学校給食ニュース
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アレルギー対応を通して、学校の危機管理を考える

 学校給食でのアレルギー対応は、各地で様々な対応がとられています。学校給食としては除去食、代替食などをつくらず、 お弁当で対応する例をはじめ、卵だけは除去に対応する、すべてに渡って対応するなど、その方法は、自治体や学校の考え方、 施設設備により違います。
 一般的にアレルギー対応は、症状に対する対応として行われていますが、アレルギーの児童・生徒が増える中、 アナフィラキシーに対する学校の危機管理が必要ではないかと訴える声が上がりはじめました。
 アレルギー問題に取り組むアトピッ子地球の子ネットワークの赤城智美事務局長にお話しを聞きました。
(学校給食ニュース編集)


●アナフィラキシー
 アナフィラキシーとは、アレルギー反応のひとつで、 生命に関わることもある急性の症状です。症状は様々ですが、時間により急速に変化します。じんましんの症状、まぶたや口の腫れ、 呼吸が苦しくなり、気道が詰まったり、による心停止で死亡することもあります。
 学校給食でよく知られているのは、北海道で起きたそばアレルギーでの死亡例です。このときには、ぜんそく症状を持ち、 そばアレルギーのある小学校6年生の児童が、誤って学校給食で出たそばを食べてしまい、最初は口の回りが赤くなりました。担任が母親に連絡し、 状況を説明したところ「帰して欲しい」とのことで、養護教員にみせることもなく、つきそいもなく帰宅させましたが、その途中で倒れて吐き、 吐いた物が気管につまって死亡しています。
 アナフィラキシーを起こしやすい食物と、おこしにくい食物があります。また、運動で症状が誘発されて起こる場合もあります。そば、ピーナッツ、 キウイ、魚介類のほか、人によっては牛乳、卵、小麦で起こすこともあります。


●変わってきた学校の対応
 2002年4月より食品衛生法によって食品アレルギーの表示が義務化されました。義務表示になったのは卵、乳、小麦、そば、落花生の5品目で、 これは「特定原材料」と呼ばれます。これらについては、原材料だけでなく、添加物や製造工程などで一部でも使われていれば、 表示しなければなりません。また、これに準じる食品として、あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、 さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチンの19品目が表示するよう求められています。
 これにより、学校給食でも特定5品目が使われているかどうかを給食献立表に記載するなどの動きがでています。
 また、一番大きい変化は、アレルギー表示義務化により、食物アレルギーが疾患として社会的に認められたことだと思います。これまで、 無理解により「好き嫌い」の問題にすり替えられたりすることもあったのですが、認識が変わってきたと思います。
 アレルギー対応としては、学校や自治体によってまちまちです。お弁当持参なら認める、除去はできる、代替食もつくる、 除去とお弁当の併用などです。
 学校給食施設を見学しましたが、個別に除去食や代替食を作る難しさは実感しました。給食の調理施設は大量調理に適したもので、 少しでも個別なことをしようとすれば、別の鍋やコンロが必要になることも分かりました。栄養士や調理員の方々が、 苦労して対応されていることに感謝しています。

 一方、私たちのところには、学校側の過剰防衛のような事例も相談としてよせられるようになりました。
 学区が選択できるような地域で、小学校の入学時にアナフィラキシーをおこす可能性がある子どもが入学を拒否されたというケースです。この時は、 学校給食での対応ではなくお弁当で構わないという申し出を保護者がしたのですが、 給食でアレルギー成分の食品が飛散したりした場合の緊急時対応を求めたところ、「そういう子どもは困る」ということでした。
 学校ではすでに心疾患や腎臓疾患を持つ子どもを受け入れていると思います。緊急時の対応が必要なのはどの疾患の場合も同じではないでしょうか。


●共通認識と危機管理を
 アレルギーの対応についていえば、除去食や代替食、お弁当持参などの発症をさける日常の対応と、 アナフィラキシーのような緊急時対応の2つに分けて考えることが必要です。
 緊急時の対応は、アナフィラキシーに限ったことではありません。心疾患や事故などでも必要なことでしょう。最近の言葉では、リスク・ マネジメントが必要ということです。政府でも、食品安全委員会ができて、リスク・アナライシス(分析)と、リスク・ コミュニケーションを行うようです。アナフィラキシーというリスクに対して、どんな状況で起こる可能性があるのか、 起こったときどうなるかを分析し、そのことを学校の教職員と保護者、関係者が共通認識を持ち(コミュニケーション)、緊急時の対応を決める (マネジメント)ことが必要です。
 まず、アレルギーの程度について、保護者と医師との間でリスクを把握することが必要です。その上で、保護者と学校との間で対処方法を相談し、 具体的な対処方法を決めていきます。
 ある医師は、「アレルギー等のこどもの緊急時覚え書き」という書面を提案しています。緊急時の連絡先や担任名、かかりつけ医院名とカルテ番号、 担当医師の名前、かかりつけ以外の病院と医師名、緊急時の対応や注意点を記載できるようにしたもので、学校長、担任、医師、保護者、 市の担当責任者、消防署長などが書面を共有します。アナフィラキシーの場合、緊急対応が必要なのにも関わらず場合によっては症状が出はじめた時、 それがアナフィラキシーかどうかを判断することが難しいこともあります。ここで、消防署が入っているのは、 救急隊員にも緊急時に状況を把握してもらうためです。
 これをもとに、関西のある市では同様の覚え書きをつくっています。
 すでに、入学時にアレルギー調査票のようなもので全校児童の状況を確認する例は増えていると思いますが、このような「危機管理」 はまだごく一部の対応にとどまっています。
 この「覚え書き」のような書面は、文書にすればよいということではありません。この覚え書きを交わす過程で、保護者と担任、校長や教頭、 養護教員、栄養士、調理員らと子どもの状況や対応方法について共通認識を持ち、それを通じて、日常に安心感を持つことが必要なのです。
 とりわけ忘れてはならないのが、学校という場が、子どもの育ちの場であり、教育としての場だということです。アレルギーを持つ子どもと、 そうではない子どもが、この対応を通じて、差別やいじめの原因になるのではなく、その対応が教育になることも必要でしょう。
 たとえば、電話相談事例で、給食ではなくお弁当を持っていくことになった児童が、毎日お弁当を保健室で食べさせられたという例があります。 もちろん、牛乳の飛沫がとんで、それが肌に触れただけでアレルギー症状が出るという例もありますが、適切な対処をすれば、 同じ教室やランチルームで一緒に食べることができます。隠すこと、ただ、分けることは教育につながらず、むしろ、 いじめや差別につながることです。
 この事例からも分かることですが、アレルギーの対応は、栄養士や調理員など学校給食の関係者の問題だけではありません。学校全体、あるいは、 地域社会が一緒になって対処すべき問題です。そばアレルギーの例を出すまでもなく、保護者、学校など関係者が、リスクに対して共通の認識、 コミュニケーションを持っていれば防ぐことができることはあります。もちろん、アナフィラキシーを起こさないための対応が第一ですが、 万が一起きたときのことを考えることも必要です。
 アレルギーのみならず、緊急時の危機管理にリスク・マネジメントが必要とされています。


●増えていくアレルギーに真剣な対応を
 聞くところによると、学校給食で対応される食に関する疾病として、低血糖症や腎臓病、アレルギーがあるそうです。いずれも、児童・ 生徒のひとりひとりの状態で対処方法は違ってきます。また、入学時から状況が改善したり、変化することがあります。
 特にアレルギーの場合、症状や原因食材さえ変化することがあり、保護者でさえ、きちんと子どもの変化を把握しきれないことがあります。 そのため、これまで、入学時の「診断書」だけですべてを判断することはできないと主張してきました。どんなときにどんな症状が起こるのか、 症状が出たらどんな対処をすればよいのか、このことを、口頭でも構わないから保護者が医師のアドバイスのもと、学校の校長や教頭、担任、 養護教員、栄養士、調理員に説明し、得ることが必要なのです。そして、そのような対話は、 学校での申し送りだけでなく毎年行った方がよいでしょう。きめ細かい相互理解(コミュニケーション)こそが、危機管理と対応の第一歩です。
 アレルギーが増えています。医師に聞いても、特に小麦アレルギーが増えているようです。また、 中学生になってから発症するなどの例も増えているようです。現在、学校のカリキュラムで給食の後、 体育の授業が組まれている場合もあると思いますが、食後の急な運動によって強い症状が誘発されるという例も知られています。このあたりは、 学校運営のあり方も考えていただければと思います。
 今、学校給食の調理の民間委託が進んでいますが、個別の細かい対応の点で、いつも同じ人が給食をつくる直営に対し、 パートなど未熟練の人が働く民間委託には不安があります。経費節減も大切ですが、余裕のある学校運営、学校給食であって欲しいものです。


アトピッ子地球の子ネットワーク
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*アレルギー等の子どもの緊急時覚え書きなどの資料は、アトピッ子地球の子ネットワークの事務所にあります。お問い合わせは、 上記連絡先へお願いします。また、講演、学習会への講師派遣も行っています。


(学校給食ニュース 2003年7月)

[ 03/12/31 アレルギー ]


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