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学校給食を丸投げ! 献立も食材も委託企業まかせに 新津市の学校給食センターPFI方式を考える

学校給食を丸投げ! 献立も食材も委託企業まかせに
新津市の学校給食センターPFI方式を考える

 

■PFIとはなにか?
 PFIとは、Private Finance Initiativeの略称で、民間資金等活用事業と訳されています。 内閣府がPFIを導入推進するためのホームページをつくっています。
 それによると、
「公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法」であり、「民間の資金、経営能力、 技術的能力を活用することにより、国や地方公共団体等が直接実施するよりも効率的かつ効果的に公共サービスを提供できる事業について、 PFI手法で実施」
 となっています。
 PFIは、1999年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)が制定され、 2000年に基本方針が決まりました。その後、少しずつ、PFI方式の公共事業がはじまっています。
 2003年6月23日現在、国の事業として23、地方公共団体の事業として81、 特殊法人等の事業として1の合計105の事業が行われつつあります。そのうち3つが学校給食関係です。

八雲村学校給食センター施設整備事業(島根県八雲村)
学校給食共同調理場整備事業(新潟県新津市)
千葉市大宮学校給食センター(仮称)整備事業(千葉県千葉市)

 その他にも、学校の整備事業に給食室が含まれる例などもあります。
(参考)
内閣府PFIホームページ http://www8.cao.go.jp/pfi/
PFI推進委員会ホームページ  http://www8.cao.go.jp/pfi/iinkai.html


■5つの計画のうち2つが取りやめに
 学校給食ニュースで調べたところ、学校給食センターをPFI方式で整備・運用する計画はこれまでに5つあります。 そのうち2つが中止されています。

(中止された計画)
埼玉県川越市…寿町学校給食センターの改築事業にPFI方式を検討していましたが、通常方式で行うこととなりました。 同学校給食センターは1973年開設で、建て替えの計画です。2000年度にPFI事業の可能性を調査し、検討しましたが、 保護者が直営方式を望んでいることや他の事例が少ないことなどから通常方式となりました。 同学校給食センターは12000食規模で2004年度の工事を予定しています。(日刊建設工業新聞03年3月24日付)

福島県川俣町…2002年8月に学校給食センターの建設、維持管理、給食事業運営などをPFI方式で行うため、入札説明を開始、 給食事業は、04年より開始される予定で設備は2000食対応、HACCP対応施設とされていました(建設通信新聞02年8月8日付)。しかし、 同計画を批判していた新町長が当選し、2003年1月に同計画は正式に中止されました。
 いずれも、PFI計画に対して保護者・市民が反対した結果、計画が中止されています。


■島根県八雲村は、センター整備のみ
 もっとも早くPFI方式を取り入れたのは島根県八雲村です。ただし、この八雲村学校給食センター事業は、民間に対し、旧センターの解体、 新センターの設計、建設、維持管理、修繕などを行い、八雲村がセンターを所有し、学校給食の運営も村が直営で行っています。 計画は2001年に発表され、2002年秋には新センターとして稼働しています。1000食をつくる給食センターで、契約期間は30年です。


■千葉県千葉市は、整備と調理
 新潟県新津市よりも後ですが、千葉県千葉市は、
2003年3月25日に、千葉市大宮学校給食センター整備事業の実施方針を発表しました。それによると、11000食の学校給食センターを建設、 施設の維持管理、給食調理、配送等の運営を事業者が行い、千葉市は献立作成、食材調達、検収、給食費の徴収、 調理数などの決定を行うとなっています。事業期間は2004年から2020年ですが、給食は2005年4月からはじめられる予定です。 入札は2003年8月末に行われる予定となっています。

千葉市大宮学校給食センター(仮称)事業
http://www.city.chiba.jp/kyoiku/gakkokyoiku/hokentaiiku/ex/oomiyalunchc.htm


■新潟県新津市は、 整備から給食運営すべてを丸投げ
 2002年12月にPFI方式による学校給食共同調理場整備事業の実施方針を発表しました。 概要は、小学校7校、中学校3校、幼稚園5園で4200食を想定したセンターを、2005年4月より供用開始し、20年間で解体(予定)し、 事業終了というものです。
 ここで驚かされるのは、施設の設計、建設、保守、解体だけでもなく、給食調理をはじめ、献立(案)作成、食材購入まですべて契約事業者が行い、 新津市は給食を購入するだけという事業方針です。
 現在、学校給食の民間委託が各地ですすめられていますが、基本的に、献立は自治体の栄養士が作成し、食材も自治体が購入、調理業務や配送、 洗浄だけを委託するという方式です。「調理」などの部分だけを委託するのであり、給食の運営は自治体で責任をもち、教育として行うため、 献立のあり方や、食材の由来、質、生産者やその情報などは当然自治体側が責任を持って学校や地域と連動しながら行っています。
 民間委託をすすめる自治体は、「調理は教育ではない」としていますが、学校給食全国集会実行委員会は「調理も含めて教育である」 という立場です。
 ところが、新津市の給食センターPFI事業は、これらをすべて捨て去って、給食そのものを丸投げする内容になっています。
 新津市がホームページ上で公開している「実施方針」「業務要求水準書」から、その「給食」の内容をうかがってみましょう。
 なお、文書の中に「SPC」という略称が出てきますが、これは、Special Purpose company の略称で、 この事業のために設立される特別目的会社のことです。

●丸投げの中身
 契約し、設立されたSPCはどんな仕事をするのでしょうか。

事業範囲は、
施設の建設…共同調理場の設計、建設工事及びその関連業務
施設の運営…
 1:学校給食の献立計画(案)の協議資料の作成
 2:学校給食用材料の調達
 3:学校給食の調理
 4:学校給食の運搬(食器等の食事に必要なものを
   含む)
 5:学校給食の回収(残滓及び使用済み食器等)
 6:給食内容の広報(児童・生徒・職員及び保護
   者)
 7:共同調理場の広報(児童・生徒・職員・保護
   者及び施設見学者(受入可能な人数))
施設の維持管理…
 建築物保守管理業務ほか施設の維持管理のために必要な一切の業務
施設の解体撤去
(事業方針 2002年12月版より)
 となっています。

●献立は、幼稚園から中学校まで同じ
 気になる献立案ですが、SPCが配置する調理場常勤の栄養士が作成し、新津市が3カ月前に報告を受け、検査、承認することになります。 主体はあくまでもSPCです。
 この献立は、幼稚園から中学校まですべて同一です。
 栄養計画としては、幼稚園、小学校低学年、中学年、高学年、中学校と5区分に分けられますが、献立は、まったく同じで、 栄養量は配膳による給食量の調整で行うことになっています。「その上で、園児・児童・生徒の年齢差を十分考慮し、 それぞれに工夫した献立案を作成する」とありますが、ある日は幼稚園向きの献立で、ある日は中学生向きの献立となるのでしょうか?

●食材は、従来通りの基準
 食材については、実施方針の中で、次のように書かれています。

基本方針…生産地、生産者、生産方法等を提供者に広報し、安全で安心して食べられるものであることが確認できることを原則とします。
外国産の食材について…基本方針に沿った食材の使用が原則ですが、少しでも安全性に疑問のある食材は使用しないこととします。
遺伝子組み換え食品について…使用しないこととします。
地産地消について…
米…原則として、全量新津市産米を使用することとします。
その他の食材…可能な限り地産地消の方法を導入することを要請します。

 さらに、業務要求水準書では詳しく書かれています。
1:食品衛生法の基準があるものについては、その基準に適合すること。
2:甘味料、着色料、保存料、殺菌剤、漂白剤、防かび剤、防虫剤、酸化防止剤(既存添加物名簿(平成8年厚生省告示第120号) にあるものは除く)は使用していないものとすること。また、それ以外でも不必要な食品添加物が使用されているものは、できる限り避けること。
3:JAS規格のあるものについては、規格品とすること。
4:安全性が確認されていない遺伝子組み換え食品は使用しないこと。
5:生鮮食品は新鮮・衛生的なもので、安全性の高いものを使用すること。
6:食材は、納品業者から産地、生産地の記録を提出させ、食事の安全性、品質を確認すること。問題があった場合は、 それ以後の納品を直ちに停止すること。記録は1年以上保管すること。
7:加工食品等については、配合割合、成分分析、食品添加物の有無や微生物検査について書類を提出し、安全性を確認できた食材を納品すること。 また、自主的に衛生検査を実施し、検査結果を提出すること。
8:米飯については、別紙「米飯供給基準」に基づき炊飯された米飯を供給すること。
9:その他必要により新津市教育委員会が定める基準によること。

食材の産地について
材料は国内産を利用し、国内産に安全性の問題のある食材に限り外国産のものの利用を認める。食育に十分配慮し、 可能な限り地場産のものを使用すること。

●アレルギー対応はたまごのみ
 アレルギー対応は、たまごアレルギーのみ対応する給食を提供し、この食数は募集要項で指示するとなっています。そして、 「それ以外のアレルギー対応食は、SPCが行う事業の対象外」(実施方針)となりました。
 たまごアレルギー以外については、「食品表示で義務づけられたアレルギーを引き起こすと思われる食材については、献立表に記載し、 保護者に対して十分な情報公開が行われるようにすること」(業務要求水準書)となっています。

●食育もSPCにおまかせ…だけど
 業務要求水準書では、
「当面する課題として、下記の2項目についてSPCは市、提供施設と連携を取りながら食育を推進するものとする。
1:肥満、小児成人病への対応
2:味覚教育への対応」
 となっています。食育の範囲はわずかに2項目です。

●衛生管理基準は旧基準のまま
 業務要求水準書は、2003年2月に出されたものです。2003年3月末に、文部科学省から新しい衛生管理基準が出されています。 この新しい衛生管理基準によって、施設設備の設計や中の調理用具などの種類、数が厳しくなっています。2003年7月末現在、 業務要求水準書の変更はないようです。

●どんな給食になるのか
 すでに、学校栄養職員を配置する新潟県は、SPCが民間企業であるため、そこに学校栄養職員を配置することはできないと新津市に答えています。 新津市は、市に配置された学校栄養職員が献立を確認、承認するので問題ないとしています。
 ところで、コスト削減をめざしてPFI方式で学校給食センターを運営し、その給食をあらかじめ決まった額で購入する場合、 一体どんな給食になっていくのでしょうか。悪い方の予想をしてみたいと思います。
 SPCが収益を上げるためには、相当な苦労があるはずです。なぜなら、年間200日未満の稼動で、売り上げ額は、 給食費が決まっているだけに定額です。ですから、人件費や食材費を下げることでしか利益を出すことができません。
 ただ、献立と食材購入は自由度があります。加工品や半加工品を利用することで、人件費や食材費を切りつめていくことは可能です。
 保護者からの給食費の徴収は新津市が行いますが、直営の給食で考えられていたような給食費=食材費ではなくなります。 あくまでも給食費は新津市の収入であり、SPCがつくる給食を購入する支出金額とは別立てです(もちろん、 給食費はこの給食購入金額にあてられます)。給食費をSPCが食材費として制約され、 その金額をすべて食材購入に当てる必要がないということです。
 見た目には、従来の給食と変わらないような献立になるかも知れません。栄養価としても変わらないでしょう。しかし、加工品、 半加工品が増えるにつれ、味の均一化、ファミリーレストラン化がすすむであろうことは想像に難くありません。
 そして、そんな「給食」を、幼稚園から中学校卒業までの最大12年間食べ続けさせられた子どもは、一体どんな大人になるのでしょうか。

●これは教育としての給食か?
 新津市のPFIセンター給食を学校給食法に書かれた教育としての学校給食というには無理があります。
 もし、この方式のPFIセンター給食がはじまれば、それは単なる昼食サービスに過ぎません。それを、「学校給食」 として食べさせられることは子どもにとっての不幸です。
 これを強行するのであれば、自宅からの弁当持参も可能で、子どもや保護者がその給食を食べる、 食べないを選択する自由が最低限必要ではないでしょうか。
 SPCの経営から考えて「最低保障」があり、全員に食べてもらわなければ困るなどという発想があるのならば、 市民としてそういう公共サービスは不要であるという「サービスを受けない保障」があってしかるべきだと考えます。
 今回上げた献立や食材購入の問題だけでなく、業務要求水準書などを読んでいくと様々な問題があります。食中毒が起きたときの責任関係、 将来の消費税増による市の負担増加、 最低保障食数を維持するため現在別のセンターから給食の配送を受けている学校をPFIセンターに回さざるを得ないかも知れない問題、将来の児童・ 生徒数の見通し数の算出に疑問があるなどPFIがコスト的にもっともすぐれているという判断の正否など、数え上げれば切りがありません。 新津市は、新潟市などと合併する計画もあります。
 拙速なPFI方式導入と説明不足に、市民や保護者からは心配と反対の動きが広がっています。
新津市 http://www.city.niitsu.niigata.jp/


(学校給食ニュース 2003年9月)

 

追補:新津市の共同調理場事業については、一次審査に5グループが通過しました。しかし、 その後3グループが入札を辞退し、残る2グループも提案書を提出したものの、経営に対する要求水準に達しなかったため失格となりました。 2月10日に、その結果が発表され、その後、宙に浮いた形となっています。(2004年4月)


初出記事が古いため、情報が現状と合わなくなっていることがあります。
最新の情報を別途入手してください。(2005.12)

 

 

[ 03/12/31 委託・合理化 ]


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