学校給食ニュース
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福岡県岡垣町の学校給食と調理員の取り組み

福岡県岡垣町の学校給食と調理員の取り組み


学校給食ニュース2002年11月号より

 

 福岡県岡垣町は、人口約3万1千人。海も山もあり、北九州市に近いベッドタウンとして徐々に住宅地が増えています。小学校5校、 中学校2校で、学校給食は、小学校のみ、自校直営方式で行われています。中学校給食は現在行われていません。中学校給食は、 2004年度より親子方式の施設で調理は民間委託により実施される予定です。小学校給食については、 2001年末の行政改革大綱で調理の民間委託方針が出され、 退職者不補充と職種変更による調理の民間委託を2003年度から実施するとしています。
 現在、民間委託中止を求める運動が広げられているところです。
 岡垣町の調理員は、これまでにさまざまな取り組みをしており、その内容は注目に値するものです。 岡垣町の学校給食と調理員の取り組みについてレポートします。


●岡垣町の学校給食

 岡垣町の小学校給食は、自校直営方式です。小学校5校と保育所2所に正規調理員18人が勤務しています。 小学校給食では一部パート職員も配置されています。
 栄養士は、2001年まで1名でしたが2002年に1名増員され、現在2名で、小学校5校のうち食数の多い2校に配置されています。
 献立は、岡垣町を含む福岡県遠賀郡で統一献立がつくられています。それを、岡垣町の栄養士、調理員らが検討し、町独自、 学校独自の要素を加えていきます。この町独自の部分や学校独自の部分には、調理員の意見が反映されます。調理場ごとの設備の違いや、学校行事、 あるいは、学校の特色によって少しずつ変えられています。
 食材は、学校給食会と地元業者への発注ですが、地場のものも扱っています。
 米飯給食は、週に3回で、県産米を使用。
 食器は、ステンレスから陶磁器に更新されつつあります。
 食器の洗浄は、手作りの廃食用油石けんを使っています。この廃食用油石けん活動については、あとで詳しく解説します。

 調理員の取り組みとしては、18人中17人が自主的に調理師免許を取得しています。1名は採用後2年に満たないため、 今後取得する予定です。
 日常的には、給食室からの一言を毎日給食時間に放送し、学校によっては調理員自身が放送することもあります。また、学校ごとに 「給食だより いただきまぁーす」を随時発行し、保護者に給食の内容や食の問題などについてお便りを出しています。
 また、児童との手紙のやりとりや交換ノート、クラスでのふれあい給食などを行っています。給食をクラスに運ぶ際には、 今日の献立などについて子どもたちに必ず声をかけるようにしています。
 試食会は、一般の試食会のほか、祖父母招待給食、児童や新入学児童を対象とした春休み、夏休み、 冬休み期間中の親子クッキング教室の実施などを行っています。
 歴史的な取り組みとしては、1977年以降、調理員による給食の質の向上について取り組みがはじまりました。自校炊飯や、 ハンバーグなど加工食品の手作り、インスタント調味料の廃止、合成洗剤の追放、学校菜園の野菜を給食食材に取り入れるなど、 食の安全や給食の質の向上を調理員から働きかけ、栄養士とともに作り上げてきています。
 このほか、アレルギー対応などもしています。
 調理員の早川友季子さんに話を聞きました。
「岡垣町の学校給食調理員は、長い歴史の中で、ただ作るだけの調理員から、食の安全や給食の味、子どもの育ち、 環境のことまで自分たちの職務として取り組むように変わりました。この取り組みは、 他の自治体の学校給食で加工食品ではない手作りハンバーグを作っていたことを知ったときにはじまりました。私たちもできるのではないだろうか、 そこから、栄養士とも相談し、手作りハンバーグに取り組みました。今では、インスタントの調味料を使わず、だしは、昆布や鶏がらなどからとり、 カレールーも手作りしています。味付けも、その日の食材、たとえば玉葱の水分量などから分量を変えたり、暑い、寒いとか、 乾燥しているなど天候によって、また、運動会の練習で汗をたくさんかいているから、など、状況に合わせて変えるようにしています。自校調理で、 日々子どもたちを見ていて、学校の行事などもよく分かっているからできることだと思います。
 私は、たまたま保育所から小学校へ移ったことがあり、そのときには、同じ子どもが保育所から小学校6年で卒業するまで、 その子どもの育ちを見ることができました。そういう経験が、給食を作る上でも子どものことを考えて取り組む上で役立っていると思います。
 調理員同士、調理員と栄養士とで常に意見交換をしていますが、こんなこともあります。岡垣町は、海もあり、山もあり、住宅地もあります。 海に近い学校の子どもは、海の食材を使った献立の時、残食が少ないのですが、山に近い学校の子どもたちは、 山の食材を使った時の方が残食が少ないのです。住宅地の学校の子どもたちは、まんべんなく残食が出たりします。 そういう生活の違いなどもふまえて、学校ごとの給食のあり方を考えています。
 地場産の給食についても、もっと取り組みたいと思います。私たちも岡垣町に住んでいますから、この辺の農家を知っていたりしています。 食材がどこの誰のものなのか、あるいは、岡垣町のものなのか、もっと遠くから来るものなのかもよく分かります。やはり、新鮮な食材の方が、 使いやすいし、安心です。学校農園のものや、地場の特産品であるビワやヒジキを給食に取り入れたりはしていますが、たとえば、 お米や野菜にしても、給食で使う分ぐらいは、岡垣町で取れています。そういう取り組みもしたいです」


●ゲストティーチャー

 調理員の中には、ゲストティーチャーとして、実際に教壇に立つ例もあります。ひとつの例では、授業の一環として、 給食ででた残さを使ってたい肥づくりを行ない、野菜を育てました。たい肥を入れた野菜、入れなかった野菜で育ち具合や味を比較してみます。 これを調理員としてたい肥づくりからずっと教員とともに子どもたちに教えていきました。
 また、後述する廃油石けん活動から、授業で環境とリサイクルの意識啓発のために、廃食用油を利用した石けん作りを行ない、 子どもたちからも高い関心を引き出しています。
 学校の中の身近な大人として、調理員の技能・経験をうまく生かす実例です。


●廃食用油石けん活動は学校を超えて

 岡垣町の学校給食では、1980年の秋まで合成洗剤を使用していました。しかし、有害性や環境問題を学習し、市販の粉石けんを導入。 その後、給食調理で出る廃食用油を活用できないかと、試行錯誤し、1985年までに手作りプリン石けんに切り替えました。
 取り組みは、保育所と小学校の調理員が発案、取り組みを行ない、ステンレス食器を使用していたこと、手洗い中心だったことから、 石けんの温度や濃度などのノウハウが確立し、安定して給食食器洗浄に活用されていました。
 1994年には、固形石けんをつくるための機械を岡垣町の教育委員会が2台購入し、 やはり学校給食から出た廃食用油を使って固形石けん作りがはじまりました。土曜日に交代で石けんを仕込み、 夏期休業中にラベルをつくって町のイベントで無料配布をはじめました。
 1994年10月のはじめての配布で1100個を無料配布、その後、1995年には、公民館などの施設に持ち帰り用無料石けんを置きはじめ、 町民に環境問題やリサイクルへの理解を呼びかけはじめました。
 石けん作りは、当初から、各地でリサイクル石けん作りを実践している方々などを招き、 定期的に学習会を開いて石けんを作る調理員の技術を高めました。
 当初は、休みの土曜日をつぶしてこれらの活動をすることに抵抗のあった調理員もいましたが、リサイクルや環境への意味合い、また、 もらう人達からの感謝などを受けて、全員が交代で取り組んでいます。
 町のイベントなどを通じ、町民に石けんや廃食用油の処理についてアンケートをとり、 家庭用廃食用油が燃えるごみや排水として流されている現状をふまえて、2001年7月には、 小学校の協力を得て一般家庭での廃食用油の回収をはじめました。
 町を5つの小学校の校区ごとに区切り、その校区の廃食用油を小学校の調理室に持ってきてもらい、回収するという方法です。2001年は、 7月と12月に行ない、1回目が約
100リットル、2回目が150リットルの廃食用油を回収。調理員の手で固形石けんとしてよみがえりました。
 廃食用油は、給食調理の現場から年間約1.5トン、その他の公共施設から320kgほど出ています。これらが石けんとなります。
 一般家庭から回収された廃食用油は、すべてを石けんにできないため、リサイクル業者が無償で処理等に協力しています。
 固形石けんの無料配布は、数年が経ち、定着したようです。
 一般家庭からの廃食用油回収については、はじまったばかりであり、岡垣町の広報紙やホームページなどで告知を行っていますが、 まだまだこれからPRが必要です。
 今のところ、これらの活動に必要な苛性ソーダや機械類などの費用は、岡垣町職員労働組合が拠出しており、また、 調理員のボランティア活動によって成り立っています。
 この活動は、環境問題やリサイクルに対する町民への啓発として、あるいは廃棄物処理事業として、さらには、 岡垣町のイメージアップにつながる取り組みとして、大きな成果を上げています。
 ぜひ、岡垣町の事業として位置づけ、より活発な町の活動へと広がっていくことを期待してやみません。

 岡垣町の保育所、小学校の調理員の取り組みは、自発的に子どものことを考えた給食の安全性や教育としての可能性を追求し、さらには、 石けん作りと使用、啓発といった、調理現場から生まれる生活に密着した環境対策事業を行うなど、直営調理員であり、 公務員である可能性を十二分に活かしている活動です。
 これだけの取り組みをしているにもかかわらず、やはり、調理の民間委託という話が出てきます。 仮に調理の民間委託によりコストが削減できたとしても、これだけの取り組みと、 将来の可能性を失うのは岡垣町とそこで育つ子どもたちにとって実に惜しまれることではないでしょうか。
 岡垣町の調理の民間委託化と中学校給食の自校直営での実現に向けた動きの今後に注目したいと思います。

 他地域での調理員、栄養士らの取り組みの実例、あるいは、民間委託化との関わりについて、皆様からの情報をお待ちしております。

(学校給食ニュース2002年11月号より)

 

[ 02/12/31 栄養職員・調理員 ]


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