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学校給食全国集会 基調提案
学校給食全国集会 レポート 1
2003年2月24日開催
今年も、学校給食全国集会が開催されました。参加者は、調理員、栄養士、保護者を中心に700名。今年の集会は、
総合学習と食を軸とした教育について、小学校の教員をされている善元幸夫さんにお話しをいただきました。また、
各地の学校給食を使った教育の実践活動報告や、民間委託の議論を行いました。民間委託問題では、
はじめて委託会社の元調理員の方に登場していただき、体験談を語っていただきました。
民間委託で経費節減のために委託会社の調理員が厳しい状況に置かれていることを知ることができました。
学校給食ニュースでは、3月号、4月号を通して集会のレポートをお届けします。
今号は、基調提案と善元幸夫さんの記念講演です。(学校給食ニュース2003年3月号)
■基調提案
●はじめに
本集会は今回で20回を迎えることができました。
学校給食を効率化優先の合理化の対象とした、1985年の『文部省合理化通知』に対して、「教育」
としての学校給食のあり方を幅広い見地で討議を行い、提示しようと呼びかけ、全国から集い交流を積み重ねて成果を上げてきました。
全国学校給食を考える会、日本消費者連盟、日本教職員組合、全日本自治団体労働組合の各主催団体では、これまで積み上げてきた経験を生かし
「教育」としての学校給食の充実と、地域にねざした食生活・
食文化形成に向けていかに取り組んでいくかという問題意識のもとに開催をしてきました。特に今年の集会は「生命の授業」「健康学習」「食の授業」
などをについて学習を行うとともに、各地での学校給食に対する民間委託攻撃やさまざまな動きに対して、保護者、市民、栄養士、教員、
調理員が共同した対抗運動のネットワーク作りを進めることとしました。
●私たちを取り巻く状況
多くの自治体では行政改革や地方財政難を理由とした、公共サービスの切捨て合理化が進行するのと相まって、学校職場では調理員の削減、
不補充や民間委託などが進められ、特に正規職員の給食調理員はここ数年減少が続き、その代わりにパート、
臨時職員などの非常勤(不安定雇用労働者)の調理員や民間業者が増え続け、給食現場では
(特に多くのセンター職場では正規職員より不安定雇用労働者が多く職場環境に問題が生じています)大変厳しい状況にあります。
このような民間委託化の流れは、文部省通知と相まって市場原理・小さな政府論など、経費節減のみを優先させたコスト論に基づき、
給食の質の向上や、教育としての視点でなく、人件費削減=民間委託という構図のもと、ほとんどの場合、
調理員の人件費などの経費削減効果のみが強調され、行政側からは教育としての学校給食のビジョンが示されていないのが大きな問題となっています。
これは、給食づくりに誇りを持って取り組んでいる労働者だけではなく、保護者、
そして子どもたちの給食に対する期待を裏切ることにしかなりません。
異物混入が今日なお多くの学校給食において発生が報じられています。学校職場には実験用の危険物などもあり、
そして施設そのものが開放的であるので、安心で安全な給食の提供と、安全な教育環境の整備に向けた管理体制について、
学校全体で取り組むことが求められています。
雪印乳業中毒が発生してから2年が経ちましたが、無許可添加物の使用、食品偽装表示事件、
残留農薬問題など多く発生して企業モラルが問われています。牛乳の中毒事件の以後、
雪印を初めとする牛乳に対する不信は現場にも混乱を生じ影響を受けました。これからも牛乳には牛乳のすばらしさと価値がありますが、
学校給食としての牛乳、健康な牛から衛生的に搾乳された、安心して飲める良質な牛乳について考えていかなければなりません。
環境ホルモンや遺伝子組み換え食品、アレルギー物質などの給食の安全性を脅かす問題が相次いで表面化しています。
99年6月に厚生省から市販弁当に「DEHP」(フタル酸エステル類)が多く検出され、
原因と見られる塩化ビニル製手袋の使用について禁止する通達が出されました。食器についても、最近多く使用されている、
ポリカーボネート食器の材料であるビスフェノールAが環境ホルモン(内分泌かく乱物質)の一種であるとして社会問題化しています。
環境ホルモンの人体への影響については解明されていないことが多いことから、引き続き調査研究が重要としながらも、
これまで私たち四者共闘は食器や食材について「疑わしきは使用せず」を基本として此れまで対応してきました。
食器の交換については、調理員の安全衛生の観点から調理場の施設改善を伴い、調理場の施設改善や自治体の財政負担が増すなど困難な問題もあり、
自治体の判断に委ねられているのが現状です。現在使用している食器の安全性の確認や、
有害物質の溶出しない安全な食器の検討が重要になっています。
遺伝子組み換え食品については、まだ多くの問題が解決していません。国内においては民間企業が自主的に努力していますが、
国としての対応は後手にまわり不安を訴える声は高まる一方です。人体への影響と危険性が指摘されているなかで、
ヨーロッパでは表示の義務づけなど厳しい制限を課しています。これまで地場の食材を使用する取り組みを進めてきた地域では、
結果的に安全性を実証してきました。こうした取り組みは学校給食が直営で運営され、
給食に携わる様々な役割をもつ人たちによる交流があってこそ実現できるものです。
国内で初めて牛海綿状脳症いわゆるBSE(狂牛病)の発生が確認されて以降「食」混乱をしました。あわせて、
私たち給食職場にも大きな影響を与えました。「食」に対しては正しい知識と対策を講じながら進めていかなければなりませんが、
ことは牛肉にとどまらず、食材については顔の見える食べ物が一番安心でき、
しかも人間の健康にも地球の環境保全にも適していることを改めて教えてくれました。
地場産食材を使用した地産地消や郷土料理の紹介やランチルームの整備など食事環境の改善などを図るとともに、地域の特性生かした
「顔の見える関係」での食材を利用した食教育が一段と注目をされています。改めて食と農のあり方「日本の農業」
の将来も含めて考えなければ成りません。
●むすび
私たち学校給食職場を取り巻く状況は、
民間委託攻撃を初めとするさまざまな合理化提案や行政サービスを民間企業への開放を推進するためとした、「行政サービス・
アウトソーシング推進計画」や広域化に伴うセンター化やPFI手法の導入(民間活力の導入)
や児童生徒数を算定基礎とする交付金化する見直しなどの多くの問題で日常的に厳しい状況にあります。
また、近年食生活を取り巻く社会環境が大きく変化し、個々人の食生活の多様化が進んでいるなかで、朝食の欠如、
孤食などの問題が指摘されています。いま学校教育において望ましい食習慣の形成・食生活の定着をはかる必要があります。
子どもの食環境や健康状態は悪化の一途をたどっていますし、日本の食に対する有り方も危機的状況です、
安心で安全な学校の給食を中心とした取り組みを通じて、本当の食のあり方を考えようではありませんか。
今こそ多くの仲間、保護者、栄養士、教員、調理員が交流して、これまで私たちが積み上げてきた経験を生かし「教育」
としての学校給食の充実と地域に根ざした食生活、食文化の形成に自信と確信をもって取り組んでいかなければなりません。
[ 03/02/24 集会案内 ]
講演 子どもとつむぐ食の学びへ~今、総合学習がおもしろい~善元幸夫さん
学校給食全国集会 レポート 2
2003年2月24日開催
■講演 子どもとつむぐ食の学びへ
~今、総合学習がおもしろい~
善元幸夫さん
●プロフィール
1950年埼玉県生。1973年東京学芸大学卒業後、
中国や韓国から引き揚げてきた子どものための「日本語学級」(江戸川区立葛西小学校)に14年勤務する。このころから、
さまざまな総合学習の授業をつくりはじめた。また「日本語学級」にいたときから、「地域化をめざすアジアの国際理解教育」の必要性を感じ、
1995年「日韓合同授業研究会」をつくり、以後民間レベルでの交流を続けている。趣味は露天風呂めぐり(「露天風呂友の会」会員)、
2003年2月時、東京都荒川区立第四峡田小学校教諭。
著書に「今教師は何をすればいいのか」(小学館)、「おもしろくなければ学校じゃない」(アドバンテージサーバー)、
「カリキュラム改革としての総合学習5地域と結ぶ国際理解(編著)」(アドバンテージサーバー)、「それでも虫くい野菜を食べますか」
(草上文化)、「国境を越える子どもたち(共著)」(社会評論社)、「生命の出会い」(筑摩書房)、「黄花菜よ、いま再び」(筑摩書房)、
「ひとつの生命」(三五館)など。
●はじめに
まず、学校給食のありかた、そして学校給食のかかえているさまざまな問題を提起し、
闘われている学校給食全国集会実行委員会のみなさんに深く感謝します。
今日の私の話は、私が自分の小学校でやっている実践報告です。総合学習を通して授業革命とでもいうべき話、
とりわけ食に関することについてお話しします。一言でいえば、「教え込むのをやめよう」という教育です。子どもと一緒に、
子どもを中心にすえて考える学習です。
●激動期の教育の行方
今、教育は激動の時代を迎えています。これには二つの意味があります。
ひとつには、学校嫌いの子どもがものすごく増えています。昨年の暮れの統計で13万8千人の登校拒否です。
この状況は30年間に渡って増え続けています。前提として、「学校はいいものだ、行かなければいけない」という学校神話が崩れているのです。
もうひとつは、学校で大人と子どもの関係がずれています。「学級崩壊」という言葉があります。以前であれば、
「もしかしたら教員に向いていないのではないか」という先生の学級がうまくいかないということがありましたが、最近、
意外にベテランの先生の学級がうまくいかなくなることがあります。これは、「大人と子どもの関係の境目がなくなってきている」
「ボーダレスになっている」という事に帰因するのではないかと思います。伝統的な「教える人」「教えられる人」
という関係を求めていると成立しないのです。教師が自らの権威で「ちゃんと話を聞きなさい」と言っても子どもが聞かなくなっています。
「大人っぽい子ども」とともに、「子どもっぽい大人」も増えています。
子どもっぽい大人の話ですが、ある中学校の校長先生が保護者会の時に話をしていたら、そのうち親同士が話をはじめました。
その後には携帯電話で話をはじめました。校長先生が「静かにしろ」と怒ったそうです。たぶん、その校長先生の話はつまらなかったのだと思います。
しかし、つまらなくても聞く、聞いてこそ批判ができる、聞くということは大事だということが通じない大人ができているのです。
この親を批判できないのですね。私はすでに30年近く教師をやっています。私が教えた子どもがもう親になっています。
日本の1980年代の大変な時代に子どもだった人が親になりました。人の話を聞けなくなりました。非常に幼稚な大人ができてしまいました。
逆の、大人っぽい子ども、いわゆるませガキの話です。私は新宿区に住んでいますが、10時半から11時頃に高田馬場に行くと、
ファーストフードの店で子どもたちが「疲れた」と言ってドリンクを飲んでいます。「今日はよくやったよ」などと言いながら。
疲れた子どもが多いのです。私の子どもは中学生ですが、ある時子どもたちが授業中にエスケープ、逃げ出し、体育館などにたむろしていたそうです。
そのときに、生活指導の先生が見つけて「何をやっているんだ」と怒鳴ったそうです。かつてなら、子どもは黙って下を向いて、「すいません」
といえば、「これから気をつけろよ」で済んでいたでしょう。今は違うそうです。「うるせえ、てめえの世話にはなってない」
と子どもが怒鳴り返したそうです。教師は真っ青ですね。20年前から高校の生活指導の教員が殴られてきましたが、今や中学です。
子どもが統率できなくなった。ある意味では大人っぽくなったのです。
事は大人と子どもの境目がなくなってきているだけではありません。「公と私(プライベート)」との区別がつかなくなってきています。
子どもがやってはいけないこと、高校生の飲酒などはあたりまえですが、たとえば、電車の中で化粧する子どもがいます。電車で化粧をする子は、
周りの人が人間だとは見えていません。彼氏がいれば別でしょうが、周りはぜんぜん関係ないのです。だから、勝手に化粧ができます。
地下鉄では電車で着替えている子どもがいるそうです。
1年前に、神奈川に講演に行きました。水曜日の午後1時ぐらいのある駅での経験です。横浜より西の方のローカル線です。
ドアは手動でしか開きません。乗り換えで待っていたのですが、ベンチに高校生が二人いました。私服の子と制服の子です。タバコを吸っていました。
電車に乗り込んだら、その子どもたちが電車の中で少年ジャンプを読み始めました。ドアの両サイドにしゃがみこんで、です。
片方の子が読み終わりました。すると、もう片方の子がハイハイしながら取りに行くんです。ハイハイしながら戻って、
寝っ転がって読み始めたのです。
大切なのは、子どもをどう見るか、です。「とんでもないガキだ、しつけがなっていないから、教育基本法でも改正して、しつけを強化しよう」
という人もいるでしょう。「今の子どもは大変だよ。筋力が落ちちゃっているからハイハイするのも無理もない」という人もいるでしょう。
私はこう思いました。「この子どもたちは2時間前、学校でつまらない授業を受けていたんだろうな」と。おそらく、タバコを吸うのも、
電車でハイハイして、寝っ転がって本を読むのもやってはいけないことだと判っているのでしょう。でも、つまらない学校から出て、自分を解放して、
それでこんなことをしているのでしょう。
このような時代の中で、教育の問題をラジカルに考えていこうと思います。
私は「教え込むのをやめよおう」、つまり、子どもを教え込む対象として見ない、子どもを主体としてみなし、
一緒に作る授業のようなものに可能性がないかと考えているのです。
では、失敗談も多いですが、総合学習についてお話しをしていきたいと思います。
●感覚を引き出す授業
私はまず、感覚を引き出す授業の大切さから述べてみたいと思います。
そこで、利き水の授業をやりました。今、中学校1年生になっている子どもたちが小学校4年生のときのことです。
4年前の4月、毎日新聞の1面で「においをかいでどの川の水かあてることができるすごい人」が紹介されました。この人は、
外国から水の鑑定を受けたときに、その水はどういう岩盤を通り、どういう枯草を通るかを当てたといいます。20年ほど前の話だそうですが、冬に、
都民から水道の水がおかしいと電話がありました。すべての貯水池を調べると結果が1カ月かかるそうです。そこで、船に乗って利根川をずっと上り、
支流まで行って、ここがあやしいと当てたそうです。工場排水をつきとめたのです。
そういう人が現実にいるんです。東京都の水道局の職員です。前田学さんと言います。
私は、この人と一緒に授業がやってみたいと思いました。
前田さんのような人がいるから、ひとりひとりにとって水とは何だろう、ひとりひとりの感覚で水は何だろうと考えて欲しかったのです。
まず、取り組んだのが「におい」です。
私の学校の給食は自校方式で、栄養士も調理員もがんばって、プライドを持ってやっています。
3時間目の休み時間に給食調理場の近くに子どもを行かせます。それで、においをかいで「食材あて」をやりました。ニンニクとかショウガとか、
においのきついものはすぐに判るようになりました。そのうちなんと12~13も判るようになります。
前田さんに言わせると、子どもが小さければ小さいほど偏見がないから判るようになるそうです。
中には、「先生、今日はプリンがでる」という子どももいました。パックのプリンですからにおいはしないでしょう。恐らく、
献立を見たんだと思います。でも、私は「すごいね、プリンがわかるなんてたいしたものだ」と答えました。
次に、利き水です。荒川区と新宿区の水を比べました。ほとんど全員判りました。比べてみると荒川の水は味もかなりきつい。
「先生、なんでこんなにちがうの」という話になりますね。そこで、待ってましたと、「いいところに気がついたね」と、地図を出します。
荒川の水は利根川の水です。新宿の水は利根川と多摩川のブレンドです。利根川は長さが300kmを越え、多摩川は200kmちょっとです。
子どもたちはいろんなことを考えました。利根川の下流までにはいろんな生活があったり、水を何度も使ったりするのです。
多摩川はそれに比べ短いのです。貯水源の高さは2000mぐらいでほとんど同じでした。
こういう水の違いを知るためにはじめて知識が必要になります。
そこでゴールデンウィークの5月、東京の子どもたちの田舎の各地の水を持ってきてもらおうということにしました。前田さんに聞くと、
プラスチックの容器ではにおいがついてだめだということです。たまたま理科室にぜんぜん使われていない広口瓶がたくさんありましたので、
水を採取してきてもらいました。きちんと管理しておいて、いよいよ前田さんが明日登場ということになりました。
同僚と「コップが問題だよね、プラスチックのコップはにおいがでるからやめよう」という話になり、
給食で使っている牛乳瓶をきれいに洗ってもらって借りました。
そしていよいよ前田さんの登場です。ところが、前田さんの話はよく判らないんです。水の味というのは感覚ですよね。
これを言葉にするのは難しいのです。だから、ワラのにおいがとか…専門用語がやたらと出てきます。わけは分かりませんが、
何かおもしろそうだということは子どもたちには充分判りました。話が終わって、利き水をやろうということになりました。
2クラス50数名の牛乳瓶に少しずつ水を入れていきます。
においをかいだら、「うう!? これは牛乳のにおいがする」。これでこの実験は終わりです。牛乳瓶ににおいがついていたんですね。
その後、茶碗でやりなおしましたが、子どもはこう言いました。「においってすげえなあ」って。これが全体の子どもに反応として広がりました。
「においってすごいんだ」。これは一生忘れないと思います。
利き水のようなことをやって浄水場に勉強に行くと、子どもたちの反応はぜんぜん違うんです。一回自分のからだをくぐらせる。
「ぼくの感じた水はこうだ」と判って浄水場に行くと子どもの関心が深くなっていくのです。
ついに今年は、利き塩の授業をやりました。みなさん、塩の味の区別はできますか?
今日は調理員の方が多いそうですからかなりできますよね。
この授業、実におもしろかったです。学校に梅の木があります。昨年6月にたくさんの梅の実がつきました。
梅の木は折れやすくてあぶないのですが、校長先生に頼んで、みんなで木登りをして梅を取りました。
さて、ここで問題です。この梅、傷をつけないで梅を取り出すにはどうしたらいいでしょうか。子どもたちからは「塩に漬ける」「砂糖に漬ける」
という答えが出ました。砂糖に漬けたのは梅ジュースにして飲んじゃいました。塩に漬けたのは梅干しにしました。
東京都の消費者センターに問い合わせて塩の味覚の資料を送ってもらったのですが、塩にはいろんな種類があって奥が深いんです。
一般に塩って味の区別がつくようでなかなかつかないようです。だから、キャッチフレーズや成分表示で買っているとのこと。
ところが、子どもはかなり、この違いが判るんです。野菜スープに岩塩と工場塩を別々に入れて飲んでもらったら判るんです。
これがおもしろいです。
おもしろければいいんです。問題はその先に何をみるかです。
現代の浮遊感覚の今の子どもたちが、自分のからだの感覚を通して、痛いとか、冷たいとか、ぬるぬるとか、いい気持ちとか、
そういうことをたっぷりやることで、感覚を取り戻すことが大事だと思います。
東京のある区では区をあげて来年小学4年生から6年生まで英語の授業をやるそうです。私は、子どもには子どもの時代があると思います。
通過すべき時代です。「大人の準備教育」のみを優先させてやって何になるんだろうかと思います。子どもの感覚を大事にすべきです。
私が好きなルソーは「エミール」でこう言っています。「子どもが一番先に見つけるのは感覚だ、五感だ、と。そして、
大人はそれを教えることだけを忘れている」と。
●あなたは虫食い野菜を食べますか!?
荒川区では4年生の子どもたちが移動教室で清里に行きます。清里は、山があって、ともすると子どもたちは体をいっぱい動かして疲れておしまい、
なんです。清里の隣にJR最高駅の野辺山があって、ここにすごい人がいます。
青野農場の青野さんです。本物の野菜を作っています。お父さんが北海道の学校を出て、全国を探し回って、
清里の隣の野辺山の土地を選んで開墾したそうです。クリスチャンです。子どもたちのインタビューの時、
「私は自分の家族が食べるものと同じものを食べさせたい」と言いました。これは大変なことです。
牧場と農業を一緒にやっていますが、これはとても効率が悪いそうです。でも、あえて青野さんはそれをやっています。
有機農業をやりたいからです。正確にはそれだけではまかないきれないそうですが、牛のたい肥で有機肥料を作っているのです。
子どもたちが青野農場に行き、まず、びっくりします。トンビが飛んでいました。空にトンビが飛んでいるということは、
下の土の中にモグラがいるということです。モグラがいるということは、小さな虫がいるということです。土が生きているんですね。
おみやげに青野農場のレタスを箱で買ってきて食べました。レタスは本当においしかった。
こんなにおいしいレタスを食べたことがありませんでした。
そこに奇跡が起きるのです。私のクラスにどうしてもレタスを食べない子どもがいました。その子どもが、このレタスはおいしいと言うんです。
お母さんがびっくりしました。そこで、子ども達は「何でこんなにうまいんだ」、という話になります。そのときに、子どもたちから自発的に
「調べてみたい」という気持ちが出てくるのです。授業は作るのではなく、作られていくのです。
子ども達はいろんな調べをやっていきます。ある子ども達は有機農業について調べてみたいとか、ある子ども達は農薬は恐ろしいのだろうかとか、
日本で有機農業する人は何人いるかとか。
いろいろ調べておもしろかったのは、有機野菜は高いか安いかということでした。栄養士さんが決定的な役割をしてくれました。
私の学校では栄養士が補助的な役割で来てくれるのではなく、最初から一緒に参加してくれました。
このグループがまず最初に町に出て有機野菜の値段を調べてきました。圧倒的に有機野菜の方が高いんです。子ども達は、
こんなにおいしい野菜が食べたいけど高いよね、という話になりました。そして、栄養士さんのところに行きます。
これは打ち合わせしていたのですが、「そうだね、有機野菜は高いよね。でも、見てごらん、」と、
有機野菜の値段の入った契約書を見せてくれました。すると、結構安いんです。それで、うちのクラスの授業は全部ひっくり返ってしまいました。
「有機野菜はいいものだけれども高い」という話から、「有機野菜にも安いのがある」ということになります。これは栄養士の努力ですね。
有機栽培も契約することによって安いこともあるということがここで判りました。ここで授業が大転換します。調べたことをもとにして、
自分たちの給食に毎日有機野菜を食べることができないだろうかと。
また、この結論に至るまでに、子どもたちはもうひとつの大きな試練に出会います。
全国の知り合いを通して有機農法の生産者にいろいろアンケートを取りました。その質問は、「有機野菜は高いんですか」なんていうものでしたが、
山形の生産者が、その答えの最後に、さらっと「みなさんは有機野菜に虫がついても買いますか?
ごく当たり前の虫食いのあとがありますが洗えば何の問題もありません。安心して食べてください」と書いてありました。
これに子ども達は悩みました。虫=ゴキブリのイメージがあったのですね。「えー、虫がついているんか!!」
有機農業で有機野菜はいいけど、虫食い野菜でもいいの、という話になりました。悩んだ末に、全校にアンケートを取ろうということになります。
1年生から6年生まで、職員も含めてアンケートを取りました。するとおもしろいことになります。ちっちゃい子どもは虫が好きなんです。
だんだん大人になると虫が嫌いになってくるんです。これはもしかしたら偏見なのかもしれません。大人達のアンケートでおもしろいのが、
虫食いでも有機野菜は食べるとありました。子ども達が気がついたのは、「偏見」という言葉は使わないものの、そういうものかな、
つくられた感覚なのかということに気がつきました。
子ども達は、調べていって、おもしろくなってきたのです。そこで行動として、何かやってみたいというところに行きつきました。
うちの学校では週に2回だけ有機野菜を食べていたのですが、毎日有機野菜を食べたいんだということになりました。では、
そのためには何が必要かとなると大型冷蔵庫が必要ということでした。それは買えるか、というと、区に頼まなければならない。
それで区長さんにお手紙を出すことになりました。
「区長さんこんにちは。お忙しいところすいません。僕たちは第四峡田小学校の4年2組です。僕たちは有機野菜が高いか安いか調べていて、
スーパーに行き調べました。そしたら普通の野菜より有機野菜の方が高いということが判りました。でも、
大地のグループというところで契約をすると普通の野菜より有機野菜の方が安くなるときもあることが判りました。
それに有機野菜の方が健康にいいということも判りました。僕たちの学校の栄養士の清水さんに聞いて判りました。
僕たちの学校であまり有機野菜を使っていません。それは野菜をとっておく大きな冷蔵庫がないからです。なぜないかというと予算がないからです。
僕たちも健康な野菜を食べたいのでぜひ大きな冷蔵庫を買ってください」と、あるグループは書きました。別のグループは「区長さん、
あなたは有機野菜を食べたことがありますか? 食べたことがなかったらぜひ食べてください」などと書きました。
結果は大型冷蔵庫を買ってもらえませんでした。
●子どもたちが語るレタスの授業
子ども達がこれをどのようにとらえたのでしょう。この年の最後にニュースステーションという番組を作りました。
子ども達が第5位に選んだのがこの話です。ではこれからそのビデオをみてみましょう。
司会1:ニュースステーション第5位は、区長さんに手紙を出したことです。
4年2組では有機農法の野菜を給食で食べたくて食べたくて区長さんに手紙を出したそうです。担当の人お願いします。
茶間君:僕たちは7月に移動教室でこの地図にのっている清里というところに行きました。そこでびっくりしたことがあります。
それは有機農業をやっている青野さんという人に会い、おみやげに有機レタスをもらい、僕たちはその有機レタスの味にほれてしまいました。
そこで僕は青野さんに「なぜ有機野菜を作っているんですか」と聞いてみたら、青野さんはこんなことを言ってくれました。
「僕は家族のためにからだにいい野菜を作ってあげたいという気持ちでみんなにも作ってあげてるんだよ」と言われて、僕たちはびっくりし、
感動しました。そこで、建君に質問です。建君は有機レタスの話をどう思いましたか?
建君:
このレタスの味ににほれた理由は苦みと甘みがあると僕の舌にあっているような気がして普通のスーパーのレタスよりも2倍近くおいしいと感じられました。
建君:そして僕たちは2学期ごろから清水さんというこの学校の栄養士さんと勉強をしはじめました。
どんなことを勉強したかというと有機野菜のことや有機農業のことを教えてもらいました。この資料が調べたことの一部です。たとえば、
いっさい農薬を使わない農業の名前や有機野菜を知っているか知らないかというクラスも調べました。そこで、茶間君にも質問です。
茶間君は清水さんの勉強についてどう思いましたか?
茶間君:むずかしかったけれど勉強になりました。
建君:でも、ひとつ清水さんは不満に思っていることがあるんです。それはこの学校に大きい冷蔵庫がないので、
給食で木曜日しか有機野菜が食べられないことです。だから僕たちは大きい冷蔵庫を買ってくださいと区長さんに手紙を出しました。
ここでちょっとだけ区長さんの手紙を読んでみます。
「4年2組のみなさんこんにちは。
学校でみなさんが一緒に食べる給食や毎日食べる野菜についてひとりひとり一生懸命考えてくれたご意見やご質問にお答えします。(省略です)
今のところ大きな冷蔵庫を買う予定はありません。4年2組のみなさん、将来、日本人として自分を大事に、友達を大事に、地球を大事に、
国を大事にする大人になってください」
この手紙にも書いてあったように区長さんは大きい冷蔵庫を買ってくれませんでした。しかし、僕たちはあきらめずに、
6年生になるころには大きい冷蔵庫を買ってもらい有機野菜をばくばく食いたいと思います。
司会2:ふたりにインタビューをしてみたいと思います。よろしいですか。
司会1:区長さんからの手紙を読んでどう思いましたか?
茶間君:忙しい区長さんなのに手紙をくれただけでもうれしかったです。
建君:僕たちはいつか冷蔵庫を買ってもらうために、また手紙を出したいと思います。
司会1、2:ありがとうございました。
実はこれは後日談があります。区長さんからのお手紙を読んだあと子どもたちはあっさりと「区長さんは何も判ってないね」って言いました。
私がここで言いたいのは、私達はこのことを運動として何かやるのではなく、子ども達はそういう目を持つということを言いたいのです。だから、
「僕たちはまたチャレンジをしていくんだ」となります。
自分達は本物の体験をして、いろんな学習をしたら、冷蔵庫が欲しいと行動をしたくなりました。だめだと言われても、
子ども達はこれで終わっていないんです。その後、野辺山の青野さんの一番近い小学校を探してそこにお手紙を書きました。ビデオレターです。
「自分達は有機野菜についてこんな事を知ったから、ぜひみなさんも…」と。すると、返事が来ます。「野辺山には、
有機農業やってるところもあるけど、農薬使っているところもあるんだ」といってくるのです。
生産者の近くの子どもと消費者の東京の子どもがつながっていきます。これがおもしろいところです。
限りなく子ども達が食について関心を持ち始めてきます。だから、大型冷蔵庫というのが今実現しなかったけど、
子ども達にはこの学習がずっと残っていくと思います。
●同じ米は二度作れない
食の授業の話で、これから失敗の話をします。今年大学を卒業した子ども達にとんでもない授業をやったことがあります。
あの子たちが5年生の時です。5年生の社会科では、日本の産業構造を教えます。
その当時、私は、第一次産業をやるときに、どこの県に何がある、すばらしい、だけではなく、日本の第一次産業は先が見えない、
それが日本の現実だと教えることもいいことだと思いました。子ども達と一緒に日本の農業を調べていきました。井上ひさしさんが、
NHKで日本の農業のルポをやっていました。日本の農業の大変さがわかるいい番組でした。
そのビデオを使いながら子ども達と一緒に勉強をしていきました。
最後にはどんな子どもになったと思います。暗くなりました。農業のことなんかお先真っ暗で、勉強したくない、となりました。
そのときに、そうだよね、日本の農業はお先真っ暗で暗いよねと、と思うと同時に、ものすごく後味が悪かったのです。
12歳の子どもが農業に関わりたくないという、これでいいのかと本気で考えました。
その2年後にまた5年生の担任になりました。この子たちとは一緒に農業体験学習をやろうとしました。
私の友人で米の本場の宮城県登米郡の阿部さんの指導をうけ米作りをやろうということになりました。「子ども達に田植えやろう、米作ろう」
と言ったら、子ども達から「先生、それだせえ」って言うんです。昔の自分なら、ださくたっていいものはいいんだ、やるんだと言うんですが、
それも言えません。「じゃあ、何やりたいの」と聞いたら、米のおいしい炊き方とか、農薬のこととか、生活についての米だったんです。
私は第一次産業としての米という意識しかなかったんですが、あの子達は、生活から米のことを考えているんですね。そこで、
出てきたテーマを全部やりました。最後にひとつだけ残ったのは、米はもともと熱帯作物なのに、
日本ではなぜ名産地が寒い地方なのかということです。
ひとつのグループの学習がクラス全体の問題となって、FAXや、お手紙を出したり、電話したり、親戚に聞いたりしました。すると意外なことに、
米の味は、「光合成と呼吸」と関係があるということが判りました。昼間太陽の光で光合成をします。夜、呼吸するとどんどんエネルギーが減ります。
実がどんどんやせるというんですね。おいしい米というのは、昼間がんがん光合成の光ででんぷんを作って、
夜は無呼吸に近い方がいいというんですよ。だから、寒い地方や盆地がおいしい米ができるんです。もちろん、その他の要素として水も関係あります。
そういうことが判ったら、子ども達はものすごく張り切ります。
そして、いよいよ米作りがはじまります。
私はいかにも先生っぽいことをやります。雨水と水道水の違いとか、日陰と日向の違いとか、縄文米とササニシキの違いやろうとか。
これってあまりおもしろい結果にはならなかったのです。
それ以上におもしろかったのは、土から植物が出て、実がなるということでした。単純ですが、米を育てるということがおもしろいことなのです。
宮城の阿部さんは、「善元先生、同じ米は2回できない」と言うんです。私は素直にこの言葉に感動しました。
同じ田んぼでも、取水口と最後は違うし、気候や土地が違うと全然違うというのです。
バケツ田んぼと自然の田んぼは全然違うんですね。米は八十八のプロセスがあるといいますが、はるかに複雑です。
冷害が近くなると体で感じで水の高さをどう調整するか、とか、稲をさわりながら、もうじき穂が出るから肥料を入れようとか、真剣勝負です。
実はそれがおもしろいのです。
田植えから、米がだんだん大きくなります。
米の花がありますね。阿部さんの「米通信」によると早朝とか雷の後に咲くらしいです。白くてつうんとするにおいがあるらしいです。
阿部さんからの「米通信」が来ていました。夏休み、クラスの千野君がたまたま米の花が咲くときに立ち会ったんです。
彼はうれしくてしかたがないんです。2学期になったらみんなにポラロイドのほとんどピンぼけの写真を見せ回っていました。
1万年前から米は誰かが作っています。でも、彼にとって米の花を見たということに意味があるんですね。総合学習のおもしろさがここにあります。
みんないっせいに何かをやるんではなく、ひとりひとりに自分の学びがあります。僕が見たんだということをみんなに伝えることが楽しかったのです。
この年はタイ米が大量に捨てられた年です。コメ不足で緊急輸入して抱き合わせで米を買わされた年です。それで最後はタイ米の勉強もしました。
収穫近くになって、阿部さんからまた「米通信」が来ました。「今私達は新食糧法で悩んでいます」って来ました。
新食糧法はコンビニで米が買えるんだからいいじゃないか、となるんですが、米についていっぱい調べてみます。減反のこと、
自給と外国の米が入ることを知ります。子ども達は大討論会をやると、みんな自給派なんです。米は自分達で作ろうという話になります。
それで最後に子ども達が書いた文章があります。これを読んで、この2年前の子どもたちに、いかに私が間違った授業をやったか判りました。
私は東京学芸大学の社会科で、日本の産業構造としての米のことを考えていました。ところが、彼らは全然違うふうに考えました。
「米を作ることはいのちだ」と。私はこれをみてびっくりしました。5年生の女の子がこんなふうに書きました。
「田んぼを守るということは、水を守るということ、水を守るということは、いのちを守るということ、いのちを守るということは、
農家を守るということ、これの意味は、田んぼを守るということはすべてを守るということなんだと思います。
田んぼは食料のためにだけあるのではない。田は水を100年かけてきれいな水にしてくれる。その水は草や木を育てる。
その木や草は空気をきれいにしてくれる。それすなわちすべてのいのちを守るということ」
私はこれをみたとき、涙が出てきました。私はこの文章を理解できるけど、書けないです。私は社会科の授業で、
農業問題しか教えてきませんでした。ところが、子ども達は米作るとは命を守ることだ、つまり環境の問題だと考え始めたんです。
総合学習とはそういうおもしろさです。教師の教え込みより子ども達が学ぶことははるかにダイナミックです。
この文章をよくよく読んでみたら、改正された農業基本法の前文と似ています。日本人は私が小さいときは、米を年間140kgも食べていました。
しかし、今、東京などでは80kgを切っています。需要が減れば、米価は下がるのです。しかし、
米問題は需要と供給で決めていいんですかとあります。法律自体にはいろいろ問題はあるでしょうが、子ども達はこの前文と同じことを言っています。
子どもたちは子どもたちなりの学びから真理に近づいていくのです。
私達は、こういう学びをひとつひとつつむいでいきながら、子ども達といのちの問題や食の問題をやろうとしているのかなという気がします。
●コンビニから日本の社会がみえる
生産者と東京の人が結びつく授業を創るのは結構難しいことです。そこで、私はこんな授業をやってみました。コンビニの授業です。
今、やたらとコンビニが増えています。なんで増えたのでしょう。
そこで、子どもたちと市場調査をしました。すると利用する人が限られているんですね。コンビニというのは一言でいえば「あいててよかった」
なんです。つまり時間を金で買うとでもいうのでしょうか。
利用者で多いのは若い人、子どもたちや高校生などです。主婦はあまり使っていません。
コンビニでおもしろかったのは、「時間ごみ」という概念です。お弁当などは時間が来ると捨ててしまいます。スーパーなどは安くしますね。
なんで捨ててしまうんでしょう。
子どもたちがいろんなコンビニに調査に行きました。
あるコンビニは、あまった弁当をホームレスの人たちにあげてたけれど、
そうなると時間前にやってきてホームレスの人たちがずっと待っているようになったのでそれをやめたと言いました。別のコンビニは、
従業員にあげていたとことが、従業員が欲しい弁当を一番下に隠しておくようになったと言うんです。それでやめたと言います。
ampmっていうコンビニは、アメリカの中でもコンビニとしては後から出てきたところですが、ここには弁当がないんですね。
ここには絵はがきみたいなものがあって、これ、と頼むと冷凍食品を出してきます。つまり店の電圧を変えていて、高速で解凍加熱するそうです。
だから、注文を受けてから弁当を出すので、ごみが出ません。聞いてみると「結構うまいんです」って。
総合学習のおもしろさは、やっていくにつれどんどん内容が進化していくことです。この問題についてampmは解決していったのです。そこで、
そこで、私たちは、子どもたちとそれぞれのコンビニの本社に手紙を出しました。東京はごみ処分で困っているのに、なぜあなたたちは、
食べられるものをすててしまうのかと…。
なぜ弁当を捨てるのか、コンビニから資本主義が見えるのかなあと思います。値段を書き換えるより捨てる方が人件費が安いそうです。
残飯が世界でも有数の国・日本です。東京都の残飯だけでも途上国50カ国の1日の食料をまかなえるというのですが、
残飯になる前の食べられるものを捨てる国は一体なにか、ということです。そういうことを、子どもたちが調べ、生身の、
浮遊感覚ではないところからものごとを調べていくおもしろさがあるのかな、と思います。
結論的な話をします。20世紀型の教育は、どれだけ知識を持っていて、技術として漢字や計算ができてということでしたが、
これからの21世紀型の教育は、それをどう使うか、ということだと思います。
私が尊敬する民俗学者の柳田国男さんは、教育分野でもすごい仕事をした人です。戦後間もなくこのようなことを言っています。
はじめて目をみひらいた子どもに、たいくつさせる話をしていい理由はありません。
試験にひっかからなければ記憶もしないような知識を詰め込んで何になりましょう。大事なことは目の前の現実だと言っています。
目の前にある大事なことを教えず、どこかから持ってきたものを詰め込んで教える、それは非常に冷淡だと言います。
今まで学校は子どもに冷淡だったという意味をもう一度かみしめる事が重要だったと思います。
それが、30年間登校拒否が増え続けた原因なんです。たぶん、給食のことも同じです。たっぷり時間をかけることです。スローフードなんです。
教育には無駄が必要なんです。
午後のシンポジウムで、効率性と民間委託の話が出てきて、民間委託でなくてもやれるという話があるかと思います。それも大事ですが、
教育は効率だけで考えてはいけないと思います。無駄が大切なんです。
ルソーが言っています。教育とは時を稼ぐことではない、時を失うことだ、と言っています。
稼いで省略して効率よくやってはいけないと言っています。無駄が必要です。
昨年、文部科学省のシンポジウムでパネリストをやりました。食というのはどう考えても楽しいことです。ここが原点です。誰でも味が判るんです。
だから、いいものを出さなければいけないんです。
ところが、食教育はともすろと「指導」になっています。朝ご飯を食べないとどうなりますか? 栄養バランスが崩れるとどうなりますか?
まさに、今の子どもが抱えている問題です。それはもちろん大事ですが、やればやるほど何か親にとっても、子どもにとっても怖くなる、
強迫観念にならないでしょうか。共稼ぎで働いている家はどうするんだ、というような食の指導ではいけないと思います。
調理員が手作りのものをつくる、それがいいことなんだ、そういうところが一番重要だと思います。
効率のようなことはその次に考えなければいけないと思います。
その意味で、私もこの運動を皆さんと一緒にやっていきたいと思います。
子どもの学びはエンドレスです。子どもを教えの対象ではなく、子どもが自ら学んでいくんだという、授業を作れていったらいいなと思います。
ご静聴ありがとうございました。
学校給食ニュース2003年3月号)
[ 03/02/24 食教育 ]
学校給食全国集会 パネルディスカッション
学校給食全国集会 レポート 3
2003年2月24日開催
前号に引き続き、学校給食全国集会の報告です。今回は、午後のパネルディスカッションをまとめてお届けします。
前半を地産地消や地場型給食などの取り組み、後半を民間委託問題について会場とのやりとりを含めて討議しました。その内容を報告します。なお、
紙面の関係上、テーマごとに発言の順番や内容について趣旨を変えない範囲で編集してあります。ご了承ください。
(学校給食ニュース2003003年4月)
■司会:
野田克己(全国学校給食を考える会事務局長)
■パネラー:
善元幸夫(小学校教諭・記念講演)
福山隆志(日教組栄養職員部長、
佐賀県学校栄養職員)
丹波栄子(自治労現評学校給食部会長、
京都市調理員)
Kさん (元学校給食受託会社調理員) 敬称略
■地産地消他、各地の取り組み】
司会:この学校給食全国集会は、85年の「合理化通知」を機に、栄養士、調理員、教職員らと、
保護者や市民運動の団体が垣根をこえて学校給食のあり方を議論し、望ましい学校給食を求めていく場としてはじまりました。今、
給食問題は民間委託問題をはじめとして各地で様々な動きがあります。今回も、意見を出していただき、議論をしていきたいと思います。
一方で、学校給食を軸にした食教育のあり方や学校給食の可能性を考えることも大切です。そこで、午前中の善元さんの話を受けて、
前半は各地の取り組みの紹介、後半は民間委託問題という形ですすめていきます。
●佐賀県での地産地消の取り組み
福山隆志さん
(日教組栄養職員部長、佐賀県学校栄養職員)
現在、佐賀県で学校栄養職員として給食センターに勤務しています。食数は1200食です。8名の調理員と一緒に仕事しています。以前は、
七山村の栄養職員として集会で発表させていただきました。ニジマスを使った地場産給食の紹介をしました。地域で獲れる、
育てられる食べものを子どもたちに出したいという気持ちで給食づくりをやっています。
今回も地産地消の取り組みについて紹介します。
現在、全国で地産地消の取り組みがすすんでいます。地域の生産者と直接話をして、学校給食に生かしています。私たちが今やっているのは、
学校給食パンのさらなる改善です。佐賀県は人口が88万人程度、義務教育の子どもが15万人ぐらいです。とても小さい自治体です。
この少なさを生かして、佐賀県の学校給食パンはすべて国産小麦で対応しています。
佐賀県の国産小麦パンの小麦は、北海道産が6割で、佐賀県産が4割です。
学校給食会が一元的に取りまとめてやっているのは他と同じで、輸入小麦も扱っていますが、国産小麦ですべてまかなえるという体制になりました。
これには、私たち栄養職員をはじめ、学校給食関係者の長い働きかけの結果です。
また、最近、行政が日本の食糧自給率向上を目標にした施策をするようになっています。これが後押しになりました。
佐賀県のすべての学校給食パンを国産小麦にすることもできますが、県内にもいろいろな考え方があり、
すべて国産小麦パンになっているわけではありません。これについては、栄養職員としてさまざまな機会をとらえて国産小麦を使う意義を訴え、
学校給食関係者に理解してもらうよう働きかけていくつもりです。
日本全体としても、学校給食パンに国産小麦を使っていく運動を広げていきたいと思います。
私が仕事をしている浜玉町の浜玉中学校での取り組みを紹介します。
国産小麦のパンは、国産小麦にグルテンが少ないため輸入小麦パンを食べている子どもたちにとってはもの足りない、かみごたえがない、
ぱさついている、あるいは焼きむらがあると受けとられます。
国産小麦パンの佐賀県で全体での取り組みは3年目です。浜玉町では昨年からでした。昨年は子どもたちから不満が出ました。
学校給食関係者の仕事は、子どもたちに安全な食べもの、本来の食べものとは何かを伝えることだと思います。私は、
学校給食用のパンについて話をしました。保護者には、通信を出して国産小麦パンについて説明しました。
子どもたちは1年かけて変わりました。
子どもたちは学校給食の食事にあまり関心がなかったと思います。特に中学校なので、毎日の学習に関心が向いているのが実情です。
そのなかでパンが変わったことが、子どもたちの関心を引きました。
「なぜ、福山さんが栄養士に来たことで、学校給食のパンの小麦が輸入から国産に変わったんだろう」という疑問があったようです。もちろん、
それ以外にも、私が浜玉町に行ってから給食が変わり、いろんな意見が出ました。ひとつは、「味が薄い」というのがありました。
私なりの味付けというのがあり、調理員さんもとまどいながらやってくれました。
「味が薄い」というのは、具体的には、化学調味料を使わなくなったということです。
前任者が、わりと化学調味料などを使う方で、引き継ぎ期間の4月の献立は、化学調味料を使っていて、私もずいぶんとまどいました。
5月から私が立てた献立に変わったのです。
子どもたちは「福山先生は、髪の毛も薄いけど、味も薄い」という言葉がありました。そういう風に、どのような形であれ、
興味を持ってくれたことは事実です。
その延長線上に国産小麦パンがあります。
国産小麦パンは、単に残留農薬が少ない安全性、子どもたちの健康に結びつくだけではありません。
子どもたちに国産小麦パンを使う理由を説明するには、順序立てて、いろんなことを並列して話す必要があります。
輸入農産物のこと、食糧自給率のこと、日本の農業や第一次産業の将来、このようなことを子どもたちに話しました。
私の立場で子どもに話すことができる時間は、給食の時間であり、授業のように計画的、意図的に話すことはできませんが、話をすすめるうちに、
食べものについて子どもたちが考えるような形ができたと思います。
学校栄養職員は、授業を具体的に作ることがなかなかできません。午前中は、学校給食を安全につくるという仕事があります。午後は、
翌日の給食について調理員と詰めていくなどの仕事があります。そういった時間がないなかで、学校給食の中身で教育に携わっていくこととなります。
そういうところからも、子どもたちに一番分かりやすいのは、地域の中の食材を使って、
子どもたちが身近に感じる形で学校給食を提供していくことだと思います。
浜玉町は、小学校3校、中学校1校で、1学校給食センターです。なかなか子どもたちのところに行く機会が持てません。
地産地消の取り組みも、私の自己満足に終わりかねないところがあります。地産地消の取り組みは、子どもたちに伝わってこそ、意味があります。
学校給食は、教育です。何のために地産地消の取り組みをやっているのかと言えば、子どもたちがこの取り組みを通して、
食べものに対する正しい認識を持てるようになるためです。
学校栄養職員に求められる役割が変わってきているのも現実です。
今、栄養職員のあり方について、様々な議論があります。制度が変わっていくときに、地産地消の重要性を考えに入れておくことが必要です。
みなさんと一緒に、栄養職員のあり方、地産地消のあり方を考えて行きたいと思います。
みなさんとともに、地産地消の取り組みを広げていきましょう。
司会:地産地消の取り組み、国産小麦パンの取り組みは全国に広がっていますが、100%国産小麦パン、そのうち4割は県産小麦という取り組みは、
先進的なものです。
ところで、福山さん、価格はどうですか?
福山:価格は2~3円高くなります。なかなか大変です。特に、土曜日が完全に休みとなり、そのため、
他の始業式や終業式などの日の行事が長くなり、そのような日にも給食を出すようになっています。
これまで土曜日の完全給食はほとんどありませんでしたので、単純に給食だけは回数が増えています。給食費は上げられないので、
給食費の余裕がなくなっているのも事実です。1食2~3円高でも厳しいのです。
ただ、国産小麦パン使用は保護者に理解されていますが、今の経済状況では給食費の値上げができない環境にあるということです。
●学校給食のすべてのことが教育になる
丹波栄子
(自治労現評学校給食部会長、京都市調理員)
調理員は学校における食教育の一端を担うために、研修や学習を積み重ねています。地産地消に取り組む調理員も多くいます。
全国には栄養士さんがいる学校といない学校があります。調理員が、学校菜園でつくった野菜などを使っての給食を行うなどの取り組みがあります。
京都市は政令指定都市で、1日に約7万食強作ります。単独校方式です。統一献立で、4ブロックにわけ、
1日1ブロック約2万食の食材を確保しています。そのため、地場産使用は限られた部分だけになっています。
研究会で栄養士や教員とともに四季折々の郷土料理を考え、また、地場産の使用についても、野菜だけでなく、夏に鱧(ハモ)
を使った料理を出そうとか、地域の伝統品種であるナスを使ってスパゲッティやカレーをしています。葱も伝統品種の九条葱を使ったり、
米も京都府の舞鶴のものを使うなど、できるところからやっています。
食教育について、調理員も栄養士さんと一緒に考えています。
また、保育所、学校給食、病院の調理員が集まって、食材に安全なものを使っていくための議論や食教育についての議論もしています。
今、朝食抜きで学校に来る児童が増えています。食生活の中での偏食や栄養のかたよりもあり、これらについても取り組む必要があります。
食教育は、どのようなことにもつながります。地産地消も子どもたちに伝えられるし、顔の見える調理を通して、
子どもたちに接することも食教育ですし、単独校方式で、給食を作るにおいが伝わることも食教育です。各地域の郷土食を伝えることも、
安全な食器を使用し、説明することも、食教育です。
京都では、手作りカレーをしています。こんなことがありました。お皿にご飯を入れてお椀にカレーを入れて出したのですが、ある教室で、
カレーをお皿のご飯にかけて食べてもいいし、お椀のカレーにご飯を入れて食べてもいいと教員が言ったそうです。
その後、保護者からクレームがつきました。子どもがレストランでカレーの入った食器にご飯を入れて食べたというのです。
「そういう指導をされては困る」というクレームでした。
ささいなことでも、教育的な効果があるということです。
水問題や環境問題なども食教育です。
牛乳の紙パックをトイレットペーパーにリサイクルすることを伝えるために、子どもたちが飲んだあとの紙パックを自分たちで洗い、
トイレットペーパーとして学校に戻すという環境教育を行ない、これはそのまま学校給食を通じての食教育となりました。
いわゆる食教育だけでなく、さまざまな問題に取り組むことが必要なことです。
司会:これまでもこの集会で、地場型の学校給食を実現させようという呼びかけをしてきました。新聞記事などを見ていると、地産地消、
地場型の給食が増えています。食べてもらうことで地域の発見、地域の農林水産業の発見、究極のところでは顔の見える関係づくりにつながります。
生産から流通、消費までの流れを理解するというのは、学校給食法の中でも学校給食の目的のひとつとして書かれています。
どなたか、地場産の報告が会場からありますか?
●鹿児島県垂水市の地産地消
会場より1:鹿児島県垂水市の調理員です。私たちの市は人口が2万人、児童数が1600人弱です。
地産地消の取り組みを2年ほど前から行っています。食材の約70%を市内産で提供しています。鶏肉、豚肉、魚、卵、野菜がほとんど地元産です。
野菜は、キャベツ、大根、人参、ジャガイモ、里芋、インゲン、ほうれん草など、地元の農家がつくってくれたものです。
地場のものを取り入れる過程では、農林課、水産課、漁協、農家グループ、給食関係者が毎月会議を開き、どのような食材があるのか、
それを納入してもらう方法を決めています。前年度の献立表を見て、何月に、キャベツが何キロ、人参が何キロ必要だということを出し、逆算して、
農家が生産しています。
最初は食材の提供だけでしたが、すすめていく中で、食材を食べる子どもたちの給食への関心が高まったような気がします。同時に、
食材を提供してくださる農家や漁協の方も子どもたちがどういう給食を食べるのだろう、
子どもたちにどういう安全な食材を供給すればいいのだろうと、子どもたち、生産者の両者の関心が高まってきたようです。
やはり、学校の総合学習を利用して、子どもたちが学校給食の食材を農家のところに収穫に行って、給食室に運んでくれたり、植え付けの時に、
農家の方が「いつごろ植え付ける」と情報を出し、職員会議で総合学習の時間に行けるクラスはないか、ということで、
作業に行ったりするようになりました。
地場産を取り入れることによって、学校、子どもたち、栄養士、調理員、そして、農家や漁協の方など、横のつながりが深まったような気がします。
本当の意味での学校給食や食教育をみんなが一体となって考えられるようになった気がします。
そこでの問題点なのですが、午前中の講演で無農薬や有機栽培でもコストが安いということがありましたが、私たちの場合、
有機栽培などではコスト的に高くなってしまいました。昨年、「まるごと垂水」と言って、すべての食材を地場産で作る給食をしました。そのとき、
農家から米も地元のを使って欲しいということがありましたが、計算してみると、米を毎回地場産にすると今の給食費ではおぎなえませんでした。
給食費を上げるかという議論もありました。
学校給食ニュースの資料を見ますと、「1食あたり10円の補助を市が出している」「年間180万円の補助がある」などという情報もあります。
地場を使うことで、行政の中で給食費にある程度の負担をしているというところがあれば、そのあたりも教えていただけたらと思います。
また、午前中に「虫食い」の話がありました。調理員として、無農薬、減農薬、有機栽培の場合、虫食いや不揃いが気になります。
自分たちがメンチカツなどを手作りする大変さと、虫を1匹を残さず見つけるという作業の労力はぜんぜん違います。
このあたりで、地場を取り入れるとき、調理員や栄養士の協力体制や意志固めがないと難しいと思います。
もちろん、私たちのところで、「虫がいた」という話はありませんし、学校給食の中で「虫が付いている野菜があるのはなぜか」「農薬とは何か」
ということを学校でも教育してもらうよう要望していますが、実際に虫が出たときの対処のしかたをどのようにされているのか、
午前中の講演の他に例があれば教えてください。
●虫食い野菜について
善元:まず、虫食い野菜のことについてですが、有機野菜の学習をしていた時、ある有機農家から「虫食い野菜を食べますか」
と投げかけられたことがあります。子どもたちの本音の感想は「げぇー、それを食べるの!」です。それについてあえて教師が「食べていいんだ」
と言わなかったんです。教育にはたっぷり時間をかけることが必要なんです。そこで子どもたちは自分たちでどうしようかと考えて、
全校にアンケートをとったんです。すると、「虫が嫌いというのはこういうことだったんだ」、「大人はそれでも有機野菜を食べているんだ」
ということの理解につながったんだと思います。つまり、虫に対して子どもたちは偏見を持っていたわけですが、
そういったものを克服しようと努力していたんですね。
こういう状況だからこそ、私は自分の身体を通して、自分の感覚を通して発想していくことも大切だと思います。
食の教育で、時間をかけることももちろん大事です。同時に、「おいしい」「うまい」という感覚を子どもたちが取り戻すことが大事です。
食を教えるのではなく、食を「つちかう」教育が学校給食にあると思います。
先ほど紹介した利き水の前田さんは、利き水をするとき一切お茶を飲まないそうです。タバコも吸いません。そこまでプロとしてやっています。
人間の味の形成は、まず、甘いという感覚を持つそうです。3カ月から6カ月の乳児は苦いものはすぐに出してしまいます。
6歳ぐらいになると塩味、酸っぱさ、苦みなどが分かるようになります。だから、小さいときの味が大切なのです。
ここでつちかわれた味の感覚が一生続きます。
だから、学校給食での教育、食をつちかうことが大事なのです。
味覚は作られるものです。言いかえれば文化でもあります。
日本人はあまい、すっぱい…などのいわゆる五味に「うまみ」という味覚をもっています。この「うまみ」というのは英語でもumamiです。
言葉がない、翻訳できなかったから、そのまま「うまみ」という単語を使っています。だしのあまさ、おいしさ、ということですね。今、これが、
日本の食卓からどんどんなくなっていくような気がします。
ヨーロッパでもマクドナルドなどのファーストフードが増えました。それに対して、スローフードという運動がはじまりました。ゆっくり、
味わって食べよう。これはややおおげさですが、この運動は食を通して、人生のライフスタイルを変えていこうとしているようにも思われます。
発想をちょっと変えれば食べものを作るのは時間もお金もかかることなんだ、ということです。
学校給食で、手作りで調理をして、それをおいしいと感じることがとても大切なことは、ここにあります。ファーストフードではできないことです。
それが教育です。
●補助について
福山:今、学校給食用物資については、国からの補助がなくなる方向です。すでに牛乳を除きほとんどありません。これからは、
市町村が補助をしていくというのが流れだと思います。学校給食に地場産物を使うことが地域の農業を活性化するのは事実です。
その後押しをするために市町村が補助を出すことが増えていくと思います。
実際、私が仕事をしていた場所では、米に対する国の補助金がなくなった後も、学校給食会から米を買っていましたが、
地場産の米を扱うことに対して村が補助する動きが出てきました。
丹波:補助金については、地方分権の時代になっていますので、調理員からもそれぞれの自治体に提案していただきたいと思います。
●その他の質疑:手作り味噌について
会場より2:福井県武生市の調理員です。地場産についてです。実家では、我が家の大豆で手作りの味噌を毎年作っています。
私は調理員歴約25年です。私が調理員になった頃、学校ごとに味噌を手作りしていました。いつの間にか、作らなくなっています。病原性大腸菌O-
157以降、衛生的な面が厳しくなりました。
できれば手作り味噌を食べさせたいのですが、学校給食で地元産の大豆の手作り味噌を作って出してもいいのでしょうか。
司会:手作りの味噌については、資料集(学校給食ニュースのまとめ)にあるように、
他の自治体で実際に手作りの味噌をつくって学校給食で出しているという例があります。
味噌だって手作りでできるという経験は、生きるための基盤、インフラになることです。学校給食の中で導入した事例はありますので、
それらを参考にして導入してください。
福山:手作り味噌についてですが、味噌は、塩を使いますし、食中毒菌が基本的に死滅する方向で発酵します。 食中毒菌が増えるような方向だとちゃんと食べられるものにはなりません。だから、おいしい味噌ならば、有用微生物が増え、 タンパクを分解してよい味噌になっています。保管場所も例えば土の中で穴を掘って室(むろ)をつくるなど、 伝統的な知恵を生かせばいいと思います。味噌は、熟成がすすむことがおいしさの秘訣です。
●その他の質疑:ドライ方式について
会場より2:ドライ方式の導入がはじまっています。今2校です。私たちのところで、保健所のふき取り調査では、
ドライ方式の調理場が一番汚れていると指摘を受けました。ドライ方式を推進することがいいのでしょうか?
福山:ドライ方式とウェット方式でいえば、ドライは大気中の水分が少ないため衛生的に望ましいとされています。 油汚れが残るという話ですが、これは清掃の問題です。毎日の作業では水は流せないと思います。調理作業が終わった時点で、 水を流さなくてもきちんとふきとりをやることが必要になります。ドライ設備は床材がプラスチックなので、洗浄剤が規定されたりします。 私たちが進めている石けんを使用する運動と関わりますのでこのあたりは気をつける必要があります。ただ、 油汚れも含めて水ぶきでかなりの部分きれいになります。
丹波:京都はドライ校が9校あります。ドライ方式では調理員の意識改革が必要です。水を流してはだめ、 こぼしてはだめと思っている調理員もいますが、調理作業をしていたらある程度は水が流れたり、飛びます。そのときはふきとる、 という感覚でいてもらいたいと思います。床も基本は水を流さないことになっています。しかし、油を使った日、週に1度、 洗剤で洗ってからふきとっています。調理台についても、洗ってふきとるという形をとっています。 ドライ方式だから汚れるという話はないと思います。
●その他の質疑:生野菜について
会場から3:兵庫の調理員です。キュウリなどの生野菜を給食に出していません。ボイル野菜が中心になっています。
普通のレストランや家庭では生野菜を食べていますね。どうしたらいいんでしょうか。
福山:生野菜を出すとき、加熱しなければならないということはありません。考え方の基本としては清潔であれば出していいはずです。
生野菜といえば献立としてはサラダですが、充分に洗浄し、冷却・保冷ができる状態にして子どもたちに冷たい状態で出すことができれば、
生野菜を無用な調理行程の中に放り込むことはないと思います。
目に見えない細菌が相手ですが、一度、10分、30分、1時間、2時間とサンプルをとって細菌検査をやってみたらいいと思います。そうして、
菌の増殖が確認できなかったら調理場の調理に問題がないということですから、火を通すことに解決策を求めなくてもいいはずです。
私は学校栄養職員として仕事をしています。調理員も調理員としての仕事の裁量権を広げる取り組みをして欲しいと思います。
栄養職員は全校配置されていません。センターの場合、配置されていますが、単独校方式の場合には3~4校に1人程度です。
その中で調理員が学校給食を作っています。そして、安全に学校給食ができています。栄養職員の職務とされている衛生管理についても、
調理員が責任をもって行われています。この実態が調理員として職務の広がりと思います。
調理員として自分で問題を解決しようとされる方、ひとまず栄養職員に問題を投げかける方、それぞれ、
置かれた状況や立場によって考え方や行動が違うと思います。その中でも、調理員がもっと自分の職務職責を広げていって欲しいと思います。
地産地消の取り組みとも関係があります。これからますます地場野菜が給食現場に入ってきます。規格外のものや泥付きの野菜が来るでしょう。
そのようなとき、すべての衛生管理を栄養職員に責任持たせるというのは物理的に無理になっていくと思います。
調理員の職務内容は、検収、調理、配分、清掃というのが1960年の定数確定のときの基準として出ています。
ここに書かれていないこと以外はやっていけないということではないと思いますし、実際に違います。
仕事の幅を広げる取り組みをしていく働きかけが必要だと思います。
丹波:調理員として、生野菜の使用は研究会活動で議論していますが、栄養士がなかなか首を縦にふってくれません。もちろん、
全国的には生野菜を使用しているところはあります。ただ、次亜塩素酸を使っているところもあり、それはどうかと思います。
実際、冬でも食中毒が出ることがあり、栄養士がそのあたりを心配しています。
善元:病原性大腸菌O-157以降学校給食では生野菜が扱えなくなったというのは、どこかおかしいと思います。私も調べてみたんですが、
法的な根拠はありませんよね。加熱した方がいいというぐらいです。誰も責任をとりたくない事なかれ主義の時代のあり方だと思います。
教育も同じです。今教育はまさに激動の時代です。このような時に私たちは、教育の限界を語るのではなく、
教育の可能性を求めていくことが大切だと思います。この問題は教育委員会の判断、校長の判断でできるはずです。
そうです、私たちにはできるはずです。やれることはやりましょうと提案したいのです。
司会:現場の声として、でもやはり食中毒が心配ということはあろうかと思います。しかし、たとえば、福山さんが言ったように、 自分たちで検査するなど、生野菜はだめ、と決めてかかるのではなく、実現するための方策を自分たちで考え、 実行していくということはできると思います。そのような事例をぜひお寄せください。
■民間委託問題
司会:民間委託問題については、この集会で何度となく議論してきました。それぞれの団体で各地の事例や戦いの取り組みをしています。
今回は、前半を受けて、もう一度考え方についてまとめていきたいと思います。
今回は、はじめての試みですが、特別ゲストとして、Kさんに来ていただきました。Kさんは、委託会社の調理員でチーフをされていました。
その観点からいろんな感想を持っておられます。
●直営調理員がうらやましい
Kさん:私は学校給食は長くないのですが、直営で老人ホームに勤めていました。その後転居し、その老人ホームに通いきれなくなったため、
自宅の近くの病院の調理員をしました。そこは委託会社が調理をしていました。何年かそこで勤務していましたが、
入札で勤めていた会社がその病院の調理を落としてしまいました。その後、養護学校の給食調理を会社が受託したため、そこで勤務しました。
その学校は、民間委託2年目だったのですが、最初の委託会社が1年目で撤退してしまい、その後に入ったというわけです。
先ほど、みなさんの話を聞いて手作り味噌の話などうらやましかったです。私たちが何かをやりたいと思っても会社に相談しなければいけませんし、
もちろん「やってはいけない」となります。会社が恐れているのは衛生面です。何か衛生面で問題が起こったら会社に大きな損害がでます。そのため、
言われたとおりにやるしかないというのが現実です。
私たちの場合は、労務委託であり、労力だけの委託です。食材は学校側からいただき、それを使って、栄養士の指示で私たちがつくるだけです。
委託2年目の学校でしたが、調理の会社が変わると同時に、栄養士も変わって新しい人になっていました。
養護学校で、小中高のお子さんを預かっています。3段階に分けて食事を出します。小学校低学年は11時半に出します。
喫食2時間前までは何もやってはいけない、せいぜいお湯をわかすぐらいです。それからやるわけですから並大抵のことではありません。
どなりあいの戦場のようなところです。
会社ですから、利益が大事になります。私たちには人件費は安く、厳しく、人数が少ないところでやらなければならないという状況でした。
そんな中で衛生面が一番心配されます。生野菜で出せたのはきゅうりだけでしたが、それも下処理室で3回洗って、中の厨房で3回洗います。
洗ってはすべての水を抜いて、洗浄漕も洗って、というのを計6回やるわけです。これでは間に合いません。頭数が必要です。
社員を使っていては人件費がかかりすぎます。そこでパートを使うことになります。午前中のパートの人、
午後からのパートの人と短い時間の人を大勢雇ってやります。
4月にはじまったときは、病院から行った4~5人を除くと、栄養士とも、パートともコミュニケーションがないわけですから大変です。
前の栄養士は大変厳しかったようです。たまたま、栄養士さんが、私たちと一緒に変わっていたので、「6回の洗浄は無理です。
ていねいに洗いますから3回にできませんか」などのお願いをしながら、給食を作りました。
おかげさまで、時間には給食を出すことができ、それだけが評価されていました。
学校側の栄養士さんと、私たち調理員の意見が合わないと、3回ではなくてやはり6回となりますし、そういう点で、
1年で撤退した会社の苦労があったのかな、と思わなくもありません。
やはり、直営でやられているみなさんがとてもうらやましいです。
委託の調理員は、会社が利益を求めるわけですから、安く使われる。怪我をして、それでも、
その場で病院にも行けず仕事を続けた方の話も聞きました。
学校給食ニュースの資料を見せてもらいましたが、中に、委託会社のチーフ、サブチーフが次々に変わって、
一時はいなかったという話が書かれていました。私が勤めていた会社もたいして違わないと思います。この養護学校が急きょ決まったときに、
誰を行かせるのか、まずは、経験のある方です。落ち着いたら、あっちからこの人が呼べる、
こっちからあの人に頼めるということになってきますから、頭のすげ替えは起こります。
チーフとして入って、「一生懸命やります」と言っておきながら、人事異動でそこには勤められなくなり、よそへ行かされることがあります。
食べる人が見えかけてきたときに、異動させられたり、入札で金額が折り合わないと、
いくらいいものを出していても会社として入れないということが起こります。また、
会社でも正規の社員であれば入札に落ちてもよそへ行くことができますが、パートさんだとやめざるを得なくなります。
こう考えると、人件費を考えると民間委託が増えるのは当然だと思いますが、直営のみなさんの話を聞いて、うらやましいと同時に、
民間委託の問題の多さに、あらためて元委託会社調理員として落ち込んでしまいます。
子ども、食べる人との関係は、民間委託や経済効率の関係ではないなと思います。
司会:Kさんからは、どのようなことでも質問などは受けます。ただ、自分の経験の範囲からしか答えられませんと申し出をいただいています。
直営の場合であれば、学校給食の問題ややってみたいことについて、現場で意見交換したり、切磋琢磨し、また、労働組合や団体を通じて、
問題の解決に向けて戦ったりすることができます。しかし、民間委託の場合、それぞれの現場で契約の中身に従うしかないため、
非常に厳しいと思います。
●委託とアレルギー対応
会場より4:長野県上田市のSです。Kさんの会社などで、地産地消について委託会社ではどの程度使っていますか。
アレルギーに対する対応はどうですか?
Kさん:地場産のことですが、私たちは労務委託です。ですから、食材は学校側から入ります。地場産にはタッチしていません。ただ、
この養護学校では七分付きのお米が東北から来ていましたし、果物は九州から取り寄せるなど食材にはこだわっていたようです。
養護学校ですから、アレルギーにはもちろんすべて対応していました。たとえば、牛乳でも冷たいと飲めないけれど、温かいと大丈夫とか、
エビカニアレルギーなど。一番多い日には5人ぐらいのものを別に作っていました。
●委託調理員の待遇
会場より3:兵庫の調理員です。民間の厳しさを聞くことができました。教えていただける範囲でかまわないのですが、立ち入ったことを聞きます。
賃金面、待遇面ですが、チーフとのことでしたけれど、責任者の手当面、勤務時間、残業時間の手当、平均した勤務年数など教えていただけませんか?
Kさん:私の場合は契約社員という形でした。主任では手当がありましたが、チーフとしての特別な手当はありません。
残業は形からしたらできません。学校は時間になると閉めることになっており、その間にすべて終わらせなければならないことになっていましたので、
それはそれで過酷でした。残業しなければならないときは、学校に依頼して、警備会社に連絡をとってもらうなどの必要があったからです。
勤務時間は、本来は8時半から5時15分まででしたが、最初は間に合わないので8時ぐらいから出て、準備をしていました。お湯を沸かすとか、
まな板を出すとか、冷蔵庫のスイッチを毎日入れるとか、そういうことです。その後、食材の納入業者がいらして作業をはじめます。
勤めていた会社は、辞めていく人も多いですが、異動も多くありました。学校や栄養士から最低1年いて欲しいと言われますが、例えば、
新規に別の病院を受託した場合など、人が移ります。最低1年、長い人は何年もいますが、同じ場所での勤務はそれほど長くありません。
●食材検収と指示書
会場より5:東京で栄養士をしています。私の区でも3年前から民間委託が入りました。私はまだ民間委託された学校の経験はありません。
栄養士の立場で少しお聞きします。
まず、食材の検収についてです。食材が納入されたとき、検収はだれがしていましたか?
次に、Kさんの勤めていた会社では、たとえば、病院調理を行うときの研修や、病院から養護学校に異動されたときの研修はどうされていましたか?
それから、指示書についてです。指示書のみの書面の指示で調理は可能なのでしょうか。
最後に、法律上では、栄養士が民間委託調理のところに入って、一緒に作業をするというのはできないと思いますが、
Kさんのところではいかがでしたか。
Kさん:
食材の検収は、学校の栄養士さんのみです。
勤務先の研修については、入ったとき、病院でしたが、条件が大量調理経験1年以上であれば研修はありませんでした。
私は該当していたので研修はありませんでした。病院から学校に移るときは、学校給食調理に行くための研修が会社主催で数回、
学校でも数回ありました。
指示書のみで調理をすることは可能です。ただ、栄養士さんにこだわりがある場合などは、それを事前に打ち合せする必要があります。私たちも、
毎日、翌日の調理について、栄養士さんとミーティングはしていました。
実際には何回か栄養士さんが入られたことがあります。私たちの前の年には栄養士さんが2人いて、
1人は実際に調理をしていたという話を聞きましたが、私たちの時には、調理で入られたのではなく、栄養士さんが、作業行程として、
養護学校の調理場でははじめての調理の場合、行程を確認するために中に入られたことはあります。
●■子どもたちとの関わり、責任の所在
会場より6:鳥取県の調理員です。
まず、子どもとふれあうような時間はあったのでしょうか。それは契約条件に含まれていましたか?
Kさん:子どもたちとのふれあいは時間的には無理です。ただ、給食係の子どもとは会話をすることができました。養護学校でしたので、
ふれあいは難しかったですね。厨房に入らないようにと、網があったりしましたし、隔離された厨房でした。
会場より6:もし、給食での事故があったらだれが責任を持つことになるのでしょうか。自治体が責任を持たないのでしょうか。
Kさん:事故がなかったのでなんとも言えませんが、会社の上の方がまず出てくるでしょう。
善元:基本的に給食の責任者の第一は学校長ですよね。行政的には、教育委員会、ひいては、首長になるでしょう。 大切なことは子どもを中心にすえて考えることです。慎重に熟慮して、時には大胆な判断も必要なんです。
司会:それぞれの方から、民間委託について意見を聞いてみます。
●人が働く環境を考えるべき
福山:学校給食を子どものための学校給食にしていくという立場から、
民間委託に反対する取り組みをしています。コスト問題が出てきていますが、コストをどこが負担するかという問題です。佐賀市の例で言えば、
調理員が年間800万円もらっているという広報に出ています。実際働いているのは195日だ、それが妥当かどうか問題だ、と市長が発言している。
私は、人が働くということは、その人が生活していけることが保障されてこそのものだと考えています。民間委託になって、
行政上のコストは下がっても、民間委託の立場の人が安いコストで働かされているという実態が残るだけだと思います。
誰もが自分の仕事に誇りと喜びをもって働ける職場を作っていかなければならないというのが、民間委託問題についての私の基本的な考えです。
労働が買いたたかれるような、足下を見られるようなことがあってはならないと思います。
派遣労働の問題は、1999年に法律改定があり、2003年から来年にかけて大きく変わりつつあります。
製造業が派遣対象からはずれるという流れが出てきています。派遣労働も民間委託の流れと同じです。
民間委託以上に派遣労働では働く人の立場が弱くなっていくものと思います。3割引、4割引で仕事をさせ、
人が仕事に対して持っている思いを踏みつぶしていくのが派遣労働の実態だと思います。
これについては、様々な立場から発言があります。構造改革という面から行政が派遣労働を認める声があります。しかし、私は、これ以上、
このような流れがすすんでは日本の労働実態がなし崩しになっていくと思います。行政にも派遣労働が導入されつつあります。
熊本県の運転手さんなどで、本来あり得ない労働実態も明らかになっています。派遣労働について、
このような場でも具体例が出てくると思いますので、このような場で話し合いをしていけたらと思います。
丹波:民間委託が押し進められている現在、当局が人件費やコスト論で提案しています。自治体は、
今まで事前協議をやりながらという形でしたが、そういうことも少なくなり、マスコミに報道したり、
議会に提案するのを先行するような形になっています。それに対して、労働基本権や団体交渉の要求項目なども、基本団体にまかせたままではなく、
自分たちの地域で自分たちの学校の職員として、どのような取り組みをしていくのに何が必要か、
独自要求という形で団体交渉をしていかなければならないと思います。
私たちが自治体職員として責任を持って学校給食を運営するためには、当局と労働組合、
調理員それぞれの責任を果たすという思いを持って取り組んでいかなければならないと思います。
私たちは常に民間委託になった後、どうなったか、どう戦って撤回していくのか、そのような情報もなかなか入ってきません。自治労として、
外部団体委託状況を県本部に県の教育委員会を通して上げてもらっています。しかし、なかなか全県を集められません。
引き続きこの取り組みをやっていきます。
自治労として、直営のあり方研究会を立ち上げて、活性化の中では中間報告をしましたが、自治労の学校全国集会で、
この研究会の報告と学習会をやっていこうとしています。
司会:この集会は、教育としての学校給食という前提で考え、必要な人員配置はどのようなものか、各自治体の方々が語らずに、
ビジョンないままに、経費の削減のみで民間委託を導入しようとするのはおかしいだろうという立場を取っています。その意味で、
自治体は経費の削減しかないが、私たちはこの集まりの中からどのようなビジョンを打ち出していけるかと考えてきました。
善元さんはどのようにお考えですか。
●学校給食の役割を果たそう
善元:経費の削減が最優先されているというのは現実です。教育全体が民間企業導入の方向があるように思われます。
いわゆる自由競争の民間活力の導入とか言われています。そういう中で、私は食を文化としてもう一度とらえ直す作業を本気でやらなければ、
勝てないと思います。食は文化であり、これは時間をかけなければできないことだということを、具体的に示さなければなりません。
最近、韓国でも、キムチを食べない子どもが出てきているそうです。キムチよりファーストフードだそうです。巨大な戦略の中で、
外食産業が韓国にも進出しています。経済効率や経営が優先される時代とでもいうのでしょうか。
東京農大の小泉教授がヨーロッパのチーズ屋さんに行ったとき、中学生ぐらいの子どもが来て、
チーズのたくさんの種類についてたくさん聞いていたそうです。そこで、「なぜ、チーズのことを、そんなにくわしいの」と聞いたところ、
「僕はチーズが好きで、学校でもチーズのことを学んでいる」と答えたそうです。
このことの意味を考えることが必要です。私たちは、今、失われたものの意味をもっと考える必要があります。
では私たちに何が失われてきたのでしょうか。
戦後、学校給食で何ができてきたのか、何ができていないのか、総括する必要があると思うのです。その上で、これから、何ができるのか、
本物の食文化のために、学校給食が果たす役割は何かを示さなければなりません。
この運動には栄養士が調理員、教員とともに、大きな役割を担います。
私たちは意識的に、そして意欲的に地域の料理、親子給食などを給食に導入することが必要です。
残念ながら、この私も含めて、調理員との連携が少ないと思います。今私たちにはこのつけがきているのではないでしょうか。
だから、こういう時代だからこそ、私は、愚直に教員として積極的に食に関して授業をする、みなさんは、
給食でいいものを作っていくという基本が大切ではないでしょうか。
●各地の状況
会場より7:練馬区の調理員をやっています。
自治労の東京都本部から来ました。毎年来ております。4者共闘ということで関心を持っています。 練馬は、昨年、
4月早々に民間委託を入れるという考え方が出されました。練馬区は、世田谷区とともに23区でセンターのある区です。
センターを自校化するのに合わせて民間委託するという方針がありました。区は委託方針を続けています。
地場産の問題、アレルギーの問題など、練馬区は取り組みを続けています。しかし、それだけで、民間委託が止まりません。そこで、
4年前から高齢者の食事をやろうという方針を出しました。高齢者の食事は福祉の問題ですから、教職員組合の方からも異論がありましたし、
様々な意見が出ました。しかし、調理の直営を守るためにはこれが必要だと考えました。
現在、週に2回、100名ほどの食事サービスを提供しています。
中学校の夏のクラブ中の給食や学童クラブの給食を出そうという取り組みも提案しましたが、まだ、それは認められていません。
練馬区では、退職者の再任用制度や再雇用制度もあります。そのため、新規採用が抑えられ、委託への道筋が出ています。
教育の学校給食だけで民間委託がうち止められるのでしょうか。
署名についても、一般の方からもらうのも難しくなっています。
コスト論に戦うためにどうすればいいのか、具体的な話が聞きたいです。
司会:同じ調理員として丹波さんいかがですか?
丹波:京都では、行政改革の中で調理員を減らすことができないかというのは出なかったのですが、民間活力の導入については求められました。
7年前から、再任用制度が果たしていいのかどうか議論の上65歳までの嘱託職員を採用し、1年の臨時職員という形で取り組んでいます。京都では、
米飯給食導入時期に調理員が増えました。その間に中途採用者があり、コスト面では、退職者が年に30人近くあり、
再任用と嘱託職員と新規採用などでコストは下がっています。
地域に根ざして、子どもたちに対して何ができるのか、という視点で取り組みを続けています。
仕事の代替ではなく、子どもたちに何をしてやれるのか、何をすべきか、調理員だけでなく、栄養士、保護者など、
この4者共闘の場で議論していければいいのではないかと思います。
司会:練馬の方がおっしゃった通り、議論はあると思います。また、この場で、 何か方針を出すことで例えば民間委託が止まるわけではありません。しかし、何かいい知恵はないか、突破できる要素をみんなで探していきましょう。
会場より8:宮城県仙台市のSです。民間委託の問題を含め、親がどう思っているか、市民がどう思っているか、
その観点が少し抜けていると思います。民間委託の問題ですが、今のところ仙台市は水際で止まっています。しかし、
パンもご飯も配送も民間委託です。センターも一部が民間委託です。
仙台市の市役所の食堂に行きますと、プラスチックの食器と合成洗剤で洗っています。仙台市は、
30年近く前に本庁舎や市の管理する施設では合成洗剤を使ってはならないとなっています。学校給食だけは懸案のままずるずるといっています。
市の食堂は民間委託です。そのため、何回か申し入れをしましたが、業者が持ち込むものだから、石けんにはできないというんです。
私はここにひとつのキーポイントがあると思います。
市の基本的な姿勢がしっかりしていなければ、民間委託では質がどんどん下がっていく一方です。市がしっかりしないということは、結局、
保護者や市民がしっかりとした意見や気持ちをもたなければならないということです。
学校給食でも同じです。
調理員の苦労はよく分かります。はざまの苦労とご努力は分かります。
その一方で、仙台市の石けんのこともそうですが、「与えられた予算の中でやっているんだからしょうがない」という答えが、
調理員から保護者の方へ返ったりもします。
民間委託については、消費者、市民という立場でものを言っていかなければならない、安いからいいということではないと思います。
もう一点、仙台市では、給食食器にABSを入れるという話が出ました。かつては、メラミン食器を導入されてしまいました。私は、
プラスチックの一番いいものではなく、強化磁器を使ってもらいたいです。そして、強化磁器が使える調理場にしていって欲しいものです。
会場より9:兵庫県加古川市の調理員です。加古川市も2年前に行革大綱が出て、26項目中に保育園、学校給食、
老人ホームなどの民間委託案が出ました。新設校は14年度4月から民間委託です。入札価格1850万円のところ、950万円で入札が落ちました。
ここで5人働いています。そこの調理員は、マニュアルに合わせ、給食を間に合わせるのが精一杯の状態で働いておられます。
15年4月より2校が民間委託、その後も委託校が決まっています。
私たちは、学校給食が教育の一環であり、民間に売るようなことはすべきでないと訴えていますが、市はコスト論のみで押し切っています。
将来は全面委託を考えているようです。
加古川市は統一献立であり、民間委託の学校も同じです。
教育の一環であるということに対して、調理員は補助である、栄養士は教育をしていると言える、と言われました。しかし、私たちは毎日、
子どものことを考え、安全でおいしい給食づくりに取り組んでいます。チラシなどを市民にまいてもなかなか反応が返ってきません。
他の市では住民訴訟などをされています。どうすれば、市民と保護者に広げていけるのでしょうか。
会場より10:福岡県久留米市の保護者です。私はこの集会の元となった日比谷公会堂での集会からずっと参加しています。
久留米でも学校給食を考え良くする会を15年前に結成し、合理化通知に対し、教員、調理員、親とでがんばろうとやってきましたが、
今や教職員はいなくなり、保護者も私たちのような年寄りだけになり、調理員ががんばっています。それが実態のような気がします。
日比谷公会堂では保護者がたくさん来ていました。久留米市で運動しても、保護者が集まってきません。
地元の農産物を学校給食に取り入れてくださいという運動もして、ようやく取り入れられるようになりました。
このほど、民間委託の話が出てきました。ところが、この民間委託と引き替えに、私たちがこれまで要求してきたことがすべてかなうんです。
センターを自校に戻す、地場産を使う、食器を強化磁器にするというのです。ただ、調理だけを民間委託にするとしています。
これに対して反対運動に結びつけるのが非常に難しくなっています。
私は生協に属していて、そこで、学校給食について2時間ほどお話しをしました。その場では皆さん、民間委託では、
久留米市の学校給食の質が守れないと納得してくださるのですが、中でひとり手を挙げて、「自分は民間委託の調理員をやっています。
他の市町村です。私たちは誇りを持ってやっています。言われたようなことはすべてできています」と発言されました。
そうなると、参加者のみなさんは、直営と民間委託とどこが違うんだということになります。
そこをクリアしないと保護者の運動になっていかず、労働運動になってしまいます。市民派の議員はみな「職員が多すぎる」と言います。
ここを突破する何かの話し、知恵があればと思います。この場でそういう話が出てこないかと期待しています。
●状況は厳しいが、変化の芽も
善元:状況は確かに厳しいです。このあいだ、インターネットで調べてみたら、民間委託賛成か反対かを調べたところがあって、賛成が圧倒的です。
我々が築いてきた知恵を「エゴではないか」と思われてしまったかも知れません。その中で、あらためて何ができていて、
何ができていないかを考える必要があるのではないでしょうか。戦術的には、
老人配食サービスなど調理員が学校給食外のことに取り組むこともあるでしょう。しかし、この集会で築いてきた、
本当に子どもを大事にするにはどうするかという視点は間違っていないと思います。
今こそ、この運動が築き上げてきたものが試されているのです。
現場が非常に厳しいと思います。だからこそ私たちは、こういう場で愚直に連帯してやっていくしかないのではないでしょうか。
司会:久留米の方や仙台の方と私は想いは同じです。1985年の日比谷公会堂や九段会館での熱気は何だったのか?
もう一度考えて欲しいと思います。あのとき、合理化問題は、現場の栄養士、調理員だけの問題ではなく、
学校給食がこれからどうなっていくのかを、各地で草の根で取り組んでいた消費者団体、市民団体が一緒に運動づくりのきっかけをつくりました。
それがスタートです。
しかし、状況は毎年暗くなっています。平成13年度で委託が11%を越えています。この状況は続くでしょう。その中で、この20年間、
ここでみんなで年に1回集まってやって来たことは、次の打つ手を考えることでした。悲鳴にも似た声が聞こえてくることもあります。
地域でやれる取り組みについては、ほぼ網羅されてきました。それでも、状況は厳しいです。
善元さんの話にありましたが、時代の雰囲気は変わりつつあります。
1970年について調べました。高度経済成長の後期です。3C、クーラー、カラーテレビ、カー(車)が、各家庭に浸透し始め、
大阪万博があった時期、豊かで便利がよいことで、団地がはやり、スーパーマーケットが町の商店街に出てきました。
今、その流れの反省の声が出てきました。スローフードなどがそうです。世界的な流れです。
地場型学校給食をやってみようと全国学校給食を考える会で全国にアンケートをとったのが1995年です。それから、
今のように地産地消が言われるようになるまで10年かかりました。今や、地元の農産物を大切にしようという動きが出ています。もちろん、
グローバリゼーションという時代の動きにはまだ追いついていないかも知れません。
しかし、雰囲気は変わりつつあります。
善元さんが、食を文化としてとらえなおす、という提案をされました。いい時期だと思います。
抽象的というおしかりがあるかも知れません。しかし、まだ民間委託されていないところは、いろんな取り組みの中で、
少しでも時間を稼いで欲しい。
委託されてしまったところも、Kさんから出たように、委託先の人も苦労をされています。無理をして経費の問題だけでやっています。
それで持つのか、できるのか。委託の現状を確認することが必要だと思います。
この集会も厳しい状況の中で、続けていきたいと思います。
かつての熱気をどうしたら取り戻せるか、考えていきたいと思います。
議論はつきません、結論も出ません。しかし、どういうビジョンで給食をとらえるか。多数派ではなく、少数派かも知れません。しかし、
食べものを大切にしなければならない、子どもたちの気持ちを大切にしなければならないと取り組む人たちがいなかったら、
ますます悪くなっていくと思います。
これからも、がんばっていきましょう。がんばり続けるという気持ちが、現場の若い調理員や栄養士、若い保護者に伝わると思います。 また来年お会いしましょう。
[ 03/02/24 集会案内 ]