強化ガラス食器(コレール)事故に判決 製造者責任を認め、学校給食食器に不適と判断
1999年に奈良県内の小学校で、学校給食用強化ガラス食器が床に落ちて割れ、小学校3年生の児童が破片で目に大けがをした事故で、国
(国立であるため)とメーカーを相手にした裁判の判決が出されました。
判決では、メーカーの製造者責任を認め、国の責任は退けましたが、強化ガラス食器(コレール)が、
低学年も使用する食器としては不適であるとの認識を示しました。
すでに新聞などで報じられていますが、判決文を入手しましたので、詳細にお伝えします。(学校給食ニュース編集)
■事故の概要
奈良県内の小学校では1999年当時、強化ガラス食器(コレール)が使われていました。
1995年にアルマイト食器が古くなったなどの理由で食器を検討し、
1991年から1種類導入していたメラミン食器に買い換えをする方針を出します。しかし、
メラミン樹脂性の食器に有害物質の溶出の危険性があるという保護者の指摘を受けて、あらためて強化磁器食器導入を検討、その後、
コレール食器についても検討し、最終的に1997年よりコレール食器への移行をはじめました。1999年の事故当時は、
アルマイト食器とボウル型のコレール食器1種類を使い分けていました。
コレール食器が割れたときにするどい破片が激しく飛ぶことについては、児童に対してきちんと注意をしていたという状況にはなかったようです。
1999年2月、給食終了時、食器を片づける際に、他の児童と接触し、コレール食器を取り落とし、その破片が目に入って、角膜を傷つけ、
外傷性の白内障を負いました。
■判決の内容
強化ガラス食器そのものについては、設計上の欠陥を認めませんでした。
強化ガラス食器には、軽くて取り扱いやすい、有害物質の溶出がないという有用性があること。糸底がないためすべりにくい反面、かさばらない、
運搬や洗浄に便利であること。内容物の温度を実感しながら配膳できることは学校給食食器として有用性があること。危険性として、
強化磁器や一般的な磁器に比べて割れた場合破片が広範囲に飛散するが、反面、衝撃を内部にとどめる構造の結果であり、
割れにくさという有用性と表裏一体のものであること。陶磁器に似た外観も陶磁器への誤信させるものとは言えないこと。などを指摘し、
原告の主張を退けました。
一方、表示上の欠陥は認めました。
販売カタログにあるコレールの説明文や使用要項に、「ショックに強く丈夫だから、割れたりカケたりしにくく、多少手荒に扱っても大丈夫」
の表記や「ショックに強い、ガラスでありながら一見陶磁器のようで、しかも丈夫さはその数倍!」などの表記があり、安全性の注意についても
「粒子の粗いクレンザーやスチールたわしを使って洗わないでください」「高いところから落とすなど、急激な衝撃を与えることは避けてください」
「食器は安全に持ちましょう。また安全に取り扱える枚数を運びましょう」「食器同士が激しくぶつからないように扱ってください」
などの記述はあっても、破損した場合に予想される破片の飛散などについて記述がないことを指摘しています。取扱説明書では、
「コレールはガラス製品です。一般のガラス製品や陶磁器より丈夫にできていますが、決して『割れない』『欠けない』ということでゃありません」
「硬いものにぶつけたり落としたりすると割れないことがあります」「また、そのときに割れなくても、ついた傷が原因で、
後になって思わぬ時に割れることがあります」「割れた場合、音をたてて、鋭利な破片となって割れることがあります。
洗浄やご使用時はていねいにお取扱いください」「ガラスにヒビ、カケ、強いスリ傷の入ったものは、思わぬ時に破損することがありますので、
使用しないでください」や「ガラス製品は破損すると鋭利な破片となります。破片は十分注意してお取扱いください」
と一応の注意喚起があることは認めています。
その上で、判決では、これらの取扱説明書や商品カタログなどで陶磁器や強化磁器などに対して、丈夫で割れにくいことを強調しつつ、
割れたときに、「通常の陶磁器等に比べて危険性の高い割れ方をすることについては特段の記載がない」と、表示の欠陥を認めています。
さらに、コレールの割れたときの危険性についてはコレール購入の是非について必要な情報であるとし、その情報が出されていないとして、
製造物責任法(PL法)違反であるとしています。
「表示上の欠陥があったために、その危険性が十分認識されないまま、本件小学校の給食用食器として採用され、使用され」たものとして、
この危険性を「本件小学校の教諭らが認識していれば、給食用食器としての採用・導入を見合わせたり、あるいは、
その危険性を認識した上であえてその特長に着眼して給食用食器として採用したとしても、
児童らに危険性を周知徹底させるなど適切な対処を行うことは十分可能であった」として、学校側の責任ではなく、
表示上の欠陥による事故であったとしています。
また、小学生の「落とした」という責任については、「学校給食用の食器は、
危険状態に対する判断力や適応能力が十分でない小学校低学年の児童も使用することが予定されているものであるから、
それを前提にした安全性を備えるべきであるところ、コレールが割れた場合の危険性に鑑みれば、
それを使用者に認識させるだけの警告を書いた表示上の瑕疵(かし)は重大である」こと、
摂食による食器の落下は学校の日常において起こりうることであり、異常な用法でなく、過失を相殺するような責任はないと判断しています。
この結果、メーカーに対し、治療費・慰謝料等の損害賠償を命じました。
■学校給食用に使えないと考えるべき判決
今回の裁判は、製造物責任法(PL法)によりメーカーの表示上の欠陥を認めるものとなりました。
強化ガラス食器(コレール)については、この事故に先立ち、
1996年7月に東京都足立区で小学校2年生の児童が同様に角膜を傷つける事故を起こしています。そして、1999年のこの事故のあと、
経済産業省が「強化ガラス製食器に関するテスト」を行い、経済産業省外郭の製品評価技術基盤機構が2001年に「積層強化ガラス製食器」
の商品テスト結果として経済産業省のテスト結果を公表し、破損時の危険について注意をうながしました。
本紙「学校給食ニュース」でも、2002年10月号にて、裁判原告である被害者の保護者から情報をいただき、それまでは、
学校給食食器についてプラスチック食器の問題点のみを指摘し、強化磁器をすすめつつも、強化ガラス食器に一定の評価をしていましたが、
強化ガラス食器は学校給食用食器として適していないとして注意を呼びかけさせていただきました。
この判決が出されたことで、今後、学校給食用食器として強化ガラス食器(コレール)は使用に適さないと考える必要があります。少なくとも、
小学校においては、低学年が使用した際の危険性を判決で述べており、この判決後も使用し続けることは、万が一事故が起こった場合、
学校や自治体などの重大な責任はまぬがれません。
もし、強化ガラス食器を使用し続けている場合、事故が起こらないようにする責任が求められます。中学校等で使用を続ける場合にも、
危険情報や取り扱い注意の徹底が求められます。
もちろん、ポリプロピレン、メラミンをはじめ、近年登場しているプラスチックと金属の複合食器などは、プラスチックの問題点である、
原料や添加剤が企業秘密として公開されないこと、その原料性質上、さまざまな化学物質が溶出することなど、安全面での不安はぬぐいされません。
この判決を機会に、強化磁器等への切り替えを求めていきたいと考えます。
(学校給食ニュース2003年11月号)
[ 03/12/31 食器 ]