強化ガラスの破損について
学校給食食器については、学校給食ニュースでも学校給食をとりまく大きな問題として取り上げてきました。
その視点は、主に、プラスチック食器の成分溶出と長期的な安全性についてです。とりわけポリカーボネート食器については、内分泌かく乱物質
(環境ホルモン)の恐れがあり、各地で別の食器に変える取り組みなどについて情報を発信しました。また、他のプラスチック食器についても、
その製造原材料や添加剤のすべてが利用者に明らかにされないこととプラスチック食器の性質上、かならず何らかの物質の溶出が起こっているため、
否定的な見解を持っています。
そして、理想的な学校給食食器として、強化磁器をあげていましたが、同時に、強化ガラスについても成分溶出の心配がないため、
その安全性の面から一定の評価をしていました。
しかし、強化ガラス食器については、割れるときに強化磁器食器より破損が激しく、広く飛び散り、かつ、
破片が細かくとがって危険であるという指摘がありました。
1996年7月に東京都足立区で、1999年2月に奈良県奈良市で、それぞれ小学生が強化ガラス食器(コレール)
の破損により眼球に失明に近い怪我を負いました。いずれも民事裁判として係争中ですが、これらの事故をきっかけに、
2001年に経済産業省の独立行政法人製品評価技術基盤機構(旧:製品評価技術センター)が「事故情報特記ニュース」を出し、
強化ガラス食器の取扱について注意喚起しました。
プラスチック食器から、強化磁器食器へ変える運動を進める上で、破損~割れの問題は避けて通ることができません。 この強化ガラス食器の事故によって割れる食器についての議論が出ています。そこで、強化磁器と強化ガラスの違いを破損(割れ) の視点から整理します。
●強化ガラス食器(コレール)とは、
強化ガラスには主に2つの製法があります。
熱膨張係数の異なる2種類のガラスを溶かして接着させる積層強化と、ガラスを高温に加熱して急冷した風冷強化の方法で、
いずれも表層部分に圧縮応力層をつくり、ガラスが割れる原因の引っ張り力に対抗し、破壊強度を強く(割れにくく)します。
コレールは、積層強化によってつくられています。よく見ると乳白色のまわりに透明なガラスがあることが分かります。
ガラス製ですから、食品衛生法にもとづいて重金属溶出の確認さえとれれば、プラスチックのように溶出の心配はありません。
溶出の面からはとても安全な食器です。
コレールは、割れにくいガラス食器として、家庭やベビー用品、学校給食などに利用されています。
強化ガラス食器の最大のポイントは割れにくいことですが、逆にそのことが、割れたときの危険性につながってもいます。(後述)
●強化磁器とは、
陶磁器は、ケイ石や長石、粘土、陶石などを原料にして生地をつくり、
形を整え、焼成、絵付けを行います。成分としては、ケイ酸と酸化アルミニウムが主成分で、カルシウム、カリウム、
ナトリウムの酸化物がケイ酸を溶かしてガラスとなり、表面をおおいます。顔料に重金属を使うことがあり、
ガラス同様に食品衛生法にもとづいて重金属溶出の確認をとります。基本的には、ガラスと同様に溶出の面からとても安全な食器です。
強化磁器は、通常の陶磁器に酸化アルミニウムを添加することで素材の強度を増したものです。さらに、岐阜県土岐市立陶磁器試験場
(セラテクノ土岐)が開発した高強度磁器食器というものもあります。これは、
ケイ酸分を酸化アルミニウムに置き換えてしまうことでより強度を増したものです。
強化磁器や高強度磁器も一般の陶磁器よりは割れにくいですが、やはり割れます。しかし、割れ方は、一般の陶磁器とほとんど変わりありません。
●見た目の違い
強化ガラスと強化磁器の見た目の違いは2点あります。ひとつが、糸じり(ハマ底)の有無です。強化ガラスは、製造工程上、糸じり(ハマ底)
をつくることができません。底がつるりとしています。強化磁器は、陶磁器と同様に比較的自由に形を作ることができるため、糸じり(ハマ底)
をつくることができます。
もうひとつは、すかして見たときに透明感があるのが強化ガラスです。強化磁器は不透明です。
●割れたときの危険性
強化ガラスと強化磁器がそれぞれ割れるときにどのような性質を示すのか、いくつかの試験データがあります。その中で、製品評価技術基盤機構
(旧:製品評価技術センター)が事故情報特記ニュース(No.33)として、2001年1月17日付で「積層強化ガラス製食器」
の商品テスト結果を発表しています。また、同3月9日の特記ニュース(No.34)では、
強化ガラス製食器の使用にあたっての注意事項を発表しています。6月にもNo.38として発表。
この商品テストは、国が行ったものであり、かつ、強化磁器などとの比較が行われていますので、このテストを中心に紹介します。
この商品テストは、冒頭紹介した2件の給食用強化ガラス食器による事故を受けて、事故のあった小学校で45回使用された事故同等品(積層強化、
耐熱性)強化ガラスと、その新品(同等品)、比較品として風冷強化の強化ガラス、強化磁器、磁器食器の割れ方を比較したものです。なお、
事故同等品は、コレールです。
試験は3通り行われました。
■事故同等品(小学校で45回使用の強化ガラス食器)
事故の状況をみるため、コンクリートの上に張られた厚さ2mmのPタイルに高さ70cm(身長120cmの子どものひじの高さ)
から10枚を落下させ、割れる状況を確認。落下点をフチと底で試したところ、フチから落とすと10枚中3枚が割れ、底から落とすと割れなかった。
割れたものは、破片が高さ200cm以上、半径300cmに飛散し、「針状の微細な破片や鋭利な薄片が無数」にできました。
ここで注目したいのは、70cmから落としたのに200cm以上と高くはね上がったことです。もちろん、
70cmの高さから打ち付けたわけではなく、落下させただけです。
■同等品と比較品
(新品の2種類の強化ガラス、強化磁器、磁器)
コンクリート、Pタイル、フローリングに対し、110cm(身長170cmの大人のひじの高さ)、70cmの2つの高さから、それぞれ、
落下点をフチ、底として各5枚ずつ、12通りの落下試験をしています。
この結果は、新品の状態では、風冷強化ガラスがもっとも落下強度が高く、コンクリートでは割れることがあっても、
Pタイルやフローリングでは割れませんでした。積層強化ガラス(同等品)も、新品ではPタイルで割れませんでした。強化磁器、磁器は、
フチから落下すると割れやすいが底からの落下には比較的強かった、となっています。
■同等品と比較品の飛散状況
Pタイルに対し、110cm、70cmの高さから、落下点をフチ、底それぞれの場合で、3枚ずつ落下させ、破片の飛散状況を調べました。
ただし、新品の2種類の強化ガラスはPタイルで割れないため表裏面に研磨紙で全面に細かな傷をつけて落下させました。
その結果、積層強化ガラスをフチから落下させると、落下高さ110cm、70cmにかかわらず、高さ200cm以上に飛び、
底から落下させた場合でも、落下高さ70cmで120cm、落下高さ110cmで165cmと、
落下の高さよりも高く飛び散っていることが分かりました。
風冷強化ガラスの場合でも、フチから落下させると高さ約110cmまでは飛び跳ねます。しかし、積層強化ガラスよりも破片数が少なく、
跳ねる高さも低くなりました。
強化磁器、磁器は、いずれも大きな破片となり、跳ねる高さも30~50cmでした。
落下高さ110cmのときに数個の破片が斜め方向に高さ約80cmまで飛散することがありました。
強化ガラスでは、事故同等品の試験同様「細片以外に針状の微細な破片や鋭利な破片が無数に存在」しましたが、強化磁器、
磁器は強化ガラスのような細片も少なく、大きく割れています。
■注意事項
この試験をもとに、製品評価技術基盤機構(旧:製品評価技術センター)が事故情報特記ニュース(No.34)では、
「強化ガラス製食器は固い床(コンクリート床、プラスチックタイル床など)に落ちた場合には破損することがあり、その際には破片が激しく飛散し、
ケガをするおそれがあるという、潜在的な危険性を有していることに十分留意する必要があります。
このため、強化ガラス製食器の使用にあたっては、次の点に注意することが必要です。
・急激な衝撃を与えない。
・破損した場合、破片が細片となって激しく飛散する特性を持つものがあるので注意するとともに、傷が付くような取扱いは避ける。」
との注意情報を出しています。
(参考)
製品評価技術基盤機構 http://www.nite.go.jp/
強化ガラス製食器の使用にあたっての注意事項について(2001/06/04)
http://www.jiko.nite.go.jp/news/news38.htm
強化ガラス製食器の使用にあたっての注意事項について(2001/03/09)
http://www.jiko.nite.go.jp/htdocs/AcSearch/ASP/news/news34.htm
「積層強化ガラス製食器」の商品テスト結果について(2001/01/17)
http://www.jiko.nite.go.jp/htdocs/AcSearch/ASP/news/033/news33.htm
●まとめ
以上、見てきたように、強化ガラスとりわけ積層強化ガラスについては、割れたときに一般的な予想を超えた跳ね方をすることや、
その破片が数多く、鋭利であることから、学校給食用食器として適していると言えないようです。特に、新品では割れにくいのに、
製品評価技術基盤機構の試験では学校で45回使用したものが新品に比べて割れやすくなっていることが分かりました。
これは1年にも満たない回数です。
一方、強化磁器(磁器)の方は、一般的な予想の範囲内で割れることが分かります。
いずれにしても、金属、プラスチック以外の、強化ガラスや強化磁器は、扱い方によって割れます。
まず、子ども達には、扱い方によって割れること、割れないように扱うこと、割れたときの対処などを、給食を通して教えていく必要があります。
現在強化ガラス食器を使用している学校や給食センターの場合、できれば、強化磁器への切り替えを検討していただきたいものです。
すぐに切り替えができない場合でも、まず、新品だけでなく、使用状況によって、強化ガラスの割れやすさがどのようになるのか、また、
割れたときにどのようなふるまいをするのか、教員、給食関係者を含めて確かめてはいかがでしょうか。その際に、
落下高さの2倍以上の高さに跳ねること、跳ねる範囲が広いことを想定し、眼や身体を保護するなど十分な対策は必要です。その上で、子ども達にも、
一般的な予想とは違う強化ガラスの割れ方についてきちんと教える必要があります。
ガラスや磁器が割れるということは、日常生活の中で必ずと言っていいほど体験することです。割れるからといって、
すべての割れる食器をむやみに避け、プラスチックや金属食器に変えることはありません。プラスチック食器には、溶出の問題があり、金属食器は、
熱伝導がよく熱い物では持ち上げられないなどの問題があります。
割れることを教育の中に取り入れること、その際、子ども達への安全配慮を行うことが前提で、強化磁器などを使用することが望ましいと考えます。
そして、現段階で、強化ガラスとりわけ積層強化ガラス(コレール)については、学校給食食器としての安全上の問題が大きいと考え、これまで、
強化ガラス食器については特に否定をしていませんでしたが、学校給食ニュースとしては、今後強化ガラス食器使用に対して注意を呼びかけます。
参考:
土岐市立陶磁器試験場ホームページ http://www.blk.mmtr.or.jp/~ceratoki/
(学校給食ニュース 2002年10月号)
[ 02/12/31 食器 ]