学校給食ニュース
委託・合理化 | カテゴリ別記事一覧 | 時系列記事一覧 | トップページ |

ある養護学校での給食調理委託の実態

ある養護学校での給食調理委託の実態


学校給食ニュース2002年9月号より


 ある養護学校での学校給食調理民間委託について、1年間の詳細なレポート・資料を読む機会がありました。養護学校での給食は、 小中学校での給食以上に複雑で細かな給食調理対応が必要とされています。その学校では、コスト面を中心に民間委託した結果、 給食実施に大きな問題をかかえてしまいました。
 レポート・資料からは、衛生面、調理面など様々な問題が浮かび上がります。
 また、受託企業の問題や委託している教育委員会側の問題、さらには、受託企業社員の労働状態などの問題も見えてきました。
 すべての受託企業や委託の実態が、これほどひどいとは思いませんが、民間委託の最悪の場合、どのようなことが起こるか、レポート・ 資料の一部を紹介しながらまとめてみました。(まとめ、学校給食ニュース編集)

●チーフ・サブチーフがいない!
 4月の給食開始時、つまり、委託当初に、チーフが欠勤、サブチーフは退職し、学校には連絡がありませんでした。社員・パートで給食調理を行い、 1時間以上遅れで配食されました。その後、5日目にチーフが出勤します。サブチーフは3カ月決まらないままでした。
 この後も、4月から翌2月までの11カ月で10人が退職するなど、パートの退職、サブチーフの体調不良と退職、チーフの体調不良による、 チーフ、サブチーフの不在などの状況が起こります。
 1年間を通じ、チーフ・サブチーフが安定して給食調理に望むという状態ではなかったようです。
 受託企業の雇用者としての問題点もあります。
 パートが調理室で火傷をおいながら、本人が後日、自宅で火傷をしたと主張しています。企業としての安全管理や従業員・ パートへの労働災害対応がきちんとされておらず、かつ、「会社に迷惑をかけてはならない」 というような無言の圧力を受けているのではないでしょうか。

●トラブル続出
 調理するスタッフが安定していない状態では、安定した調理ができるはずもありません。調理ミスや事故が続発します。
 配食量や味の濃さ、薄さ、かたさの問題だけでなく、揚げ物の衣に小麦粉のだまが入る、ハンバーグなどのコゲ、 ミートローフや団子の生状態などの調理ミスが起こります。異物混入とならんで、養護学校の子どもがそのまま食べてしまう可能性があり、 教員らからも問題だとの声が上がりました。
 衛生管理面でも、怪我をした血液が配膳された食器に付着するなど基本的なことでのトラブルが年間を通して発生しています。

●疲弊する栄養士と委託調理員
 このような状況で、学校給食をつくる栄養士は、衛生管理やきちんと給食をつくることにばかり時間と労力をとられ、また、トラブルのたびに学校、 当局、委託企業(本社)との折衝に追われてしまいます。
 受託企業の調理員(社員・パート)は、十分な研修や準備態勢がないままに不慣れな状態で給食づくりに追われ、それにより、ミスを発生させ、 精神的にも肉体的にも疲弊していき、悪循環を生んでいるようです。
 これでは、栄養士も委託調理員も本来望まれるような、安心でおいしい給食をつくり、それを教育として活かすことなどできそうにもありません。
 給食に直接携わる栄養士、そして、この場合は受託企業の社員・パートの人間としての苦悩が透けてきます。
 定期的な会議で、学校、当局、受託企業の責任者らが話し合いを持ち、また、トラブルのたびに栄養士からの事務連絡書、受託企業からの報告書、 事故報告書が出されていますが、それが改善にはつながっていないようです。

 学校栄養士がこう語りました。
「給食の調理委託は、清掃委託と違ってやり直しができません。時間に遅れたり、できあがり品が焦げていたり、生だったり、まずかったり、 塩が固まっていたり、異物混入が起こっても、給食時間には子ども達が待っています。
 学校給食は教育の一環であり食教育の場として重要な意義を持っています。また、子ども達は毎日楽しみにしています。その給食が委託になり、 毎日きちんとでてきません。
 13年度に委託となり、1年間がまんしてきました。会社も誠意がなく、給食開始時にチーフ、サブチーフもいない状態で学校にも連絡せず、 代理も出していなかったなど問題がありました。2学期まで固定したサブチーフがいない、 3学期にはチーフ・サブチーフが退職してしまい、 3学期の最後も代理でした。14年度もチーフ・サブチーフが未定のままです。子ども達は直営であった12年度までのおいしい給食を願っています。
 衛生面の問題もかかえています。委託になった今の給食は食中毒と紙一重です。生があったり、異物混入があったり、 会社や現場の人たちは衛生教育をされていない、知らない、知っていても実行しないなど、学校栄養士として不安をかかえた毎日です。
 保護者も、生や異物であっても食べてしまう養護学校の子ども達を前に給食を心配しています。 食中毒により子ども達の命をおびやかしてからでは取り返しがつきません」

 給食調理の民間委託は、コスト削減のために行われています。決して、給食の改善のために行われているわけではありません。もちろん、 受託企業側からすれば、低コスト、すなわち低利益で受注しても、対応が悪いために契約を切られては企業としてマイナスになりますので、 与えられたコストの中で最善をつくそうとはするはずです。しかし、受注するために最低限の状態を考えて見積もっているとすれば、 チーフやサブチーフ、社員やパートへの対応の悪さ、急な欠員時などの予備体制ができないなどの問題が発生するのは当然です。
 企業姿勢や発注する側(地方公共団体)の給食調理コストへの考え方によっては、今回紹介したような問題が発生してもなんら不思議はありません。
 本来、学校給食は外食産業や集団給食産業に比べてコストが高くつきます。それは、 食中毒などの面で高リスクである子どもに食べさせるものであり、学校給食そのものが教育として行なわれているためです。
 民間企業の企業努力による低コスト、効率化は行財政にとって魅力的かもしれませんが、それが、学校教育、給食の場にふさわしいかどうか、 きちんとした議論が必要です。
0209

[ 02/12/31 委託・合理化 ]


Copyright 学校給食ニュース desk@gakkyu-news.net (@を大文字にしています。半角英数の@に変更して送信ください)
Syndicate this site (XML) Powered by Movable Type 5.2.9

バナー バナーは自由にお使いください。