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狂牛病と学校給食~今、何をすべきか

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 2001年9月10日、農水省は、千葉県の乳牛1頭が狂牛病(牛海綿状脳症)に感染している疑いがあることを発表しました。 日本ではじめて狂牛病が発生し、「日本の牛は大丈夫」と言っていた農水省のそれまでの発言には何の根拠もなかったことが明らかになりました。
 それから1カ月、日を追ってマスメディアの報道が過熱しました。あとでまとめますが、この際の農水省対応のおそまつさもあり、 市民の間に不安が広がりました。給食現場での牛肉の自粛、スーパーや外食産業での牛肉・牛肉製品が売れなくなっていきました。
 数年前、そして、今年はじめに報じられたヨーロッパでの狂牛病騒ぎが心に刻まれていたからでしょう。
 では、牛の病気の狂牛病とは何か、どうして、それが人に感染するのか、感染すればどうなるのか、そして、狂牛病に対しての「安全」とは何か、 現段階の知見をもとにまとめてみました。

■狂牛病の基礎知識
(どんな病気なのか)

 狂牛病は、牛の脳がスポンジ状になり、行動がおかしくなって死んでしまう病気です。病原は、細菌やウィルスといった病原体ではありません。 動物の身体の中にあるたんぱく質の1種「プリオン」が何らかの理由で正常型から異常型にかわり、 異常型プリオンが次々に正常型のプリオンを異常型に変化させ、分解されずに脳や脊髄などに蓄積して、それが原因で発症するとされています。
 同じような病気は、羊のスクレイピー、人のクロイツフェルト・ヤコブ病、猫のネコ海綿状脳症などがあります。
 この病気は、狂牛病が騒がれる以前から存在しました。何らかの理由でプリオンが異常型になったためでしょう。 散発的に人も含めて発症例があります。日本においても発症例はあります。
 ただ、細菌やウイルスのように接触感染や空気感染するものではありません。
 この異常型プリオンを食べたり、手術などで異常型プリオンの含まれた乾燥硬膜を移植されたりするなどしない限り、伝染はしないようです。
 また、狂牛病を含めた海綿状脳症は、異常型プリオンがある程度蓄積するまで数年から数十年しなければ発症しません。

(狂牛病と変異型ヤコブ病)
 1986年にイギリスで狂牛病が確認され、 その後イギリスで多くの牛が狂牛病になりました。イギリス政府の調査で、人への感染の関わりを調べたところ、これまでの人のクロイツフェルト・ ヤコブ病とは明らかにちがい、若い人でも発症する例のある変異型のクロイツフェルト・ヤコブ病が確認され、 その後の調査で狂牛病に感染した牛の脳や脊髄、あるいはそれに汚染された牛肉を食べて感染したことが明らかになります。
 そして、そもそも、狂牛病が流行した原因は、牛や羊などを処理した後の骨や内臓、肉などを加工して牛の飼料(エサ) に使用していたためだということも明らかになりました。
 イギリスでは多くの牛が処分され、また、牛や羊などを処理した「肉骨粉」をエサとして利用することができなくなりました。
 しかし、すでにイギリスの肉骨粉は世界中に輸出されており、ヨーロッパをはじめ世界各国で狂牛病が発症する可能性は高まっていたのです。

(牛のすべてが危険なのではない)
 異常型プリオンを食べない限り、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病に感染することはありません。この異常型プリオンは、脳、せき髄、眼、 小腸の一部の回腸部分に主に蓄積し、この「危険部位」を食べない限り問題はないとされています。これは、イギリスなどの調査、研究を元にOIE (国際獣疫事務局)が定めているものです。つまり、今の知見では精肉や牛乳などは大丈夫だということです。


■日本の狂牛病~報道を通して
 今回の狂牛病が農水省から発表されたのは9月10日です。 この乳牛が処理されたのは8月6日のこと。立ち上がれないなどの異変があったため、狂牛病の検査をしましたが陰性と出ました。しかし、 脳に狂牛病特有の状態が見られたため、あらためて検査をし、疑いが濃くなったところで発表、そして、イギリスで詳しく調べ、 正式に狂牛病と認められました。ところが、焼却処分されたと発表されていた牛がエサ用の肉骨粉に加工されていたことが分かります。 あわててこの加工場の肉骨粉すべてを焼却することになってしまいました。
 ところで、日本の狂牛病発生の可能性についてEUでは他国も含めて調査をしていましたが、農水省がこれに反発し、「日本は大丈夫」 と調査の中止を求めていました。日本では1996年から肉骨粉を牛に与えないよう農水省が指導していましたが、 鶏や豚に肉骨粉を使うことは禁止されておらず、混入や転用が懸念されていました。また、96年以前には牛にも肉骨粉が使われており、 輸入物もあったことから、決して発生の可能性が0ではなかったのです。
 10月10日現在、農水省、厚生労働省らは、次のような対策をとりました。

(農水省)
●省令を改正し、鶏、豚向けもふくめた肉骨粉の製造、販売を禁止。罰則も導入。ただし、鶏、豚向けについては、いずれ解除の方針。

(厚生労働省)
●牛を原料にした加工食品・健康食品について、確認を求め、 国産および狂牛病発生国の牛の特定危険部位が使用されていたもの、使用されているかどうかが分からないものについて、自主回収するようメーカー、 都道府県に指示。
●牛を原料とした医薬品、化粧品について、国産および狂牛病発生国の牛のすべての部位の使用を禁止。
●10月18日から再開される牛の解体について、すべての牛を狂牛病検査することへ。(EUでは30カ月以上のみ)
●脳や脊髄など特定危険部位の焼却を義務づけ。指導から法規制へ。
●現在、牛の解体で主流の「背割り」は脊髄液がとびちる可能性があるとして、解体方法の変更を検討。


■学校給食と狂牛病
 学校給食現場でも全国に混乱が広がりました。文部科学省のとりまとめによると、10月1日現在、給食で牛肉をとりやめたり自粛したのは、 44都府県1164市区町村の計11,203校にのぼっています。しかし、牛乳は、 千葉県市原市で狂牛病発生後数日とりやめたという報道があったぐらいで、現在では取りやめているところはないようです。
 自粛の理由を各地の新聞などからひろってみると、「保護者の要請」「安全確認がされていないから」「情報が混乱しており、念のため」なかには、 「O157以来、牛肉は使っていない」というところもありました。
 長野県松本市では、牛乳乳製品は使用し、牛肉は当面使わないほか、「調味料は煮干、かつお節、昆布、 鶏や豚のガラスープなど素材か素材に近いものを使う▽複合食品、複合調味料等は内容をよく確認し、味を良くするのに使う「たん白加水分解物」 などは内容が確認できなければ使わない▽問題と思われる食材が発生した場合は、情報を確認したうえ、安全確認ができるまで使用を見合わせる」 という対応をしています(毎日新聞9月28日)
 文部科学省では、厚生労働省がメーカーらに加工食品の確認を求めたことなどを受けて、都道府県教育委員会に対し特定危険部位(脳、脊髄、目、 腸の一部)が原料とされた加工食品を給食で使用しないよう通知を出しました。その一方で、食材の選択は自治体の考え方だが、安全とされる牛肉 (精肉)まで自粛する必要はないのでは、との見解を示しています。
 使用しているところでは、「狂牛病の発生していないオーストラリア産だから」「国が大丈夫と言っている」として、 継続しているところもあります。
 また、秋田県鹿角市は、10月1日、県産牛が肉骨粉を使っていないことを確認したとして、県産牛に限って使用再開を決めました。 岐阜県高山市でも安全性が確認できたとして10月中旬に地元飛騨牛を使用した牛肉献立の再開を検討しています。兵庫県三田市も地元で飼育、 解体している三田牛は独自のチェック体制ができているとして10月9日より三田牛の使用を決めました。
 このように地域独自の判断もはじまっています。


■食べものと命と信頼
(命を軽視した人間)
 狂牛病については感染ルートなど、まだ分からないことも多くあります。また、 安全とされるアメリカやオーストラリアでも100%安全が保証されているわけではありません。そもそも、なぜ、今、狂牛病なのでしょうか。
 草食動物の牛に羊や牛の肉や骨を食べさせる、そこから、狂牛病がはじまっています。肉骨粉を牛や鶏や豚に食べさせる理由は、「経済効率」です。 早く、安く、肉をつけ、乳を出すために、品種改良だけでなく、エサの中身や与え方まで、 動物が本来持っている命のありようとは大きくちがったものにしてしまいました。その結果、人間は予想もつかないしっぺ返しを受けているわけです。
「そのおかげで、安く、たくさん牛肉や肉が食べられるようになった」という言葉が返ってくるかもしれません。しかし、日本の食卓や給食現場、 外食産業、スーパーなどで日に日に捨てられる大量の食物残さを見れば、人間がいかに食べもの=いのちをおろそかにしているかが分かります。

(食べものの安全への不信)
 O-157とカイワレ大根、ダイオキシンとほうれん草、雪印の牛乳問題、そして、今回の狂牛病、近年の食べもの事故・事件のたびに、 「風評被害」が言われます。安全かどうか分からないけれど、よく分からないから、とりあえず買わない、 食べないでおこうという消費者のすなおな気持ちですが、一方で、それが過剰になり、生産者が苦しむという結果をまねくことも少なくありません。 しかし、一度うかんだ不信はそうそう引っ込みません。誰が、どこで、どんな風にして作っているかが分からない、これこそが、 一番の不信の原因です。食材が、どこで、だれが、どんな風に、どんな気持ちでつくって、加工しているのか、それを知らずに、 この不信が不信を呼ぶ流れは変えられません。
 学校給食の食材がどこから来ているのか、誰が、どのようにつくっているのか、それを知っていること、作り手を知っていることが、 安心への近道だと思います。

(牛肉は食べてもいいのか)
 安全とされている「牛肉(精肉)」を食べてよいのか。正直に言って、分かりません。処理場で、 解体時に脊髄液が付着していないことが分かったり、そもそも付着しないようになっていれば、これまでの報道を信じる限り、 食べてもよいのではないか、と思います。むしろ、濃縮したり化学的に抽出されている加工食品などの方に不安が残ります。
 食べものへの不安を考え出したら、すべての食べものが不安になります。農薬、添加物、遺伝子組み換え、ダイオキシン汚染…。 これまで安全だと思っていたものでも、調べてみて安全性に疑問が出ることはよくあることです。次々に新しい技術が生まれ、 予想もつかない事態も発生します。空気も、水も、土も、けっして昔のままの汚染されていない状況ではありません。
 少なくとも、今、国産牛すべてが危険で牛肉を食べてはいけないとパニックになる必要はどこにもありません。心配なら、牛の生産者に会い、 処理場を見学し、スライスなどの加工場を見学して、自分の目で確認することです。そのためには、繰り返しになりますが、作り手を知っていること、 由来を知っていることが大切です。そういう食材調達を望みます。

(食教育と狂牛病)
 狂牛病問題は、まだ経過です。学校給食ニュースで取り上げるのは早かったかも知れません。状況が確定していないからです。
 その上で、今回、記事をまとめるにあたって不思議だったことがあります。それは、牛肉の自粛は早かったのに、 牛乳を自粛したところはまずなかったことです。たしかに、牛肉は処理方法によっては脊髄液が付着する可能性もあることから、 牛乳よりも安全性に不安があるかもしれません。その点では、ある意味でとても合理的な対応だったのかも知れません。しかし、どちらも「安全」 とされていたにもかかわらず、牛乳はそのまま学校給食に出され、牛肉は自粛される。このことを、子どもたちにどう説明するのだろうと思いました。 よもや、牛肉には代替の鶏や豚があるけれども、牛乳は代替品がなかなかないので、牛乳の自粛まではできなかったとは説明できないことでしょう。
 学校給食は、教育の素材です。この狂牛病問題も、子どもたちが、いのちや食の安全性を考えるいい機会でもあります。そのとき、牛肉は自粛して、 牛乳を自粛しないことをきちんと説明できるのだろうか、説明できないままに自粛してはいないだろうかという疑問がつきまといました。
 皆さんは、どのような対応をとられ、どのように説明しましたか。ぜひ、お聞かせください。

 今回の特集は、10月11日現在の情報をもとに構成しました。その後の状況によっては、 記事内容に不適切な内容が含まれるかも知れません。あらかじめご了承ください。(学校給食ニュース2001年10月号)


追記:インターネット版掲載にあたって、若干の補足をします。 (2001.11)

1:再開を決めた兵庫県三田市では、安全性の確認に対する問い合わせが相次いだことと、残食が多かったために1週間で方針を撤回し、 再中止をしました。(その後は不明)

2:10月18日からの出荷時全頭検査開始を受けて、文部科学省は牛肉の適正な使用を求める通達を出しました。つまり、 牛肉を学校給食に使用することを求めたわけです。しかし、一方で、 特定危険部位が混入しているかどうか由来の明らかでない牛成分の入っている可能性のある加工食品は使用を自粛するよう改めて指示しています。

 

[ 01/12/31 BSE ]


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