学校給食の重さ~ひとつの死をめぐって
札幌でそばアレルギー裁判というのがありました。そばアレルギーの子が、間違って学校給食のそばを食べてしまった結果、
死亡してしまったという1988年に起こった事故で、1992年に一審の判決が札幌地方裁判所で出されました。そして、
判決では担任の教諭と札幌市教育委員会の安全配慮義務違反、過失とする判決を出しました。裁判は、その後控訴審で和解しています。
この事故の判決を通して、アレルギーと学校給食の問題点を見ていきます。
●事故の経過
被告の教職員は、死亡した児童(Aくん)が5、6年生のときの担任です。
3、4年生の頃の担任から、Aくんは、ぜんそくがひどいという指示を受けています。また、児童調査票というのがあり、親が「給食で注意すること、
そば汁」「小児ぜんそくがありますので、ご迷惑をおかけすることがあるかと思います」と書いていました。さらに、家庭訪問に際して、
Aくんの母親からぜんそくは「発作をおさえる薬を持っているので、その薬を吸引して休んでいれば大丈夫」という説明を受けていました。また、
「そばを食べるとぐあいが悪くなる」という説明も聞いていましたが、対応については、聞いていませんでした。
母親に対しては、給食でそばが予定されているときは「おにぎりやパンを持参させるように」という要請は行ってありました。
ぜんそくの発作は、5年生の時もあり、発作がひどいときには、Aくんを保健室につれていき、養護教員がみたり、
学校職員がつきそって帰宅させたことや、担任がつきそったこともあったといいます。
事前の「給食だより」にはそばが出ることが書いてありました。事故当日、母親もそばが出ることは知っていましたが、
それまでもおにぎりやパンを持たせることはなく、その日も持たせていません。給食がはじまり、Aくんは担任に「給食のそばを食べていいか」
と尋ねています。担任は、「うちから食べていいという連絡がきていないから食べないように」と注意します。
しかし、Aくんはそばの3分の1ほどを食べ、「口の回りが少し赤くなっている」と担任に申し出ました。担任が調べたところ、特に異常はなく、
Aくんに「そばを食べたらどうなるか」をたずねました。Aくんは、「顔じゅうにぶつぶつができて、2、3日は治らない。
病院に行って注射しなければならない」と答えます。
そのため、担任は母親に電話し、状況を説明しました。母親からの「帰してほしい」との返答に、ひとりで帰してもよいと判断し、
養護教員にみせず、帰宅させました。その途中で倒れて吐き、それを呼吸で吸い込んで気管につまり、Aくんは死亡しました。
●何を問われたのか
この事故の裁判で問題になったのは、担任教職員の予見可能性です。
担任は、教育委員会、学校、学校長からそばアレルギーについての具体的な情報を得ておらず、
そばアレルギーによる気管支ぜんそくの危険性について知りませんでした。しかし、Aくんがそばを食べられないこと、
気管支ぜんそくを持つことは知っており、担任には学校内の児童の安全性に配慮する義務があるとして、予見可能性を認め、
情報を入手していなかったことも含め、過失としました。
同時に、教育委員会も、情報を入手し、学校給食でそばを出すことに危険がともなうことと、そばを食べることによる事故を予見し、
回避することは可能であり、その義務を怠ったとして過失としました。
この裁判は、学校給食で食べたそばのアレルギーによる死亡という極端な例ですが、現在、
学校で取り組まれている給食とアレルギーや病気に対する関わり方と同じ問題を持っています。
全国には、アレルギーの子どものために、別メニューをつくったり、除去すべき食材を除くなどの配慮をしている学校給食がたくさんあります。
文部省もアレルギーに対しての配慮を求めています。しかし、具体的な方法が決められているわけではありません。
弁当持参、特別食などは、すべて学校としての判断であり、善意の対応なのです。そして、この善意は、
同時に責任を問われることであるということを、学校給食に関わる栄養士、調理員、教職員、養護教員および、保護者は理解しておく必要があります。
(学校給食ニュース4号 1998年7月)
[ 98/12/31 アレルギー ]