学校給食ニュース
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ひとりからでもはじめられる学校給食を良くする取組み

ひとりからでもはじめられる学校給食を良くする取組み

今回は、学校給食について、変えたい、守りたいといった思いを持ったとき、保護者や市民がひとりからでもはじめられる学校給食の取組み、運動のはじめかたについて、まとめました。


【学校給食の問題は幅広いのです】
アレルギー対応、地場産食材、農薬・食品添加物などの食の安全、食育のあり方、献立のあり方、センター化や調理の民間委託などの合理化、食器のあり方など、学校給食に関わるいろんな問題は、ひとりの子どものことから、地域社会全体、日本全体のことまで幅広くあります。

●自治体が窓口です
公立の学校給食の場合、住んでいる区市町村が学校給食の内容を決めます。ですから、学校給食の問題は、1学校単位、自治体単位の問題であることがほとんどです。
自校方式で栄養教職員が配置され、そこで献立も調理も行われている場合、学校単位での問題解決が可能なこともあります。
しかし、学校給食については、自治体の教育委員会、議会、首長(区市町村長)が、その自治体ごとのあり方を最終的に決めています。
学校給食に何か変化や問題が起きたとき、それを変える権限は自治体にあります。
自治体を動かす力は、市民(住民)にあります。

●問題の背景には国の政策も
学校給食の諸問題の背景には、学校給食法をはじめ国(文部科学省)の学校給食実施基準や学校給食衛生管理基準、さらには、食育基本法にもとづく食育推進基本計画の内容による食育関係の予算のあり方などもあります。

たとえば、近年、自校式の給食室を新しい学校給食衛生管理基準に適合させようとすると、敷地面積を広げる必要がでてきて、学校では対応できないことがよくあります。その結果、センター化を選択する自治体が増えています。

また、中学校給食を未実施だった地域で、急いで学校給食を導入しようと、給食施設を自治体が作らないデリバリー方式を選び、トラブルになる例もあります。
これは食育推進基本計画で中学校給食の実施率を上げるよう数値目標(政策目標)が立てられたことから、全国で中学校給食を導入を急いでいる背景があります。
このように、国の方針で自治体の学校給食政策が影響を受けることもあります。これを変えるには、政府、国会などで、法律や政策を変えさせる必要があります。

●社会・経済・環境も影響します
学校給食を取り巻く問題の背景は、政策だけではありません。
農業・畜産業・漁業といった第1次産業、食品加工業、八百屋さんや市場などの流通業、さらには、海外からの輸入、加工輸入などを手がける商社、大手流通、大手食品加工、多国籍企業など世界的な関わりもあります。
生活する国民の所得格差、子どもの貧困などの経済的な問題、食生活や食文化の変化も学校給食には大きく影響します。
アレルギー・アトピー性皮膚炎、花粉症のように、ずっと過去からあったものの、徐々に患者数が増えている環境・健康上の問題もあります。
病原性大腸菌O157やBSE(いわゆる狂牛病)、ノロウイルスのように、新たな食に関わる感染症の発生に対する衛生管理の見直しという問題もあります。

●解決のヒント
学校給食をめぐる問題は幅広く、すべてを同時に取り組むことはできません。それぞれに問題意識を持ちながら、目の前の子どもが抱える課題、学校が抱える課題、自治体が抱える課題に対し、対応し、そこから課題を解決していくのが、学校給食問題に取り組む多くの保護者、市民の最初の一歩です。
そうして課題を感じたとき、「どうしたら解決できるのだろう」という壁にぶつかります。学校給食ニュースは、学校給食の現場にいる栄養教職員、調理員、教員の方々と、保護者、市民の方々に向けて、多くの事例を紹介し、その解決方法のヒントや、大きな問題にはみんなで共通して取り組むことを呼びかけたり、紹介してきました。

今回は、保護者、市民向けに、課題解決の方法を、これまでの事例をモデル化する形で整理します。


【主な課題と取り組み】

●運動は特別ではない
学校給食を良くする取組み、課題を解決しようとする取組みのなかで、学校と保護者の間のみで解決できることもあります。子どもの健康や食のあり方について、学校(給食)と保護者の間で話し合い、それによって解決できる場合です。個別相談の分野になりますが、アレルギー他の疾病や宗教上の理由により食べられないものがあり、それに対する個別の対応方法などの場合もあります。また、過去には保護者会などで「週末はカレーライスをすることが多いので、カレーライスを月曜日や金曜日に出さないで欲しい」という声があり、それに応えて献立の曜日を変更したといったものも、ひとつの課題解決でしょう。

しかし、制度的なアレルギー対応や、食材の変更、センター化や調理の民間委託化、食品添加物や遺伝子組み換え作物、あるいは、放射性物質に対する対応といったことについては、学校とひとりの保護者の話し合いで解決できることはまれです。
そうなると、意見を同じくする仲間を集めたり、説得をして、行動を始めることになります。これを一般に市民運動と呼ぶことになりますが、「センター化反対」といったように反対運動となることも多くあります。

「市民運動」「反対運動」と聞くと、何か特別な人たちが怖い顔をして行政の窓口などに詰めかけるといった印象を持つ方もいるかもしれませんが、市民運動、反対運動は、政策調整の取組みのひとつです。民主主義社会において、何も特別なことではなく、特別な人が取り組むものではありません。誰でも、いつでも、社会的な問題に気付いたり、自分や周りの人が当事者になったとき、それが行政に関わることならば、政策を調整するために説得する、とても民主主義的な方法です。

当たり前のことですが、民主主義は、普通選挙による議会や首長の選出だけが政策を決める方法ではありません。日常的に、社会に関わる(多くの人に影響する)問題を、調整するために人が動き、議論し、言葉により物事を解決すること民主主義であり、現代の市民社会のあり方なのです。

そして、政策の決定権をもつ議会や首長と、意見が異なり、問題解決が簡単ではないと感じるとき、デモなどの路上での示威行動による意見の表明や民意の示し方を行うこともできます。

市民運動、反対運動、デモや労働組合におけるストライキなどは、すべて、民主主義社会におけるひとりひとりの市民や労働者の当たり前の行動であり、それを特別視することがおかしいのです。誰もが安心して、堂々と声を上げられる社会でありつづけるためには、誰もが声を上げる人を、その意見に賛同するかしないかには関わらず、認めることも大切です。

●政策・学校給食は変えることができる
(課題の種類と成果の例)

学校給食の合理化(センター化、直営調理員のパート労働者化、調理の民間委託化)が全国的に進んでいます。しかし、これまでにも、保護者からの訴えをきっかけに反対運動が起き、合理化が中止され、それまでの自校式や調理の直営が維持された例は各地にあります。また、給食センター方式だったところに市民運動の結果として、自校方式への転換がはかられた自治体もあります。

食材について、たとえば放射性照射食品は、日本では北海道士幌町農協のじゃがいもの発芽抑制のみで行われ、販売されています。東京都をはじめいくつかの地域では学校給食でこのじゃがいもを扱わないことを決めていますが、これは消費者運動の成果です。
また、学校給食で遺伝子組み換え食品を扱わないという基準をもつ自治体がたくさんありますが、これも、全国で行われた市民運動の成果です。
先の東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の汚染について学校給食現場での測定と厳しい基準による安全と信頼性の確保についても、自治体が独自に取り組んだところもありますが、保護者や市民などの働きかけでできたところがほとんどです。
過去のことで、くわしいいきさつは分からないのですが、文部科学省の学校給食衛生管理基準の「食品の選定」では、以下のような記述があります。

食品の選定
一 食品は、過度に加工したものは避け、鮮度の良い衛生的なものを選定するよう配慮すること。また、有害なもの又はその疑いのあるものは避けること。
二 有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他の食品添加物が添加された食品、又は内容表示、消費期限及び賞味期限並びに製造業者、販売業者等の名称及び所在地、使用原材料及び保存方法が明らかでない食品については使用しないこと。
また、可能な限り、使用原材料の原産国についての記述がある食品を選定すること。

この記述をめぐっては、食品添加物に関わる業界や、専門家などから、厚生労働省の食品衛生法で認められた食品添加物を悪いもののようにしており、取り下げるべきなどといった要望や指摘が続いています。しかし、文部科学省はいままでのところ、この記述を変える動きはありません。
この記述には、食の安全や問題について取り組んできた市民運動が求める「予防原則」的な考え方が含まれています。1970年代を中心に、食品添加物の危険性をめぐって数多くの市民運動が起き、いくつもの食品添加物が再検討の上、使用禁止になってきました。そのような運動のひとつの成果として、文部科学省が子どもたちに対する食の安全について予防原則的な考えを持っていることはとても大切なことです。

いまでこそ、地場産、地産地消の学校給食は、政策目標になっています。学校給食は教育、食育にとって欠かせない「生きた教材」であるとの位置づけも明確になりました。これらの取組みは、長年、市民と全国各地の栄養教職員、調理員などが、実際に取組み、教育としての成果を上げてきた結果です。これもまた、輸入食品などに対して安全性や教育力の高い地場産給食を求めてきた市民運動、あるいは有機農業運動などの成果です。

そのほかにも、アルマイト、ステンレス食器やプラスチック製食器から、強化磁器へ変えていく運動、先割れスプーンなどをやめ、箸、スプーン、フォークなどを導入する運動、あるいは、環境を考えた牛乳パックリサイクル、瓶牛乳の取組み、栄養教職員や調理員などを中心に取り組んだ洗浄剤から合成洗剤を追放し、石けんに変えていく運動などがあります。

アレルギー対応の問題については、ひとりひとりの児童生徒の状況が個別であったことから、個別対応が中心となり、広く取組みを求める動きができてきたのは、アレルギー問題を専門に取り組む市民団体、NGO、NPOが登場し、多くの声を集めて社会に訴えを起こしてからでした。各地での取組みが進む中、誤食による死亡事故などが起きて、ようやく全国的な指針や対応策がとられるようになったところです。

いま古くて新しい問題として、経済格差と貧困が学校における大きな問題になりつつあります。もともと、第2次世界大戦後の学校給食再開は、貧困対策、経済格差対策の側面がありました。全員喫食にすることで、家庭の経済格差を学校に持ち込まず、貧困家庭の児童に引け目なく食事を食べてもらうというような視点も持たれていました。
1954年の学校給食法では、学校給食の目的は教育であると位置づけられ、高い目標が示されました。しかし、戦後9年、再独立後すぐという状況で学校給食のもうひとつの側面があったことは言うまでもありません。
21世紀のいま、ふたたび、経済格差、貧困が現実になりました。それは、戦後すぐの復興に向けた中での影ではなく、複雑化した社会の中で、極端な経済格差、中間所得層が失われつつあり、人口減少・高齢化社会の中で起きている新たな社会問題です。そもそもは、経済問題、労働問題なのであり、根本は社会制度が劣化、悪化しているところを改善するしかないのですが、目の前にある貧困には対応する必要があります。
学校給食が、子供の成長と生存の命綱になっている事例があります。学校給食の無償化、子ども食堂などの市民の取組みはありますが、個別の問題として表に見えにくいだけに、この問題への関心を高めることが必要です。


【ひとりからでもはじめよう】
ここからは、保護者・市民が学校給食の課題解決にとりくむ際の方法やヒントについて大きく3つの分野にわけて整理します。

●合理化・施設設備・運用に対して
合理化などの問題について保護者や市民が知るきっかけはたいてい学校(教育委員会)からの説明会のお知らせなどです。センター化、センターの移転新築、調理の民間委託化、中学校給食導入、デリバリー給食など、学校給食の質に大きく影響し、自治体の予算(税金)を使うできごとが、ほぼ決まりかけてからしか保護者には伝えられません。
たいていの場合、合理化などの動きは、それより前、教育委員会や自治体に「学校給食のあり方検討委員会」「学校給食整備計画検討委員会」といった形の検討会が設置され、そこで公式の協議が行われることになります。この検討会には、専門家(大学教授等)と、自治体の職員、校長等教育関係者のみで構成される場合と、保護者など公募委員も含めて構成される場合があります。そもそも、こういう検討会が開かれる時点で、実態としては、自治体側に「センター化したい」「調理の民間委託したい」といった方向性をもっていることが大半です。なかには、施設の老朽化とか財政問題をきっかけに、最初から白紙状態で検討することもありますが、首長(区市町村長)が方針を持っている場合、それに沿って検討がすすめられます。
特に、平成の大合併で他の市町村と一緒になった自治体では、学校給食の方式が地区ごとに違っている場合、それを一本化するための検討が行われます。また、近年は、老朽化による建替え時期、衛生管理基準が厳しくなり、今の施設設備では対応できない、耐震性、少子化による学校の統廃合などで、合理化の検討に入ることもあります。
まず、それらの動きについて、関心をもつことです。
各自治体のホームページ、公報、あるいは、自治会やPTAなどでの情報、教育委員会などへの聞き取り(質問)などを通じて、いま、学校給食について自治体がどう考え、取り組もうとしているのか調べることができます。

3000食を超える給食センターを新築する場合には、PFIでの建設・運用を検討されることが多くなります。PFIの場合、資金調達から民間企業が行うため、費用対効果が重視され、自治体にとっての経済的、内容的なメリットが高いことを判断するPFI導入可能性調査が行われます。これらは自治体で予算化されるので、把握しやすくなります。また、実際にPFIでのセンター建設方針が決まると、実施方針や要求水準書をはじめ、資料がホームページ上などに公開されます。

調理の民間委託については、それまでの直営(自治体職員)から調理会社の調理に変わります。施設設備はそのままで調理者だけが替わることから自治体では「変化はない」と言いますが、栄養教職員や学校との関係性は大きく変わります。それまで蓄積された自治体の学校給食の調理の知恵などは減っていくことになります。調理の民間委託に関しては、それ以前に直営調理員の退職者に対して新規に採用しないという状況や、常勤の職員を減らしてパート化していくなどの状況があると、その先に民間委託が出てくる可能性があります。これらは分かりにくいのですが、学校給食関係者などに聞くと状況が把握できます。

中学校給食導入未実施のところでは、デリバリー方式が採用される事例が目立っています。デリバリー方式は、民間の調理場で調理され、弁当箱形式やセンター方式と同じような食缶での提供となりますが、学校給食専用施設でないこと、低コストによる弊害など課題も多く見られます。現在、中学校給食未実施のところでは注意が必要です。

栄養教職員については、一部の自治体で調理の委託企業が栄養教職員の業務のうち給食関連は業務を受託している例があります。栄養教職員は、都道府県の採用、自治体への配属となります。それだけでは全校配置ができないことから、区市町村が独自に追加で栄養教職員を採用、配置する場合があります。食育やアレルギー対応などで、栄養教職員の業務は多くなっています。

このほか、調理室の改良、食器、調理器具の入れ替え、米飯施設の導入など、学校給食の質を向上させる施設設備には大きな予算が必要になります。

学校給食の施設、設備、運用に関しては、施設設備の建設、運用や追加の栄養教職員、調理員の人件費など、自治体の予算やその裏付けとなる政策がとても重要になります。
センター化や民間委託化など、現状を大きく変える低コスト化政策について、現状または新しい方策を求める場合、働きかける対象としては、教育委員会、区市町村議会、首長が主な申し入れ先になります。
一般的に署名活動と署名の提出があります。多くの市民に問題を理解、賛同を得る方法として、署名活動はとても有効ですが、署名活動のみで政策を変更するのは簡単ではありません。署名活動のほか、議会議員に働きかけながら議会への請願を準備し、請願が通る環境をつくることも有効です。この場合、できるだけ多くの議会議員を説得する必要があります。そのためには、議会や委員会の傍聴、中で話されていることについてできるだけ早い情報共有などで、「市民が関心を持って見ている」ということを議員の皆さんに知ってもらうことも大切です。できるだけ多くの人での議会・委員会の傍聴は、とても影響力を持っています。
また、最終的には、首長(区市町村長)の判断が大きいため、議会と同様に首長に対しても、市民が関心を持ち、その一言一言に注目しているということを、理解してもらうことが大切です。

学校給食の施設、設備、運用などは、専門的なところもあります。まず問題に関心を持ったら、栄養教職員や調理員などに声をかけ、具体的な話を聞くことが必要です。また、問題を他の人たちに知ってもらうために、ホームページやSNSをはじめ、PTAなど様々な形で、情報を発信し、意見交換できるといいと思います。


●食の安全・食育・食文化に対して
食の安全や食育のあり方、和食給食や牛乳のあり方、主食のあり方など、学校給食を取り巻く食に関する情報や考え方はいろいろあります。食の安全については、専門家の論文や発表、著作などを受けて、急に大きく取り上げられることがあります。また、病原性大腸菌O157や食品偽装事件、放射性物質の問題など、突然大きな問題が浮上することもあります。そういった急な社会問題化の場合、学校給食でも、対応が早くとられることがあります。しかし、その対応内容や対応の早さは、自治体、学校によって異なっています。このような場合、多くの市民や保護者が関心をもつため、対応を求める動きを作ることはできます。ただ、この場合には、学校や栄養教職員、調理員など関係者から直接話を聞きながら、それぞれの学校、調理施設でできる最善の対応を具体的につくることが大切です。

一方、遺伝子組み換え作物や、農薬問題、有機食品の導入、学校給食の献立などについては、社会的には大きな関心となることが少なく、長期的な取組みが必要になります。それぞれの問題については、少数ですが、市民側の不安や疑問に沿って、研究や発言をしている研究者、専門家や、個々の問題に腰を据えて取り組む市民団体などがあります。そういう人たちと連携しながら、学校、自治体単位でできることを提言していくことが大切です。その際、たとえば有機食品の導入など、一度にすべてを求めるのではなく、1度試行的に行い、その内容について検証するといった「試行」を求めることで、取組みへの関心を高めたり、取組みの敷居を下げる効果が得られます。
食の安全・食育・食文化については、学校、栄養教職員、調理員などの学校給食関係者、農家、農協をはじめ食品関係者、それに、行政、議会、首長など、働きかける先はさまざまです。
食の安全性、食育、食文化の分野は、いろんな考え方があります。ホームページなどで検索すると本当か嘘か分からない情報もたくさんあります。問題にとりくむ際には、必ず信頼できる専門家などの情報をていねいに集め、話を聞く必要があります。しかし、「まだよく分からないけれど危険性を指摘する研究成果もある」といった場合に、予防原則的な考え方から一時的に食材の取扱いを休止してもらうといった考え方はとることができます。
食の安全についての取組みをする際、子どもたちにどのように説明するか、難しい問題です。教育段階、発達段階に応じて、学び取ることは大切ですが、子どもたちに食に対する不安や不信を与えないようにすることも大切です。与えられている食事が、将来的に危険性があるといったことを安易に伝えることは、子どもたちが社会や大人に対して不信をいだくことにもつながります。最終的には、食品の表示や食のあり方を通じて、子どもが大人になったとき、食を選ぶ力を持つことが大切です。学校給食が教育の一環であることは忘れないようにしたいものです。

●アレルギー、貧困
アレルギー対応、子どもの貧困などは、ひとりひとりの児童生徒の状況が異なります。すでにアレルギー対応については文部科学省が指針をまとめ、全国の自治体は、その指針に沿ってこれまでの対応の見直しに取りかかっています。しかし、それにより、学校給食では対応できない子どもがでてきたり、学校給食以外の食に関わる教科、学校活動などの対応といった問題が分かりにくくなったりしています。
また、学校や自治体は年ごとに状況が変わります。アレルギー児童生徒が、ひとつの学校で年ごとに人数や対応すべき食も変わります。
さらに、アレルギー対応では、昨今の個人情報保護の関係から、患者の保護者同士の交流ができないという話もあります。
貧困についても、ひとりひとりの家庭環境は異なります。一律の対応というわけにはいきません。貧困問題は、学校だけの問題ではなく、家庭環境については、自治体の社会福祉、医療、労働など様々なサポートが必要になります。
これらは、当事者の保護者が積極的に動けないことも多く、まわりの市民によるサポートが欠かせません。社会問題として市民が取り組むには、難しい課題も多いですが、子ども食堂のような形でのサポートは生まれています。
アレルギー問題も、貧困問題も、あるいは、外国籍の子どもなどの問題も、それぞれに、専門的な支援団体や活動団体があります。そういったネットワークとつながりながら、課題解決、取組みを起こしていく必要があります。

【まとめと整理】
学校給食の問題は、いま学校に通っている児童生徒に影響するものと、5年後、10年後の学校給食を変えるものとがあります。たいていの保護者は、まず自分の子どものことを考えます。それは当たり前のことです。しかし、多くの問題は数年で解決できることは少なく、むしろ、長い時間をかけて変えていくことが多くあります。施設設備、運営の方法、地場産食材の導入、有機食品化など、簡単ではありません。
とはいえ、すぐに変えられることもたくさんあります。食材も、運営についてもそうです。学校給食の問題に取り組むときには、短期的な取組みなのか、長期的な取組みなのか、そのどちらも含んでいるのか、頭の整理をしておくといいと思います。
その上で、次の点を考えて下さい。

なかまをつくる…ひとりでもはじめられますが、同じ思いを持つ人を探すことです。同じ悩み、課題を持つ人と話をしながら取り組む、それが、政策を変える説得の第一歩になります。PTAの会合などで仲間を募ることができればいいのですが、PTAは地域ごと、学校ごとに違いが大きいので、PTAとして活動できるかどうかはそれぞれ異なります。PTAとして動けない場合には、PTAのことは考えずに動くという判断も時には必要になります。

情報をつくって出す…広く問題を知ってもらうために、学習会、チラシ作成、ホームページ、SNSなどの活用が便利です。とくに、facebookやLINE、TwitterといったSNSをうまく使うことで、多くの人に知ってもらうことが可能です。
また、情報は、関係者に聞きに行く、議会を傍聴するなどで得ることができます。学習会などを開いたら、その内容を報告するということもできます。
チラシをつくる人、学習会を準備する人、聞きに行く人、文章を書く人、SNSやホームページをつくる人など、それぞれ得意な人が分担することが大切です。

ネットワークをつくる、お互いを尊重する、違いを認める…市民運動は、たいていが手弁当で、限られた時間をうまく使って取り組みます。だから、仲間であっても、それぞれの都合を尊重し、作業を分担することが大切です。みんな貴重な時間やお小遣いを使って取り組んでいるのですから。また、自治体の職員労働組合や、教職員組合、調理員の組合など労働組合、関係するNPO、NGO、市民グループ、生協などの学習グループなど、関係するネットワークと一緒に行動したり、意見交換したり、協力関係をつくることも大切です。その場合、それぞれの団体には、それぞれ独自の優先順位や組織のあり方(物事の決め方、手順なども)が違います。そういう違いがあることを理解し、違っても、共同で動けるところは動き、別々の動きでも目的は共有しているという姿でもいいというような違いを認め合うことも大切です。
なにより、ひとりひとりの栄養教職員、調理員の現場の声をよく聞いてください。それが正しい、正しくないではなく、現場の声を踏まえて、何をどう変えれば良いのかを考えることで目標達成への近道が見えてくることでしょう。
新聞記者、テレビラジオの報道関係者がいれば、その人達に働きかけることも必要です。A4で1、2枚ぐらいの内容で「記者発表」のシートをつくり、記者に送って関心をもってもらうという方法もあります。地方紙があれば、その記者さんとのネットワーク作りも大切です。

自治体への働きかけ…政策調整として考えると、議会や委員会の傍聴、請願、署名活動などがあります。また、意見交換や要望などの申し入れを行い、自治体の幹部などと会合を持つことも有効です。最終的な手段として、決まった政策や予算執行に対して、住民監査請求、行政裁判、民事訴訟などもありますが、時間とお金がかかることもあります。

議会を変える、首長を変える…最近でも、学校給食の中学校給食導入、自校方式への転換、給食費無償などを公約に掲げて首長選挙に立候補する候補者や、当選し、首長になって公約と向かい合う人もいます。学校給食は自治体の権限が大きいため、公約になりやすい面もあります。さまざまな活動を通じても理解が得られない場合、選挙を通して、議会議員を変える、首長を変えるという運動もあります。

あきらめない、明るくやろう…市民運動、反対運動などというと、どうしても難しく考えがちです。でも、子どもたちの将来のために、おいしく安全な学校給食を通じて、明るい笑顔を増やすためにやっていると思えば、難しく考える必要はどこにもなくて、むしろ楽しいはずです。新しい人との出会いもあるでしょう。時には、無理解の言葉を投げつけられることもあります。そんなこと、気にすることはありません。あきらめず、明るく取り組めば、きっと可能性は広がります。一歩も、二歩も、前進することがあります。

もしだめでも、あきらめない…たとえば、センター化が決まった、民間委託化が決まったなど、運動の成果が上がらなかったと感じても、そこで終わりではありません。その過程で約束された学校給食の質について、チェック、検証し、より改善を求めていく、よりよい給食を求めていくことは必要です。
かつて、毎日、保護者が交代で給食現場をチェックし続けたというグループもありました。最初は行政との間で厳しいやりとりばかりを続けていたのに、5年、10年と続けるうちに、是々非々で意見を取り入れてくれるようになり、地域の食育をつくる大切な組織として位置づけられてきたという学校給食の地域団体もあります。長年、保護者、生協関係者、教職員、調理員などが、学校給食を含むさまざまな問題について意見交換、共同行動をするネットワーク組織を作り、その中で学校給食についても重点的に取組みを続けるという地域もあります。やれる範囲で、関心を持ち続け、取組み続けることができれば、地域の学校給食はきっと良くなっていきます。

[ 18/01/31 取材メモ・リンク ]


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