調理の委託率が5割に近づく中で、学校給食のあり方が問われています。
文科省の学校給食実施状況等調査より
文部科学省は、2017年10月31日に平成28年度(2016年)の学校給食実施状況等調査を発表しました。
学校給食実施状況等調査
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016540
これは、毎年5月1日現在で都道府県がまとめた統計データを文部科学省がまとめて発表するものです。近年発表のペースが2年遅れ近くになっていましたが、2016年度分は前年度分よりも3カ月近く早く発表されました。まだ当年度中の発表にはなっていませんが、統計データはできるだけ早く発表していただき、現状把握に役立てていきたいものです。
また、今回の統計データでは、栄養教諭・学校栄養職員の配置状況、都道府県別状況、単独調理場・共同調理場規模別の配置状況が示されていません。このほか、調理員の配置状況や栄養教諭・学校栄養職員の配置状況の推移(3年分)も省かれました。
栄養教諭に関しては、別にPDFで栄養教諭の都道府県別の状況が公表されています。しかし、学校栄養職員の状況は示されず、全体状況が分からなくなっています。
一部の自治体では、学校栄養職員業務を調理の委託事業者の栄養士に委託する事例も出ています。栄養教諭と学校栄養職員は、教諭と学校の専門職の違いはありますが、どちらもほとんど同じ仕事をしています。都道府県によって学校栄養職員の栄養教諭転換の対応が異なる中で、学校栄養職員のみの情報をはずすことは意図的なものを感じずにいられません。
学校給食ニュースでは、統計データ発表のたびに過去のデータや他の統計データなどを参照に、学校給食や子どもたちをとりまく状況の変化や課題を考えています。学校給食ニュース2017年3月号では、「20年間の変化、これからの変化」と題し、児童生徒、学校数の減少、将来予想など全体的な状況をまとめるとともに、正規・非正規労働者の変化や所得格差・貧困などによる教育格差など、子どもの貧困の問題を踏まえて、学校給食の現状をみてきました。
今回は、2年に1回の調理状況、調理の民間委託状況などのデータが公表されることから、学校給食の合理化(センター化、調理員のパート化、調理の民間委託化)などについて重点的にみていきます。
■学校給食の実施状況
学校給食は、完全給食、補食給食、ミルク給食という区分けがあります。
「完全給食」は、主食(ごはん、パン等)、おかず、牛乳です。
「補食給食」は、主食は家庭から持参し、学校給食としておかず、牛乳が提供されます。これは、かつてパン給食が中心だったころ、一部の地域でパンが提供できない、あるいは、米どころで米飯は持参しやすいというところから導入されたものです。
「ミルク給食」は、牛乳のみを昼食時間に提供するものです。
小学校では、完全給食実施率が98.6%(学校ベース)、補食給食とミルク給食はそれぞれ0.3%、全体で99.2%となっています。児童数ベースでも完全給食は98.9%です。この統計から学校給食が未実施の小学校は全国で165校です。
未実施またはミルク給食のみの小学生は、44448人となります。
中学校では、完全給食実施率が83.9%(学校ベース)、補食給食は0.4%、ミルク給食は4.8%、全体で89.0%となっています。生徒数ベースでは完全給食の実施率は78.0%、全体でも84.1%です。中学校では未実施の学校が全国で1108校あります。
未実施またはミルク給食のみの中学生は337382人となります。
中学校の実施状況については、政府の第3次食育推進基本計画で、「中学校における学校給食実施率を90%以上」にするという数値目標が掲げられています。
これにむけて各自治体が中学校給食の実施を急速に進めています。2016年度現在、90%未満の府県は、神奈川県の27.3%を最小実施率として、兵庫県、滋賀県、京都府など11府県です。前年度までは三重県も対象でしたが90%を超えたことから、1県減りました。(表1)
このうち実施率の低い神奈川県は最大の都市である横浜市が未実施であり、実施予定もありません。現在、横浜市の中学校では「はま弁」という弁当のあっせんサービスをしていますが、利用率が低く市議会等で問題になっています。横浜市に続く政令指定都市の川崎市は、3つの大規模センターを建設し、2017年度から順次中学校給食を実施しており、今後実施割合は増えていくと想定されます。
ただし、急速な導入は学校給食の質の問題を生じています。
■調理方式
近年、調理方式の統計データは、単独調理場方式(自校式)、共同調理場方式(センター方式)、その他調理方式の区分で示されています。
小学校の場合、学校数ベースで全国平均では単独調理場方式が48.0%、センター方式が51.5%、その他が0.5%で、その他の方式の学校給食を食べているのは94校となっています。小学校の場合、単独調理場方式とセンター方式がほぼ同じぐらいの割合です。
中学校の場合、単独調理場方式が26.9%、センター方式が62.2%、その他の方式が11.0%となっており、センター方式が全体の約3分の2を占めています。
グラフ1(調理方式(学校数))では、過去20年間の単独調理場数、センター調理の学校数の推移を示しています。少子化、学校の統廃合で学校数全体が減少する中、単独校方式の減少が目立ちます。
(グラフ1)
都道府県別に小学校の単独調理場数の比率を学校数ベースで見てみると、単独調理場比率が低い(25%未満)のは鳥取県、島根県、青森県、岩手県、沖縄県、滋賀県、鹿児島県、茨城県、岐阜県、愛媛県となっています。単独調理場比率が高いのは神奈川県、東京都、福岡県、大阪府、京都府、三重県の順です。
中学校の場合、およそ半数の27府県の単独調理場比率は25%を下回っており、小学校と中学校ではセンター比率が大きく異なっています。
ここでもっとも気になるのが「その他の調理方式」です。これは主に、デリバリー方式と考えられます。デリバリー方式とは、学校給食の設置者である自治体などが給食施設をつくらず、はじめから民間の給食・弁当等の事業者の施設でその事業者が学校給食を調理、配送する方式です。基本的に、自治体の教育委員会の栄養教職員が献立をたて、それをもとに食材を供給または事業者が調達し、調理するものです。調理の民間委託やPFI方式のセンターに似ているようですが、「事業者の施設」は既存・新設にかかわらず、施設は学校給食の衛生管理基準に必ずしも準拠する必要はありません。もちろん、300食以上の大量調理の場合、厚生労働省が所管する食品衛生法に基づいた衛生管理には対応する必要があります。
デリバリー方式には、弁当箱方式と食缶方式があり、なかには、通常は弁当箱のみで、汁物やカレーなどの場合のみ加えて食缶での提供するという事例もあります。
この方式は、これまで様々な問題を起こしています。最近では神奈川県大磯町の2校の中学校給食の衛生面、味などの面で社会問題になりましたが、それ以前にも、兵庫県神戸市、佐賀県、大阪市などで異物混入や運営上の食味の問題、残食が多すぎるなどの問題がありました。しかし、これまで中学校給食が未実施で、新たにデリバリー方式を導入する自治体は多くあります。施設設備を用意しないで良いことをはじめ、学校給食運営の多くの部分を最初から民間事業者にまかせられ、初期費用も少なくて済むことから、「すぐに」学校給食がはじめられ、費用面でも単独調理場やセンターを建設するところから考えれば安く上がるからです。
この方式が中学校で多くなっていることを懸念しています。特に多いのが大阪府272校、愛知県108校、東京都83校、広島県78校、京都府73校です。このうち大阪府は大阪市の中学校とみられ、こちらは順次親子方式に変えるという市の方針が示されています。愛知県は名古屋市の中学校とみられます。
小学校については、全体の0.5%で94校ですが、もっとも多いのが埼玉県26校、これに和歌山県12校、栃木県11校と続きます。
■合理化
センター化の状況を、「規模別共同調理場設置状況(公立)」の表からみましょう。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Xlsdl.do?sinfid=000031637798
統計上は、2万1千人以上のきわめて大規模なセンターはなくなりましたが、1施設に2ライン、3ラインと献立等を分けることも影響しています。
それでも1万1~2万人規模のセンターは全国で22施設と増加しており、5001人以上の大規模なセンターはあわせて200施設8.5%にのぼります。一方で500人以下の比較的小規模なセンターは794施設(33.9%)、1000人以下を合わせると1270施設(54.3%)と半数以上のセンターになります。
グラフ2(常勤・非常勤調理員の推移)は20年間の推移を示したグラフです。調理が直営の学校給食施設であっても、常勤(正規職員)から非常勤化が進んでいました。平成25年度(2013年度)までは、常勤職員が減り続けるなかで非常勤職員が増える状況でしたが、その後は、常勤・非常勤の比率はほぼ変わらず、全体に減少傾向が続いています。
(グラフ2)
常勤(正規)の調理員は、多くの自治体で「退職不補充」と言われる形で、新規採用がなくなり、徐々に高齢化、退職等による減少が起きています。これに変わる形で非常勤職員が増えますが、その後、調理の民間委託の形がとられるようになります。全体が減少しているのは少子化、学校の統廃合、センター化の推移とともに、調理の民間委託が進んだ結果だと言えます。
常勤調理員が少なくなると、余裕のない調理場になります。また、新規採用が凍結されたまま5年、10年経つと世代間ギャップが生まれるとともにノウハウの継承、蓄積が止る、職場の活気が失われるなど、目に見えないながらも問題が起きます。自治体によっては、新規採用を続けていたり、再開するところもあります。
(グラフ3)
(グラフ4)
調理の民間委託の状況をグラフ3、4で示しました。委託率は46.0%となりました。ほぼ半分の学校数が委託調理の給食を食べていることになります。
調理の民間委託については、働く職員の低賃金、不安定な労働環境、入れ替わりの激しい職場といった問題があり、地域や事業者によっては、異物混入、味の低下、時間通りにできないなどの指摘もあります。その一方で、給食受託事業者が、学校栄養職員業務も委託を受ける事例や、PFIセンターのように、事業者が自ら学校給食専用の施設設備を用意し、長期契約で学校給食をつくるなど、様々な事例が出ており、学校給食のあり方が今後大きく変わる可能性を示唆しています。
直営調理では、献立、食材調達、調理は、同じ地方公務員であり学校教育関係の労働者として職務は違っても立場や関係性は基本的に同じですが、民間委託は発注者(自治体、教委、窓口としての校長、栄養教職員)と受注者(事業者の社員・職員、パート等)の立場と関係性は大きく異なります。現場である調理場における栄養教職員と調理事業者の関係と蓄積される智恵や手法、子どもたちの教育への影響など、根本的なところで考えていく必要があるのではないでしょうか。
■給食費
小学校の給食費は全国平均で年190回、月4323円、単価272.8円です。
1食単価が高いのは、新潟県304.9円、福島県303.4円、徳島県302.8円、鳥取県302.5円です。1食単価が安いのは、沖縄県232.1円、鹿児島県235.1円、滋賀県236.6円、茨城県240.6円の順になります。新潟県と沖縄県の差は72.8円となります。
平均月額の差で見ると長野県5024円、新潟県4879円に対し、鹿児島県3742円、沖縄県3772円となっています。長野県と鹿児島県の差は1282円となります。
実施回数では長野県202回、滋賀県198回に対し、宮城県175回、岩手県177回で、長野県と宮城県の差は27回と、1カ月以上分になります。
中学校の給食費は全国平均で年186回、月4929円、318.5円です。
1食単価が高いのは、新潟県353.5円、福島県348.2円、鳥取県347.6円、長野県347.0円です。1食単価が安いのは、沖縄県258.5円、茨城県270.8円、鹿児島県271.4円の順です。新潟県と沖縄県の差は95円になります。
平均月額の差で見ると長野県5812円、新潟県5597円、富山県5556円に対し、沖縄県4266円、鹿児島県4297円、滋賀県4308円となり、長野県と沖縄県の差は1546円となります。
実施回数では長野県201回、沖縄県198回に対し、宮城県171回、大阪府173回となり、長野県と宮城県の差は31回あります。
都道府県ごとの経済状況、食材の市況、三期休業の回数やあり方などにより、実施回数、月額の給食費は大きく異なります。学校給食費は、保護者負担で「食材費」に充てられます。施設設備、調理等の運営費は自治体の負担です。家計の貧困化など、給食費の無償化の議論もあります。これらの費用や回数の差なども含め、学校給食のあり方は地域の実情に応じて検討すべきだと思います。
■米飯
米飯給食は、全国で週平均3.4回、週3回以上の学校は96.4%となっています。全国平均は前回と変わらず、週3回以上の比率は0.3%増加しましたが、週5回の完全米飯給食の実施は5.7%から5.5%に減りました。しかし、週4回、4.5回の比率は増えており、現在も米飯中心の給食に向かっていることが分かります。
■まとめ
学校給食衛生管理基準により、新しく施設設備を建設する場合、これまでよりも広い敷地面積が必要となっています。学校の施設は簡単に広げることはできませんので、少子化により空き教室などがあり敷地の余裕がある場合を除き、単独調理場を再整備することが難しくなります。学校給食のあり方は、学校の施設設備や教育計画などと合わせて、長期的な視点で検討、取り組むことが必要です。一方で、調理や食材、給食費、食育や献立など短期的に取り組むことで改善できることもあります。
各地域で自分たちの学校給食の位置づけが全国の中でどのようなものかを考え、自分たちの地域がどのような学校給食、ひいては子どもたちへの教育を望むのか、そこから見直してみませんか?
[ 17/12/31 取材メモ・リンク ]