10ないし13、14の1・2、
15、24、41ないし44、45の1・2、46、47、証人五十嵐興子、控訴人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)学給食法は、学校給食が児童生徒の心身の健全な発達に資し、国民の生活の改善に寄与するものであることにかんがみ、 学校給食の普及充実を図ることを目的とする(1条)、学校給食については、義務教育諸学校の教育の目的を実現するため、 (1) 日常生活の食事について、正しい理解と望ましい習慣を養い、(2) 学校生活を豊かにし、明るい社交性を養い、 (3) 食生活の合理化等を図り、(4) 食糧生産、配分及び消費について、正しい理解に導くという目標の達成に努めなければならないこと (2条1号ないし4号)、義務教育諸学校の設置者は、学校給食が実施されるように努めなければならないこと(4条)、国及び地方公共団体は、 学校給食の普及と健全な発達を図るよう努めなければならないこと(5条)、学校給食の栄養に関する専門的事項をつかさどる職員は、 栄養士法による栄養士の免許を有する者で学校給食の実施に必要な知識又は経験を有するものでなければならないこと(5条の3)を定めている。 栄養士とは、都道府県知事の免許を受けて、栄養士の名称を用いて栄養の指導に従事することを業とする者である(栄養士法1条)。
(2)教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務のうち、学給食に関する事を管理し、及び執行し
(地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条11号)、教育委員会規則で定めるところにより、その権限に属する一部を教育長に委任し、
又は教育長をして臨時に代理させることができる(同法律26条1項)。
これを受けて市川市教育委員会は、市川市教育委員会事務委任規則(委任規則、丙41)を定め、
教育長に市川市教育委員会の職務権限に属する事務の一部を委任し、又は臨時代理させることとし(1条)、
委任規則1条各号に掲げる事項を除いた事務を教育長に委任している。本件学校給食調理業務を民間に委託するかどうかの決定は、
委任規則1条各号の事項に該当しないことから、教育長に委任されている事務であり、教育長がその権限に基づいて決定したものである。
(3)市川市は、従来市内の各小学校、中学校及び養護学校において、原則として自校調理方式を基本する学校給食を実施してきた。
昭和60年1月21日付けで文部省体育局長は、通知(文体給第57号各都道府県教育委員会教育長あて「学校給食業務の運営の合理化について」)
を発し、学校給食業務の運営については、臨時行政調査会等からの合理化の必要性が指摘されていることから、
今後地域の実情等に応じた適切な方法により運営の合理化を推進するよう指導、周知徹底を願いたい旨指示した。その中で、民間委託等の方法により、
人件費等の経常経費の適正化を図る必要があること、民間委託の実施については、次の点に留意すべき旨を指示した(丙4)。
ア 献立の作成は、設置者が直接責任をもって実施すべきものであるから、委託の対象としないこと。
イ 物資の購入、調理業務等における衛生、安全の確保については、設置者の意向を十分反映できるような管理体制を設けること。
ウ 設置者が必要と認めた場合、受託者に対して資料の提出を求めたり立入検査をする等、運営改善の措置がとれるよう契約書に明記すること。
エ 受託者の選定は、学校給食の趣旨を十分理解し、円滑な実施に協力する者であることの確認を得て行うこと。
(4)市川市は平成8年2月、市川市行政改革大綱(丙14の1・2)を策定し、その中で、民間活力に委ねることが適当な分野は、
活用を積極的に進めるものとし、維持管理等の定型的な業務、高度で専門的な知識、技能を必要とする業務及び弾力的な対応が求められる業務等、
民間委託が適当な事務業務については、行政責任の確保と市民サービスの向上等に留意し、積極的に民間委託を推進することとした。
具体的に取り組むべき事項として、学校給食業務の民間委託の検討を取り上げ、新設の小学校について、行政の適正な管理の下で、
一部民間委託の導入を検討することとした。さらに、
平成10年5月18日に施行された市川市行政改革懇話会要綱に基づいて市川市に設置された市川市行政改革懇話会は、
市川市の行政全般にわたる幅広い見地から調査審議し、その提言を行い、今後の行政改革に役立てる目的で設置されたもので、
市政について優れた識見を有する13人の委員で構成されたところ、平成10年
12月、「行政改革に関する提言」を公表した。その中で、民間にもできる仕事は民間委託するとし、市の仕事の中には、
民間委託したほうが遥かに効率的に行われ、コストもかからない業務がある、例えば、学校給食については、
なによりも安全性を担保した上で民間委託化に踏み切るべきであるとしている(丙15)。
市川市は、市の職員である給食調理員の高齢化が進み、学校給食予算に占める人件費の割合が高率となっていたことから、
民間委託を導入することによって、直営方式よりも安価な経費で給食業務を行うことができるものと期待していた。
(5)市川市教育委員会は、上記経緯を踏まえて、平成10年3月の定例教育委員会において、
市川市行政改革大綱の実施計画対象事業である学校給食業務の民間委託の検討を進めるため、教育委員会学校教育保健体育課に、
学校給食委託担当の組織を置くこととし(丙1の1)、同年7月、教育長は、「市川市立学校給食調理業務民間委託化推進要綱」を定め(丙42)、
同年8月、同要綱に基づいて「市川市立学校給食調理業務民間委託推進検討委員会」が教育委員会内部に設置された(丙43。平成11年2月から
「市川市立学校給食検討委員会」に名称変更。丙44)。同委員会は、学校関係者及び地域の代表から広く客観的な意見、提言を求め、
平成11年7月、「市川市学校給食ビジョン『生きる力を培う、楽しい学校給食』」を提案した(丙45の1・2)。平成11年10月、
教育総務部及び学校教育部によって上記ビジョンを基にした「給食事業の改善計画」が作成され、
学校給食の民間委託に向けた具体的な年次計画が立案された(丙24)。教育委員会は、民間委託化に当たっては、一般競争入札ではなく随意契約
(見積もり合わせ方式)の方法が相当であるとし、あらかじめ契約の相手方を絞り込むため、市川市立学校給食検討委員会に諮り、
平成11年10月27日、その意見を聴いた上で、以下の内容の委託業者選定基準を策定した(丙6)。
ア 基本要件
市川市の入札参加者適格者名簿に登録されていること。
イ 経営規模
(ア)資本金又は出資金が1000万円以上であること。
(イ)相当数の従業員を有し、かつ、常時営業していること。
ウ 信用状況
(ア)会社経歴及び経営状態が正常かつ良好なこと。
(イ)学校給食調理業務の実績を有し、現にその実績が豊富で良好なこと。
(ウ)食品及び衛生管理に関する関係諸法規が遵守されていること。
(エ)納税義務が履行されていること。
(オ)過去3年間の内、営業に関して行政処分を受けたことがないこと。また、公衆衛生上重大な事故を起こしたことがないこと。
エ 学校給食に対する取り組み
学校給食に深い理解を有し、学校給食の目標達成に協力的であること。
オ 安全衛生管理
(ア)学校給食に関する安全衛生管理について、十分な能力を有していること。
(イ)従業員に対し、食品の安全衛生管理に関する教育が徹底していること。
(ウ)従業員の健康管理が十分に行われていること。
カ 業務履行能力
(ア)市川市が定める「市川市学校給食調理業務等委託仕様書」による業務を継続して確実に履行する能力を有していること。
(イ)突発的な仕事に対し、十分に対応できる体制能力を有していること。
(6)平成11年11月から同年12月にかけて、学校給食調理業務の民間委託化の予定校として選定した6つの小学校において、
学校給食調理業務の民間委託に関する保護者説明会が開催され(丙9の1ないし6)、個々の学校ごとの調理室や調理機器の事情、
調理員の退職者数と配置転換等を総合的に勘案して民間委託を決定した旨報告された。教育委員会は、
平成12年2月3日に開催した定例委員会において、被控訴人から意見聴取をした上で、学校給食調理業務等委託料を含む
「平成12年度当初予算について」との議案を議決した(丙2)。
市川市は、市川市財務規則に基づいて作成した入札参加業者適格者名簿に登録されている給食業者35社のうち、
学校給食に関連する業務を行っている業者30社について、学校給食の調理等の業務の実績がある給食業者として更に19社に絞り込んだ。このうち、
上記委託業者選定基準に適合した事業者は13社であったが、学校給食調理等業務についての考え方等の調査を行ったところ、
このうち1社について学校給食調理等業務の経験、実績の不足が判明したため、結局残り12社が委託業者選定基準に適合することとなった。
そして、市川市は、委託予定校6校のうち、調理予定食数等に基づいてあらかじめ積算した委託料の予定価格が最も大きい学校について、
調理食数等の一定の条件を給食業者に示し、給食業者から当該条件を基に見積額を見積書に記載させ、
予定価格の範囲内で最低の見積もり額を提示した業者を当該学校の業務委託先として決定する方法(見積もり合わせ方式)により、
委託の相手先を決定した。
(7)平成12年3月17日の市川市議会における「平成12年度市川市一般会計予算」の議決を経て、同年4月1日、
原判決別表記載の相手方との間で本件契約が締結された。
本件契約書(甲6ほか)には、市川市は、受託者が給食の調理等を完了したときには、完了の検査をするものとし、市川市は、同検査について、
受託者に資料の提出を求め、又は受託者が調理する場に立ち入る事が出来る旨約定されているほか、市川市の定める
「市川市学校給食調理等
業務委託仕様書」には、概要以下のとおり記載されている。
ア 趣旨
この仕様書は、受託者が市川市学校給食調理等業務委託契約を履行するに当たり、給食調理業務等の方法等について、必要な事項を定めるものとする。
イ 調理する食数
1日の業務において調理する給食の食数は、学校の児童又は生徒及びその学校の関係職員の数を基準に、市川市教育委員会(委員会)
から受託者に提出された実施献立表に基づき定めるものとする。
ウ 業務内容
受託者は、(1)食材料の受取り及び検収(学校が購入した食材料は、委員会から提出された食品検収表に基づいて検収し、
その内容を委員会に報告する。)、(2)調理(委員会から受託者に提出された実施献立表に基づき、調理を行う。)、(3)配食及び運搬、
(4)食器具等の洗浄、消毒及び保管、(5)給食施設等の清掃及び点検、(6)残菜及び厨芥の処理、(7)調味料等の管理、
(8)その他業務を行うために必要な事項
エ 委員会への報告
委員会が学校給食に関し、県その他の行政機関等へ報告しなければならない事項について、受託者は、委員会に報告するものとする。
オ 衛生管理
調理業務を行うに当たっては、関係法令(それに基づく通達を含む。)を遵守し、常に衛生管理に留意しなければならない。
カ 報告書等の提出
受託者は、調理従事者報告書、調理従事者変更届、健康診断結果報告、細菌検査結果報告、請求書、事故報告書、業務完了報告書を指定の書式により、
委員会に提出する。
2 争点1について
(1)控訴人は、原審、当審において、学校給食法は、義務教育諸学校設置者に対して学校給食の直営を義務付けており、
例外的に民間委託することが許容されるのは、直営と同一水準であることが保障されている場合に限られる、民間委託するには、
法令上の根拠が必要である、民間委託は、その要である栄養士を排除し、
設置者等の任務を放棄するものであり民間委託契約は違法であるなどと主張する。
しかしながら、学校給食調理等の業務は、当該学校における所在の受領・検収、調理、配食、食器具等の洗浄、給食施設の清掃、
厨芥の処理等が中心になるところ、学校給食法には、民間委託を禁止ないし制限した規定は存在しないし、民間委託した場合には、
栄養士が廃除されたり、設置者等の任務が放棄されるということはできない。民間委託の場合は、
調理従事者は雇用主である受託業者の指揮監督の下で、就労先の学校で調理等の職務に従事するものであるが、直営と民間委託とは、
このように従事職員の身分上の差異及びそれに伴う労務関係等が異なるとしても、給食業務そのものの態様には、基本的に変わりはなく、
いずれの場合においても、学校給食法の掲げる目的が尊重され、同法所定の目標の達成に努めるべき事はいうまでもないし、
設置者等がその任務を果たすべく努力すべきことも何ら変わりはない。要は、具体的な業務遂行の過程において、
児童生徒の心身の健全な発達及び教育目的の実現等に資するよう適切な方策が立案され、それが着実に実行される事が重要なのである。
上記昭和60年1月の体育局長通知及び平成15年7月の文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課長事務連絡(丙47)が、
こぞって民間委託の指針を求めているのは、民間委託が学校給食法上、違法ではないことを前提とするものである。もっとも、民間委託においては、
衛生・安全の確保、必要な運営改善措置等が図られることが特に求められるところであり、上記体育局長通知においても、
この点が留意事項として示されている。
このような観点から、本件契約においては、関係法規の遵守、業務実施要領の提出、実績の報告、違約金、連帯保証人、解除、損害賠償、
完了の検査等に関して約定がされているほか、仕様書には、委員会への報告、衛生管理全般について、詳細な定めがある。また、仕様説明書(丙28)
には、栄養士の指示等のほか業務全般について、詳細な定めがある。それによれば、業務は、食材料の受け取り、調理、配食・運搬、洗浄、
清掃等であって、いずれも比較的単純で複雑な作業ではなく、直営とその基本は同じである。食材料の衛生管理は、
文部科学省作成の学校給食衛生管理の基準(丙25)及び市川市学校給食の手引き(丙26、27の1・2)によることになっている。さらに、
受託業者の選定は、上記のとおり基準を策定して慎重かつ適正に行われている。
控訴人は、民間委託された事例に多くの弊害が生じていると主張し、栄養士等に関わる問題及び給食事故の具体例を摘記している。事故報告書
(甲20ないし22、枝番を含む。)
及び事故報告書概要(甲25)によれば、民間委託において控訴人指摘のとおり様々な異物混入等の事故が実際に発生している事が認められ、
証人五十嵐興子及び控訴人も、控訴人の主張に沿った供述を行っている。
確かに、学校給食を円滑に実施するためには、教員、栄養士および調理員等の関係者が学校給食の意義を理解し、
協力関係を十分に維持することが重要であり、設置者および受託業者がこのための努力をしなければならないことは明らかであって、
控訴人の指摘はこれをいうものと考えられる。また、給食事故は、児童生徒の健康に直接影響をもたらすものであるから、
絶対にあってはならないものであり、原因の究明及び有効な改善策の実施が喫緊の課題であることはいうまでもない。ただ、これらの問題は、
民間委託に特有なことであるとはいい難いし、事故の発生が直営よりも民間委託により多く見られること、
あるいはすべてが受託業者の責任の範囲内の事故であることを確定的に判断できる証拠はないといわざるを得ない。
以上の検討結果及び上記本件契約の締結に至る経緯等を併せ考慮すれば、本件契約の締結が財務会計上の法規に違反し、裁量権を逸脱、
濫用した違法なものであるとすることはできない。
(2)ところで、地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは、
当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらのものから権限の委任を受けるなどして上記権限を有するにいたったものを広く含むと解されるから、
上記のとおり、本件契約の締結を補助職員に専決させた被控訴人についても、財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている以上、
「当該職員」に該当するものである。
しかし、補助職員が専決をした場合には、財務会計上の行為を行う権限を本来的に有する者は、
補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、
故意又は過失によりそのような違法行為を阻止しなかった場合に限り、
地方自治法242条の2第1項4号に基づく損害賠償義務を負うものというべきである(最高裁平成3年12月20日第二小法廷判決・
民集45巻9号1455頁参照)。したがって、本件においても、
本件契約の締結について被控訴人に指揮監督上の義務違反があるか否かが問題となる。
控訴人は、本件契約の締結及びそれに基づく支出行為は違法であり、被控訴人としては、本件契約等が違法であることを知っており、
又は知り得る立場にいながら、故意又は過失により上記違法行為を阻止しなかったと主張する。
しかしながら、上記のとおり、市川市においては、様々な検討を経て行政改革の一環として民間委託化を実施することとし、契約締結に当たっては、
一般競争入札方式ではなく随意契約(見積もり合わせ)の方法によることが相当であるとの判断の下に、委託業者選定基準を策定して、
それに適合した給食業者を選定し、被控訴人から意見聴取した上で、学校給食調理等業務委託料を含む予算案の議決を経て、
本件契約を締結したものである。以上によれば、被控訴人に指揮監督上の義務違反があるとする余地はなく、この点からも控訴人の主張は理由がない。
3 争点(2)について
(1)地方自治法234条1項は、「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、
随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とし、同条2項は、「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、
政令で定める場合に該当する場合に限り、これによることができる。」と規定しているが、これは、
同法が普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得うるという観点から、
一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置付けているものと解される。そして、
例外的な方法の一つである随意契約によるときは、手続きが簡略で経費の負担が少なくてすみ、契約の目的、内容に照らしこれに相応する資力、信用、
技術、経験を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、
契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も指摘され得る。そこで、
地方自治法施行例167条の2第1項2号は、「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、
加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」
に随意契約によることができると規定している。この「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、
競争入札の方法によること自体が不可能とはいえないが、不特定多数のものの参加を求め、
競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当でなはなく、当該契約の目的、内容に照らして資力、信用、技術、
経験等を有する相手方を選定し契約を締結する方法を採るのがより妥当であり、
当該地方公共団体の利益増進につながると判断される場合も該当すると解される。そして、このような場合に該当するか否かは、
契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている法令の趣旨を勘案し、
個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して、
地方公共団体の契約者の合理的な裁量判断により決定されるべきものである(最高裁昭和62年3月20日第二小法廷判決・
民集41巻2号189頁参照)。
(2)以上の観点から本件について検討するに、学校給食は、児童生徒の健全な発達に資し、かつ、国民の食生活の改善に寄与することから、
学校給食の普及、充実を図るため、義務教育諸学校において児童生徒に対して実施されるものであり、食事についての正しい理解、
健康の増進等の目標の達成に努めることが要請され(学校給食法1条ないし3条)、国及び地方公共団体は、
学校給食の普及と健全な発達を図るように努めなければならないとされている(5条)。
このように、学校給食は、学校教育の目的、目標を達成するためにきわめて重要な意義を有する制度であり、その実施に当たっては、
児童生徒の健康増進、安全管理等につき万全の配慮が講じられなければならないことを考慮すると、学校給食の民間委託に当たって、
不特定多数の給食業者の参加者を求め、競争によって受託業者を選定することは適当ではなく、価格の有利性をある程度犠牲にしても、資力、信用、
経験、理解等を備えた受託業者を選定し契約を締結する方法を採ることが、教育目的を究極的に達成する上でより妥当であると考えられる。もし、
競争原理を優先して受託業者を決定すれば、学校給食には十分には理解、協力しない業者、信用や経済力に乏しい業者、
健康衛生管理の意識に欠ける業者等が選定されるおそれがあり、その結果、教員・栄養士等との意思疎通・連携の欠如、倒産等に伴う業務の中断、
調理の遅延、食中毒の発生等の事態が生じかねず、教育現場に重大な影響を及ぼすおそれがある。このような学校給食に係る民間委託契約の目的、
性質、内容等を考慮すれば、学校給食の民間委託契約に当たっては、一般競争入札方式によって受託業者を決定する事は適当ではなく、
給食業者の資力、信用、技術、経験等を総合的に勘案して受託業者を選定し、その者との間で契約を締結することが相当であるというべきである。
上記のとおり、市川市は、このような学校給食にかかる民間委託契約の目的、性質、内容等を考慮して、信用、学校給食に対する取組み、
安全衛生管理等6項目からなる受託業者選定基準を策定し、それに適合した給食業者について、
委託予定校6校のうち調理予定食数に基づきあらかじめ積算した委託料の予定価格が最も大きい学校について、
調理食数等の一定の条件を給食業者に示し、給食業者から当該条件を基に見積額を見積書に記載させ、
予定価格の範囲内で最低の見積額を提示した給食業者を当該学校の業務委託先として決定する見積もり合わせの方式によって、
最終的に受託業者を決定したものである。したがって、随意契約の方法により本件契約を締結したことに違法性はないというべきである。
控訴人は、見積もり合わせ方式の実質は、特定業者に利益をもたらすことを目的としており、
見積もり合わせなしに事実上再契約ができる措置が採られているなどと主張し、確かに、この方式は、受託業者が事実上固定し、
情実に左右されるなどの公正を妨げる事態が生じるおそれがあるという短所が指摘されている。しかし、この点は受託業者の選定、契約内容、
日常の指導等に当たって公正な運用を図ることにより解決できる事柄であり、随意契約自体が有する本質的な問題とまではいえない。
4 控訴人は、その他るる主張するが、いずれも上記認定、判断を左右するものではない。
よっては、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決とする。
(学校給食ニュース 2003年11月)
[ 03/12/31 委託・合理化 ]