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2003年夏期学校給食学習会報告
2003年8月4日~6日、神奈川県横浜市のローズホテル横浜にて夏期学校給食学習会が開催されました。
3日間ののべ参加者は1159人です。主催は全国学校給食を考える会、東京都学校給食栄養士協議会、日本教職員組合の3団体。
この学習会は毎年学校給食をめぐる様々な問題点を学習、議論する場として主に栄養職員、調理員が参加し、
各界の専門家の講義を聞き現場の意見交換をしています。
夏期学校給食学習会の報告は、すべての発言内容を報告集の形でまとめ、翌年の冬に発行されています。
学校給食ニュース9月号では簡単に内容の報告をします。(文責:学校給食ニュース)
■食の安全
【講演:いま食で何がおきているのか】
食の安全は、遺伝子組み換えやBSE(狂牛病)など食材をめぐる問題と衛生管理の問題があります。
市民バイオテクノロジー情報室代表の天笠啓祐さんの講演では、ヨーロッパにおける食の安全性をめぐる動きが紹介されました。
EU全体の高い食糧自給率を背景に、遺伝子組み換え作物や食品に対して厳しい規制がかけられていることや、ヨーロッパでは「BSE以降」
という言葉がよく使われ、BSEが社会問題になったあと、食の安全性についての関心がさらに高まり、
有機農業や低農薬など環境保全型の農業に移っていくことで、食の安全性や環境保全に取り組むという姿勢が明確になったことを説明されました。
これに対し、日本では食糧自給率が低いため、海外の輸入食品に頼らざるを得ず、
とくに遺伝子組み換え作物についてはすでにアメリカ産組み換え大豆とカナダ産組み換えナタネが食卓の50%を占めていることを紹介、
日本が遺伝子組み換え輸入大国になっていることを警告されました。食の安全性のためにも食料自給率を上げる必要があることを訴えられました。
【分科会:食の安全】
食の安全については、分科会でも天笠さんを助言者に議論が行われました。
遺伝子組み換え食品の安全性をどのように確保すればいいのかという問いかけに対し、
現場では遺伝子組み換えでないことを証明する証明書をとったり、油を大豆やナタネから米やひまわりに変える、
オーストラリア産のナタネに変えるなどの取り組みが紹介されました。天笠さんによれば、
遺伝子組み換え作物が入っているかいないかを調べるだけであれば1検体20000円ぐらいで検査機関が検査してくれるとのことです。また、
オーストラリア産のナタネについては、今年産までは大丈夫だが、来年以降、
遺伝子組み換えナタネが作付けされる可能性もあるので情報に注意して欲しいとのことでした。
関連し、兵庫県の事例として、県が予算をとり遺伝子組み換えの検査を年に一定程度行っており、
都道府県など公的機関に問い合わせてみるとよいという報告もありました。
輸入野菜の残留農薬について問いかけがあり、果物について分科会会場では参加者の半数が国産果物のみ、半数が輸入果物も使用となっていました。
輸入野菜や果物の残留農薬については、輸入果物の場合、ポストハーベスト(収穫後)農薬の問題があります。天笠さんは、
環境省の環境ホルモン候補リストの6割が農薬成分であり、そもそも、農薬は毒性物質であることを理解する必要があると強調されました。あわせて、
輸入冷凍野菜について、生鮮野菜であれば残留基準があっても冷凍野菜になると加工品扱いになり残留基準がないこともあり、
法律上は残留しても問題なしとなることを指摘されました。
不安な食材に対し、地産地消によって安全性を高めていく動きが広がっています。分科会では、調理員が直接生産者を探しに行き、
生産を依頼する東京都調布市の例や30年間に渡って地場の生産者が野菜を供給している山形県高畠町の例が報告されました。
【分科会:衛生管理と安全】
食の安全については分科会「衛生管理と安全」でも、健康情報研究センターの里見宏さんを助言者に議論されました。里見さんは、
食の安全について、食料の絶対量の問題に関する安全性を大前提として
1.食べ物の安全は祖先の人体実験の上に成立している。
2.食べ物の安全は調理技術の上に成立している。
3.食べ物の安全は個人の適応能力の上に成立している。
4.食べ物の安全は信頼関係の上に成立している。
の4点を原則として示し、さらに、
環境の安全について
1.科学・技術は環境から富を作りだす。
2.科学技術は自己増殖する。
3.科学気jつうは軽便性の裏に破壊性を持っている。
4.自然科学の発達スピードに社会科学が追いつかなくなった時代の危機。
5.生活基盤から、生存基盤へ、私たちができること。
の5点を示しました。
食中毒や食物由来の事故、病気を0にする発想は、食材の生産流通経路が分からない限り成立しません。
2002年度の厚生労働省まとめによる学校関係での食中毒報告では23事例中12が給食関係であとは寄宿舎などでの発生です。
食材のサンプルを保存していても原因が判明したのは少数に過ぎません。里見さんは、学校だけ、
調理場だけで管理しようとしても無理だということを指摘しています。
また、現在、中国産野菜のようにどこでどのように農薬を使っているか分からないものが増えています。
東京都が抗生物質について調べたデータによれば、抗生物質の残留はやきとりの3本に1本の割合で見つかるそうです。
流通経路がチェックできない食物は、学校だけでシャットアウトするのが難しいことを指摘されました。
化学物質については、厚生労働省が水銀入りの魚があり、妊婦はメカジキ、キンメダイ、鯨類、
サメについて食べる量を減らすよう注意を発表しました。すでに2001年1月にアメリカの食品医薬品局(FDA)は
「妊婦と妊娠するかも知れない女性へのメッセージ」をだし、妊婦だけでなく可能性のある女性全体に対し、
大型魚や川魚は水銀で汚染されており食べる量を減らすよう厳しく通知しています。日本では妊婦のみ、特定の魚種のみですが、
水銀の汚染は他の大型魚でもあり、日本はあいまいな対応をしていると指摘しました。
衛生管理についても、厚生労働省の大量調理マニュアルには衛生管理上の根拠がはっきりしていますが、
文部科学省の学校給食調理マニュアルのうち、厚生労働省の大量調理マニュアルと同じ部分以外は、マニュアルの根拠がはっきりしておらず、
なぜそれをしなければならないのかの理由が不明確であると指摘、栄養職員や調理員は自分たちで、学校給食の衛生管理のために何が必要なのか、
その根拠を明確にしながら取り組む必要があると提案されています。
■民間委託
【分科会:民間委託】
民間委託の分科会は、千葉県市川市と東京都杉並区の委託差し止め裁判の動き、東京都八王子市の事例の報告からはじまりました。
市川市は、一審判決が出ましたが、原告として主張していた学校給食は教育であり、
調理も教育の一環であるという点は判決でまったく触れられませんでした。原告敗訴の判決に対し、現在控訴審が行われており、
証人として出廷した東京都内の栄養士が、市川市で委託により事故報告が増えていることについて「異物混入などの事故は直営でも起こりうるが、
一度起きた事故に対して防止策が徹底する。民間委託では人が変わるなどの点から事故が起こりやすいのではないか」と問題点を指摘しました。
9月には控訴審判決が出る予定です。
杉並区の裁判については、平成11年(1999年)に区の広報で委託方針が発表され、
学習会などを重ねた結果問題があるとして公開質問状、住民監査請求を行い、その後委託を差し止めする訴訟を行っています。
八王子市は委託試行がはじまったあとであり方検討委員会が再度行われ、
直営正規雇用にパート職員を加えることでコスト減になるとの試算が成り立ち、現在、民間委託試行数校、正規職員+パート職員、
正規職員のみの3パターンで給食が行われています。
これらの報告を受け、民間委託について、
・本当に阻止できるのだろうか?
・裁判で問われている違法性(学校給食法、職業
安定法、派遣法)は勝算があるのだろうか?
・自校方式で本来あるはずの裁量権をそれぞれの
現場で生かしているだろうか?
と、非常に現実的な議論が行われました。
ある栄養職員は、すでに民間委託が導入されており、委託校に配置された栄養士は、学校給食が遅れないよう、間違わないよう、
現場に入って頑張っていることについて、
「現場に入り直接指示をしたり手伝うことは違法であり、例え時間に遅れたり、トラブルがあったとしても、現場にはいるべきではない。そのことで、
民間委託の問題点はきちんと明らかにすべきである。委託業者を手伝わないで遅れたりトラブルがあると、学校や自治体当局から圧力がかかったり、
他の栄養士との間で浮いてしまうなどのことはあり、辛いことではあるが、学校給食のことを考えたら民間委託の問題点をはっきりすべきだ」
との趣旨の報告をいただきました。
福岡の調理員からは、自校直営方式ならではのシステムの改善報告が行われました。
調理場に窓をつけ外から子どもたちが調理場をいつでも見られるようにするなど、
教育としての学校給食を実践するために調理員が果たす役割は大きいという内容です。また、調理員としてどのような給食をやってきたのか、
それを学校の外に向かって発信する必要を訴えていました。
この他にも、新潟県新津市のPFIセンター方式導入の情報など様々な事例、報告、提起が行われています。
■食教育
【講演:日本の伝統食をもっと楽しもう~ズボラ料理術のすすめ】
ナマクラ流ズボラ派家庭料理研究家として講演や著述をされている奥園壽子さんに、
切り干し大根やお麩といった伝統的な乾物の料理法を軸にしながら、食教育のあり方や食材との親しみ方についてお話しをいただきました。
日本の伝統的な食材を、古いものとしてとらえず、新しいものとしてとらえ、調理法も新しい目で見ることが必要で、
子どもたちはむしろ知らないがゆえに乾物などの伝統食材をすなおに受け入れることができると、実例をまじえて紹介されました。
また、食材に味を付ける前にまず元々の食材の味を食べて知ることで、味付けの考え方も変わり、食材を選ぶ目も変わるなど、体験に基づく講演に、
会場からも高い関心が寄せられていました。
この内容の詳細は、報告集で掲載されます。
【パネルディスカッション:食教育】
農林中金総合研究所の研究員で学校給食の調査を過去2回行い、地産地消の大切さを訴える根岸久子さん、
食材を使った総合学習を展開している新宿区の小学校教員、善元幸夫さん、それに奥園壽子さんの3名をパネラーに、
野田克己全国学校給食を考える会事務局長が司会をして食教育について語り合いました。
根岸さんからは、学校での栄養教育は求められる最低限のところであり、生産現場や調理現場を体験しながら食べ、
学ぶという体験的な手法で食教育を行う必要があるという視点から、事例をまじえて報告がありました。
善元さんからは、有機野菜や水の味比べを教材にした総合学習の実例を報告いただき、
子どもたちの学びのあり方と食についての提起をいただきました。
これらをうけて、会場からの意見発表をまじえた議論が行われました。
全国で地産地消や産地体験型の学習は広がりつつありますが、学校給食との連動や保護者、地域との食教育の連動はこれからの課題であり、
子どもや学校を軸にどのように食教育のあり方を深めるかがこれからの大きな課題として提起されました。
■アレルギー問題
【アレルギー問題におけるリスクコミュニケーションと学校給食】
市民団体アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長の赤城智美さんが、「リスクコミュニケーション」について、
アレルギーと食材の安全性や学校給食のあり方から、説明していただきました。
リスクコミュニケーションで大切なのは、できる、できない、やる、やらないといった判断を前提にするのではなく、コミュニケーション
(情報のやりとり)を前提にしてリスク(被害発生の可能性)を管理していこうということです。学校でのアレルギー対応では、
アレルギー食対応がどのくらいできるか? できないのか? が、常に問題になりますが、子どものリスクをとらえ、
それに対して緊急時はどのように対応するのか、通常はどのように対応するのかといったことに、保護者、医師、栄養士、教員、
校長など関係者間でコミュニケーションをとっていくことの重要性を訴えられいます。
特に、学校給食におけるリスクコミュニケーションが、問題発生を回避する目的ではなく、学校給食を教育として位置づけ、
どの子も教育機会として受けられるようにするための具体的な方法を見つけるためのものであることを強調されていました。
アレルギー対応=対応食の実現のみではなく、健康管理、いじめの問題、安全管理、教室運営にまで関わることであるという視点が示されています。
■地産地消
【外部評価としての地場産自給率調査~学校給食システムを変える外部評価】
長崎大学環境科学部助教授の中村修さんが、
学校給食の地場産自給率調査などをふまえて地産地消などの取り組みが地域の農業に経済的に大きな影響を与え、
新規就農者を増やすことさえできることを数字で示されました。
また、子どもたちへのモデル授業を通じ、自分たちが何を食べているのかを子どもたち自身が調べ、
現在の食事のあり方や20年後の自分の食事のあり方、目標とする食事のあり方を自分の中に意識し、
学校給食のあり方についても子どもたち自身で調べ、輸入野菜や食材の流れなどをまとめていくことで、
地域に対し地産地消などの働きかけをはじめた事例を紹介されました。
講演の中で、与えられただけの地場産農産物では学校教育としての質も子どもたちの教育にもならず、広がりももてない。
子どもだけでなく大人も含めて、自分たちが何を食べているのか、これから何を食べて生きていくのかを考え、自覚し、
その結果として地場産農産物を選ぶような主体性が求められていると、形だけの地場産導入では本当の教育にならないことを強調されていました。
3日間に渡る学習会の内容を簡単にお伝えしましたが、例年にもまして活発な議論が行われました。
夏期学校給食学習会については、学校給食ニュースでも毎年ご案内しています。2004年も8月に同じ会場にて開催を予定しています。
ぜひご参加ください。
また、この報告集は毎年発行されています。2003年版は2004年2月頃発行予定で、過去の分も残部数が若干あります。
学校給食をめぐる学習の貴重な資料になりますので、ご希望の方は全国学校給食を考える会事務局にお問い合わせ下さい。
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