教育環境は無菌でなければならないの?
無菌な世界はない
ここ数年、除菌、無菌、殺菌ブームです。抗菌グッズが飛ぶように売れ、食器、台所用品、衣料品、バス・トイレタリー用品、
あらゆるものが抗菌をうたうようになりました。
まるで、すべての菌が害毒かのような風潮です。
学校給食現場の衛生管理も同じ考え方から来ているようです。
もちろん、病原性大腸菌O157などは非常に少ない菌数で発症するため、十分な対応が必要なのは言うまでもありません。
しかし、発生源をできる限り断ち、きちんと洗浄し、加熱し、できたらすぐに食べるという、
これまでの調理の基本をくつがえすことではないはずです。
一般に無害な菌や、少数の食中毒菌は、私たちの生活のあらゆるところに存在します。特に人間は手、顔を含め、
菌とともに生きていると言っても過言ではありません。
これまで、人類は菌がいることを前提に、加熱すべきものと、加熱せずとも洗えば大丈夫なものとを経験的に学び、食生活を築き上げてきました。
さらには、菌を利用して味噌や醤油、酢、納豆、日本酒などの加工食品を作り、それをつかって安全に保存するなどの知恵を生み出してきました。
抗菌ブームは、その知恵を忘れ、まるで今、急に病原菌が増えたかとでもいうような不思議な状況です。
繰り返しますが、適切な衛生管理が大切なことは言うまでもありません。しかし、すべての菌を排除するという考え方は、 食中毒が食中毒菌によって発症することを忘れてしまい、ときには発症者や保菌者の人権を無視しかねないような考え方におちいることもあります。 食中毒を防ぐには、なにをすればよいのか、きちんと理解し、行動することが大切です。
子ども達に配慮を
毎年、複数の学校で大規模な学校給食による食中毒が発生します。それとは別に、日常的にお腹をこわしたり、
給食後調子を悪くする子どももいます。
食べたくないと子どもが思っていても、残さずに食べなければいけないという常識の前に食べさせられている子どもがいることも事実です。
食べて欲しいのに、残食が多いという調理現場の苦悩があると同時に、食べたくないときも、
食べさせられているという子ども達の悩みがあることも事実です。
いつから、学校給食はこのような重荷を背負ってしまったのでしょうか。
学校給食は、単なるお昼ご飯ではないはずです。子ども達に栄養があって、おいしくて、安全な食事を食べさせるためのものですが、
それだけでもありません。
学校給食を通して、楽しく、生きた食教育を行うこと。子ども達が、自分で食のあり方や考え方、見きわめ方を学ぶ場が、学校給食です。
そこでは、子ども達の食に対する主体性をどうはぐくむかに配慮しなければなりません。現実的にはありえない「子ども達を菌から隔離する」
発想で、調理現場の菌に対する衛生管理ばかりが強まり、子ども達の主体性に配慮した食教育がなおざりにされています。
調子が悪いときには食べなくてもよいという教育、
食中毒とはどういうもので、どんな食生活、調理によって防げるのかという教育、
菌が常に、どこにでもいて、その中で暮らしている事実と、菌の種類や性質によって防ぎ方が違ってくるという教育、
菌だけでなく、添加物や化学物質など、様々な危険性がある中で、より安全なものを選択するという教育、
学校給食を食べるのは子ども達です。子ども達が主体的に食中毒を予防し、衛生管理を身につける、 具体的な工夫が学校給食と食教育に求められています。
(学校給食ニュース2号 1998年5月)
[ 98/12/31 衛生管理 ]