学校給食ニュース
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1988年学校給食食器に関する私たちの見解

 80年代のメラミン食器反対運動と、現在のポリカーボネート食器の持つ問題は、溶出する化学物質が違い、 その影響が違うということがありますが、学校給食全体から見たとき、本質はまったく同じです。
 他の学校給食問題と同様に、食器についても子ども達にとって何が最善か、この一点で考えるべきです。
 日常的に当たり前に使う食器を選び、また、地域の特色ある食器を使って、 食文化や食生活を身につけることができるよう配慮することが最善ではないでしょうか。そして、ポリプロピレンやメラミン、 ポリカーボネートといったプラスチック食器は、安全性に不安があるだけでなく、まがいものであり、 教育としての給食の質を損なうものであることを前提に考えるべきです。
 プラスチック食器を導入しようとする側は、厚生省の基準や現在の知見で「安全性に問題ない」として議論を止めようとします。しかし、 安全性だけの問題ではないのです。
 メラミン食器反対運動のさなか、1988年に出され、今日的な意味を失っていない四者共闘(自治労、日教組、全国学校給食を考える会、 日本消費者連盟)による「学校給食食器に対する見解」を全文掲載いたします。


学校給食食器に関する私たちの見解
(四者共闘学校給食食器検討委員会)


1 はじめに

 1987年11月18日以後、全国学校給食を考える会、日本消費者連盟、日本教職員組合、全国自治団体労働組合の四者は、 昨今大きな問題となっている学校給食へのメラミン樹脂製食器導入問題を契機として、 学校給食食器のあり方について様々な観点から検討を重ねてきました。
 また、1988年1月20日、九段会館において開催した「ともに生きよう学校給食!…食と平和の結び付きを!…1・20全国集会」においても、 学校給食食器の問題に議論が集中しました。その中では当局による一方的なメラミン食器導入に対して、父母・地域住民と学校職場で働く調理員、 栄養職員、教員が一体となって行動し、ついにメラミン食器の追放の結論を引き出すに至った飯塚市のような画期的な報告もありました。
 安上がりの行政を求めた「地方行革」攻撃の中で、学校給食現場においては1:給食調理員のパート化、2:共同調理場方式への切り替え、3: 民間委託の推進が進められています。このような攻撃の中で、給食食器のメラミンをはじめとするプラスチック化の動きが文部省・ 各自治体教育委員会の手によって推進されており、さらに、プラスチック食器メーカーが1,600万の子ども達の給食を市場としてねらっています。 具体的には、学校給食を民間の食品産業の手に売り渡す第一歩としてプラスチック食器の導入を強力に押し進めています。


2 プラスチック食器の問題点

(1)安全面の問題
 プラスチック食器から原料モノマーや添加剤をはじめとするさまざまな化学物質が溶け出してくることは実験結果からも明らかです。 現在焦点となっているメラミン樹脂にあっては、原材料のメラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン) とホルムアルデヒドが溶出することが知られています。しかも、この両者とも発ガン物質であることから、 心身の成長期にある子どもたちにとって好ましくない食器であることはいうまでもありません。
 メラミン以外で多用されるポリプロピレン食器からは添加剤のBHTなどが、また、 最近使われ始めたポリカーボネート食器からはビスフェノールAが溶け出してきます。
 製造工程で1300度もの高温で焼成される陶磁器と異なり、実際に使用される条件と大差のない温度で製造されたプラスチックは、 本来的に化学物質が食品中に移行しやすい性質をもっているといえます。

(2)衛生面の問題
 メラミンなどのプラスチック食器は熱伝導率が低いため、殺菌保管庫中にあっても熱が十分に伝わらず、 殺菌が完全に行われない恐れが多分にあります。事実、給食時間に提供される食器がびっしょりと濡れていて、 不衛生だとの苦情が出されている現場もあります。
 また、使用中や洗浄時に表面についた無数の傷の中に汚れがこびりつき、黒ずんだり酸化物質が生成して非衛生的になることも報告されています。

(3)食文化の問題
 メラミンなどのプラスチック食器は、しょせんは陶磁器に似せて作られたまがい物に過ぎません。
 本物の食器で、いのちある食べものを食べる中からこそ、食の文化や食=いのちの大切さ、そしてマナーが確立されます。地域ごとに気候風土、 自然環境に応じた食文化が形成されてきたように、食器も地域毎に特色ある伝統が保たれてきました。そのような食文化を絶やすことなく、 積極的に次の世代に伝えていくことこそ「教育の一環」としての学校給食本来のはたすべき役割です。

(4)その他の問題
 これら以外にも、メラミンなどのプラスチック食器には多くの問題があります。たとえば、
単価が高い。
耐久性が劣り、総合的にコストが高くなる。
黒ずみを防止するため、漂白などの作業が新たに必要となる。
プラスチックの材質そのものを傷め、有害な化学物質の溶出を促進する。
油汚れが落ちにくいため、せっけんによる洗浄に適さない。合成洗剤に逆戻りする。
廃棄する時、「燃やせないゴミ」をぼう大に生み出すことになる。
 等々です。


3 四者共闘としての結論

 これらのことから、学校給食食器のプラスチック化は、教育の一環として「真に子どもたちのための学校給食の確立」 をめざす四者共闘の基本的立場に真っ向から反するものであるとの結論に到達しました。
 四者共闘としては学校給食食器は1~4の項目を充分に満たすものでなければならないことを改めて確認します。
 つまり、
学校給食用食器は安全性や衛生面にまったく不安がないこと。
食文化の伝承にふさわしい材質でなければならないこと。
日々の食事を通して、確かで、あたたかい生活習慣の収得など、教育的見地にかなうものであること。
「学校給食食器」として特別視するのではなく、あくまで家庭の食事の延長線上に位置づけ、子ども達がおいしく食べられるものであること。
などのポイントを原則にするべきだと考えます。
 しかし、だからといって機械的に陶器や磁器食器に切り替えれば良いというものでもありません。それぞれの学校給食現場の施設・設備の状態、 人員配置、労働条件など、様々な陶器や磁器食器導入の阻害条件を克服する中から、最適な食器材質や食器の種類、数などが決定されるべきです。


4 私たちの手による「食器検討委員会」の確立を!

 メラミン食器を導入したほとんどの自治体では、行政・教育委員会が一方的にメラミン食器への切り替えを決定し、押し付けています。 そこには学校給食の主人公である子どもたちを中心に考えるという視点がまったく欠落しているばかりか、調理室内における作業手順すら考慮されず、 著しい労働強化を招いている例すらあります。また、たとえ陶器や磁器のようなすばらしい材質の食器が導入されたとしても、 設備や人員の改善が伴わなければ、全体としての学校給食の質を向上させることは望めません。
 行政当局による一方的な食器「改善」ではなく、学校給食を作り、食べる当事者である子ども達・父母・地域住民、栄養職員、調理員、 教員の手になる「給食食器検討委員会」を、最低限各自治体レベルで確立しましょう。
 その中では、調理室内の作業手順の見直し作業が重要です。現在の洗浄方法、洗浄剤の種類が適切か否か、日々の作業の時間配分はどうか、 休憩時間の完全確保とその活用法や、現在の人員配置が適切かどうかなど、職場点検作業をただちに開始しましょう。
 それぞれの立場から率直な意見を出し合い、個々の現場に最もふさわしい材質の食器を選び取り、その食器を使いこなすための、 人員の増員も含めた条件の整備をかち取りましょう。
 食器問題は単に食器の材質やppmレベルでの安全←→危険論争の問題にはとどまりません。85年1月21日の文部省合理化通知以降 「学校給食をいかに守り、充実・発展させていくか」、という私たちが全国各地で繰り広げてきた運動の真価が今問われています。


5 具体的な取り組みを始めよう

 以上のような結論をふまえ、四者共闘として当面下記のような取り組みを提案します。
自治体ごとに、メラミンなどプラスチック食器の新規導入の動きを常に監視し、事前に情報をキャッチできる態勢をつくりましょう。自治体が、 プラスチック導入を決定した後から運動をすめるのでは、飯塚市の運動のように導入阻止のために大変な努力がいります。
上記のような「食器検討委員会」などを組織し、「かわるべき食器」についてさま ざまな角度から検討し、対案が出せるよう準備をすすめましょう。 その際、まず陶磁器導入の可能性から検討を始めましょう。
検討のポイント例を挙げると、
ランチルームのある学校では、まずランチルームで使用してみることは不可能か。
また、ランチルームがない場合は、たとえば一学年からでも部分的に導入できるよう提案できないか。
全部を一度に切り替えるのは大変。まず「ご飯茶わんから変えていく」というように部分的導入からでも提案できないか。
岐阜県土岐市のように、センターで陶磁器を使っているところもある。
 実践例にならって、食器を変えるための施設・設備の改善を具体的に検討・提案できないか。 ちょっとした工夫で陶磁器など導入による問題解決が可能になる場合もある。
神経を使うと思いますが、割れることを気にしないで、陶磁器などの導入検討を始めよう。
 すでに導入している有田町では破損率1.2%という報告が出ている。一方、メラミンでも20%に至る、という報告もある。子ども達は 「食器は割れるものだ」ということを知り、ものの大切さを学ぶことができる。その結果、扱いが非常にていねいになったという実例報告がある、 「破損によるコスト高」という論理はうち破ることができる。
陶磁器は重い、という問題は残る。
 「重量感」は子ども達にとってもある。しかし、逆にそのために、子ども達には「カゴ」を増やし、「給食当番」の数を増やすなどの工夫をし、 それが「協力して準備する」という教育的効果を生む場合もある。
 洗浄作業については、腰痛やけいわん症を起こさないためにも、常に、 休憩時間をとりながら午後の時間を洗浄に十分使えるよう労働条件などを要求・提案していけるよう準備しよう。
補足:すでに東京都武蔵野市などセンターで陶磁器を導入したところや、大阪府守口市のように陶磁器を導入し、 洗浄方法に工夫をこらして作業負担の軽減をはかるなど、陶磁器導入のためのノウハウ、プログラムは確立しています。ぜひ、最新事例を参考にして、 陶磁器導入への一歩を踏み出しましょう。

学校給食ニュース3号 1998年6月

[ 98/12/31 食器 ]


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