神奈川県大磯町の学校給食(デリバリー方式・全員喫食)
神奈川県大磯町の中学校給食が新聞、テレビ等で広く報道されています。デリバリー弁当方式の完全給食を2016年1月から実施したところ、異物混入をはじめ、冷たいなどで、残食が多く問題視されたのです。
その後、大磯町は、9月20日に記者発表を行いました。
大磯町中学校給食について(平成29年9月20日記者発表)
http://www.town.oiso.kanagawa.jp/soshiki/seisaku/seisaku/tantou/H29kisyahappyou/1505973934715.html
全文を引用します。
中学校給食について
1 導入理由
「学校給食法」及び「食育基本法」に基づき、子どもたちが将来にわたって健康的な生活を送れるよう、栄養・食事の採り方などの知識や、望ましい食習慣、食をコントロールする「自己管理能力」などを身に付けることをめざす。
2 生徒全員給食の主旨
学校給食の主旨・目標である生徒の心身の健全な発達のため、教育の一環として生徒全員の給食を実施する。ただし、アレルギー等やむを得ない事情により家庭弁当持参も可とする。
3 デリバリー方式の導入理由
(1) 学校給食の主旨を保ちつつ、早期導入できる最も有効、かつ現実として可能な方法である。
(2) 初期投資額が抑えられるため、他の方式へ転換する場合でも初期投資が無駄にならず、状況に応じて柔軟な対応が可能。
4 実施方法
(1) 町栄養士が作成した献立原案に基づき、「中学校給食献立検討に関する打ち合わせ会」(町栄養士、小学校栄養教諭、中学校養護教諭、指導主事等)により献立を決定する。
(2) 町栄養士が卸売業者に食材を発注し、委託事業者に食材を納品させる。
(3) 町栄養士の指示に基づき委託事業者が食材を調理し、各校に配送する。
5 実施状況
給食対象人数 759人/喫食者数 723人(95.3%)/持参弁当 36人(4.7%)
6 費用等
(1) 保護者負担 4,900円/月 (食材費に充当、1食あたり350円)
(2) 町負担 257.04円/食 (調理配送等業務委託費)
※28年度決算見込額 33,020千円
(3) 一食あたり単価 607.04円(350円+257.04円)
残食問題について
1 平均残食率(H29年5月12日~7月11日) 約26.0%
最高55.29%(5月29日)/最低17.69%(5月13日)
<参考>
学校給食から発生する食品ロス等の状況に関する調査結果(H27年4月28日環境省)
回答のあった約3割の市区町村の平均残食率:約6.9%
2 改善策
(1) これまでの取り組み
ア 「中学校給食献立検討に関する打ち合わせ会」での協議や委託事業者との打ち合わせによる献立の改善
イ 食物アレルギー以外でやむを得ない事情がある場合、申し出により家庭弁当の持参も可とする。
(2) これからの取り組み
ア パン食の導入
イ 変わりご飯(混ぜご飯等)の回数増
ウ ふりかけ使用の検討
エ 温かい汁物の試行
オ 家庭弁当持参の許可判断を緩和 など
異物混入問題について
1.異物混入件数:84件
※件数は各学校からの報告に基づくもので、実際に確認できなかった異物等も含む。(内訳)毛髪39件、繊維14件、虫7件、衛生害虫3件、植物1件、ビニール片4件、プラスティック4件、金属片1件、その他11件
【上記のうち、形状や混入状況から工場内での混入が明らかなもの】
毛髪3件、繊維2件、虫1件、ビニール片4件、プラスティック3件、その他(他の食材)2件 計15件
2.年度別件数
(1) H27年度(H28年1月~3月):40件【うち、工場内での混入が明らかなもの 5件】
(2) H28年度:32件【うち、工場内での混入が明らかなもの 10件】
(3) H29年度(H29年4月~7月):12件【うち、工場内での混入が明らかなもの 0件】
3.その他(異物混入でないもの):11件
(1) 原料由来物質等で健康に問題ないもの(こげ、乾燥米粒、食材の変色等):8件
(2) 副菜の食数不足:1件
(3) カレー粉が溶けてなかった:1件
(4) 牛乳不配:1件
4.改善策
(1) これまでの取り組み
ア 異物の状況により、委託事業者に原因解明と再発防止を指導
イ 工場の査察と衛生管理指導
(2) これからの取り組み
ア 委託事業者に、衛生管理基準等の遵守徹底を改めて指導
イ 委託事業者に、弁当の最終点検を兼ね全食を写真に記録させる。
ウ 生徒や保護者に、調理の様子や調理場の環境等について周知を図る。
など
以上 引用終わり
新聞・テレビ等で報道され、様々な意見が出ているところですので、以下のサイトを参考に上げておきます。
学校給食ニュースより
2016.07 デリバリー給食は、学校給食の質を保てるのか? http://gakkyu-news.net/data/2016-07.pdf
2017.05 今月のトピックス あらためて学校給食調理の民間委託とは? http://gakkyu-news.net/data/2017-05.pdf
デリバリー給食が社会的に注目を集めたのは、橋下・元大阪市市長のときに、中学校給食を実施すると宣言し、デリバリー方式で導入しましたが、おかずが衛生管理の都合として摂氏10度で届けられ、カレーは冷たいレトルト、揚げ物もひんやりということがあり、関西方面ではテレビ等で大騒ぎになりました。その後、ごはんのおかわり、週1回程度の食缶での汁物、カレー等の提供などの改善がはかられ、現在は、デリバリー方式から、親子方式(小学校等からの提供)に変わりつつあります。
近年、デリバリー給食が導入された背景には、食育推進基本計画(第3期)で、中学校給食の実施目標が数値目標として入ったことで、未実施自治体に大きなプレッシャーがかかり、てっとりばやく実施する方法として、自治体が独自に施設設備を用意せず、事業者(弁当・中食・仕出し等)の設備で調理・配送する方式をとるようになったからです。学校給食法や文部科学省の指導では、献立と食材は自治体(教育委員会の栄養教職員)が作るようにされていますが、食材の選定リストをもって事業者が調達することもあります。
ちなみに、学校給食法では、いわゆる「給食費」(保護者負担)は、食材費で、設備・調理などのコストは自治体が負担することになっています。
また、弁当あっせんなどではなく、学校給食として実施する場合、学校給食実施基準、衛生管理基準が法の下に定められており、栄養価なども細かくガイドラインとして決められています。そこで、学校給食の施設設備は、それに合わせて設計、建設され、調理体制も整っていますが、それと同じことを、事業者がやるのは大変ですし、流用して行うわけですから勝手が大きく違います。
上記の学校給食ニュースで特集したように、そのため、異物混入、味の面、残食など様々な問題が起きます。
さて、大磯町ですが、以下のように、大磯町は、中学校給食導入前と、事業者決定についての情報を公開しています。
保護者とのQ&Aなども掲載してありますので、現在報道されていることと、実施前の状況について参考にしてください。
以下、大磯町ウエブサイト
中学校給食(スクールランチ)調理配送委託事業者(2017年9月21日に変更されています)
http://www.town.oiso.kanagawa.jp/kosodate/kyusyoku/1447925063959.html
中学校給食
http://www.town.oiso.kanagawa.jp/kosodate/kyusyoku/1435047728429.html
最後になりますが、「学校給食」は、教育として実施されています。「生きた教材」であり、食べることを通じ、また、その食材や献立内容等を含めて、教材として教科、学校での地域教育などに活用することが理念として求められています。食育基本法以降は、食育の柱とも位置づけられています。
その一方で、学校給食は、「教育目的」ゆえに、半強制的に食べさせるものです。ほんらい、食は個の本質的属性にも関わることですから、「食べない自由」は保証されているはずです。
そのようなものを教育に活用する以上、第一に安全であること、そして、おいしいものであることが前提です。安全でおいしい給食が出されることを信頼として、次に教育としての学校給食が成り立つのです。
デリバリー給食を行う自治体は「予算がない」ことを理由にします。学校給食は、自治体の判断で自校方式、食材の充実、献立の充実などが可能です。それは自治体の予算の使い方でもあります。小中学校の義務教育の中で、唯一といってもいいほど、自治体の特徴がでてくるものです。つまり、学校給食は自治の鏡なのです。自分たちの地域に住む子どもたちをどう育てたいのか? その事が問われます。
財政難、個人の経済的困窮(貧困の拡大)の中で、学校給食にどのくらい力を入れるのか、それを決めるのは、保護者だけでなく、市民の考え方です。
今は、大磯町が取り上げられていますが、多かれ少なかれ、他の自治体でも様々な課題があります。
これを機会に、自分の自治体の学校給食を調べてみてはいかがでしょう。
その後の報道で、大磯町は、改善策として、温かい汁物をつけるなどの対処とともに、当面、家庭弁当持参も可としました。その予算はどうするのか、配膳時間は学校カリキュラムの中で確保されるのか、気になるところですまた、弁当持参について、報道では翌日から近くが弁当持参になったとありました。デリバリー給食を完全給食として実施するとなると「全員喫食」が基本になります。その前提が崩れたことになります。教育として取り組んでいたのであれば、学校の食育計画から考え直すことも必要です。
この状況の中で、学校側の対応が変わらないとすれば、学校給食は食育として行われてきたのか、生きた教材として位置づけられてきたのか、そのことも疑問となります。
また、事業者からすれば、全員喫食を前提に契約し、受注し、その体制を組んでいることになります。突然半数になったと言われて、経営的には継続できるものではありません。そもそも、冷たい、おいしくない、異物混入が多いという状況で起きたことであり、運営を複雑化して継続してよいのか、心配になります。