オーガニックを学校給食に オリンピック&パラリンピックの食材は??
オーガニックを学校給食に
オリンピック&パラリンピックの食材は??
学校給食に有機農産物を!
これは長年学校給食運動が求め続けていることです。
おいしさと安全性はもとより、有機農業が持続可能性、地域循環、生物多様性、環境問題など、「生きた教材」として学校給食の目的にぴったりだからです。
しかし、生産量が少ない、生産者が少ない、価格面の問題、流通システムが整っていないなどのことから、学校給食への導入はあまり進んでいません。愛媛県今治市のように、長年に渡って学校給食に有機農産物を導入してきた自治体や、山口県柿木村(現吉賀町柿木村)の有機農業の学校給食、大分県臼杵市の学校給食用有機農業、千葉県いすみ市の有機米導入などの取組みがあります。いずれも地場産有機農業の教育力を活かす取組みになっています。また、減農薬や環境保全を行う生産グループのものを使う、産直で有機農産物を使うといった取組み、調理場単位での取組みなども各地で見られます。それでも、有機農産物の学校給食への導入はまだまだ限られたものです。
一方、2020年に開かれる東京オリンピック&パラリンピックでは、食材調達のあり方に「有機農産物」が記載されています。オリンピック&パラリンピックでは、選手の健康、環境保全、開催地の文化、各国・地域の文化の多様性などの点で、食材調達や料理の提供に対して、高いレベルの要求水準を設けています。
国際的なイベントですが、日本で開かれるオリンピック&パラリンピックで有機農産物が導入できるのならば、子どもたちの学校給食にも有機農産物が供給できていいのではないでしょうか?
そこで、まず、オリンピック&パラリンピックの食材についてまとめるとともに、有機農業の現状を整理します。
【オリパラと食材】
2018年ピョンチャン(平昌)冬季オリンピック&パラリンピック(以下、オリ・パラ)が終わり、次の2020年東京オリ・パラに向けての動きが本格化しています。
オリ・パラでは選手村など大会に関する食材の調達・提供も大きなテーマとなります。
2012年ロンドン(イギリス)では、一般原則としてイギリスの農畜産物の認証を義務的な最低ラインとし、有機農畜産物などを目標としています。安全性、衛生、トレーサビリティや、環境保全、倫理、動物福祉、環境マネジメント(エネルギーや水供給、ごみ問題対応)なども視野に入っています。
2016年リオ(ブラジル)では、一般原則としてブラジルの法令遵守、少年労働排除、トレーサビリティシステム、持続可能な生産工程管理を求め、努力目標に、認証オーガニック産品の購入優先、レインフォレストアライアンス等環境基準、社会基準認証品の購入優先、食品供給業者は、州内→国内→南米→国際の順などとしていました。
日本では、「2020年オリパラ東京大会における持続可能性に配慮した農産物の調達基準(概要)」を2017年3月に組織委員会が公表しています。それをみると、
要件(一般原則と同等)
①食材の安全を確保するため、農産物の生産に当たり、日本の関係法令等に照らして適切な措置が講じられていること。
②周辺環境や生態系と調和のとれた農業生産活動を確保するため、農産物の生産に当たり、日本の関係法令等に照らして適切な措置が講じられていること。
③作業者の労働安全を確保するため、農産物の生産に当たり、日本の関係法令等に照らして適切な措置が講じられていること。
とあり、これを満たすために、JGAP Advance、GLOBALG.A.P.、組織委員会が認める認証スキーム、または、「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」に準拠したGAPに基づき生産され、都道府県等公的機関による第三者の確認が方法として示されました。
また、推奨事項として、
・有機農業により生産された農産物
・障がい者が主体的に携わって生産された農産物
・世界農業遺産や日本農業遺産など国際機関や各国政府により認定された伝統的な農業を営む地域で生産された農産物
が挙げられています。
また、国産優先なども入っています。
具体的な調達基準はまだ示されていません。
ここでは、GAP、JGAP Advance、GLOVALG.A.P.と有機農業についてまとめてみましょう。
【GAP】
GAPは、Good Agricultural Practice(農業生産工程管理)の略称で食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理とされています。
ちなみに、日本で公的にGAPが提唱されたのは2005年のことで、この際には「適正農業規範」と呼んでいました。最初に位置づけられたのは「食品安全GAP」で、同時に農業環境規範が農水省から発表されるなど、導入当初はかなり混乱していたと言えます。
その後、2010年に「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」(GAP共通基盤ガイドライン)を農水省が公表し、それまで各県などが示してきたGAPについて、この共通基盤の要件を満たしているかどうかを確認する作業を、今も行っています。
GAPそのものは生産工程のチェックと記録が基本であり、HACCPなどと同じような考え方があります。
【JGAP Advance、GLOVALG.A.P.】
JGAP AdvanceやGLOVALG.A.P.は、GAPの認証制度のことです。GAPに基づく農業の生産工程管理を行っていることについて、第三者機関の認証を受けます。
認証を受けることで、それぞれの認証水準の生産工程管理をしていることが保証されることから、流通上のメリットが生まれます。同時に、認証費用などもかかります。認証は期間があることから毎年認証費用がかかることになります。
JGAPは、日本GAP協会が認証を行っているものです。
JGAP Advance(ASIAGAPと名称改定)は、GAP認証をより国際認証ルールに沿った形にまとめたもので、同じく日本GAP協会がまとめています。
GLOVALG.A.P.は国際的なGAP認証です。
【有機農業】
日本の有機農業は、もともと、農業運動、社会運動として、化学肥料や化学合成農薬漬けの農業、石油依存型の農業や経済優先社会に対し、持続可能な農業として土作り、自然生態系との調和、健康、おいしさ、生産者と消費者の自立と提携などを通じ、豊かな地域、文化、社会、暮らしを作ろうという考え方ではじまりました。
産消提携とよばれるスタイルから、生協や消費者団体、産直団体などが、それぞれの考え方をもとに、地域や各地の有機農業生産者と生産方法、つながり方、流通方法などを模索しながら取り組んできた歴史があります。
1990年代になって、「無農薬」「有機」といった農産物が市場にあふれましたが、その中には、ラベルだけのものもあり、農水省が「特別栽培農産物」のガイドラインをつくり、「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」などの表記と都道府県などによる認証をはじめます。これは現在も「特別栽培農産物」の表記という形で続いています。
2000年には、JAS規格(日本農林規格)として、「有機JAS」制度がはじまりました。第三者機関による認証制度で、仮に認証を満たすような有機農業を続けていても、認証をとるには、認証による「転換期間中」を過ごす必要があるため、最低3年は必要になります。
一方、2006年に有機農業推進法が成立しており、こちらでは、有機農業の定義を「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう」としています。
「有機農業」を行っていても、「JAS有機」認証をとらなければいけない訳ではありません。「JAS有機」は、販売時に「有機農産物」と表記するために必要な認証となります。
【有機農業の現状】
農水省の調べでは、有機農業の生産面積は、日本の耕地面積のわずか0.5%程度とされています。ちなみに、有機農業推進法の目標では2018年度までに1.0%でしたが、これは達成できません。とくにここ数年の伸びは鈍化しています。
ただ、有機農業に取り組む生産者は農業全体の平均年齢よりも若く、また、新規就農希望者の約3割が有機農業を希望し、9割以上が有機農業に関心があるとしており、生産意欲はあるが、実際には伸びていないことが分かります。
また、有機農業生産戸数は、1万2千戸で面積と同様に0.5%、このうち、3分の2の農家は有機JASを取得していません。
雨の多い日本では、草対策と病虫害対策が大きな課題になります。とくに日本の農業生産では、米(稲作)の割合が大きいのですが、有機農業で稲作を行う際にもっとも大変なのが水田の草取りです。化学合成農薬の水田除草剤を使わず、機械除草、手取り除草、アイガモなど動物による除草、そのほか農業技術によって草を抑えるための様々な方法が考えられ、取り組まれていますが、いずれも手間とコストがかかります。有機農業で取り組むことでの生産コストの上昇は価格に反映しますが、それを多くの消費者が支持していないというのが日本の有機農業発展をはばむ大きな問題点です。
実際に消費者調査などでも、有機農産物を食べたいという支持は多いのですが、同時に食材を選ぶ際の優先順位のひとつに価格の安さがあります。
そのため、有機農業に取り組む生産者も、稲作の場合、作業性と生産コストから、一部面積は水田除草剤を初期に1回使用するなどの対応をしている生産者もたくさんいます。
その場合、もちろん、JAS有機認証をとることはできません。
【JAS有機とJGAP】
JAS有機認証は「生産基準」と生産から出荷までの管理・表示基準です。
JGAP Advanceは生産基準ではなく、生産から出荷までの管理表示基準であり、その中に、JAS有機の管理基準には入っていない環境管理、生物多様性の保全、労働・安全衛生、人権といった項目が加えられています。それぞれの目的が異なっているため、共通する点と違う点があるのです。
JAS有機には、環境負荷低減、自然循環、化学合成農薬・化学肥料の不使用、遺伝子組み換え技術の不使用という基準が明確に取り入れられていますが、JGAPは例えば化学合成農薬や化学肥料なども、法令遵守での適正利用でもよいことになります。
【学校給食に有機農業を】
学校給食ニュース2010年7月号で、「有機農業から考える、学校給食と生きた教材~いのち、地域から生物多様性、地球温暖化問題まで」を特集しています。
学校給食への有機農産物の導入方法、その教育的価値や手法について特集していますが、そこで紹介している愛媛県今治市の「地産地消と学校給食 有機農業と食育のまちづくり」(安井孝 2010 コモンズ)は、いまでも貴重な手引きになっています。
今治市では、その後も、次々と有機農業を軸にして、食育の副教材をつくるなどの取組みが続いています。最近は別のことで有名になっていますが、今治市の腰を据えた有機農業と学校給食の生きた教材化の取組みには、もっともっと注目が集まっていいと思います。
有機農業は、単に農薬や化学肥料を使わず、安全で健康も環境にもいいというものではなく、教材としてすぐれた要素がいくつもあります。地域での物質循環(食べ残しのたい肥化なども)、生物多様性(天敵や生きもののネットワークによる被害軽減なども)、フットプリントやフードマイレージといった考え方を学ぶこともできます。もちろん、慣行農業(一般的な農薬、化学肥料も使う農業)でも学ぶことは可能ですが、農薬や化学肥料を使わず、微生物を活かした堆肥づくりやこまめな観察などによる生物的防除など、有機農業の技術は、そのまま現代社会がかかえる大きな問題を身近なテーマとして深く学ぶことが可能です。また、適切に栽培された有機農産物は味や栄養素の面でも評価が高く、おいしく食べ、そこに体験や知識を加えることで学校給食は「生きた教材」としての質を上げることができるからです。
オリンピックのおもてなしの前に、まず、子どもたちにオーガニックを。
そして、オリンピックのレガシー(遺産)として、オーガニックの学校給食を全国に。
そういう声を、いま、学校給食から揚げていくことが必要ではないでしょうか。
今治市 学校給食
http://www.city.imabari.ehime.jp/kyushoku/
今治市 食と農のまちづくり
http://www.city.imabari.ehime.jp/nourin/tisan_tisyo/
首相官邸 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における日本の食文化の発信に係る関係省庁等連絡会議
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/shokubunka/index.html
農水省 有機農業
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/
農水省 GAPに関する情報
http://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/index.html
オリンピック・パラリンピックの食材の調達(2017年2月 農水省生産局)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/28yuuki-16.pdf
[ 18/04/18 取材メモ・リンク ]