学校給食ニュース
投稿 | カテゴリ別記事一覧 | 時系列記事一覧 | トップページ |

【投稿】“子どもが危ない”学校給食を国民的課題にして取り組んでほしい 2010年12月 牛尾保子

学校給食ニュースvol.129 2011/02より
【投稿】“子どもが危ない”学校給食を国民的課題にして取り組んでほしい 2010年12月 牛尾保子
(学校給食を考える会前会長)

本稿は、2010年12月に牛尾保子さんから寄稿いただいた文章です。
2011年3月9日、牛尾保子さんがお亡くなりになりました。栄養士として、長年にわたり学校給食問題に取組まれた牛尾保子さんの最後のメッセージです。

■はじめに
輸入食品の問題と学校給食の関係は深い。
日本は敗戦後の食糧難に、アジア援助物資という名のララ物資である脱脂粉乳を、子どもに飲ませ、飢えを凌いだ時代があった。そして元々米飯国であったにもかかわらず、脱脂粉乳と輸入小麦粉の給食を強行した。このことにより日本の「パン好きの国民性」はできあがったといわれている。国土も広く食料の有り余るアメリカと、国土が狭く食料自給率の低い日本。この2国の需要供給バランスは組み合わせとして適しているかもしれない。
しかし、アメリカと日本では距離が遠く、新鮮な食品を届けることはできない。また、アメリカは、トラクターで大量にばら撒いた農薬や、長い人体実験を伴わない遺伝子組み換えなどによって、未知な食品を作っており、危険も多い。子どもにはなによりも安全で「おいしいものを食べさせたい」というのが、すべての人の希望だと思う。だが、現在の学校給食は、政権交代があったにもかかわらず、「学校給食ニュース」によれば、学校給食センターの大型化や「PFI方式」の進行など、合理化が更に進行している。また、学校給食法の改正、栄養教諭制度の発足、食育基本法制定など、今までにない動きもあった。しかしその一方で、子ども手当てを学校給食費に充てたいという声も聞く。
そこで改めて次のことを問い直してほしい。
・学校給食とは何か?
・子どもを中心に据え、子どものための学校給食はどうあるべきか?

■民間委託
1980年にも学校給食は存続の危機にあったが、百万人署名や自治労製作の映画「学校給食」で廃止を逃れた。しかし「臨調行革」の方針によって、学校給食の調理員は、マスコミの標的となり、公務員削減の目玉になった。東京の民間委託(以降「民託」)の実施は、1989年小平市の給食センターで最初に行われた。私たち全国学校給食を考える会(以降「考える会」)では、故・柳澤文徳先生(東京医科歯科大学名誉教授)を先頭に7月17日「民託反対決起集会」を小平市福祉館で開催した。以降、名古屋市、千葉市、広島市の熊野町、福山市、福井市、バナナボート集会、山形市、横浜市、鳥羽市、松山市、近江八幡市、柏市、静岡市、徳島市などで大きな集会を行った。また、故・西山千代子考える会会長や、故・下田エミ子副会長とともに、私も今治市、宇都宮市、富士市などの集会に参加した。
一方、東京23区の民託は、最初に1986年の足立区・台東区において、組合や保護者の反対を押し切って行われた。そして10年後の1996年以降、墨田区・荒川区を皮切りに、残りの各区でも民託化が進行してしまっている。

■問題点
考える会では、学校給食ニュースの牧下氏が「民託の経済効果」について調査を行った(ニュースVOL.126号)。しかしそれから20年も経過している。今一度検証するべきではないだろうか。以下、私が感じている学校給食の問題点を9項目挙げる。
1.学校給食は誰のもの?
学校は国民の税金で建てられている。土地も校舎も住民のものだと思う。しかし学校給食の民間委託とは、自治体が調理室や設備備品一切を貸し、企業が営業をして利益をあげる(収益があがらなければ企業は潰れる)。
一般に校内での業者の営業は禁止されているにもかかわらず、自治体が企業へ、住民の財産の一部である調理室等を貸し与えて、営業させ、子どもを利用して金儲けを行うことは納得できない。
2.学校給食は管理されているか?
校長は、住民によって建てられた学校の管理運営にあたり、職員の指揮監督をする立場にある。しかし企業に学校給食を委託した場合、職業安定法の規則により、校長は、調理施設へ入ることはできず、調理員への指導命令権ももつことができない。そのような場所や人が学校内にあることは、校長の権限剥奪になるのではないだろうか。子どもの責任を負う校長の立場を軽視していると、校長は怒るべきだ。
しかし昔から教師の給食嫌いには定評がある。そして校長の恐ろしいものは「地震、雷、火事、給食」といった
人がいるが、もしや給食の責任を企業が負うならばそのほうが良いと校長はお考えなのだろうか。もしそうだとすれば、その校長はずいぶんと無責任だと思う。
私が新米栄養士だった頃、恩師(女学校の国語名教師)で東京都教育長であった小尾先生に「学校給食は保健所が管理するべきではないでしょうか」と質問したところ、「給食は学校で行なうことだから、学校内のことは校長が一切を管理するのがよいのだ」と諭されたものだ。
3.教師と学校給食
・教師は教科の授業に加え、学級崩壊やいじめ保護者の問題、報告書など雑用も多く、給食指導が重荷である。
・教師の養成課程には栄養学や給食指導科目がないので十分手が廻らない。新卒赴任者は学校給食のやり方がわからず戸惑う。
・アレルギーの子どもがいて、指導が難しい。
・特にセンター給食の場合、給食が、教師自身も美味しくないと感じ苦しんでいる。
2010年7月23日NHKテレビで、病院の問題として、NSTチームという栄養サポートチームを作り、医師の栄養知識不足(医師で栄養の勉強をした人は11%しかいなかった)の解消に努力している。患者の回復増進には食事が重要で栄養を重視する取り組みが必要であると述べている。
学校でも「食教育」は以前よりは大幅に行なわれていると思うが、教育行政ではどのように考えているのだろうか。
4.料理(調理)は文化なのか?
(行政は、調理は教育ではないから民託でよいと考えているのか?)
区議会に民託問題で陳情書を提出した際、文教委員会を傍聴した。その時、民間委託する理由として、(1)人件費削減(2)学校給食は教育であるが調理は教育ではない、と担当課長は断言した。
日本古来の、京料理をはじめとする多くの郷土料理は、日本の大切な文化だと思うし、更に家庭で作られる心のこもった料理は、家族にとって宝である。食べることは生きること。調理は子どもの大切な教育だと思うが、あの発言はいかがなものだろうか?
5.調理員の問題
熟練した調理員の技術は貴重である。
現在日本の中小企業の製品で世界的にすばらしいものがテレビで紹介されているが、長年学校給食の調理で鍛えた調理技術も評価されるべきだと思う。食品の衛生的な取り扱い、切り方、計量を超えた長年の勘による味加減、火加減、配膳。これらは一朝一夕に育つものではない。
また、学校給食は献立を作る栄養士と調理員の微妙な連携プレーによって築きあげたのだ。日毎に変わる献立、短時間で大量の食材を洗い、切り、加熱調理、配膳、午後は洗浄作業。素人では無理である。調理員は、子どもの「おいしかったよ」という一言を生甲斐としていた。しかし定着しない派遣会社の調理員と栄養士との関係では、絆は結べないのではなかろうか。
調理は教育であり、技術を要する技術職であるから、調理員の採用にあたっては、調理師免許を持つ者(調理師学校卒業生または、試験による調理師免許取得者)とすべきである。病院では30年位前から、調理師は技能職として位置づけられていると聞く。もし一度に全員正規職員を採用することが無理ならば、当面は臨時職員でも経験を積み調理を継続的に勤務し、調理師試験に合格して正規職員となるよう、希望のある職種にしてほしい。
6.栄養士の問題
私は栄養士として学校を退職して30年近くになるため、現在の栄養士の問題については差し控えたい。しかし東京都では、栄養教諭の問題について、東京都の学校給食を長年守り育ててきた優秀な学校栄養職員が、栄養教諭の免許を取得しているにもかかわらず、栄養教諭としての位置づけを行なわないことは、実に遺憾なことと残念でならない。一日も早く希望者全員を栄養教諭に移行するべきである。
また現職の栄養士の「民託」に対する意見をぜひ教えてほしいと思っている(良い点、悪い点、困る点など)。
7.第一次産業と学校給食
「地産、地消」の言葉は現在知らぬ人はいないし、故・西山千代子栄養士が給食のすべての食材を有機野菜「大地を守る会」のものに、と言って頑張った30年前当時に比べれば、格段の進歩だと思う。10月30日NHK・BSテレビでも1時間番組が放映された。茨城県大洗の「さんま団子汁」(漁協婦人部)、宮城県女川の「ホヤ」、沖縄県の「紅さつまいも」、岐阜県の「鮎のフライ」、広島県福山市の「ボラのコロッケ」等が印象に残った。いずれも地域おこしに役立った。普通では売れないものの利用で、漁協
の婦人部も大量のさんまを多勢で骨を抜き、ミンチにして学校に届けた。子どもたちはとてもおいしいと笑顔で食べた。この番組では地域の人たちが進んで労力を提供してくれ地域おこしに役立つと喜び、給食現場や子どもが喜んで食べているところが多く放映された。嬉しい番組であった。
一方、「給食ニュース」で学校給食の献立を作る際の「有機農産物の使用状況」について調査をしたところ、(1)安全性が高いから使いたい(2)価格が高い(3)調理が大変(4)供給が不安、などを挙げ、実施については積極的でなかった。かって地産地消は生産者の協力・行政の反対・地域業者の反対があり、苦労が多かった。が、それ等がなくても、実際のところ地産地消などは進まない。
現在の合理化政策による学校給食では、安い輸入食材と、それを材料とした半調理済み加工食品や冷凍食品が主流となり、新鮮な本物の野菜の味を知らず、手作りのおいしさも知らない人ばかりになるのではないかと心配である。合理化給食の最終目的は「ハサップ」、アメリカの宇宙食だと教えられた。それならば食糧自給率40%の日本でも輸入食料で生きていけるのだろうか。ハサップよりも、土地を耕し、種をまき、水をやり、太陽の光と熱があれば野菜はできることを大人も子どもにも知ってほしい。
8.地震、火災などの避難場所としての学校
望むところではないが、地震や災害はいつ起きるか予知できない。地震などの「避難場所」として第一に浮かぶのは身近な学校である。だが給食施設があっても「民託」された場所では使えないのではないか?と疑問である。調理員も公務員ではないので地方自治体が指揮することはできない。給食センターの学校に調理室は無いから、水や食べ物の調達は期待できない。
9.「民託」のこれから
現在「民託」の企業の収支報告書は公表されていない。儲かっているのだろうか。
派遣職員は低賃金なので長続きせず、よく交代することが栄養士の悩みだと聞く。だが学校給食は保護者が給食費を支払っているので、以前から1兆円の産業といわれていた。
現在の外食産業は、コンビニをはじめマクドナルドなど世界的に目覚しい勢いで中小企業を倒してきた。その外食産業の新聞でかつて「学校給食に注ぐ期待のまなざし」という見出しをみた時には、ゾッとしたものである。
もし、外食産業が参入してきたら……、
(1)不払いのない安心な産業
(2)大量一括購入で安くできる
(3)外国産業輸入食材の使用(はけばとなる)
(4)冷凍食品で長期保存、半加工調理食料(何が混ぜ込まれているか判らない)の使用、揚げ物中心の献立となる。
……など、心配は尽きない。
現在は「民託」にする条件として、栄養士は公務員であるから物資購入や献立は変更しない(現在と違わない)と、保護者を説得してきた。公務員の栄養士では企業の利益にならないということで、最近は栄養士も「民託」企業の人を使うシステムにするという問題が発生してきている。「民託」の狙いはそこにあった。それでも学校給食は民託でなければならないのか。実に情けない。怒らずにはおられないのである。

■理想の学校給食(まとめ)
・直営……義務教育学校は、自治体の責任で、学校に調理場と隣接して食堂を作る
・自校献立……給食実施校には栄養教諭を必ず配置し、子ども・教師の要望に応えて献立を作る
・自校購入……安全な地域産の食糧を献立にあわせて購入する
・自校調理……正規職員である調理員を適正に配置
・食べる時間の確保
・学校給食費の確保
学校では、これらが揃い、校長をはじめとする全職員が、子どもと共に食堂で食事をする。一人一人の子どもの顔と名前を校長に憶えてもらう。先生も時間に追われず、食事時間は子どもとゆっくり食べて語ってほしい。そして子どもたちはできれば学年を越えて交流し、楽しく有益な時間を楽しめるようになるとよい。
理想の学校給食とは、あまり「食育」などと肩肘をはらず、心の通った温かくておいしい食事の時間が望まれているのではないだろうか。

私は、以前から学校給食は「生命の尊厳を学び身につける教育」と考えるべきだと提唱してきた。
「食べることは生きること」という言葉や「食」という字は人を良くすると書くとも言われている。
安全でおいしい食べ物は、命を守り、温かい心を育てる力がある。すべてのものの命を大切にして、他者をいじめるのでなく、愛し合い助け合う心が育つよう導いてほしい。
学校は生きる力を学ぶとともに心や体を育てなくてはならない。たくさんの地域の人たちに守られる学校給食の前進で、ともに生きる社会の土台がつくられるよう願ってやまない。

[ 11/04/01 投稿 ]


Copyright 学校給食ニュース desk@gakkyu-news.net (@を大文字にしています。半角英数の@に変更して送信ください)
Syndicate this site (XML) Powered by Movable Type 5.2.9

バナー バナーは自由にお使いください。