学校給食ニュース
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東京都大田区

東京都大田区

 東京都大田区では、1996年から中学校の学校給食調理で民間委託がはじまりました。99年度ですべての中学校の調理が民間委託となり、 今後、小学校63校が対象になることは十分に予想されます。
 この大田区で、民間委託問題が起こってから決定するまでの過程を、当時運動に関わっていた方々の協力で、 主に区議会への陳情書をたどっていく形で紹介します。
 保護者、地域の人々が、なぜ、民間委託に反対したのか。汲み取っていただければ幸いです。資料を提供していただいた荒木規子さんからは、
「これらの陳情書が今後何らかの役に立つとすれば、それは、行政に対しての要望の方法ということではありません。 関わった者たちが望んでいるのは、民間委託に反対する人たちが、よく分からない人たちに向けて説明したり、自分自身がなんとなく、とか、 教育の一環だからとか、言葉にならない理由しか浮かばないときに読んでいただきたいということです。これらの陳情書には、 とても長い時間がかかっています。でも、自分の中に確信を持ったとき、自信をもって話すことができるようになりました。 民間委託されるということがどういうことなのか、なぜイヤなのか、それを説明できるようになる参考になれば、とてもうれしいです。 私たちが住んでいるところでは実りませんでしたが、全国で何かの役に立てるなら、こんなにうれしいことはありません」
 とのメッセージをいただいています。

 1994年11月、大田区報で学校給食調理の民間委託について説明が行われました。それ以前からも、 マスコミ報道などでこの問題を知っている人はいましたが、この区報によって様々な動きが表面化します。
 1995年2月、最初の陳情書が「大田区の学校給食を守る会」から出されました。
「この時のみんなの心情としては、経済効率だけで簡単に決められるのはおかしい。それに、保護者にも何も説明がなく、 区報だけで済ませるのは変だ。とにかく、4月からというのをやめさせたいという一点だけで集まり、出しました。だから、 ここから学校給食について取り組みをはじめた人がほとんどだったのです」

 

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大田区の学校給食を守るための陳情書

大田区議会議長殿

[陳情の趣旨]
 私たちは、大田区立の小中学校に学ぶ子どもたちの保護者です。
 現在の大田区の学校給食は、安全性を重視し、手作りを基本として、だしは鶏がらやかつを節、昆布などで丁寧にとり、カレールウも手作りです。 食器も「強化磁器食器導入5か年計画」が1991年に提案され、遅れがちながらも実施されています。 このような大田区の直営の自校方式は重要な基本であり、私たちが誇れる評価すべきところです。
 学校は単に、教科書だけによる学習の場ではなく、これからの社会に生きていくために必要な力を身につけていく場であるといえるでしょう。 多くの先生たち、養護の先生、そして給食調理員など一般の授業ではないところで働く人たちもすべて同じに、子どもたちや保護者に紹介され、 学校の一員として子どもたち、保護者に接しています。

 子どもたちが一日の大半を過ごす学校という教育の場に、4月から民間業者を入れるという今回の計画はあまりにも早急で、 理解するための時間も情報も少なく、私たち親の間には大きな混乱が生じています。
 すでに調理業務の民間委託を実施した区では、調理員の交替が目立つと聞きました。民間の調理員の多くがパートであることを考えると、 それは避けられないことでしょう。それでは経験による調理技術の向上も、子どもたちへの愛情も望むべくもありません。
 給食が教育の一環として行われているのは、食文化や食べ物の学習の場であると共に、作り手である、 永年積み重ねた経験と安定した技術を持った区の調理員さんと子どもたちの間に、感謝や思いやりの気持ちを育てる貴重な機会でもあるからです。
 こどもたちの健やかな成長を望むすべての親の願いを汲み取り、学校給食の調理業務の民間委託について、十分に時間を取って、 慎重に審議してくださることをお願い致します。

[陳情事項]
一、大田区の学校給食調理業務の民間委託について、十分時間を取って慎重な審議を望みます。
二、1995年度からの民間委託の実施を見送ってください。

1995年2月 大田区の学校給食を守る会

 

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 この陳情は採択され、1995年の導入は見送られました。その半年後、 次の議会では民間委託の導入が決まってしまうというところまできたときに、第2回目の陳情書を出しています。
「各自がなぜイヤなのかをかなり理解できたことから、反対する理由をハッキリ示さないで決定されるのはイヤだったので、 このような形で陳情書を出しました」
 この時には、5つの陳情書が出されています。そのうち4つを紹介します。

 

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大田区の学校給食を直営・自校方式のまま守っていくための陳情書

大田区議会議長殿

[陳情事項]
 学校給食の調理業務を民間委託業者に委託しないでください。

[趣旨]
 このたびの事務事業適正化計画の中の一つ、学校給食の調理業務を民間委託業者に委託しようとする提案について、これまで議会では 「経費が節減できる」「作る人が民間に代わるだけで他に変わりはない」「これまでよりも内容の充実した給食が可能だ」 「すでに実施している区では好評だ」というようなことが教育委員会から説明され、それに沿った話し合いがされていたようです。 学校給食の民間委託については、ただ目に見えるものや、すぐ目の前の経済の論理だけで決めてしまうのではなく、 公立学校の教育の一環として行う給食をどのようなものにしていくのか、どのような学校で、 子どもたちが育って欲しいと願っているのかということも十分考慮した上で審議をお願いいたします。
 2月11日付の大田区報は、「減らしたいのは『人』ではなく、『将来への不安』です」と書きました。 その将来の社会を担う子どもたちが育つ教育現場に大きな変化がもたらされることを、どのようにお考えでしょうか。民間委託されると、 給食調理室だけが分断され、学校関係者でも入っていけるのは栄養士かそれに代わる人だけになります。 さらに入っていけても直接口では指示ができないという法律も適応されるそうです。
 学校に通う子どもたちの顔が見えて、献立が作られ、発注・調理・食事・片付け・一日の反省。そしてそこに教室での授業との関わりや、 家庭とのやりとりなど、先生・調理員・栄養士・保護者等々、 子どもたちをとりまく大人たちの声が交じり合って啓発し合えてこそ学校給食だと思います。保護者も含め、学校関係者が入っていけない場所、 手の届かない場所を学校の中に作らないで下さい。
 私たちは、現在の大田区の学校給食に満足しているわけではありません。行政に望むこと、調理現場に望むこと、学校にも望み、 家庭にも期待することも沢山あります。それは大田区が提案している、民間委託すれば解決できるというものではありません。
 各分野の人たちがどのような給食を作りたいのか、どういうものを子どもたちに食べてもらいたいのかを誰もが考え、提案でき、 参加できるシステムをくずしてはなりません。学校全体が一つの責任でまとまった組織、 すなわちこれまで通りの対等な関係である直営方式だからこそできる大きく広がる可能性を、私たちは保護者として手放したくないのです。
 それは給食調理の問題だけではなく、それぞれが深く子どもたちに係わっていくことで、学校全体が心豊かに潤い、 大田の子どもたちが楽しくのびのび育っていく力になると信じているからです。
 どうぞ、経済の論理で、大切な教育現場を分断しないで下さい。
 これまでの直営方式のまま、さらに大田区の学校給食が改善され、素晴らしいものになっていくことを願ってやみません。

大田区の学校給食を守る会
平成7年9月28日

 

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大田区の直営・自校式の学校給食の存続を求める陳情書

[陳情の主旨]
 大田区は、区立小中学校の直営・自校式の給食を来年度以降も続けて行って下さい。

[陳情の理由]
 大田区は、現在、区立小中学校の給食の調理を民間業者に委託することを検討中であるといいます。これが実施された場合、給食の調理員は、 学校職員としての役割をどれ位になえるのでしょうか。
 私達は、学校給食という教育活動において「調理」はその中心的な部分にあたる、重要な教育活動である、と考えます。さらに、 保護者は憲法や教育基本法で保障されている親の権利として、この教育活動に積極的に関与できるはずだ、と考えます。
 従って、給食の現場に携わる人と親とが、給食に関して直接、具体的に話し合える関係が保障されなければなりません。これは、特定の「委員会」 や「懇談会」のような形式で親や調理員等の関係者の代表に限って行われるような話し合いを意味するのではありません。どんな親でも、 子供についてどの教職員といつでも話し合えるはずなのと同じように、どんな親でも給食についてどの調理員とも日常的に話し合え、 お互いに必要な要求は出し合える環境が理想的なのです。私達は、この理想のために今後も努力を続けていくつもりです。
 ところが、調理の民間委託が実施されれば、委託業務のあり方に関する労働基準法等に阻まれ、保護者と調理員が、管理者を間にはさまず直接に、 自由に話し合う可能性さえも失われてしまいます。
 また、学校給食法の理念である「給食を通じての人間形成」は、調理員・栄養士・教職員の協力体制なくして実現できるものではありません。 この場合も三者間に日常的に、かつ直接的に意見の交換ができなければ、協力体制は作れないのです。
 学校という教育現場で子供をとりまく職員が、対等の立場で教育について語り合え、 保護者も子供を育てる責任を強く自覚しつつ積極的にその対話に参加できる、そんな民主的な学校教育の理想像に、 理念上もそしてシステムの上からも逆行するものであると判断し、私達は、給食調理の民間委託に反対するのです。

平成7年9月28日
大田区議会議長様
陳情者 学校給食を共に学ぶ大田区の親と調理員の会

 

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学校給食の調理を民間業者に委託しないための陳情

大田区議会議長様

[趣旨]
 昨年マスコミを通して知らされた、事務事業適正化計画の中の一つである、学校給食の調理業務を民間業者に委託しようという計画案に対し、 区立小学校に子どもを通学させている私たちは、この計画案を慎重に受けとめました。
 まず、教育委員会の説明を聞き、学校側にも質問しました。なぜ、自分の子どもに関する事柄を事前に察知できなかったのでしょうか。 反省と同時に深い憤りを感じております。
 この間大田区内で学校給食の調理に携わっている方々の現状を聞いたり、すでに民間業者委託になった学校の先生や栄養士さん、 生徒のアンケートなど、私たちにできる限りの情報や資料を集め、真剣に行動し、話し合っています。
 本当に未来を担う大田の子どもたちの学校給食を考えての事であるのなら、教育委員会や学校の先生方、栄養士さんや調理員さん、 保護者を含めた中からの総合的な提案でなければならないのではないでしょうか。
 経済的合理性や結果論的大人特有のエゴイズムで学校教育を考えてはいないでしょうか。
 子どもが大人へと成長する中で、心もからだも大きく変化し、成長するのが小学校六年間と中学校三年間のあいだです。
 小さな子どもが家庭という環境から少し離れ、知識や判断力、協調性や社会性を養う大切な期間がこの九年間です。
 その中で、先生や友だちと食べる給食は、単に空腹を満たすだけの物ではなく、精神面や肉体的栄養面からみても重要な事です。 そんな大切な学校給食の場に、いくら合理的で良い事だと説明されても私たちは、どうしても納得できないのです。
 どうぞ慎重な審議をお願いします。
 小さな事かもしれませんが、私たち久原小学校では、毎年三月の卒業式の前に六年生の保護者が主催して「卒業を祝い感謝する会」 をおこなっています。五年生の時から少しずつ積み立てをして、当日はお世話になった先生方や地域の方々、栄養士さんや調理員さんなどをお招きし、 二~三時間の短い時間ですが、六年間の思い出と感謝をこめて、また、新しい世界への旅立をみんなで祝うのです。
 調和のとれた学校教育こそ、真の人間を育てる大切な要素です。どうぞ、今までの直営・自校方式のまま、ますます大田の子どもたちが、 心豊かに学校教育が受けられる事を願っております。

[陳情事項]
 学校給食の調理業務を民間委託にどうぞしないでください。

平成7年9月28日
久原小学校の給食を守る有志の会

 

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大田区の学校給食調理業務を民間業者に
委託するのをやめていただくための陳情書

大田区議会議長 殿

[陳情事項]
 大田区の学校給食調理業務の民間業者委託をやめてください。
[陳情事項]
 いま、民間業者に委託されようとしているのが、義務教育の現場の一部分だという事実を、もっと深刻に考えていただきたいのです。 マスコミその他でご存じのように、学校では、いじめ・不登校等の問題がおこり、解決の糸口さえも見つけられない情況で、 改めて教育現場の見直しが大きな世論となっています。
 それと平行するように、地球規模の環境問題に直面している現在、東京都の平成7年1月1日施行の消費生活条例では、 消費者教育を受ける権利が加えられました。これは一般消費者はもちろん、学校教育の中での消費者教育も含まれていると考えて良い訳です。 平成5年度に出された大田区の環境公害対策会議の答申書の中でも、学校教育における環境学習の必要性があげられています。
 こういった将来を見据えた学校教育を実現していくことが望まれているこの時期に、 短期的な経済効率のみを理由にした業者委託がいかに時代に逆行したものであるかを考えていただきたいのです。 業者委託は言わば教育現場の分業化です。学校教育は教師と生徒だけで成り立つものではありません。また、 いく種類かの課目を覚え込むだけのものでもないと思います。教師や生徒・保護者・ 各種の専門の業務に従事する人々がお互いに関係を結びあいながら、子供達が将来社会の一員として十分に責任を果たし、 権利を主張できる大人へと成長するのを見守り育てていく場としてあるべきだと思うのです。
 給食は食べられればいいのだと決めつけ、満足な身分保障もされないパート労働者に頼った業者に任せて安く上げる、 といったことが実行されてしまえば、消費者教育・環境教育を云々したり、いじめをなくし思いやりを育てようなどと言っても、 教育現場の中に大きな矛盾を抱え込んでしまうことになります。
 現在の給食について具体的に改善してほしいことや、現在進行中の改善事項などはたくさんありますが、行政が直接管理運営する形のままで、 保護者や教師と話し合いながら、より良い形の給食に変えていくのが最善の方法だと思います。教育を分業化しないでください。

大田区立新宿小学校保護者
東京都大田区 ●●●●


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これらの陳情書は、すべて否決され、96年度からの民間委託が決まりました。最後は、民間委託が決まってから出した陳情書です。

 

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大田区の学校給食の民間委託に関する陳情書

大田区区議会議長 様

[陳情事項]
 教育委員会からの内容の報告・説明だけでなく、保護者も率直に意見が言える説明会を、民間委託該当校だけに限定しないで実施して下さい。

[理由]
(1) いつも区報による一方的な報告だけで「皆さんの理解と協力をお願いします」と言われても、保護者にしてみれば不安もあります。 質問したいこともあります。義務教育を受ける側の子どもたちの親は、子どもが受ける学校教育について知りたいと思っています。 子どもに関する様々な問題が山積している今、学校と家庭と地域で協力していこうと言われていますが、それはただ、 学校からの指示を実行する機関として家庭、地域があるのではありません。現状やこれからのことを、話し合い、 提案しあってこそ可能なのだと思います。
教育委員会からの一方通行で終わるのではなく、保護者の声も行政に届く対話を期待します。
(2) 4月から委託を予定されている中学校(大森東、貝塚、大森第四、田園調布、大森第七、糀谷) にはいくつかの小学校の子どもたちが行きます。委託に変わるときだけの説明であるなら、将来関わる人には説明を受ける機会がないことになります。
(3) 給食を食べるということは、学校で作られたものを、毎日体の中に入れるということです。そういう大切なことを、 たとえ調理業務だけといえども、経済効率を優先させる民間企業に委ねる不安は消せません。

1996年2月
大田区立中学校保護者有志、大田区立小学校保護者有志、大田区の学校給食を守る会


(学校給食ニュース9号 1999年2月)

[ 99/12/31 委託・合理化 ]


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