学校給食ニュース
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若者の街・原宿の学校給食 渋谷区立原宿外苑中学校

「渋谷区原宿」と聞いただけで、若者の街、ジャンクフードというイメージがあります。もちろん、この地区にも住宅があり、生活があり、 学校があります。そして、学校には給食があります。
 東京都渋谷区は、全校自校直営方式です。栄養士は都基準の配置で、栄養士が配置されていない学校の場合統一献立です。 食材購入は栄養士の配置にかかわらず各校独自でやっています。調理員は、全員正規職員ですが、近年、退職者の再雇用の例もあります。
 原宿外苑中学校は、原宿中学校と外苑中学校が1997年に統合されてできた学校です。統合後は外苑中学校の校舎等がそのまま使われています。 原宿外苑中学校には、栄養士は配置されていません。調理員は再雇用1名を含む6名で約360食を調理しています。
 この原宿外苑中学校では、調理員が積極的に学校の職員に働きかけ、教育の一環として学校全体や地域、 保護者が給食を活かすため様々な取り組みをしています。
「給食だから、あれはできない、これはできないの時代を終わらせ、給食だからこそ、あれもできる、これもできる時代にしたい」 という考えの上に立ち、給食の質を高めようとしています。

■給食日誌
 統合される以前の1994年から、毎日給食についての意見や感想を給食委員を中心に「給食日誌」に記入してもらい、 それに毎日返事を書く活動を続けています。「マーボーライスがおいしかった」「杏仁豆腐がおいしかった」「さかなの骨が柔らかかった」 という声や、「グレープフルーツは人気に差があった」「レタススープの具はもう少し多い方がいい」「味噌汁がちょっと辛かった」 といった意見などがあり、返事を書きながら生徒が何を考え、何を望んでいるのかが分かるようになっています。
 このほか、毎月1回の給食委員会にも調理員が全員出席して、生徒と交流を深めています。

■給食室から(給食だより)
0006047 毎月、献立予定表を出していますが、その半分は、調理員からのメッセージです。 調理員の自己紹介、簡単なレシピ、箸の上手な使い方、給食日誌から声の紹介など、保護者、生徒と給食室をつないでいます。
 また、「原宿外苑中学校の給食」という30分弱のビデオを作成し、 ふだん入れない給食室の調理の様子や原宿外苑中学校の給食の特徴をまとめています。

 

 

■試食会
 試食会は、年に1回、毎年2月頃、保護者からの要請を受けて行い、実際に給食を食べてもらいます。出した給食の内容だけでなく、 いくつかの給食のレシピを示しながら、ダシに天然のものを使っていることや、カレールー、 ハンバーグなどをすべて手作りしていることなども紹介します。上記のビデオで実際の調理風景を教えています。そして、 その場での意見交換も給食に役立てます。実際に、98年度には、試食会で「郷土料理を出してみたらどうか」という提案があり、 4月から月に1度郷土料理を出すようにしています

■タケノコ、梅、八重桜、野菜畑

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たけのこ掘りの風景

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給食室横の小 さな畑で里芋掘り

 原宿外苑中学校には、竹林、梅の木、八重桜の木があります。春にはタケノコを掘り、タケノコ料理を出します。 八重桜の花びらは塩漬けにして翌年の春、桜おこわになります。梅は、手作りの梅漬けにして、給食に出します。
 タケノコ堀りや梅もぎなどは、ポスターを作成して、生徒に手伝いを呼びかけています。また、毎年11月には生徒も参加して芋掘りを行い、 翌日の給食に出してます。
 給食室の横には小さな畑があり、ここではキヌサヤ、ラディッシュ、大葉、ミント、キュウリ、里芋などが調理員の手で栽培されています。そして、 給食に役立てられています。
 いずれも量は多くありませんが、都心でも、工夫次第で「地場型給食」の考え方である、地域で、素材の生産から加工、 食べるまでを体験することが可能なことを教えています。

■独自献立
 原宿外苑中学校では、栄養士が配置されていないため、統一献立となります。毎月来る統一献立を基本にしながらも、 行事や実際の残菜量などを考え、調理員が独自に献立を立てています。もちろん、カロリーや栄養素などの計算も行います。 栄養士も献立を確認しています。そして、食材の発注や給食費の計算もやっています。
 そこで、原宿外苑中学校ならではの献立が生まれ、以下のような新たな工夫も生まれています。

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●A定、B定~セレクト給食
 原宿外苑中学校の人気献立は、
  1位 A定、B定
  2位 カレーライス
  3位 ミートスパゲッティ
  4位 オムライス
  5位 太巻寿司、ジャンボいなり です。

 一番人気が高いA定、B定は月に1度のセレクト給食です。A定食が肉料理、B定食が魚料理で、事前に注文をとって実施されています。 もともとは、肉にかたよりがちな食生活に少しでも魚料理を取り入れて欲しいという気持ちからはじめられました。1997年にはじまりましたが、 99年7月にはじめてB定食がA定食の数を上回りました。ちなみにA定食がチキンカツ、B定食がサーモンムニエルでした。

●リクエスト給食
 生徒からアンケートをとり、リクエスト給食として実施しています。98年10月の「給食室から」では、このアンケートの結果をまとめています。
<できます>
茶碗蒸し、ドリア、オムライス、カルボナーラ、アメリカンドッグ、イタメシ、フカヒレスープ、ポテトフライ、ステーキ、ドーナツ、クレープ、 雑煮、有精卵のゆで卵、のり弁、ふろふき大根、アジの塩焼き、ラーメン、納豆、おしるこ、バイキング

<なんとかできるかな?>
キムチ、フランス料理、A定B定C定、湯豆腐、羊の肉、チーカマ、カニ汁、カエル、リゾット、焼き鳥、ペペロンチーノ

<うーんできない>
ミルフィーユ、チーズフォンデュ、京たこ焼、ツバメの巣、いかすみそうめん、もんじゃ焼き、ピザ、刺身、キムチ鍋、ペキンダック、 中国の王宮料理、おどりぐいシリーズ、うめ酒

●地域料理
 試食会での意見をとりいれて、それまでも行っていた郷土料理を定期的に計画を立ててやってみました。新潟の笹寿司などは、 笹の葉を実際に新潟の方から送っていただいたりと、中身は本格的です。

●産直
 リンゴは、長野県湯田中の佐藤さんご夫婦が栽培する低農薬のもの。別の地区の給食まつりでリンゴのことを知り、 職場旅行を兼ねて農場の見学をして扱っています。野菜についても、積極的に低農薬や有機栽培のものを選ぶようにしています。

●アレルギー対応
 食物アレルギー、アトピーがある場合、養護教員と連携し、保護者と連絡を取りながら別献立を立てています。渋谷区全体でも、アレルギー食、 宗教食の対応はされており、特定のアレルギーの場合、別鍋で調理するなど手間を惜しまずにやっています。

■調理室からのメッセージ
 同校の調理員で、渋谷区職員労働組合学校給食部会の役員をつとめる平沢さえ子さんは、あるレポートで次のように述べています。
「同じ材料でもひと工夫して目先を変えたり、ネーミングをおもしろくしただけで残菜が少なくなる。休憩室で雑談しているときにも、 テレビでこんな料理をやっていたとか、旅行に行って食べたのがおいしかったから作り方を聞いてきた、新聞や雑誌の切り抜きなど、 かしこまって考えるのでなく、たわいもない話の中から原宿外苑中のオリジナルメニューは生まれてくる。家から材料を持ってきて、 調理の合間に試作品を作ってみる。楽しみながらおいしいものをつくる。これがすべての秘訣だ。
 ネーミングはつけるほうも楽しみながら、生徒をワクワクさせている。あけてびっくり花ちらし、UFOぎょうざ、花しゅうまい、 びっ栗むうしパン、宝さがしコロッケなど数えたらきりがないくらいある。
 給食について様々な工夫をしてきたが、これをすべて労働強化だとか、職域を超えていると言ってしまえば、すべてはおもしろくなくなる。
 確かに何もしないよりはひと手間もふた手間もかけている。しかし、その分、子ども達からも、親たちからも、 学校からも大きな反応が返ってくれば、手間のかけがえに余りあるものだ。
 子ども達が目を輝かせて給食室をのぞきこんでくれれば、どんな苦労も吹き飛んでしまうと、みんなが思っている。 何よりも調理員自身が一番楽しんで、張り合いを持っている。少しずつ力を出し合い、工夫を出し合い、楽しみを分かち合っている。
 学校給食を、文部省が教育の一環と位置づけていることを、調理員自身が活用していない。宝の持ち腐れ、といえる。
 私の学校でもまだまだ試みの段階だし、少々無理をしている。しかし、やる気のある人たちが集まった職場なので、 チームワークで意欲的に乗り切っている。
 休み時間も十分にとれないときもあるが、何か新しいことをやるときって、そんなことかまっちゃいられないくらいおもしろいと思う。
 この数年間やっただけで、教員も目を向けてきた。子ども達もおおいに反応がある。PTAにもたくさん知り合いができた。 めざましくはないけれど、なにか地面の下で動きつつある気配が強い。また、他の学校にも共感を呼びつつあるはずだと思っている。
 一般的に“おいしい給食を作る”といっても、グルメのおいしさや子どもの「受け」をねらったおいしさを目指すものではないと思う。 日常の食生活の一端を担っているという意味で、作り手と食べての姿がお互いに見え、人間として響きあっていくなかで作られるアジ、 決して食べ飽きないおいしさ、学校という生活の場での生活に根ざしたおいしさを目指していくべきだと思う。
 教員との関係、子どもをめぐる教員との関係、教員を通じての子どもとの関係、子ども自身との関係といった、人間としての“おつき合い” の中で培われていく味=おいしさを目指していくべきだと思う。
 直営だからこそできること、おいしさとはそういうことだと思う。
 そして、そのおいしさを支えているのは栄養士でもあり、学校でもあるかも知れないが、何よりも調理員であるはずだ。調理員は調理機械ではない。 標準のレシピは、季節や食材や調理方法、ちょっとした思いやりで様々な工夫や手を加える余地がある。その工夫こそが大きく味わいを支えていく。 それができるのが現場の調理員だ。
 栄養士を配置し、その指示(標準・マニュアル)通りやるから、調理員が民間委託に変わっても“何一つ変わりはありません”と、 民間委託を進めるすべての当局者が口を揃えて言う。調理員の力、その人間としての子ども達へ向けた思い、学校での職員としての位置、 子ども達との人間関係といったすべてを否定するところに「調理員が学校職員である必要がない民間委託」は成り立っている。
 このような当局のコスト一辺倒の論理を許さない“給食の豊かさ”“作り手と食べての顔が見える、人間として響きあえる” 給食をめざすべきではないだろうか」

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調理風景。

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調理室の見学会

(2000.06.04)

 

[ 00/12/31 栄養職員・調理員 ]


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