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学校給食衛生管理の基準が改定 その特徴と問題点

 平成15年(2003年)3月31日、文部科学省スポーツ・青少年局長名で「学校給食衛生管理の基準」 の一部改定についてとの通知通達が出されました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/15/03/03033102.htm (文部科学省ホームページ内の全文)

 この衛生管理基準は、平成9年(1998年)4月に制定されたものです。
 1996年の堺市での病原性大腸菌O-157による大規模食中毒事故をきっかけに、97年4月に、旧文部省体育局長名で 「腸管出血性大腸菌O157発生状況を踏まえた食中毒発生の防止等について」 「学校給食における衛生管理の改善充実及び食中毒発生の防止について」が出され、その後、衛生管理基準としてまとめられました。
 今回の改定は、旧総務庁が平成12年(2000年)に示した「食品の安全・衛生に関する行政監査結果報告書」の指摘に沿って、厚生労働省の 「大量調理施設衛生管理マニュアル」との整合性を図り、学校給食の衛生管理を充実させる目的で行われたとされています。
 実際に、厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」と内容が類似する部分は非常に多いのですが、この「学校給食衛生管理の基準」の方が、 細部まで規定しており、そのために個々の調理場の実情にそぐわないことになっているようです。

 今回の記事では、基準改定の特徴と問題点を指摘します。
 今後、各自治体や学校給食調理場で、基準が改定されたことによる変化が見られるかも知れません。
 栄養職員や調理員の皆様には、どうぞあらためて基準をお読みいただき、問題点や疑問点を提起していただきたいと思います。

【改定点】
 新基準に添付されている文部科学省による「主な改定点」を引用します。

(1)学校給食実施者の責任の明確化等
・学校給食施設のドライシステム化の推進など衛生管理に配慮した施設設備を整備すること。
・ウエットシステムの調理施設においては、ドライ運用を図ること。
・献立作成委員会及び物資選定委員会を設置し、適切な運用を図ること。
・食品を納入する際は、必ず、検収を行い、購入業者名、品質、数量等について記録し保存すること。

(2)学校給食用機械・器具の十分な洗浄及び消毒の徹底
・フードカッターやミキサー等は、使用後分解して洗浄消毒等を行うこと。

(3)学校給食従事者等の健康管理の徹底
・学校給食従事者等は、日常点検票に基づいて、適切に健康管理を行い、個人別に記録し保存すること。

(4)食品の適切な温度管理
・食品は常温で保存しないこと。また、食品を加熱・冷却する場合は、適切に温度管理を行い、その際の温度と時間を記録すること。

(5)二次汚染の防止
・汚染作業区域・非汚染作業区域を明確に区分するため、施設設備の配置や調理の作業工程や作業動線等を工夫し、汚染・ 非汚染が交差しないようにすること。

(6)検食・保存食の徹底
・学校給食は、毎日必ず検食し、その記録を保存すること。
 学校への直送品を含め使用する食品は、必ず、保存食を確保し、その記録を保存すること。


■注:大量調理施設衛生管理マニュアル…
 1997年3月に、 食品衛生法に基づきつくられました。マニュアルの趣旨には、「本マニュアルは、集団給食施設等における食中毒を予防するために、 HACCPの概念に基づき、調理過程における重要管理事項として、
(1) 原材料受入れ及び下処理段階における管理を徹底すること。
(2) 加熱調理食品については、中心部まで十分加熱し、食中毒菌を死滅させること。
(3) 加熱調理後の食品及び非加熱調理食品の2次汚染防止を徹底すること。
(4) 食中毒菌が付着した場合に菌の増殖を防ぐため、原材料及び調理後の食品の温度管理を徹底すること。
等を示したものである。
 集団給食施設等においては、衛生管理体制を確立し、これらの重要管理事項について、点検・記録を行うとともに、 必要な改善措置を講じる必要がある。また、これを遵守するため、更なる衛生知識の普及啓発に努める必要がある。
 同一メニューを1回300食以上又は1日750食以上を提供する調理施設に適用する」
とあり、学校給食調理場も想定されています。

【問題点】
 基準全体と新旧対照表を元に、数人の学校給食栄養職員の意見も聞きながら、問題点をまとめました。

1)多くの自校式や老朽化したセンターなどでは施設設備の改修、本当にできますか?

 旧基準の汚染作業区域、非汚染作業区域の区分は、同じ調理場で床の色分けや衝立などによって分けるという内容でした。この基準は、 現実の衛生管理にどれだけ役立つのか、疑問も多く、旧基準が行政的なとりつくろいでしかないことを明らかにするような内容でした。
 これに対し、新基準では、検収室の設置や汚染作業区域、非汚染作業区域の区分の基準により部屋単位で区分することが求められ、 多くの自校式調理場や老朽化したセンターでは改修や増築が必要になっています。
 さらに、いくつかの例として…
・加熱調理用食品用、非加熱調理用食品用、器具の洗浄等用に別々の三槽式構造を持つシンク、すなわち、 1調理場に9槽のシンク設置を求めています。
・加熱調理後冷却した食品を常温保存しないよう冷蔵庫等の設置を求めており、冷蔵・冷凍設備については、 食数に応じて十分な広さがあるものを用途別に用意し、共用を避けるよう求めています。

 他にもウエットシステムの調理場でもドライ運用するようになど、施設設備については様々な求めがあります。これらの施設設備の改善は、 もちろん達成されるのであれば、それにこしたことはありません。しかし、旧基準でもいくつかの項目で施設設備の改善を求めていましたが、 保存食用冷蔵庫の設置など一部を除いて根本的な解決はされないままにきています。新基準は、旧基準以上に、 施設設備が十分になっていることを前提になっており、この施設設備の改善なしに、基準を達成することはできません。
「現在の直営調理員の配置基準などを考えると、自校式の調理場で部屋を分けて作業を行うというのは、著しく作業性が悪くなると思います。また、 児童生徒が減少し、調理場に余裕があるところなら改修することができると思いますが、この内容では今よりも必要面積が広くなります。 改修では済まない場合が多いのではないでしょうか。大規模なセンターでたくさんの職員により運営するとか、民間委託で、 たくさんのパートを使って行うというようなことを前提にしているのではないかと疑いたくなります」と、ある栄養職員は語っていました。

2)厳しい記録マニュアルに、現場は対応できますか?

 新基準で目立ったのが、「記録」です。新しく追加されたものだけを列記します。
・学校給食従事者の健康状態を毎日個人別に記録。
・調理時加熱調理の中心温度、時間の確認と記録。
・調理後やむを得ず水で冷却する場合、遊離残留塩素の確認と時間の記録、保存。
・調理室への関係者以外の立ち入りには、日常点検票に基づく点検、記録。
・調理室内の温度湿度の確認と記録。
・加熱後冷却する食品は、加熱終了時、冷却開始時、終了時の温度と時間を記録。
・共同調理所では、調理場搬出時、受配校搬入時の温度と時間を記録。
・委託食品は、委託者が随時点検し記録。
 などがあり、衛生管理責任者は、「特に調理過程における下処理、調理、配送などの作業工程を分析し(中略)確認し、その結果を記録すること」 となっています。これらの確認と記録は、衛生管理責任者である学校栄養職員(配置のない調理場では、調理師資格をもつ学校給食調理員等) の仕事となります。
 調理員が直営校の場合、栄養士が調理場に立ち入り、これらを行うこととなりますが、民間委託校の場合、どうなるのでしょうか。 委託先の衛生管理責任者が行うのでしょうか。
 実際に、これらの確認と記録を行っていて、栄養職員はこれまでも果たしてきた日常の業務、とりわけ、食教育などの時間を持てるのでしょうか。
「まだ、新しい記録票などの指示が来ていないため、今のところは何とも言えませんが、これをすべてやることになったら、 かなり業務が制約されます」と、自校式の栄養職員のコメントです。
 さらに、配食を行う児童生徒や教職員に対しても、健康状態の確認をするなど、衛生管理の名のもとに徹底した管理を行う姿勢が見えています。
 旧基準では「確認」までとなっていたものが「記録」に変わったことは、HACCP的な手法を用いて衛生管理を高める目的、 万が一食中毒事故が起こった場合の原因をつきとめる目的があると考えられますが、合わせて、食中毒事故の際の製造物責任法(PL) 対応のようなねらいも感じられます。

3)献立が不自由になりませんか?

 新基準では、献立作成について、
・作業工程及び作業動線等を考慮し、衛生管理に十分配慮した献立を作成すること
・高温多湿の時期は、なまもの、和えもの等の献立計画については十分に配慮すること
・施設・設備、人員等の能力に余裕を持った献立作成を行うこと
・関係保健所等から情報を受け、地域における伝染病、食中毒の発生状況に配慮した献立を作成すること

 となっています。新基準全体を通して流れる調理場の規模や実態を無視した過剰なまでの管理思想を前提にしてこの基準を考えれば、 献立の幅が衛生管理により大幅に制約されることにつながります。
 食材の選定で地場産品を扱う動きが総合学習や食教育、地域教育とともに広がりを見せていますが、衛生管理の面で、 地場産品の食材が扱いにくくなるということも考えられます。もちろん、施設設備の拡充や調理員の配置基準の緩和などが行われれば、 新基準に沿って献立を立てることは可能ですが、今のままでは教育としての給食の献立の可能性が限られかねません。

4)その他~総論にかえて

 新基準は、大規模な共同調理場や1000食を超えるような調理場を対象とした内容となっていると考えられます。 厚生労働省の大規模調理場衛生管理マニュアルの対象とならない300食以下の自校式の調理場を新基準にあてはめることは、施設設備面、 調理員の配置基準面で無理があります。
 新基準は、大規模調理場で、ドライシステムにし、 現状では人員に制約がある調理の直営から民間委託やパート化を進めるという旧来の考え方をさらに押し進めるために出てきたようなきらいがあります。
 もちろん、衛生管理は学校給食を作る上でなにより大切な前提です。
 しかし、古い施設設備で、限られた調理員ながら、一度も食中毒を起こすことなく、地場産品を導入し、 教育としての給食を達成するための献立を出し続けている調理場も数多くあります。
 一方で、どんなに高度化され、管理された調理場でも、わずかな不注意や想定外のことで食中毒などの事故は起こりえます。
 そもそも、衛生管理強化のきっかけとなった、堺市の病原性大腸菌O-157による大規模食中毒事故は、原因食不明ながらも、統一献立、 共同購入だったことが自校方式でありながらも大規模化した理由です。新基準でも、統一献立が「あまりに大規模」の場合、「適正な規模」 の献立を検討すること。共同購入でも「あまりに大規模」の場合、地域ブロックや学校種別に分けるなど「適正な規模」での実施を検討すること。と、 表現は不十分ながら、問題点を指摘しています。
 本来、衛生管理の基本は、小規模化、喫食までの時間の短縮、すなわち自校方式で、献立や食材購入もそれぞれの調理場で行い、 栄養職員と調理員が一体となって学校給食を担うということではなかったでしょうか。
 センター方式や統一献立、共同購入という形で大規模化し、分業化、単純労働化(マニュアル化) の方向でパート化や民間委託を押し進めてきたために、このような管理思想の衛生基準が出てくるのだと思います。
 市町村の責任で、施設設備を改善し、基準通りやっておけば、食中毒は出ないというのが、旧基準を含めた基準の考え方です。
 しかし、話を聞いた栄養職員は、「自主検査をしてみたら、調理場の配置によっては、たとえば、60cmの高さに調理済みの食品を置いていても、 一般生菌が繁殖したことがあります。自分たちの調理場の実情を把握し、自主検査をするなどで、自分たちの調理場にあった衛生管理を作らなければ、 本当の衛生管理にはならないと思います」と、学校給食調理場の多様性を無視した基準のあり方に疑問を投げかけました。
 さらに、「新基準によって、栄養職員が衛生管理に忙殺され、保護者や地域、生産者とともに学校給食をつくることや、安全な食材を求め、 日本の風土や文化に目指した食事内容を考え、教育として子どもたちに伝えることに力が注げなくなります」と懸念しています。
 はたして、新基準通りに運営し、一方で、栄養職員の栄養教諭構想がある現状で、各校に2人ずつ栄養職員を配置しようというのでしょうか。また、 新基準では、栄養職員が配置されていない場合の調理師資格を持った学校給食調理員が衛生管理責任者になるという点を除いては、 具体的な決まりごとばかりで、学校給食調理員についての責任や職務を示すものは出されませんでした。
 衛生管理を実際に担うのは、個々の調理員であり、その質は衛生管理を大きく左右します。形にこだわり、研修の制度は持ちながらも、 人には目を向けていない、そういう基準の方向性が強化されているとも見えます。

 学校栄養職員と調理員の皆さん、新基準をもう読まれましたか?
 どのような感想をお持ちですか?
 実際にどのような衛生管理をされていますか?
 どういう衛生管理が望ましいですか?
 施設・設備の改修、改善は進んでいますか?
 ぜひ、実例をお寄せください。


(学校給食ニュース 2003年6月) 

 

 

[ 03/12/31 衛生管理 ]


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