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合成洗剤とは

(1)歴史
 合成洗剤の歴史は短く、世界に普及してわずか半世紀強でしかありません。その歴史とともに大まかな流れを見てみましょう。
 合成洗剤は、第一次世界大戦中、ドイツで開発されました。第二次世界大戦後、アメリカで油脂不足から石けんが不足し、 石油から合成洗剤を大量生産するようになりました。1951年に日本ではじめての合成洗剤(ABS)が販売され、急速に普及します。
 ところが、ABSは、生分解性がとても悪く、10年後の1961年には多摩川で発泡が見られるなど目に見える汚染が広がりました。そのため、 世界各国で使用禁止になり、ソフトタイプとよばれるLASが主流になっていきます。日本でも68年に行政指導でLAS化がすすめられました。 しかし、その間にも発ガン性や免疫への影響、環境への影響が明らかにされ、62年には中性洗剤を誤飲した男性が死亡する事故も起こりました。
 その後、LASの毒性や環境影響も指摘される中、アルコール系や非イオン系などの洗剤が登場したり、「天然原料」 をうたった合成洗剤が登場しますが、いずれにしても安全性と環境への影響に問題があるかその疑いがとれないものばかりです。
 洗剤の界面活性成分だけでなく、製品に助剤として入れられていたトリポリリン酸塩が富栄養化の原因ではないかと社会問題になりました。 79年に滋賀県が琵琶湖富栄養化防止条例で合成洗剤をはじめて制限します。メーカー側はすぐに無りん洗剤を発売し、以後日本ではほとんどが 「無リン」になりました。しかし、 リンの代わりに入れられたアルミノけい酸が水に溶けず下水管の目詰まりや環境汚染を引き起こしたりもしています。
 このように合成洗剤の歴史は、人体と環境に対する被害の歴史でもありました。

(2)特徴
 合成洗剤は、石けんと異なり石油などの原料油からアルキルベンゼンやアルファオレイン、高級アルコールなどを製造し、たとえば、 アルキルベンゼンに硫酸化剤を加えて硫酸化し、水酸化ナトリウムで中和したのがLASというようになります。高温、高圧をかけてつくられるため、 合成洗剤を日常の中でつくることはできません。
 合成洗剤は、それぞれに特徴が異なりますが、共通して言えるのは、石けんよりも界面活性作用が安定しているということです。石けんは、 たとえば海水中に入れると薄まることとミネラルの影響ですぐに白濁し、界面活性作用をなくします。しかし、合成洗剤は、海の水でもきれいに溶け、 生物によったり、自然の浄化作用で分解されるまでたとえ薄められても界面活性作用が残ります。
 また、合成洗剤は、石けんよりも一般的にタンパク質吸着性や浸透性がすぐれ、洗い上がりの見た目の差を生んでいますが、同時に、 このタンパク質吸着性と浸透性が、人体や環境の問題を引き起こしていると言えます。
 BODの調査などで、合成洗剤の種類によっては石けんの方が環境負荷が高い結果になることがありますが、界面活性作用の持続や、 分解される過程と物質を見てみると、総合的には石けんより合成洗剤の方が環境に与える影響は大きいと言えます。


(3)人体への影響
・手荒れ
 合成洗剤の影響でまっさきに思い立つのが手荒れです。学校給食の調理現場でも、家庭でも手荒れの被害は深刻です。 合成洗剤のコマーシャルで常に「手荒れが減った」「手荒れしにくい」と宣伝を続けているのは、 逆に手荒れの被害が続いていることを物語っています。皮膚の被害は目に見えますが、より恐ろしいのは内臓障害です。

・内臓障害(肝臓、腎臓)
 合成洗剤の特徴から合成洗剤は、口から入るよりも皮膚から入る方が身体の中に長く残留すると考えられます。合成洗剤は、石けんと異なり、 薄まってからも界面活性作用が続きます。皮膚には防御作用があり、体外から不要なものが浸透しないようになっていますが、 合成洗剤はその特徴から、皮膚を通して直接血管に浸透してしまいます。口から入れば、消化器官系=排泄系に入るため排泄しやすいですが、 皮膚を通して入った場合、血管に入り、体内を循環します。しかも、異物、毒物を分解する肝臓でも分解できないため、長く循環し、 一部は脂肪の多いところなどに滞留することになります。
 そして、とりわけ肝臓・腎臓に問題を生じさせることが動物実験で分かっています。

・次世代への影響
 合成洗剤は、その性質から胎盤を通過し、胎児や受精卵にも影響を与えるという研究もあります。また、 精子の減少を引き起こす可能性も指摘されています。

 この他、急性毒性、慢性毒性、成長や繁殖障害など様々な問題が指摘されています。

(4)環境への影響
 合成洗剤の環境への影響はとりわけ水生生物や河川・海洋の生態系にとって深刻です。濃度が濃い場合、 魚はエラに障害を起こして死んでしまいます。
 また、細胞膜を通過したり、細胞膜のタンパク質を変成させる作用があるため、微生物や魚類の卵などは深刻な被害を受けます。 個々の種に悪い影響を与えるとともに河川・海洋の生態系を破壊する原因のひとつとなります。
 ちなみに、石けんの場合は、先に述べたとおり、薄くなったときに界面活性力や乳化力を失うため、淡水中でも合成洗剤のような影響はなく、 ミネラル分の多い海水中ではまったく影響はありません。
 なお、分解されず残った合成洗剤は、水道水として再び私たちの元にかえってきます。そして、私たちの身体に取り込まれていくのです。

食器と洗剤
 合成洗剤から石けんに切り替えたとき、落ちにくさを感じる人が多くあります。特にプラスチック食器の場合、 プラスチック自体が油などの汚れとくっつきやすい性質があり、それをとるのに合成洗剤の界面活性作用などが力を発揮しやすいからです。しかし、 その一方で、合成洗剤の残留性は、残留しやすい順に、素焼き>金属、プラスチック>ガラス、陶磁器となり、 プラスチック食器を使用した際の合成洗剤の残留も気がかりです。

(学校給食ニュース6号 1998年10月) 

 

 

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