学校給食ニュース

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遺伝子組み換えとは

 

●遺伝子組み換え食品

遺伝子組み換え作物が、日本の食卓に上がりはじめたのは1996年の終わりでした。それから、2年が経ち、 数多くの不安の声が出されながらも、輸入される大豆やトウモロコシ、ナタネ、ジャガイモ、ワタ(綿実油の原料) が遺伝子組み換え作物である割合は年々増えています。
学校給食で使われる様々な素材が、遺伝子組み換えされた作物を原料にしています。知らず知らずの内に、子どもたちの身体の中に入っています。
これに対し、遺伝子組み換え作物を使わない工夫をしている学校や地域があります。
遺伝子組み換え作物について、その基礎知識と問題点、具体的な行動や取り組みをご紹介します。

●遺伝子組み換えって、なに?

「収穫してしばらく店頭においていたら、トマトがいたんでしまった。いつまでも日持ちして新鮮なままのトマトがあったら、 売れ残りにならなくていいなあ」
「強力な除草剤を開発できたんだけど、作物まで枯れちゃった。じゃあ、この除草剤をかけても枯れない作物があればいいんだ」
「虫がやってきて、作物を食べてしまう。だったら、虫が作物を一口食べたら死んでしまうようにならないかな。そうしたら、作物は安心だ」
 こんなことを考えた人たちがいました。農薬メーカーや種メーカーの人です。
 作物の品種改良をするのには、長い長い時間がかかります。ちょっと甘くしたり、ちょっと病気に強かったりする品種をつくるのに、 たくさんの交配を繰り返して、たまたま甘かったり、病気に強かったものを、選んでいく作業です。
 たとえば、稲の場合、日本の自然環境では1年に1回だけしか育てられませんし、人工的な環境でも1年に3回ぐらいが限界です。それでは、 品種改良まで何年も何十年もかかってしまいます。
 まして、上にあるような、日持ちするトマトや特定の除草剤に強い作物、葉を食べた虫が死んでしまう作物なんていうのは、 自然交配をいくら繰り返してもそうそうできるものではありません。
 そこで、たとえば、虫にとっては毒になるタンパク質を生み出す別の生物を見つけてきて、 毒タンパク質をつくる性質を作物に入れることができたら、長い時間をかけなくても、簡単に新しい品種をつくることができるのでは、 と考えたのです。
 そして、遺伝子組み換えがはじまりました。

●生物は細胞でできています

 動物も植物も細菌も、ウイルスなどをのぞくほとんどの生物は、細胞の集まりです。そのしくみは、動物と植物で少しちがいますが、 だいたいのところ同じです。
 同じような細胞の集まりなのに、ウシやカエル、トリやワニや魚、キャベツやリンゴのようにいろいろな種類の違いが生まれます。また、 1頭のウシにも目や脳や胃など形や役割が違います。
 このような細胞の役目や形、生物の種類や性質を決めるのは、すべての細胞に存在する「遺伝子」です。
 遺伝子は、細胞の核の中にあって、DNA(デオキシリボ核酸)という物質でできています。
 DNAは、タンパク質を作る指令を出します。DNAの違いが、タンパク質の種類の違いになり、生物の形や特徴、性質の違いを生みます。
 同じ生物の中でも、細胞の役割がそれぞれ違うのは、DNAがそれぞれの細胞の場所・ 役割に合わせてタンパク質をつくる指令を出し分けているからです。

注:ウイルスは、細胞を持ちません。また、DNAのかわりにRNAを遺伝子として利用するウイルスもあります。
 ちょっとイラストを使って説明しましょう。
遺伝子の説明
DNAは、物語の朗読が記録された録音テープのようなものです。あいうえお…のかわりに、ATGCという4つの音があって、 その4つの音で物語が語られ、記録されています。
遺伝子の説明
この物語のある部分は、「こんなタンパク質をつくりなさい」という命令になっています。ある部分は、よく意味が分かりません。
遺伝子の説明
ひとつの生物の細胞は、ぜんぶ同じ物語です。
ちがう生物には、ちがう物語があります。
遺伝子の説明
たとえば、チンパンジーとヒトのように近い種類の生物では、ちょっとだけちがう物語になっています。
遺伝子の説明
カエルとコスモスでは、ずいぶんちがう物語になっているでしょう。

●遺伝子組み換えのしくみ

 遺伝子組み換えを、イラストを使って説明します。
遺伝子組み換えのしくみ
ここに、虫を殺す毒をだす細菌(BT菌)がいます。
そして、虫に弱いトウモロコシがいます。
遺伝子組み換えのしくみ
BT菌の物語をよく読むと、「毒タンパクをつくりなさい」という部分が見つかりました。この部分の録音テープをハサミで切り取っておきます。
遺伝子組み換えのしくみ
トウモロコシの物語のテープを広げて、1カ所を切り取り、BT菌の「毒タンパクをつくりなさい」を貼り付けてしまいました。
遺伝子組み換えのしくみ
すると、トウモロコシがBT菌と同じ毒タンパクをつくり虫を殺すようになりました。

 つまり、遺伝子組み換えとは、植物の遺伝子に、他の生物の遺伝子(一部)を無理矢理入れる技術です。

(学校給食ニュース7号 1998年11月)

 

[ 98/12/31 遺伝子組み換え ]

遺伝子組み換え食品とは

●遺伝子組み換え食品

 この遺伝子組み換え技術は、医薬品の分野で、微生物に大量に医薬成分を作らせるなどの目的で使われていました。
 遺伝子組み換え技術の食品への応用は、2種類あります。ひとつは、遺伝子組み換え微生物を利用して酵素などをつくらせ、 食品添加物として利用する方法です。
 チーズを作るときにミルクをかためるキモシン、でんぷん分解酵素のα-アミラーゼ、ビタミンの一種リボフラビンなどがあります。
 もうひとつは、遺伝子組み換えした作物を食べるものです。
 誰もが知らないうちに食べる可能性がある食品に応用されたのは、1994年、アメリカで発売された日持ちするトマト(フレーバーセーバー) が最初でした。その後、特定の除草剤をかけても枯れない性質をもった大豆やトウモロコシ、ナタネ、昆虫が葉っぱなどを食べると、 その昆虫を殺してしまう性質をもったトウモロコシやジャガイモ、ワタが開発され、生産されています。

●日本に入ってきた遺伝子組み換え食品

 1996年8月、厚生省・食品衛生調査会は、農薬メーカー3社から申請されていた遺伝子組み換え作物について、 「安全性評価指針に適合している」という答申を出しました。その結果、遺伝子組み換え食品が海外から輸入され、 私たちの食卓にのぼることになったのです。
 現在輸入される作物としては、大豆、ナタネ、トウモロコシ、ジャガイモ、それに、綿実油に使われるワタがあります。
 組み込まれた遺伝子は、大きく分けてふたつあります。ひとつは、除草剤耐性をもつもの、もうひとつは、殺虫タンパクをつくるものです。

(除草剤耐性)
 たとえば、農薬メーカーの日本モンサント社は、同社の主力製品である除草剤ラウンドアップをかけても枯れない大豆、ナタネを開発しています。 ラウンドアップは、「根まで枯らす」ほど強力な除草剤で、大豆畑にまくと、雑草とともに大豆も枯れてしまいます。ところが、 除草剤耐性遺伝子を組み込んだ大豆は、ラウンドアップをかけられても枯れることはありません。生産者は、安心して(?) ラウンドアップを使うことができます。
 そして、日本モンサント社は、除草剤ラウンドアップと、除草剤耐性大豆をセットで販売できるというわけです。
 同じように他の農薬メーカーでも、除草剤耐性のナタネ、トウモロコシを開発しています。

(殺虫性)
 文字通り、虫を殺す植物にしてしまうことです。植物のすべての細胞に、昆虫を殺す毒素(タンパク質)を作り出させ、 葉や根や茎など植物体を昆虫が食べると死んでしまいます。そこで、殺虫剤などがいらなくなるというふれこみです。
 ジャガイモやトウモロコシ、ワタなどに応用されています。
 公的には、「害虫抵抗性」と表現されますが、そんなにやさしいものではないので、「殺虫性」という表現にしました。

 また、除草剤耐性と殺虫性のふたつの遺伝子を組み込んだ複合的な遺伝子組み換え作物も開発されています。


(学校給食ニュース7号 1998年11月) 


 

[ 98/12/31 遺伝子組み換え ]

遺伝子組み換え食品の問題点(古い)

●遺伝子組み換え食品の問題点


●安全性の確認があいまい

 遺伝子組み換え食品を流通させるときに、厚生省の安全性評価指針(ガイドライン)に適合しているかどうかを、メーカーが「確認申請」 します。この申請をもとに、食品衛生調査会で確認をするのですが、このときの「確認」とは、メーカー側が出してきた資料をチェックするだけです。
 しかも、「実質的同等性」といって、遺伝子組み換えをした作物、たとえば大豆が、大豆の形や栄養成分のままなら、「実質的に同等」だから、 チェックする必要があるのは、組み込んだ遺伝子がつくるタンパク質などについてだけでよいという方針なのです。
 虫が食べると死ぬトウモロコシと、虫が食べても死なないトウモロコシが「実質的に同等」だから、問題ないというのはとても不思議なことです。 これによって、食品添加物の承認時に必要な安全性試験さえも行なわれません。


●アレルギーの不安

 除草剤耐性や殺虫性は、その性質を持つタンパク質によって生まれます。つまり、遺伝子組み換え作物には、 これまで人間が食べたことのない新しいタンパク質が入っています。
 急性毒性の試験や、人工胃液による消化試験はされていますが、長期的な試験や人体試験はもちろん行なわれていません。 アレルギーの可能性を指摘する声があります。また、長期的に食べ続けた結果、人体にどのような影響があるのかは分かっていません。

●未知の有害物質の可能性も

 遺伝子組み換え技術は、とても歴史が浅く、まだよく分かっていない部分もたくさんあります。まったく種が違う生物の遺伝子が、 遺伝子上のどこに組み換えられたのかすら分かりません。だから、その作物に予測のつかない物質ができる可能性もあります。

 1988年から89年にかけて主にアメリカで起こった大規模な食品公害事件は、 昭和電工が遺伝子組み換え技術で改造したバクテリアに作らせたトリプトファン(アミノ酸)製品を食べたことで、 死者38人を含む推定6000人が健康被害を受けました。これは、 遺伝子組み換えによって発生した未知の不純物によるものではないかという指摘があります。
 また、同じ理由から、作物に含まれる栄養成分が変化される恐れも指摘されています。

●抗生物質耐性遺伝子

 遺伝子組み換えでは、組み換えが成功したものを選び出すための目印として抗生物質耐性遺伝子など (最近は除草剤耐性遺伝子も使われることもあります)が一緒に組み込まれています。抗生物質の液にさらすと、 遺伝子組み換えがうまくいかなかった細胞は死んでしまいますが、組み換えがうまくいっている細胞は、抗生物質耐性遺伝子も入っているので、 抗生物質が効かずに生き残るから、選び出せるのです。
 遺伝子組み換え作物に組み込まれた抗生物質耐性遺伝子が、腸内の細菌に取り込まれて、抗生物質が効かなくなるという可能性もあります。 この点の安全性は、確かめられていません。

●環境や生態系にあたえる影響

 殺虫性の作物を食べた昆虫が死ぬことは、その昆虫を含めた生態系に影響が起きます。昆虫をエサとする他の昆虫や、 鳥はエサがなくなります。また、昆虫以外にも影響が出るという研究報告もあり、遺伝子組み換えによる環境への影響が心配されています。
 除草剤耐性大豆の隣に植えたふつうの大豆が花粉を通じて交配し、ふつうの大豆も遺伝子組み換えになってしまうことや、 近縁の草などに除草剤耐性が生まれてしまうことも考えられます。
 遺伝子組み換えが、他の化学物質などと違うのは、遺伝子組み換えされた作物が一度自然環境中に出てしまうと自己増殖するため、 もし何か問題があっても完全に回収することは不可能ということです。組み換え植物は、他の植物と同様に野生化しますし、 花粉は近縁種と交配することがあります。さらに、組み換え遺伝子が、ウイルスなどによって取り込まれることなど、 長期的に自然界に与える影響ははかり知れません。

●家畜に与える影響

 トウモロコシや大豆(カス)などは、家畜のエサとして利用されます。家畜は、 人間と違ってトウモロコシを多量に食べさせられたりしますので、遺伝子組み換えの影響は人間よりも大きいと考えられます。また、肉や牛乳、 卵に影響がでるのかどうかも分かっていません。

●分別されていません

 遺伝子組み換え作物と、ふつうの作物は見た目では区別がつきません。タンパク質や遺伝子を分析してはじめて分かります。ただ、 種子メーカーが、生産者にきちんと種子使用料を徴収するために栽培される畑ははっきりと区別されています。ところが、 いざ収穫して流通される段階になると、ほとんどの組み換え作物とふつうの作物は混ぜられ、分別されません。
※その後、分別して流通、販売する大豆、トウモロコシなどが出回りました。

●表示がされません
 日本では、現在、遺伝子組み換え作物はふつうの作物と 「実質的同等性」があるとして表示されていません。どんなに不安があっても、表示されないために、遺伝子組み換え食品は、 知らず知らずのうちに食卓や学校給食に使われています。
※その後、表示制度がはじまりました。


(学校給食ニュース7号 1998年11月)

 

[ 98/12/31 遺伝子組み換え ]

表示制度について(古い)

●表示はどうなるの?

初出記事が古いため、情報が現状と合わなくなっていることがあります。
最新の情報を別途入手してください。

●海外の動き

 遺伝子組み換え食品についての表示は、EU(ヨーロッパ連合)が「遺伝子組み換え原料を含む」という表示を義務づけています。アメリカ、 カナダなどは、栄養成分が違ったり、アレルゲンが存在する場合のみ表示することになっており、また、アメリカでは「遺伝子組み換えではない」 という表示をする場合には、あわせて「遺伝子組み換えをした食品と比べて安全というわけではない」という表示を求められています。
 現在、世界的な食品基準などを定めるコーディックス委員会でも、遺伝子組み換え食品の表示議論が行なわれていますが、 アメリカなどとEUとの間で、表示の必要性に対して意見が分かれています。

●日本の動き

 日本では、食品の表示については、「食品衛生法」(厚生省)、「JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)」 (農水省)があります。
 厚生省は、国が安全と認めたものに表示義務づけすることはできないとしています。
 農水省は、食品表示問題懇談会で表示の必要性の有無から議論しています。
 8月27日に開かれた第11回の懇談会では、事務局から表示案のたたき台が2案出され、10月9日まで一般からも意見募集をしていました。 最終的に、表示必要、不要を含めた意見は1万を超えているそうです。今後、このたたき台について議論される予定です。
 この他、97年の12月に、設置されていた衆議院の消費者問題特別委員会遺伝子組み換え食品の表示を考える小委員会が「表示は必要」 という意見をとりまとめて親委員会に提出しています。厚生省も、食品衛生調査会総会で表示問題特別部会の設置を決め、 遺伝子組み換えに限りませんが、食品表示全体を見直す動きを見せています。

●市民の動き

 遺伝子組み換え食品の表示を求める署名数は、これまでに、厚生大臣あてで120万人以上、 農水大臣あてで100万人以上が出されています。また、地方議会からの意見書は、厚生大臣あてに1100通以上、 農水大臣あてに1000通近くが提出されています。
 地方議会数は総数3300ですので、この数はかつてないほど多いものです。
 国会での請願署名は関連委員会のいずれも採択できませんでした。
 しかし、この数の重みからか、農水省、厚生省が当初見せていた表示は不要という強気の発言が徐々にかわりはじめています。
 さらに、市民の声を大きくすることが、適正な表示をもたらす原動力になることは間違いありません。


(学校給食ニュース7号 1998年11月)

[ 98/12/31 遺伝子組み換え ]

学校給食での遺伝子組み換え

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●もう、学校給食に使われています

 今のところ、遺伝子組み換え作物を生産しているのは海外だけです。日本では、トマト、大豆、ナタネが、生産可能な状態になっています。 しかし、実際の作付けは行なわれていません。
 輸入されてくる遺伝子組み換え作物は、大豆、トウモロコシ、ナタネ、ジャガイモ、ワタです。 これらがどのような食品になるのかを見てみましょう。
※トマトは日本では生産可能ではなくなりました。また、 遺伝子組み換え作物は国内では商業生産されていません(2005年12月現在)

★大豆…
 日本の自給率は、わずかに3%程度です。大豆は、白目と黒目があり、遺伝子組み換えされているのは今のところ黒目大豆だけ。アメリカでは、 今年作付けされた大豆の約40%が遺伝子組み換えのものだといいます。
 黒目大豆は、主に大豆油、醤油、豆腐に使われます。味噌は、一般に白目大豆を使うことが多く、 遺伝子組み換え大豆を使用していない可能性が高い大豆加工品ですが、黒目大豆が使えないということではないので注意は必要です。
 もちろん、大豆油を使う加工食品やマーガリン、マヨネーズなどの製品、大豆タンパク、大豆レシチン、きなこなど、 大豆を利用する加工食品はたくさんあります。

★トウモロコシ…
 トウモロコシには、様々な品種があります。その中でも今のところ遺伝子組み換えされているのは生食用ではない品種です。ちなみに、 日本では生食用は自給率が高く、加工用はほぼ100%輸入に頼っています。
 その多くは家畜飼料として使われますが、食用にもなります。トウモロコシでんぷんのコーンスターチ、コーンフレークや、コーングリッツ、 コーン油などとして加工され、さらに、スナック菓子や、安価なラクトアイスなど、いろいろな加工食品に入っています。 子どもとは直接関係ありませんが、日本のビールにはコーン・スターチ入りの銘柄がいくつもあります。

★ナタネ…
 今の日本ではほとんど栽培されていないナタネ。もちろん、ほぼ100% が輸入です。97年度でカナダのナタネ作付け中3分の1が遺伝子組み換え作物だということです。
 主にナタネ油として使われます。マヨネーズや揚げ油、サラダ油として使われています。そのため、加工食品にも多く含まれます。

★ジャガイモ…
 日本の植物防疫法によって、ジャガイモがかかる特定の病気が発生している地域からは生のジャガイモを輸入することが認められていません。 そのため、アメリカなどから生のジャガイモが輸入されてくることは、今のところありません。
 そのため、遺伝子組み換え作物が混入したジャガイモは、冷凍したり、フライドポテトに加工して輸入されます。
 ジャガイモもまた、フライドポテトやコロッケをはじめ、加工食品として広く使われています。
※遺伝子組み換えのジャガイモは海外でもほとんど生産されなくなりました。 (2005年12月現在)


(学校給食ニュース7号 1998年11月) 

[ 98/12/31 遺伝子組み換え ]

これからでも遅くない~取り組めること

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・地域の対応を調べる
 地域の子どもたちが食べている学校給食の現状はどうなっているでしょうか。教育委員会などで調べることはできます。また、 調理現場で調べることもできます。
 遺伝子組み換え作物を原料としているかどうか、調べることが第一歩です。
 先にご紹介した安全食品連絡会のような方法や、地域で活動している川越の例のように、方法はいくらでもあります。

・仲間を増やし、議会に要請を
 すでに全国の3分の1の自治体が、表示を求める請願を国に対し出しています。そこで、地方自治体に対して、 学校給食での遺伝子組み換え原料不使用を意見書採択するよう働きかけることは次の一歩としての運動にもなります。

・国産をめざそう
 今のところ、遺伝子組み換え作物はすべて輸入で、それを国内で加工して利用されています。つまり、今ならば国産原料を使うことが、 そのまま遺伝子組み換え食品を使わないことになります。
 この点から、地場型学校給食を取り入れることは理想的な対応です。地域の生産者と運動の輪を広げることもできます。
 今のところ安心な国産農作物ですが、すでに組み換えされたトマト、大豆、ナタネは種子が販売されれば栽培が可能になっています。 今のところ種子メーカーは様子を見ているというところです。メーカー、生産者に働きかけて、国内での生産を阻止する運動が必要です。

・表示を求めよう
 安全食品連絡会の調査からも、表示がないから調べられない、という声が多く出されています。
 現在の農水省表示案などでは、タンパク質や遺伝子の違いが最終製品に残るかどうかで「表示する」「表示しない」 を区別するという方向性が出されています。しかし、私たちが知りたいのは、遺伝子組み換え原料を使っているのか、不使用かということです。 そのためには、まず、生産地である輸出国が分別することと、国内に上げる水際で検査を行なう体制を整えることが必要です。
 私たちが望む表示になるよう運動を広げましょう。
 また、川越の例をとるまでもなく、加工食品については、なかなか調べるのが難しいため、 学校給食ではできるだけ調理済み食品などを使わない取り組みをすすめることも必要です。

(学校給食ニュース7号 1998年11月)

 

[ 98/12/31 遺伝子組み換え ]

安全食品連絡会が行なったアンケート

 安全食品連絡会(兵庫県伊丹市)は、97年に遺伝子組み換え食品の学校給食での利用状況を教育委員会に対しアンケート調査しています。 以下、このアンケート結果報告をご紹介します。

「学校給食と遺伝子組み換え食品に関する 教育委員会へのアンケート結果報告」
1997年11月30日

主旨:安全性に疑問の多い遺伝子組み換え食品が、表示もされずに、私たちが知らずに食べさせられていることについて強い懸念をもっている。
 とくに、成長期の子どもたちの口に入ることの影響は大きい。そこで、学校給食における遺伝子組み換え食品の利用状況を兵庫県、大阪府、 和歌山県の市町の教育委員会宛にアンケートをとり、今後の対策を考えることとした。
実施期間:1997年10月29日~11月13日
対象:兵庫県下59市町、大阪府下44全市町、
   和歌山県下2市、合計105市町
回収:兵庫県=9市+7町(16市町)、
    大阪府=9市+3町(12市町)、
和歌山県=2市、
なお、東大阪市は回答しないとの連絡があり、意見のみ記載。計30市町(回収率29%)

内容:
1 貴市では遺伝子組み換え食品について関心をもっておられますか。
もっている=26(87%)、もっていない=3(10%)、
もっているといないの中程=1(13%)

2 遺伝子組み換え作物、食品について安全だと思っておられますか。
思っている=0、思っていない=4(13%)、
疑わしい=8(27%)、わからない=17(57%)

3 貴市の学校給食の食材の中に遺伝子組み換え
食品が入っていますか
はい=0、いいえ=4(13%)、わからない=26(87%)

4 学校給食から遺伝子組み換え食品を取り除くことは可能ですか(複数回答あり)
可能=2(6%)、一部可能=5(15%)、むずかしい=20(61%)、無回答=6(18%)
理由 可能…その旨の表示があれば。
   一部可能…単品のトマト、ジャガイモ、トウモロ
コシは避けることができるが、大豆、
ナタネ油等は難しい。
   むずかしい…表示の明示がされていないから。

5 遺伝子組み換え作物・食品にその旨の表示が必要と思われますか
思う=27(90%)、思わない=0、分からない=0、無回答=3(10%)
理由 使用する、しないの選択を可能にする。
   表示されれば取り除くことは可能。

6 意見、希望など
◆情報を流してほしい。◆安全性が確保できるかが心配。◆安全性が十分確認されていなければ、消費者の選択可能なように表示してほしい。 ◆早急に表示義務づけが必要。◆使用したくない者にとっては無視される行為。◆物資納入業者に使用しないよう要請する(守口市)。◆まだ、 研究段階の遺伝子組み換え作物は、環境への影響や人体への安全性がきっちり把握されていないと思う。◆自然にさからい、 利益ばかりを追う農業のやり方に疑問とこわさを感じる。


考察
1 遺伝子組み換え食品に「関心をもっている」の回答が84%と多かったが、「関心をもっていない」が3市町もあったのは残念である。
2 安全性についての考え方は「わからない」が54%もあり、「疑わしい」と「安全とは思っていない」を合わせた46%を上回った。 もっと自主的に学習していただきたい。
3 遺伝子組み換えの食品が入っているかどうかの質問には「わからない」が87%もあった。調査、情報収集の努力が不足しているように思う。 「入っていない」と答えた3市町は無責任すぎる。
4 学校給食から遺伝子組み換え食品を除きたくても、表示がないので不可能との回答が多かった。「物資納入業者に使用しないように要請する」 と答えた守口市を習ってほしい。
5 組み換え作物・食品の表示については、88%の市町が必要との回答であった。
6 民間団体には回答しないという市(西宮市)があり、公僕意識が薄く、お上意識が強すぎる。 市民と行政と共に考えて学校給食をより安全なものにしたいと思っているのに残念である。

(学校給食ニュース7号 1998年11月)

 

[ 98/12/31 遺伝子組み換え ]

埼玉県川越市の例

 遺伝子組み換え食品を考える市民の会によると、 97年4月に教育委員会に対し遺伝子組み換え食材を学校給食に使わないで欲しいという要請をしたところ、その時点ですでに豆腐については、 分別証明書を取り寄せて変更していました。栄養士などからの働きかけもあり、平成10年度には、 遺伝子組み換え食品としての疑いがある食材に対してはそれぞれ対応しています。
 具体的には、平成10年6月現在で、
豆腐…納入業者より遺伝子組み換え大豆を使用していないという証明書を提出。
味噌…同上。
醤油…組み換え大豆が混入する可能性があるため、平成10年度2学期より組み換えをしていない大豆を原料とした醤油に移行。
きなこ…平成10年度から国内産の大豆を原料としたものを使用。
ナタネ油…平成10年6月から遺伝子組み換え原料ではないという証明書が提出されたものを使用。なお、 ノルマルヘキサンを使用しない圧搾方式で絞った油。
冷凍カットポテト…平成10年より国内産のものを使用。
でんぷん…以前から国内産。
冷凍ホールコーン…平成10年度から納入業者より遺伝子組み換えではないという証明書を提出させた。
クリームコーン缶…組み換えではないという証明書を提出。以前から使用しているもの。
ホールコーン缶…同上。
肉・牛乳…飼料の中に遺伝子組み換え作物が入っている可能性があり、証明書を提出させることが困難な状況である。調査を依頼中。
液卵…国内産(茨城県、大阪府)の卵を使用しているが、飼料の中に組み換え作物が入っている可能性があり、証明書を提出させることが困難な状況。 調査を依頼中。
冷凍食品など…遺伝子組み換え食品を使用していないという証明書を提出させることが困難な状況である。としています。
 さらに、川越市教育委員会は、8月18日現在で、遺伝子組み換え食品に関する規格並びにメーカー指定の変更についてという書面の中で、 コーン缶、トマトケチャップ、ピューレ、油、味噌、醤油、大豆煮豆、ボイル大豆、冷凍コーンについて、「遺伝子組み換え原料を使用しない」 という規格を入れています。チルドスライスポテトについては、国内産指定をしています。
 遺伝子組み換え食品を考える市民の会、名和雪子さんによると、「川越市は、小中学校ともにセンターなので、 加工食品の利用がどうしても多くなります。この加工食品の原料についてまでは今のところ対処ができていません。栄養士さんはがんばっていますが、 これは、川越市学校給食のシステム的な限界です。本当に遺伝子組み換え食品を学校給食から完全に排除するためには、 センターを自校方式にあらためるなど、給食システムを変えるしかありません。遺伝子組み換え食品問題は、 学校給食のあり方そのものも問いかけています」と話していました。

(学校給食ニュース7号 1998年11月)

 

[ 98/12/31 遺伝子組み換え ]

各地の事例

各地の事例

神奈川県座間市…給食での不使用を盛り込んだ意見書採択(97年6月)
神奈川県藤沢市…教育長が給食食材納入業者への不使用通知(97年6月)、コーンスターチ、大豆製品、大豆油を切り替え。
神奈川県大和市…米ぬか油に切り替え、醤油を有機大豆産に、豆腐、味噌は業者に確認。
山梨県甲府市…大豆油から米ぬか油に。豆腐、味噌、醤油は切り替え。
東京都町田市…市議会で学校給食での不使用を盛り込んだ請願採択(97年9月)。
東京都日野市…市議会で学校給食には可能な限り使用しない方針の請願採択(97年12月)
東京都練馬区…区議会文教委員会で給食に組み換え不使用の請願採択。
東京都世田谷区…教育委員会が納入業者に使用の有無について情報提供を求めた。
奈良県橿原市…市議会で学校給食での不使用を盛り込んだ国への意見書採択(97年3月)

 また、自校式の学校などでは、 栄養士の裁量で遺伝子組み換え作物ではない原料や国産の原料に切り替えるなどの取り組みが行なわれています。

(学校給食ニュース7号 1998年11月)

[ 98/12/31 遺伝子組み換え ]

時事情報1998 地場型を中心に

●群馬県が県産品使用拡大への取り組み
群馬県の調査によると、学校給食(保育園、幼稚園含む)の県産農産物取り扱いは、豚肉、牛肉、卵では7割を上回っていたが、 農産物ではすべて5割を下回り、特に、野菜、果物、芋類はとても低いことが分かった。原因として、「流通ルートが分からない」という声が多く、 県、生産者、JA、流通業者が一体となって流通の確立を行なうための研究を本格化するという。(上毛新聞 3月30日) (学校給食ニュース2号 1998年5月)

●高知県春野町の農家女性グループ
高知県春野町では、専業農家の女性グループが、地元の栄養士とともに地場産農産物を学校給食に使用する取組みをすすめている。 給食に使う野菜の種類、量を調べ、地域で提供可能な種類、量を検討し、現在では月に平均6回ほど学校給食に使用している。 地場産米飯の取り扱いや児童の農業体験、高齢者と連動して自家菜園野菜を学校給食に使うなど多彩な取組みを検討、実行している。 (日本農業新聞4月24日)(学校給食ニュース3号 1998年6月)

●福岡県が県産米使用
福岡県は、米飯給食を実施している県内すべての小中学校に県産米を導入し、60kgあたり500円の奨励金を交付して普及を図っている。 品種は県が育成した「夢つくし」で、使用予定量は3,800トン、対象児童生徒数は409,443名。(流通サービス新聞4月14日) (学校給食ニュース3号 1998年6月)

●地場産給食
5月14日付け日本農業新聞によると、高知県大豊町は、町内産アイガモ農法米を全小中学校の給食に採用。週3回の米飯給食とは別に月2回実施。 本年度は補助金がつかず、3倍程度の仕入れ値になりますが、環境保全など教育を目的に導入を決定したとのこと。地場産米を使用するだけでなく、 その栽培方法まで考えての導入ですので、教材としての価値も高いと考えられます。(学校給食ニュース4号 1998年7月)

●日本一の学校給食をめざして
 6月14日付け南日本新聞によると、鹿児島県肝付郡高山町で、子どもたちに日本一の学校給食を食べさせようという運動が始まっている。 小学校6校、中学校4校の800食を、自校方式及び親子方式からひとつのセンター方式に切り替える議論の中で、 結果的にはセンター方式への移行が決まったが、同時に食材を可能な限り町内で入手することと、野菜などを地元農家と契約して有機栽培にすること、 教材として活かすことなどが決められた。その結果、町ぐるみで給食についての関心が高まり、将来は「学校給食ブランド」 を売り出し町おこしをしようという話も出ている。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●和光市の地場型学校給食
 7月30日付日本農業新聞によると、埼玉県和光市では1990年より市内の小中学校全11校(約5500名)に対して、 学校給食で地場のジャガイモ、タマネギ、ほうれん草など年間15種類を使用している。農家26戸で構成する農産物直売組合と市の担当者、 栄養士が年に1回出荷調整を行い、月ごとに各栄養士が発注する方式。使用比率は給食野菜の1割程度。児童の農業体験など交流も深まっている。
 記事の中で、問題点として同じ規格の野菜をそろえる難しさが指摘されていました。給食の調理現場と、野菜の生産現場がより交流を深め、 規格のあり方などを検討することで農薬の削減もはかれ、教育教材としての力も高まります。このような取組みが持続、 拡大されるようがんばりましょう。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●98年産政府米は学校給食のみ
 11月10日付の日本農業新聞によれば、食糧庁は、98年産の政府米を来年1月から学校給食用としてのみ販売することを決定した。 97年産米は一般消費者向け「たくわえくん」限定とし、在庫となっている96年産米以前を業務用にする方針。 食糧庁が販売時に用途を限定するのははじめて。(学校給食ニュース8号 1998年12月)

●鹿児島県は県内産米を全量導入
 10月27日付の南日本新聞によると、鹿児島県は来年度から県内の米飯給食実施校888校(小・中・高) 全校で使用する米を従来の政府米から県内産自主流通米に切り替えることを決定した。政府米の位置づけが「備蓄運用」性格のものとなり、 安定供給がはかれないこと、値引き措置が2000年度以降廃止される予定であることなどを受けて、JA、食糧事務所、県、 県学校給食会が協議した結果。県産「かりの舞」の新米をJA県経済連が県学校給食会に供給するとしている。価格は日本体育・ 学校健康センターが提示する政府米価格に合わせるという。
 県内農業振興などの側面が強調されているが、地元の米を給食に使うことは教材として大きな意味があり、食や農業、 地域環境の面で教育への活用が望まれる。(学校給食ニュース8号 1998年12月)

●北海道江別市は市内産減農薬米使用
 11月10日付の日本農業新聞によると、北海道江別市では、市内28校の小中学校で来年度より米飯給食用の米を地元産減農薬米「ほしのゆめ」 に切り替えることとした。政府米助成がうち切られたことを受けての対応。自主流通米より割高になるが、その増分は市と地元のJAが負担する。 (学校給食ニュース8号 1998年12月)

●郷土食~マツタケご飯
 10月19日の信濃毎日新聞コラム「斜面」では、長野県下伊那郡豊丘村の小中学校3校、870人に対し、 毎年郷土食としてマツタケご飯が出ていることを紹介。17kg、 約20万円のマツタケを学校給食で食べさせることができるのは産地だからであるが、このことにより、「一生“マツタケの村” の誇りを持ち続けるだろう」とし、学校給食で地元産のものを使うことで地域の産業や人々、郷土に目を向けさせ、 地域に根ざした教育ができることを指摘している。(学校給食ニュース8号 1998年12月)

●埼玉県、地場産米に全量切りかえ
 98年12月2日付の日本農業新聞によると、埼玉県学校給食会は、12月より公立小中学校の給食に使う米を全量、 埼玉県産の自主流通米に切りかえた。品種は、コシヒカリと朝の光。従来、地域ごとに地場産米を使用しており、 地場産米比率は6割程度だったという。さらに、99年4月から埼玉県産小麦を使ったうどんの供給を開始するという。今後、 野菜の供給も予定される。(学校給食ニュース9号 1999年2月)

●山梨県上野原町で、地場野菜供給
 98年11月29日付の日本農業新聞によると、山梨県上野原町では、地元の農家グループ16人が「JA上野原町地元農産物販売推進部会」 をつくり、上野原小学校に毎日850食分の野菜を供給している。野菜は15種類ほどで、低農薬、有機肥料での栽培。 (学校給食ニュース9号 1999年2月)

[ 98/12/31 地場産・産直 ]

時事情報 1998年 環境関係ほか

●日量100kgを堆肥化
 99年1月18日付の静岡新聞によると、静岡県田方郡韮山町の学校給食センターでは、 これまで生ごみとして焼却処分してきた給食の残さいを隣接する残飯処理施設で堆肥化する取り組みをはじめた。3小学校、 4幼稚園分の1,500食を作っているセンターでは、毎日70kg~100kgの残食と野菜くずが出るという。処理システムでは、 12時間の乾燥と3週間の発酵をへて堆肥化される。学校の花壇などの他、活用方法については課題としている。 (学校給食ニュース9号 1999年2月)

●堆肥化から野菜生産まで
 98年11月20日付の産経新聞によると、東京都府中市では、99年4月から、生ごみを堆肥化し、地元農協が購入して野菜生産を行ない、 地域に野菜を供給する事業を開始する。給食センター、自校方式調理場4校、保育所15カ所の生ごみを、山梨県の業者が収集し、堆肥化、 府中市の農協などが堆肥を買い取り、野菜生産し、地元産野菜として学校給食などに活用するという。年間の総排出量が369トン(97年度実績) あり、コスト削減にもなるため、今後拡大の方針。(学校給食ニュース9号 1999年2月)

●日野市が水田を守る政策
 9月17日付け朝日新聞によると、東京都日野市は、 2000年度より市内の農家が生産する米の約半量にあたる20トンを毎年買い入れることにした。災害時の備蓄や学校給食用として利用する予定。 市内の稲作がこれ以上減少すると、水田と農業用水が荒廃し、市の緑が失われるために実施を決めた。なお、日野市は、 自然環境を保全するなどの目的で農業基本条例を定めている。(学校給食ニュース7号 1998年11月)

●残食利用の養豚
 10月6日付け山形新聞によると、山形県鶴岡市では、学校給食の残食・魚市場のあらなどを利用して養豚飼料とし、 豚を肥育して市の学校給食センターで豚肉として使用するリサイクルシステムの実証試験を開始した。リサイクル事業の一環として、市が「エコ・ ピッグシステム計画」を構築、山形大学農学部に研究委託していたが、さる10月15日、16日に学校給食に初登場。市では、 来年以降の具体的な商品化などについて今後検討する。(学校給食ニュース7号 1998年11月)

●学校の生ゴミを堆肥販売
 10月13日付け東京新聞によると、東京都豊島区では、 区内小中学校や区庁舎などから出る大量の生ゴミを肥料会社で成分調整した上で有機肥料として区内での販売を開始した。 区のオリジナル商品として区内循環をめざす。(学校給食ニュース7号 1998年11月)

●学校での塩ビ不使用努力要請採択
 6月18日付け読売新聞などによると、東京都北区議会は、 6月17日の本議会で学校など公共施設が塩化ビニール製品を使わないようにするよう区に対し努力を求めた陳情を採択した。 政府に対して塩ビ製品の生産や使用抑制に関する意見書の採択は、多くの自治体で行われているが、自治体に対しての陳情採択は全国ではじめて。
 このような動きが全国に広がるよう、環境ホルモンと合わせて運動を作っていきましょう。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●鹿児島県のゴミ焼却対策
 6月6日付け南日本新聞によると、鹿児島県内96市町村のうち、61市町村の公立学校で学校でのゴミ焼却を中止しており、 対策をはじめているのが11市町村、24市町村が学校でのゴミ焼却を継続するということが県教委の調査で分かった。県教委では、 97年9月に公立学校での原則焼却中止を通知しており、県立学校90校は98年4月で焼却を中止している。 (学校給食ニュース5号 1998年9月)

●配送車に天然ガス車導入
大阪府泉佐野市の泉南陸運事業協同組合は市内の小学校・幼稚園への給食配送用に天然ガス車7台を導入し、新学期より運行をはじめた。 環境保護の視点から。(流通サービス新聞4月24日)(学校給食ニュース3号 1998年6月)

●学校焼却炉の使用取りやめ
福岡県北九州市では4月1日に市教委が焼却炉の廃止を打ち出した。これに先立ち、西小倉小学校では昨年夏に自主的に焼却炉を廃止し、 紙のリサイクルに取り組んでいる。(西日本新聞4月14日)(学校給食ニュース3号 1998年6月)

●生ごみ発酵処理機普及拡大へ
世界遺産に指定されている屋久島でも、焼却炉の代替として学校給食調理場に生ごみ発酵処理機が導入された。また、メーカーのひとつでは、 自治体と連動して住宅地に処理機を設置し、各家庭から設置場所(ごみ集合場所)に持参し、直接処分する実験もはじまった。 (日刊工業新聞 3月24日)(学校給食ニュース2号 1998年5月)

●東京都羽村市で、紙パックから瓶牛乳に
「羽村の学校給食を考える会」では、牛乳の紙パックを瓶にかえるよう一昨年に運動を開始、12月に市議会で誓願が採択され、 この新年度より瓶牛乳となった。(朝日新聞 4月2日)(学校給食ニュース2号 1998年5月)

●たい肥を野菜にして給食利用
東京都北区では、96年度までに全小中学校に生ゴミ処理機を導入、できたたい肥を群馬県甘楽町の有機農業研究会が使用し、 さらにその野菜を一部北区の学校給食に取り入れている。ゴミの分別や食べ残しの減少、理科の授業への応用などの効果を上げている。なお、 甘楽町と北区は姉妹都市として、交流を深めている。(読売新聞 2月23日、日本農業新聞 3月1日)(学校給食ニュース1号 1998年4月)

●使い切れずに有料回収
東京都台東区では、小中学校4校に導入しているが、たい肥を利用しきれずに業者に有料で引き取ってもらっている。そのため、 微生物により分解して下水に流す消滅型の導入を検討。文京区でも同様に98年度から消滅型を導入するという。(東京新聞 2月28日) (学校給食ニュース1号 1998年4月)

 

[ 98/12/31 環境関係 ]

学校給食が与える影響の大きさ

はじめに
 現在の学校給食は福祉ではなく教育として行われています。1954年に制定された『学校給食法』の第2条(目的) は次のように学校給食のあるべき姿を示しています。

第2条 学校給食については、義務教育諸学校における教育の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
一、日常生活における食事について、正しい理解と望ましい習慣を養うこと。
二、学校生活を豊かにし、明るい社交性を養うこと。
三、食生活の合理化、栄養の改善及び健康の増進を図ること。
四、食糧の生産、配分及び消費について、正しい理解に導くこと。

 学校給食の目的がはっきり示されているにも関わらず、学校の現場、学校給食の予算などを決定する行政、そして地域で、学校給食は「雑務」 「単なる子どもの昼食」「予算削減対象」と捉えられがちです。
 一方、日本人の食生活を考えると、高度成長期後、「飽食の時代」と言われ、摂取カロリーは増えましたが、かつて成人病と言われた「生活習慣病」 の若年齢化やアレルギー・アトピーの増加、子どもたちの問題行動などが指摘されています。
 今、小学校・中学校に通う子どもたちの親は、すでに戦後、高度成長期の学校給食を経験した層であり、子どもたちは戦後の学校給食第2、 第3世代です。

現在の食のあり方に対し、学校給食はどのような影響を与えてきたのか、また、食のあり方が移り変わる中で、 学校給食はどのように移り変わってきたのか。そして、学校給食には、どのような可能性があるでしょうか。

●学校給食が与える影響の大きさ

 98年の8月に開かれた「98夏期学校給食学習会」において、農林中金総合研究所の根岸久子さんに『食の嗜好と学校給食』 と題してお話しいただきました。農林中金総合研究所は、1980年と1989年の2回にわたって、学校給食に関する総合的な調査・研究を行ない、 学校給食のもつ社会的な可能性などを提言しています。
 ここでは、この調査レポートをもとにして、学校給食が子どもたちの食などに及ぼす影響についてまとめます。

学校給食第二、第三世代へ
 今年の人口統計をもとに大まかな推計をすると、戦後の学校給食を受けた、または、受けている数は、全人口の7割を超すほどになります。
 また、高度成長期以降の学校給食、とりわけ1976年以後の米飯給食を体験した層でさえ、早くも30歳代となっており、その子どもたちが第2、 第3世代として学校給食の体験をしています。
 学校給食がその後の食生活に大きな影響を与えることは、これまであちこちで指摘されていましたが、 その実証はほとんど行なわれたことがありません。農林中金総合研究所の調査は、母親と子ども、学校栄養職員に対して同時に調査することで、 学校給食が想像以上にその後の食生活に大きな影響を与え、国内の農業や外食産業とも関わっていることを明らかにしています。


<家庭と学校給食>
 89年の調査を報告するレポートのひとつ『NORICレポート』90.7.26 では、「ゆれうごく母と子の食生活- 学校給食のつよいインパクト-」と題して、学校給食が家庭の食生活に与えている影響を分析しています。
 それによれば、「母親たちの62%は、学校給食によって自分自身の成人後の食生活が影響を受けたと考えており、また、90% がわが子の食生活に学校給食が影響を与えていると回答」しています。
 学校給食で覚えたり、好きになった献立を親が家庭で料理したり、子どもが親に対しその料理を求めていることがはっきりしています。また、 学校給食の献立表が、家庭の調理に影響を与えていることもこの調査から明らかになりました。
 親の世代が高度成長経済期以降の給食経験層であるため、親と子どもの食に対する嗜好が近づいていることも調査から分かりました。つまり、 若い親の世代ほど、子どもと同じ食嗜好になっており、好きなもの嫌いなものが親子で同じになる傾向が強いということです。

<主食のあり方の移り変わり>
 学校給食に米飯給食が導入されたのは1976年のことです。戦後の学校給食はパン給食であり、米飯給食導入後も、 現在にいたってようやく米飯回数がパン回数を上回るようになったところです。
 戦後の食糧不足の中で、1950年、アメリカのガリオア資金による小麦の無償配給にはじまった完全給食は、翌年、 ガリオア資金がうち切られたにもかかわらず、一貫してパン給食の道をたどりました。このことが、日本の食生活を大きく変貌させ、 米飯中心の食事からパンが占める割合を高めるにいたったことは、よく指摘されています。
 調査からも、朝食には親子ともパンの比率が高くなっており、また、親の昼食としてめん類の比率も高く、ご飯(米) の比率が下がっていることが分かっています。
 さらに、めん類のように単品型の食事を好む傾向にあります。

<外食産業と学校給食>
 親子の食の嗜好の一致、および、学校給食で好きな献立と外食でよく食べるメニューとの共通性も調査から浮かび上がっています。
 家庭内、学校給食、外食と食のあらゆる面で、食への嗜好が狭い範囲で固定化しているようです。
 児童期から青年期の食の訓練が、その後の食行動に大きな影響を与えるものだということを、この調査は裏付けています。さらに、 個々の食品に対する好き嫌い、味付けの濃淡、調味料の選択、献立の組み合わせ、マナー、食器具の選択や使い方、 並べ方などについての影響が大きいことが調査の結果分かっています。また、時々議論にのぼるような、「学校給食は年間190食程度であり、 年間の食事の6分の1に過ぎないのだから、影響はさほどでもない」という論に対しては、学校給食のもつ心理的な影響が強いことを示し、 否定しています。

<学校給食がもたらすもの>
 学校給食はその後の食生活に大きく影響を与え、家庭内の食などにも大きく影響します。と同時に、 学校給食もまた社会情勢によって大きく影響されます。魚の煮物などで残食が増える現実の前に、子どもにとって食べやすい給食と、 食べさせたい給食との間に揺れる学校給食現場の苦悩は近年ますます深まっています。
 しかし、学校給食が、結果的に日本の主食に米に並んで「パン」をもたらし、ひとつの要因として、日本の農業構造にまで影響を与えていることは、 学校給食の本質的な問題点を示します。学校給食のあり方ひとつで、地域の農業や地域文化そのものにまで影響を与える可能性があります。なにより、 子どもたちにとって、学校給食を通して学ぶものはとても印象深く大きなものであることは間違いありません。
 食教育の視点から見れば、学校給食は大きな可能性を持っているのです。

 この調査をふまえ、調査者のひとりである荷見武敬氏は、次のように訴えています。
「給食のもつなによりも本質的な存在意義として、それが食=生活と農=生産をつなぐ一番身近な結び目として機能しているということである。 日々の給食の営みそのものが、校区圏という名の地域社会と地域農・漁業(その中核的担い手としての農・漁協) とを結ぶ架け橋としての意味をもっているといえよう。前にもふれたように、少し長い目で見ると、学校給食は、私たちの食生活=食料消費構造と、 農・漁業生産(農・漁協事業)の在り方を結びつける出発点ともいえる。ここで最初のボタンをかけ違えれば、食と農、 地域社会と地域農業はスレ違ってしまい、とどのつまりには身土不二ならぬ身土バラバラという致命的欠陥を生み出す遠因になりかねない」( 『学校給食を考える』より)


(学校給食ニュース8号 1998年12月)

 

[ 98/12/31 食教育 ]

事例 中学校における栄養指導のあり方

●事例 中学校における栄養指導のあり方

 98年10月31日、新宿区立早稲田小学校において、東京教組98教育研究集会分科会が開かれました。 食教育分科会で墨田区立鐘淵中学校での給食指導実証授業について、同校の栄養職員・新津環さんが発表されました。 ひとつの事例として発表をまとめます。

 この給食指導の実証授業は、同校1年生向けに学級担任が栄養職員とともに立案したもので、学級担任の研究授業として行なわれました。
 指導案でのテーマは、「豊かな食生活を目指して ~個と固と孤の改善~」であり、「単品しか食べない個食、固定化されたメニューによる固食、 一人で食べる孤食の傾向」を改善をすることが日々の給食の残菜などの問題解決や、食生活に対する意識向上につながるという視点がもたれました。
 まず、生徒に対し事前に『朝食調査カード』が配られ、生徒の1週間の朝食の実態について調査しています。この結果を表にまとめ、 朝食を食べない生徒が10%以上いることや、栄養が偏っていることを生徒達に知らせます。
 これをもとにして、授業は2時限にわけて行なわれ、それぞれに途中、栄養職員による指導が組まれました。
 まず、孤食を実感するために、給食の時間に、ふつうは班で食事をするところを、あえて全員授業と同じように前向きに座らせ、 班での会食との違いを体験して生徒に意見を出させています。ここから、「一緒に食べる」ことが食欲や、 食事の楽しさにつながることを知ることができました。
 また、写真を利用して、ひとりで食べている例、会食の例などの人の表情の違いを見せたり、栄養職員がグラフを利用して、 たとえば牛乳を半分残すことでどのくらいの栄養が摂取できないかなどを視覚的に理解させたりと工夫を凝らしています。
「中学校の給食は、小学校よりも5分~10分時間が短いという実態があります。時間がないというのもひとつの理由なのでしょうが、 誤ったダイエットの知識などから、中学生になると牛乳を残したり、ご飯を残す生徒が増えてきます。そこで、成長期の身体にとって必要な栄養が、 たとえば牛乳を半分飲まなくなるだけでどのくらい少なくなるのかを学んで欲しかったのです。この授業で生徒達が一番関心を持ったのも、 この点でした。知ることで、少しでも食べるようになるという実感はあります」と、新津さん。
 小学校と違い、中学校の給食指導や食教育は難しいと言われます。
 小学生のような集団指導が行ないにくいという側面や、学校自体が給食指導・食教育を軽視したり、 給食そのものを否定しがちな側面があるからです。
 しかし、この研究事例に見られるように、適切な給食指導は、子どもたちの成長や食への関心に対し大きな意味を持つことは明らかです。

(学校給食ニュース8号 1998年12月)  

 

[ 98/12/31 食教育 ]

事例 調理員の取り組み

●事例 調理員の取り組み


 現状では栄養職員が配置されていない学校も多数あります。しかし、食教育は、栄養職員だけでなく、 学校と学校給食に関わるすべての人ができる可能性をもつものです。栄養職員が配置されていない学校で、調理員が食の大切さを考え、 取り組んでいる例があります。
 福岡県立花町の北山小学校は、児童数200名弱、栄養職員は配置されておらず(町に1名のみ)、調理員2名(昨年までは3名、 米飯時のみ現在も3名)の自校式給食を行なっています。調理員の平島コトヱさんにお話を聞きました。
 北山小学校では、昨年より調理員によって給食だよりを発行しています。また、職員会議にも参加しており、 栄養職員と連絡を取り合って情報をまとめ、クラス担任に指導を依頼したり、セレクト給食を企画・実施するなどの工夫を凝らしています。さらには、 時間外にPTA役員などの保護者へ学校で栽培した米や野菜を使って調理室で夕食を調理して、学校給食について懇談するなど、 学校給食のあり方や役割について積極的な活動を続けています。
 平島さんは、「調理員もただ調理をするだけでなく、学校給食に関わる一員である以上、 学校給食を通して子どもたちや家庭に対してできることをすべき」と語っています。
 平島さんたちが発行を続けている「給食だより」をいくつかご紹介します。


(学校給食ニュース8号 1998年12月)

[ 98/12/31 食教育 ]

事例 学校外での取り組み(試食会)

●事例 学校外での取り組み(試食会)

静岡県の富士市学校給食を考える会(代表・小櫛和子さん)は、長年、様々な学校給食に関する活動を続けています。今年の8月、 同回が主催の第10回、夏の調理試食会が開催されました。許可を得て、その報告書を一部抜粋の上転載します。

夏の調理試食会
日時…8月3日(月)午前10時より
場所…吉原公民館調理室
人数…30名
メニュー…ジャージャーメン(みそダレ、ゆでやさい)、
ヨーグルトあえ
主催…富士市学校給食を考える会
協賛…富士市職員組合

参加者の感想
★暑い中、子どもと一緒に協力してできたのでよかったと思います。これからも衛生的な食事を心がけがんばっていきたいと思います。また、 こういう機会に調理員としてではなく、一参加者として参加したいと思いました。
★今日は親子の料理、とても楽しくできました。いつも、いつも、おこってばかりいるので親子のコミュニケーションのためにも、 このような機会がもててよかったです。これからは衛生面に気をつけてお料理したいと思いました。
★きょうは、とてもたのしかったです。おりょうりのおてつだいをします。
★今日、グループ分けして、6人で料理して、とっても楽しかったです。ひとりとかふたりで作るよりみんなで作ったほうが、 すっごく楽しかったです。それから、野菜の切り方とかも上手になって、とってもうれしかったです。
★衛生面にとても気をつけてくださっているくとがよく分かりました。その分手間と時間がとても多くかかる中、 毎日おいしい安全な給食を作ってくださっていることに心より感謝しています。
★毎年、調理試食会、子ども共々とても楽しみにしております。日頃親子で調理などなかなかできませんでしたが、子どももこの会を通じて、 料理の大切さ、食についての話し合いを持つようになり、包丁さばきもとてもじょうずになってきたようです。
★暑い中、子どもたちの熱気とめんをゆでる熱気で汗のでる1日でしたが、 給食を作ってくださる調理員さんたちのご苦労が少しはわかったかと思います。家庭で作るよりひょっとしたら手もかかっているし、 食材の種類も多く、いつまでも自校方式が続いて欲しいです。今日は話題にでませんでしたが、近頃、環境ホルモンが問題になっています。 ゆくゆくは学校給食の食器が陶器のような害のないものに変って欲しいと切に願います。
★毎年、調理試食会でお母さんがたいへんだなということがわかりました。とても楽しかった試食会。 (わたしも大人になったらおかあさんみたいになりたいです)
★はじめて参加させていただきました。学校給食では、O-157対策に細かな配慮をされていることをひとつひとつ目で見知ることができました。 家では衛生面では十分なことができていませんでした。反省です。もやしを水からゆでること、きゅうりの湯通し (思っていたよりシャリシャリしていた)等、家でもやっていきたいと思いました。 子どもともゆっくり時間をかけて一緒に食事作りをしていけるようにしたいと思います。土、日にはやっていきたいなと思いました。 おいしくいただきました。ありがとうございました。

主催者より
 親子の参加者34名と調理員さん8名(男性1名)で行いました。それぞれの立場でのいろいろな感想をありがとうございました。昨年から、 調理前の全員の手洗いや、アルコールでのまな板や調理台の消毒に加えて、今年は、ザルの熱湯消毒もしてからの調理でした。
 市立中央病院での給食が民間委託になったため、10人の男性調理員さんが、学校給食を担当することになりました。中央病院では、 ひとりがひとつの料理の流れを全部担当するのですが、学校給食では、大量に短時間に同じものを作るので、その作業に慣れるのが大変だそうです。 女性ばかりの時は、それなりにやっていたそうですが、学校給食では力仕事もけっこうあるので、男性調理員さんは、 あちこちでたよりにされているようです。

 このような学校外での給食をめぐる取り組みを通して、学校給食と地域の結びつき、親子の結びつきを深める事例もあります。学校給食は、 食や農、生活について考えるとても優れたテーマであることが、この事例から分かります。

(学校給食ニュース8号 1998年12月)  

 

[ 98/12/31 食教育 ]

民間委託と給食システム

はじめに

 給食実施方式には、調理場型式としての「自校」と「センター」の違い、運営としての「直営」と「民間委託」、食材購入方法としての 「共同購入」「個別購入」、さらには栄養士の定数基準による配置、未配置の場合などがあります。また、ランチルームの設置や食器なども自治体、 学校により違ってきます。
この問題と、調理の民間委託問題を取り上げます。

民間委託について
今、学校給食現場は、「合理化」の名の下で、調理の民間委託が進められています。
各自治体は、行政改革を果たすため「人件費」の抑制にやっきになっています。
そこで、直営調理員の「人件費」と調理の「民間委託」とを単純に比較し、コストが削減されると導入をはかります。
しかし、コスト論は、地域によってはあきらかに論理が破綻しています。また、この民間委託導入にあたって、自治体、議会などでの議論には「教育」 の観点が含まれていません。
民間委託には、様々な問題があります。
なにより、教育としての工夫の余地がせばめられることが大きな問題です。
民間委託について整理し、各地の事例を集めています。

●自校方式とセンター方式

 各学校に調理場があり、学校で調理する自校方式と、いくつかの学校、学区をまとめ一括して調理し、 学校に配送するセンター方式があります。1964年に共同調理場(センター)への補助金導入が開始され、85年の合理化通知の後、 センター化が進められました。96年5月現在、全国で2733のセンターがあり、そのうち30が1日1万食を超える給食を作っています(図1)。
 センター方式は、一度に大量の給食を作らなければならないため加工食品に頼らざるを得ないとか、配送を必要とするため調理時間が短く、 届けられた給食も冷めてしまうなどの構造的な問題を抱えています。センターによっては、工夫を凝らして取り組むところもありますが、 自校方式に比べ、食材など工夫の余地が少ないのも実状です。
 また、自校方式では、栄養士や調理員が学校にいて、子ども達とふれあうことができますが、センター方式では難しくなります。
 近年いくつかの自治体では、センター方式をやめ、自校方式に戻したところもあります。しかし、 センター方式を取り入れる際に出された文部省の補助金は、自校方式に戻す際に出ることはありません。 このため自治体にとっては自校方式に戻しにくくなっています。
 97年9月22日に保健体育審議会(保体審)の答申がなされました。その中で学校給食の項には、 「学校給食を活用した食に関する指導を一層充実する観点から、学校栄養教職員が個々の給食実施校に配置され、これにより、 児童生徒の実態や地域の実情に応じて、豊かできめ細やかな食事の提供や食に関する指導が行われることが望ましい。したがって、 このような食に関する指導等が可能となるような単独校調理場方式への移行について、運営の合理化に配慮しつつ、 児童生徒の減少等に伴う共同調理場方式の経済性や合理性と比較考慮しながら、検討していくことが望ましい。」とあります。この答申は、85年の 「合理化」通知とセンター化に出される補助金が今日的な意味を失っていることを示しています。また、 自校方式であっても民間委託がすすめられていることには注意が必要です。

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●直営と民間委託

 学校給食は、教育の一環であり「設置者」の責任で実施されます。公立の場合は市町村などの自治体、私立の場合は学校の運営母体です。 公立で話をすすめますが、直営方式は、献立作りから食材購入、調理まですべてを自治体の職員が行います。栄養士が献立を作り、 調理員が調理します。民間委託(業者委託)とは、この中で調理、運搬、食器洗浄、ボイラー管理などの仕事を民間業者に委託することです。
 調理の民間委託の場合、法律上、公務員である栄養士は民間企業の調理員に対し直接的な指示を行うことはできません。 当日の調理について栄養士は、受託会社に対し「指示書」という文書が出せるだけです。調理過程、調理後のチェックはできますが、 それも受託会社との決められた形であり、直営方式で見られるような栄養士と調理員の直接的なやりとりの中から生まれる工夫とは質的に異なります。 また、食材購入から献立づくり、調理、後かたづけと、直営の場合、一貫して行えるため、子どもたちの状況把握や、学校行事、 地域行事との取り組みが行いやすいですが、民間委託の場合、それらに制限が出てくる場合もあります。それに、自校方式の調理員のように、 子どもたちとの直接交流による教育効果も望めません。
 直営でも自治体常勤職員である調理員を減らし、パート職員化することがあります。パート労働化の場合も問題があります、 大量調理という一般にはない調理技術や衛生管理知識が欠けていることが多く、その知識、技能を得るための時間もありません。そのため、 正規の調理員に負担がかかり、質的にも不安が生じます。
 図2の通り、調理員の正規雇用からパート化への流れがすすんでおり、民間委託も96年度で全体の7%と増えています。2

●個別購入と一括購入

 食材を調理場ごとに購入する個別購入と、いくつかの調理場の食材をまとめて購入する一括購入があります。一括購入は、 大量購入になるためコスト削減が考えられます。しかし、大量生産物である加工食品への依存や、食品添加物の問題などを生むことがあります。 生鮮品なども事前に発注し、大量に揃えなければならないため、地域の材料を使用することが困難だったり、 急な献立の変更ができないなど工夫の余地が小さくなります。また、一括購入は、ひとつの食材で食中毒が起こった場合の被害範囲が大きくなります。

●栄養士の配置~定数基準ほか

 学校栄養職員はすべての調理場に配置されるわけではありません。学校栄養職員(栄養士)は、 都道府県により各市区町村の定数が決められており、定数分については、都道府県から人件費が出されます(県費職員)。 定数を超える学校栄養職員を採用する場合、市区町村が独自の予算で採用することになります。そのため市区町村によって異なりますが、 すべての調理場に栄養士が配置されているわけではありません。学校給食センターの場合、基本的に学校栄養職員が配置されていますが、 自校方式の場合、数校に1校程度ということも一般的です。その場合、学校栄養職員は複数の学校調理場の献立づくりが必要になり、 学校栄養職員の負担になるため、市区町村単位での統一献立を組むなど調理場ごとの食材購入や献立づくりに制限が出てきます。
自校方式で民間委託されると、その調理の管理が必要になるため、一般的に学校栄養職員が配置されます。 近年、学校栄養職員は、 正規雇用職員ではなく、非常勤雇用されるケースも増えています。県費職員と市区町村独自採用職員では、行う仕事が同じであるにもかかわらず、 待遇に違いがでるなど、正規雇用の場合でも制度上の問題が指摘されています。
学校栄養職員は、学校の中で子どもたちに食の大切さを伝えることができる専門的な知識を持った数少ない存在です。しかし、 学校の中での位置づけが明確でなく、学校の中の理解がなければ、子どもたちへの食を通じた教育がなかなか実を結びません。各学校栄養職員は、 学校の中で献立表や子どもたちとのふれあいの中で工夫しています。
なお、栄養教諭制度が学校教育法等の改正によりスタートしました。今後、栄養教諭による食の指導などが行われることになりますが、 実際の採用等については、今後の国や都道府県の対応次第です。 この項全面改定:2004年9月。

学校給食ニュース0号 1998年2月。

 

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

民間委託の問題点

「合理化」行政の流れ
 1985年、文部省は都道府県に対して「学校給食業務の運営の合理化について」を通知しました。背景には、当時の中曽根内閣の「民間活力導入」 がありました。学校給食に関する合理化の内容は、調理場の共同調理場方式への移行、調理員のパートタイマーへの切りかえ、 調理業務の民間業者への委託=労務費の縮減、政府補助金の縮減、受益者負担の推進です。
 学校給食の共同調理場方式(センター化)や民間委託は、85年以前にもありましたが、「合理化」通知の後、 急速に全国の自治体が取り組みはじめました。
 さらに1994年10月には、自治省が全国の地方自治体に対して、各分野の民間委託推進、 職員削減の行革大綱を1年以内にまとめるよう通知しました。そして、全国の自治体では行財政改革大綱を作成することとなり、 学校給食調理が職員削減対象のひとつとしてクローズアップされました。
 この行財政改革は、主に人件費削減を重視しており、いかにして職員数を削減するかということばかりが議論されています。そのため、 住民サービス、福祉、教育の充実という自治体行政の基本的な目的が後退しかねません。行政の無駄をなくし、コストを抑えることは必要ですが、 結果的に失うものが大きくては、本当の「合理化」とは言えません。学校給食調理の民間委託は、子どもたちの食教育にとって失うものが多すぎます。

教育的視点抜きの議論
 民間委託は、行財政改革、合理化という視点からすすめられます。学校給食の民間委託を検討する行政・議会の多くは、 「調理員は年間190日しか働いていない」とか、「忙しいのは給食の準備を行う数時間」という学校給食調理現場を無視した論点から、パート化や、 民間委託は「学校給食の質を変えずに経費節減できる方法」だという説明を繰り返します。
 このような自治体・議会の進め方があるため、一般的には民間委託問題はあたかも調理員の問題として捉えられがちですが、実際には、「合理化」 の代償として、直接、間接的に子どもたちに影響が生じてきます。学校給食は教育の中で重要な位置を占めるべきですが、 今日の給食はそのような位置を占めているのか、疑問です。
 学校給食法においても、「教育の目的を実現するために」

日常生活における食事について、正しい理解と望ましい習慣を養うこと
学校生活を豊かにし、明るい社交性を養うこと、
食生活の合理化、栄養の改善、および健康の増進を図ること、
食料の生産、配分、および消費について正しい理解に導くこと、

という目標が定められています。
 子どもたちの食教育は、保護者、栄養職員、調理員、教職員を含んだ地域全体が、密接なコミュニケーションをもって取り組む必要があります。
 そのことを理解することで、民間委託問題が、調理員のみならず、保護者、栄養職員、 教職員を含んだ地域全体の問題であることがはっきりしてきます。民間委託をはじめとする「合理化」の問題は、他の学校給食運動と同じく、 子どもたちの食教育にとって、何がもっとも配慮された方法、方向であるかという視点を中心におくことが、運動を形づくる上で大切なことです。

初出記事が古いため、情報が現状と合わなくなっていることがあります。
最新の情報を別途入手してください。

(学校給食ニュース0号 1998年2月)

 

 

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

石けん・合成洗剤について はじめに

はじめに
 合成洗剤から石けんに切り替える運動は、全国で実を結び、自校方式、センター方式を問わず、多くの事例が生まれました。しかし、 合成洗剤を使用している調理場は今もたくさんあります。
 中には、合成洗剤を使っていることを意識せずに使われていることも、残念ながらあります。それは、調理員、栄養士、保護者、 地域が合成洗剤や石けんについてあまり考えてこなかった結果です。そして、調理員の手荒れや健康被害をもたらし、 食器などに残留して子どもたちの将来をそこない、自然環境を汚染しています。

 さて、合成洗剤は、石けんと異なり、高度な化学工場で製造される自然状態では通常ほとんど存在しない化学物質です。また、 多くの助剤が使われています。そして、自然界に流れ、人や自然環境に少なからぬ問題を与えています。また、安全性に対する問題が指摘されると、 別の成分が登場し、さらにその安全性が問われるイタチゴッコが続いています。
 何かに似ていると思いませんか。
 今、大きな社会問題になっているポリカーボネート製食器は、プラスチック製品です。プラスチックもまた、高度な化学工場で製造され、 自然状態ではほとんど存在しない化学物質で、多くの添加物が使われ、人や自然に問題を引き起こしています。
 学校給食とプラスチックの大きな関わりは食器です。最初はポリプロピレンに使われていた酸化防止剤BHTの溶出を問題にしました。すると、 メラミン製食器が登場しましたが、今度はホルムアルデヒドの溶出が起こりました。そして、 安全性の高いと言われたポリカーボネート製食器は環境ホルモン(内分泌かく乱物質)のビスフェノールAが溶出しています。
 学校給食現場における合成洗剤問題とプラスチック食器問題は、とてもよく似ています。
 プラスチック食器が問題になっている今だからこそ、あらためて、合成洗剤について考えてみませんか。
 

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

汚れが落ちるしくみ

 石けんも合成洗剤も、食器の汚れを落とすしくみはまったく同じです。石けんや合成洗剤などをまとめて「界面活性剤」といいます。
 水には水同士、油には油同士でまとまる性質があります。界面活性剤は、水になじむ部分と油になじむ(水をはねつける)部分でできています。 そして、水と油が接しているところに作用して、本来は混ざらない水と油が混ざりやすくなるようにします。 その状態で食器をこすったりすると汚れが表面から水に溶け出し、汚れが落ちるのです。

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(学校給食ニュース6号 1998年10月)

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

民間委託を問う!

1:本当に経費削減などの「合理化」になるのか?
 自治体が民間委託の検討に入る段階では、その自治体における「経費節減」の具体的な試算が明確にされません。つまり、 民間委託が経費節減になるというのはあくまでも「仮説」でしかありません。仮に、モデル的な試算が出されても、単年度か、中長期的な計算か、 人件費以外のどのような項目が入っているかなど、見方によって「経費節減」効果はずいぶん異なってくるはずです。しかし、実際の「合理化」 議論では、自治体も、議員も、時には反対する側さえも、「人件費」に対して経費節減になるということを前提にしていることがあります。
 本当に経費節減になるのか、経費節減のみならず、コストバランスがよいかどうか、すなわち費用対効果が優れているかどうかを、 学校給食関連予算全体の中で明確にすることが経費節減を論じる自治体の責任です。

2:食教育としての学校給食
 学校給食は、子どもたちが成長期を過ごす学校における大切な食教育です。地域、伝統的な食文化を知り、適切な食生活、 食習慣のあり方を学ぶ貴重な体験となるはずです。
 この学校給食の可能性を最大限に活かすためには、地域、学校の実状に応じ、栄養士、調理員、保護者、教職員を含んだ地域全体が、 密接なコミュニケーションをもち、創意工夫をこらすことが大切です。
 しかし、民間委託された場合、たとえ自校方式であっても栄養士と受託業者の間には「指示書」 という形での限られたコミュニケーションしかありません。食材から後かたづけまでを通した学校給食という考え方がくずれます。
 委託業者は民間企業である以上、利潤を確保することが必要であり、同じ献立、食材料、手間を直営と同じ質でできるとは考えにくく、学校給食の 「質」が変わらないという自治体の説明には説得力がありません。

3:食以外の学校運営
 学校は、子どもと教職員によってのみ運営されているわけではありません。栄養士、調理員など直接学校で子どもたちと関わる大人と、 保護者をはじめとする地域の人々の参加により、子ども達は社会的な教育を受けています。学習とともに、これら社会的な教育を通して、 子どもたちは成長します。
 学校運営に関わる大人たちが、常に連携して子どもに接することは、子どもたちにとってとても大切なことです。たとえば、直営・ 自校式の調理員が学校行事に参加し、子ども達と交流していることで、 学校給食に対する子どもたちの関心と信頼が高まっていることなどの事例があります。
 利潤を追求せざるを得ない民間委託を行うことで、これらの子どもたちへの工夫の余地が減っていきます。

4:はじめに民間委託ありき~地方行政における教育ビジョン不在
 合理化通達や行財政改革の名のもとで、地方行政には「人件費」削減という観点しかないかのように見えます。はじめに民間委託ありきではなく、 地域における教育ビジョンに基づいた教育行政が必要です。地域の子ども達にとって、どのような給食がもっとも望ましいかを考え、 理想に至るための方策を打ち出すことが大切であるはずです。この視点なくして、民間委託を議論することは、行政の基本的な間違いです。

●中学校は要注意

 中学校は小学校に比べ給食完全未達成の自治体が多くあります。実施されていない校区では実施要望が多く、そのため、 民間委託やセンター方式だけではなく、仕出し弁当方式(名古屋市や広島市)など、問題の多い方式で給食開始されることがあります。保護者も、 給食がないところへの導入であるため、反対しにくかったり、栄養士、調理員なども当事者として見なされないため反対しにくく、 運動の形成が困難です。
 東京都小平市のように、まず、反対が少ない中学校でセンター化、民間委託方式を導入し、その後小学校への導入を図ろうとした例もあります。
 学校給食が不完全な中学校を抱える地域では、この点に注意しておく必要があります。


(学校給食ニュース0号 1998年2月) 

 

 

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

界面活性剤(坂下栄さんのまとめより)

 界面活性剤は、その化学的な性質から下の表のようにまとめられます。
 陰イオン系…水に溶かすとかい離して界面活性作用を持つ部分がマイナスイオン。洗浄力がもっとも高く、洗剤に使用されます。
 陽イオン系…水に溶かすとかい離して界面活性作用を持つ部分がプラスイオン。殺菌剤や帯電防止剤として使われます。逆性石けんもこの一種。
 両性イオン系…溶液がアルカリ性のときは陰イオン系と同じ、溶液が酸性のときは陽イオン系と同じ作用を示すもの。殺菌作用として使われます。
 非イオン系…水に溶かしてもイオンにはならない界面活性剤。起泡性があります。

 また、界面活性剤は、様々な用途で使われています。
 洗浄剤…洗濯用、台所用、シャンプー、歯磨き
 起泡剤…洗浄用、歯磨き
 乳化剤…化粧品、マヨネーズ、チョコレート
 浸透剤…薬、農薬
 溶化剤…化粧品
 分散剤…海への油流出事故などに使用
 柔軟剤…柔軟仕上げ剤
 緩染剤…染料への添加、毛髪染料剤への添加
 展着剤…農薬
 殺菌剤…リンス剤
 帯電防止剤…化繊の帯電防止

soap2まとめの表(クリックで拡大)

(学校給食ニュース6号 1998年10月)  

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

石けんとは

 動植物油脂とアルカリ成分(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)で中和された脂肪酸エステルの総称が「石けん」です。
 石けんは、原料油脂の組成によって、性質が微妙に異なってきます。例えば、ヤシ油ならば、水溶性に優れ気泡力がある石けんができますが、 洗浄力は若干劣ります。牛脂ならば、洗浄力が強く、水溶性が劣ります。このように油脂本来の性質が反映するのは、 石けんの化学組成がとても単純だからです。
 石けんのにおいが気になるという話を聞きますが、石けん本来のにおいは、原料に由来します。原料を精製するとにおいはなくなっていきます。
 石けんは、原料の油と苛性ソーダのみで、温度も80℃前後と家庭で、特に難しい道具もなしに作ることができます。この単純さこそが、 石けんの安全性を保証しているとも言えます。作りが単純なために分解しやすく、また、 界面活性作用もちょっとした条件の変化で失ってしまうからです。
 石けんは水に溶けた時の状態がアルカリ性になり、界面活性作用を示します。汚れがひどかったり、ペーハーが変わったり、 石けん成分が薄められたりすると、簡単に分解してしまいます。これが、石けんが合成洗剤と異なる大きな違いです。
 逆に、この点が石けんの難しさにもなります。使いすぎるとぬるぬるしてしまいます。また、 合成洗剤では汚れを細かい粒子にしたまま水と一緒に流される「汚れを拡散する」性質がありますが、石けんは汚れを集めてしまうため、一度、 食器や調理器具から落ちた汚れが固まって、再付着することもあります。
 石けんは、水道水に含まれるカルシウムなどのミネラルによって金属石けんに変化し、界面活性作用がなくなることもあります。しかし、 ミネラル分の少ない日本の水道水ではあまり考えられません。
 また、蒸留水で石けんを使用すると非常に強い界面活性作用を示します。石けんは、とても単純なつくりだけに、使う際の水や汚れ、食器の素材、 温度といった条件に洗浄力が左右されます。うまく使えば、これほど汚れが落ちる洗浄剤もありません。
 自分の地域や作業の特徴にあった石けんを選び、工夫することが必要です。

(学校給食ニュース6号 1998年10月)

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

合成洗剤とは

(1)歴史
 合成洗剤の歴史は短く、世界に普及してわずか半世紀強でしかありません。その歴史とともに大まかな流れを見てみましょう。
 合成洗剤は、第一次世界大戦中、ドイツで開発されました。第二次世界大戦後、アメリカで油脂不足から石けんが不足し、 石油から合成洗剤を大量生産するようになりました。1951年に日本ではじめての合成洗剤(ABS)が販売され、急速に普及します。
 ところが、ABSは、生分解性がとても悪く、10年後の1961年には多摩川で発泡が見られるなど目に見える汚染が広がりました。そのため、 世界各国で使用禁止になり、ソフトタイプとよばれるLASが主流になっていきます。日本でも68年に行政指導でLAS化がすすめられました。 しかし、その間にも発ガン性や免疫への影響、環境への影響が明らかにされ、62年には中性洗剤を誤飲した男性が死亡する事故も起こりました。
 その後、LASの毒性や環境影響も指摘される中、アルコール系や非イオン系などの洗剤が登場したり、「天然原料」 をうたった合成洗剤が登場しますが、いずれにしても安全性と環境への影響に問題があるかその疑いがとれないものばかりです。
 洗剤の界面活性成分だけでなく、製品に助剤として入れられていたトリポリリン酸塩が富栄養化の原因ではないかと社会問題になりました。 79年に滋賀県が琵琶湖富栄養化防止条例で合成洗剤をはじめて制限します。メーカー側はすぐに無りん洗剤を発売し、以後日本ではほとんどが 「無リン」になりました。しかし、 リンの代わりに入れられたアルミノけい酸が水に溶けず下水管の目詰まりや環境汚染を引き起こしたりもしています。
 このように合成洗剤の歴史は、人体と環境に対する被害の歴史でもありました。

(2)特徴
 合成洗剤は、石けんと異なり石油などの原料油からアルキルベンゼンやアルファオレイン、高級アルコールなどを製造し、たとえば、 アルキルベンゼンに硫酸化剤を加えて硫酸化し、水酸化ナトリウムで中和したのがLASというようになります。高温、高圧をかけてつくられるため、 合成洗剤を日常の中でつくることはできません。
 合成洗剤は、それぞれに特徴が異なりますが、共通して言えるのは、石けんよりも界面活性作用が安定しているということです。石けんは、 たとえば海水中に入れると薄まることとミネラルの影響ですぐに白濁し、界面活性作用をなくします。しかし、合成洗剤は、海の水でもきれいに溶け、 生物によったり、自然の浄化作用で分解されるまでたとえ薄められても界面活性作用が残ります。
 また、合成洗剤は、石けんよりも一般的にタンパク質吸着性や浸透性がすぐれ、洗い上がりの見た目の差を生んでいますが、同時に、 このタンパク質吸着性と浸透性が、人体や環境の問題を引き起こしていると言えます。
 BODの調査などで、合成洗剤の種類によっては石けんの方が環境負荷が高い結果になることがありますが、界面活性作用の持続や、 分解される過程と物質を見てみると、総合的には石けんより合成洗剤の方が環境に与える影響は大きいと言えます。


(3)人体への影響
・手荒れ
 合成洗剤の影響でまっさきに思い立つのが手荒れです。学校給食の調理現場でも、家庭でも手荒れの被害は深刻です。 合成洗剤のコマーシャルで常に「手荒れが減った」「手荒れしにくい」と宣伝を続けているのは、 逆に手荒れの被害が続いていることを物語っています。皮膚の被害は目に見えますが、より恐ろしいのは内臓障害です。

・内臓障害(肝臓、腎臓)
 合成洗剤の特徴から合成洗剤は、口から入るよりも皮膚から入る方が身体の中に長く残留すると考えられます。合成洗剤は、石けんと異なり、 薄まってからも界面活性作用が続きます。皮膚には防御作用があり、体外から不要なものが浸透しないようになっていますが、 合成洗剤はその特徴から、皮膚を通して直接血管に浸透してしまいます。口から入れば、消化器官系=排泄系に入るため排泄しやすいですが、 皮膚を通して入った場合、血管に入り、体内を循環します。しかも、異物、毒物を分解する肝臓でも分解できないため、長く循環し、 一部は脂肪の多いところなどに滞留することになります。
 そして、とりわけ肝臓・腎臓に問題を生じさせることが動物実験で分かっています。

・次世代への影響
 合成洗剤は、その性質から胎盤を通過し、胎児や受精卵にも影響を与えるという研究もあります。また、 精子の減少を引き起こす可能性も指摘されています。

 この他、急性毒性、慢性毒性、成長や繁殖障害など様々な問題が指摘されています。

(4)環境への影響
 合成洗剤の環境への影響はとりわけ水生生物や河川・海洋の生態系にとって深刻です。濃度が濃い場合、 魚はエラに障害を起こして死んでしまいます。
 また、細胞膜を通過したり、細胞膜のタンパク質を変成させる作用があるため、微生物や魚類の卵などは深刻な被害を受けます。 個々の種に悪い影響を与えるとともに河川・海洋の生態系を破壊する原因のひとつとなります。
 ちなみに、石けんの場合は、先に述べたとおり、薄くなったときに界面活性力や乳化力を失うため、淡水中でも合成洗剤のような影響はなく、 ミネラル分の多い海水中ではまったく影響はありません。
 なお、分解されず残った合成洗剤は、水道水として再び私たちの元にかえってきます。そして、私たちの身体に取り込まれていくのです。

食器と洗剤
 合成洗剤から石けんに切り替えたとき、落ちにくさを感じる人が多くあります。特にプラスチック食器の場合、 プラスチック自体が油などの汚れとくっつきやすい性質があり、それをとるのに合成洗剤の界面活性作用などが力を発揮しやすいからです。しかし、 その一方で、合成洗剤の残留性は、残留しやすい順に、素焼き>金属、プラスチック>ガラス、陶磁器となり、 プラスチック食器を使用した際の合成洗剤の残留も気がかりです。

(学校給食ニュース6号 1998年10月) 

 

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

用語 BOD、COD

BOD…生物化学的酸素要求量 微生物が有機物を分解するときに消費する酸素量を一定時間計測して、 有機物の量を判断します。しかし、微生物の働きが弱められたり、分解しにくい有機物の場合には、実際の有機物より数値が下がります。 石けんのBODが合成洗剤のBODより高い場合があるのは、石けんは微生物により分解されますが、合成洗剤は微生物を殺したり、弱め、また、 分解が遅いためです。

COD… 化学的酸素要求量 過マンガン酸カリや重クロム酸カリのような酸化剤を使い有機物を分解するために消費する酸素量を一定時間はかり、 有機物の量を判断します。そのため、BODよりも比較的正確な有機物量がわかります。

(学校給食ニュース6号 1998年10月)

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

表示がおかしい

 洗剤は、家庭用品品質表示法(通産省管轄)、食品衛生法(厚生省管轄)、薬事法(厚生省管轄)により、表示などが定められていますが、 いずれにも問題があります。表示方法の見直しが必要です。

・薬事法(厚生省、化粧品、医薬部外品)…化粧石けん、シャンプー、洗顔フォーム、洗顔クリーム、 歯磨き類が対象になります。
どんな界面活性剤を使っているか表記する必要はありません。 表示が義務づけられているのはアレルギーを起こす恐れのある成分として厚生省が指定している「指定成分」のみです。そのため、 合成洗剤が含まれていても消費者には分かりにくい製品群になっています。

・家庭用品品質表示法(通産省、雑貨工業品)…石けん(洗濯用)、合成洗剤(洗濯用、台所用、住宅・ 家具用)、洗浄剤(住宅用、その他)、漂白剤、クレンザーが対象になります。
 3%以上の界面活性剤と10%以上の助剤を表示することになっています。厚生省薬事法でいう指定成分が含まれていても、10% を超えないと表示されません。また、石けんと合成界面活性剤を配合した物を「複合石けん」としており、分かりにくさを生んでいます。

・食品衛生法(厚生省)…台所用せっけん、台所用洗剤は、 家庭用品品質表示法とともに食品衛生法の対象になります。
 香料や着色料、蛍光増白剤などの使用が禁止されています。

 この他、薬事法や家庭用品品質表示法適用外のものもあります。例:コンタクトレンズの洗浄剤、入歯洗浄剤、自動車洗浄剤など。

(学校給食ニュース6号 1998年10月)

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

助剤の問題点

 合成洗剤には、様々な助剤(ビルダー)が入れられています。代表的なものとしてゼオライト(アルミノケイ酸ナトリウム)、 無水硫酸ナトリウム、CMC(カルボキシメチルセルロース)、蛍光増白剤、消泡剤、酵素添加剤、キレート剤などがあります。
 水にとけないゼオライトや沈殿するCMCにより下水が詰まることがあります。また、食品衛生法で規制されている蛍光増白剤は、 発ガン性が指摘されている物質があります。合成洗剤の本体だけでなく、助剤にも注意する必要があります。

(学校給食ニュース6号 1998年10月)

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

「天然原料」「高級アルコール」には要注意

 高級アルコール系や非イオン系の合成洗剤には、パーム油、ヤシ油、トウモロコシなどの「天然原料」を使用したものがあり、あたかも 「天然」だから安全性がすぐれているかのような宣伝がされています。しかし、 原料に天然油脂を使ってあっても製造工程と製品は立派な合成洗剤です。十分な注意が必要です。
 同様に高級アルコール系の「高級」もすぐれた品質を示すようですが、この「高級」は化学的な専門用語で、 アルキル基が炭素を6個以上持っているという意味であり、一般的な「高級」の意味ではありません。
 高級アルコール系のアルキル硫酸エステルナトリウム(AS)は、LASより分解性は高いですが、 タンパク質変成作用や魚毒性が強いと指摘されています。

(学校給食ニュース6号 1998年10月)

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

水質基準はひとつだけ?

 合成洗剤関係の水質基準は、わずかに陰イオン系界面活性剤のみが、水道水浄水中の水質基準として0.2mg/ リットル以下と決められています。非イオン系、陽イオン系については基準がありません。埼玉県飯能市では、 水道水から非イオン系界面活性剤が検出され、水道水が泡立つという事件が起きました。埼玉県議会は、昨年国に対し、 水質基準を設定するよう要望する意見書を採択しています。


(学校給食ニュース6号 1998年10月) 

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

石けんへの第一歩を

 全国には様々な形での石けん洗浄の取り組みがあります。言うまでもないことですが、石けんへの切り替えが成功するか否かは、 調理員の裁量と工夫にあります。石けん運動は、手荒れのための切り替えだけではなく、環境や子どもたちの将来を考えた行動として、栄養士、 教職員、保護者、地域を巻き込んだ運動になる可能性を持っています。と同時に、調理を民間委託ではなく、直営で行ない、 必要な人員や設備を整えることが、労働改善だけではなく、子どもたちのためになることを明らかにしてくれます。
 合成洗剤から石けんへの運動は、民間委託問題、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)問題やプラスチック食器問題、また、 衛生管理の問題を浮き彫りにする大きなテーマです。
 しかも、活きた教材として最適なテーマでもあります。すでに、「環境読本」をつくったり、個々の教職員の工夫によって、生活科、社会科、 理科などの授業に取り入れられている実績もあります。
 石けんのことを学び、合成洗剤のことを知るところから、大きな運動の芽が育ちます。


(学校給食ニュース6号 1998年10月)

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

石けん・合成洗剤関係の書籍紹介

『合成洗剤』
日本消費者連盟編集・発行、1985
内容は少々古いですが、合成洗剤追放運動を行なう上での基本的な論点を解説してあります。

『合成洗剤のない暮らしガイド』
日本消費者連盟編集・発行、1995
日常生活での合成洗剤と石けんについてQ&A式に分かりやすく解説。1991年に発行されたものを95年に増補改訂。

『合成洗剤は細胞を破壊する』
坂下栄著、1990、日本消費者連盟発行
三重大学医学部在職中、合成洗剤が皮ふから体内に入って大きな影響を与えることを実験を通じて明らかにされた坂下栄さんへのインタビュー。 合成洗剤の危険性について理解が広がります。

『合成洗剤は地球を汚す』
石川貞二、鈴木紀雄共著、
1989、日本消費者連盟発行
長年水環境と合成洗剤の問題について取り組みを続けられている元鳥羽市水産研究所所長の石川貞二さんと滋賀大学教授の鈴木紀雄さんが、 環境に対する合成洗剤の危険性を語ります。

『合成洗剤追放全国集会資料』
きれいな水といのちを守る合成洗剤追放全国連絡会、毎年発行(1991~1997を参照)
合成洗剤を追放し、石けんの使用を広めるための個人、団体などで構成された全国連絡会は、毎年1度全国集会を開催しています。今年は、 9月26日、27日の2日間、広島市で開催されました。この集会資料は、全国の運動の集大成であり、貴重な運動形成のための資料でもあります。 全国連絡会では、入会を呼びかけています。
問い合せ、申込み先…
東京都文京区本郷1-4-1 (全日本水道労働組合気付)
電話 03-3816-4132、FAX 03-3818-1430

『学校給食と洗浄作業』
自治労安全衛生対策室編、1992、
労働基準調査会発行
自治労現業局が、調理員の実態調査に基づき、合成洗剤から石けんへ切り替えるために必要な作業や設備などについて解説した1冊。 学校給食調理設備での合成洗剤問題や皮ふ障害などについても。

(学校給食ニュース6号 1998年10月)

『学校給食から「合洗」が消えた。聞いて、聞いて、私達のはなし』
 この冊子は、自治労福岡市役所現業職員労働組合教委第2支部が1970年代終わりから10年をかけて、 市内140校すべての学校給食実施小学校で、合成洗剤を追放し、石けんに切り換えた歩みを記したものです。「増員なし、設備増なし、 洗浄剤の経費増なし、職場全員の合意」を条件とする職場ごとの選択制の中で、自主的な現場の工夫と強制を排した草の根的な運動展開によって、 石けんへの完全きりかえを果たしました。 学校給食現場での石けん運動に取り組まれている方々にはとても参考になります。  現在も増刷して配布されています。
 この冊子は、自治労福岡市役所現業職員労働組合教委第2支部が1970年代終わりから10年をかけて、 市内140校すべての学校給食実施小学校で、合成洗剤を追放し、石けんに切り換えた歩みを記したものです。「増員なし、設備増なし、 洗浄剤の経費増なし、職場全員の合意」を条件とする職場ごとの選択制の中で、自主的な現場の工夫と強制を排した草の根的な運動展開によって、 石けんへの完全きりかえを果たしました。
 学校給食現場での石けん運動に取り組まれている方々にはとても参考になります。
 現在も増刷して配布されています。

目次から
はじめに/
それまでの職場/
拡大の経緯とその間の取り組み/
1:学校給食現場からの本格的な取り組み
2:市教委の合意の下での石けんテスト校6校のとりくみ
3:石けん会議の悪戦苦闘からきりかえ定着へ
4:石けんテスト校拡大
5:石けん会議の活動
6:教委の提示したきりかえの条件と手続き
7:住吉小をはじめとする石けん試行と平行した組織的とりくみ
8:きりかえ成功の大きな要因
9:行政の対応
10:運動の広がり
石けんと合成洗剤の比較/
粉石けんを使った食器洗浄方法/
出てくる問題点とその解決方法/
1:食器のヌルヌル
2:アルマイト器具のいたみについて
3:スプーン
4:水切り台、水槽、調理台
5:オイルトラップ
6:石けん使用基準量
家庭でも石けんを使いましょう/
編集後記/資料/

A4・28ページ、200円(送料別)

問い合わせ・申込み
自治労福岡市役所現業職員労働組合学校給食支部
〒810-8620 福岡市中央区天神1-8-1
電話092-711-4943、FAX092-722-4743

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

各地の実践例

● 三重県の例
 1972年に調理員が皮膚障害で公務災害認定を受けたいと自治労県本部に相談したことから、三重での取り組みがはじまりました。 皮膚障害について、73年に皮膚障害の実態調査が行なわれ、石けんへの切り替えの必要性を認識し、石けんの選択や作業手順の確立を模索します。 76年、自治労本部で石けん実施職場の状況調査と、切り替え後の皮膚障害調査を実施。
 この調査結果後、調理員の切り替えへの熱意が高まり、石けんの開発がはじまりました。まず、液状石けんリンピアが開発され、 77年より全国に紹介されます。また、粉石けんを使用している職場も多く、食品衛生法に基づく表示が必要であったため、 粉石けんリベルタスが開発されました。このリンピア、リベルタスの開発によって、 主に関西地域を中心に合成洗剤から石けんへの切り替えが進むようになりました。


● 東京都八王子市の例
 1972年、東京都が洗剤で野菜や果物を洗う必要がなく、洗剤を使用する時には手袋を着用するようにという通達を出します。この通達は、 調理員が自分の仕事を見直すきっかけになりました。
 74年、対症療法的にABS、LAS系から高級アルコール系へ切り替えます。同時に、組織的な石けんと合成洗剤の比較研究を開始し、 75年には、労働安全衛生法第19条にもとづいて、教育委員会・事業所安全衛生委員会を設置、下部組織として洗剤問題検討委員会ができます。 衛生管理者、安全衛生委員会委員(栄養士、調理員)、調理員の代表で構成され、実態調査などが行なわれました。その中で、 石けん使用切り替えを小規模校からはじめることとなり、洗浄状態の調査や地域の洗剤に対する意識調査などが行なわれます。77年、全校中、37% で石けんのみを使用していましたが、併用校も多かったため、78年に洗剤問題検討委員会を解消し、洗浄剤委員会を設置、 石けんにあった食器洗浄機の検討がはじまります。
 79年には、新設校と買い換え校に選定した洗浄機を導入。給湯システムの改良もはじまり、80年にはすべて石けんに切り替えが終了しました。


● 京都市の例
 1971年~72年に合成洗剤による調理員の被害実態を調査。高級アルコール系に切り替え、手袋使用などを実施したが効果がありませんでした。 76年には、石けん使用を3校で試行。この時は、湯温や油かす除去、労働時間の増加などで切り替えができませんでした。
 80年「京都の水問題を考える会」を中心に86団体が、「学校給食から合成洗剤を追放し、石けんの使用を求める」請願を市議会に提出。 82年1月に請願が採択。
 そこで、82年10月から半年、7校で石けんを試行。84年に42校、92年3月には全校で石けん切り替えました。 実に運動がはじまってから20年の取り組みでした。
 それから、良質で使いやすい石けん作りに取り組み、天然動植物油脂を使用し、無用な添加物を含まず、安全性が高く、肌にも穏やかで、 ヤシ油より洗浄力が優れているという視点で、メーカーに試作を依頼。洗浄力、手荒れ、粒子、使いやすさ、濃度などを改善し「スクール石けん」 を生み出します。93年には、さらに「スクール固形石けん」を開発。保育所からの問い合せや他地域への取り組みの広がりもはじまっています。


● 大阪市の例
「近畿の水がめ、びわ湖を守ろう」からはじまった大阪の合成洗剤追放は、「市民といのちとくらしを守る会」が結成され、 79年から本格的な運動が広がります。80年に大阪府が滋賀県に続いて合成洗剤追放の要綱を出しました。それに合わせた施設、設備、 人員の改善が求められ、81年に試行が5小学校ではじまります。84年から88年にかけて、172校が石けん導入。89年には全校切り替えへ (320校)。


● 秋田市の例
 秋田県では、南部の十文字町学校給食センターが石けん使用を行ない、作業上のノウハウを蓄積していました。 自校式の秋田でできないはずはないと、1990年に、1000食ほどを栄養士1人、4人の調理員でまかなっていた秋田市旭川小学校は、 市内で最初に石けんを使用します。
 使用して1年を経過したときの報告として「アワが立たず、これで大丈夫かと思ったが、慣れれば石けんの方が楽だ。 お湯の温度や分量を測って使うなど、増えた仕事もあるが、一種類の石けんで全部の仕事ができるし、ステンレスの食器も、みがく作業がなくなった」 という調理員の声が伝えられました。また、廃油のにおいがなくなったり、洗剤のコストも半分になるなど、効果が確認され、 このような報告が市内での集会などで広がり、91年には11校にまで広がりを見せます。その後、 洗剤のような消耗品が市費負担になりコスト削減の意味からも石けん使用がすすめられ、一時全校で石けんに代わりました。
 しかし、ステンレスは問題なくても、アルマイトと石けんの相性が悪く、漬け置きが洗いができなかったため、 一部合成洗剤との併用校がでてきます。
 また、近年、ステンレス食器からポリカーボネート食器への切り替えが行なわれるのに合わせて石けんから合成洗剤に戻る学校もありました。 しかし、石けんでも洗い方でポリカーボネート製食器の洗浄もできるという試験を行ない、再び石けんに戻った学校もあります。そういう流れから、 現在は、併用校も含め9割程度の学校で石けんを使用しています。


● 東京都の例~北区、世田谷区
 世田谷区では、1980年以降、区議会での請願採択により 「区の施設において、合成洗剤の使用をできるだけ自粛し、石けんを使用する」という方針となりました。当初、 区の施設である学校給食現場では適用されませんでしたが、90年には食缶や備品などの洗浄に石けんが使われるようになり、 94年に自校式の学校の食缶、食器などは石けん洗浄へと代わりました。 世田谷区では3種類ほどの石けんを調理場に合わせて選択できるようになっており、中には、針状粉石けんを使用している学校も多くあります。 当初は、ボイラーの湯量不足や温度不足などで苦労がありましたが、今では特に問題なく石けんが使われています。
 一方、東京都北区では、区としての方針はなく、栄養士や調理員の努力によって、3校が石けんを導入しているに過ぎません。同じ東京都でも、 地域、保護者、議会などの動きによって大きく対応が異なるようです。

● 札幌市の例
 調理員の手荒れが問題になり、1977年に調理員の健康調査の上、 3カ月間石けんを試行しました。しかし、表示問題や作業の不慣れから試行は中止され、 有リンから無リンのヤシ油原料合成洗剤に移行するにとどまりました。その後、調理員と保護者、地域とともに運動が広がり、 1983年には二槽式洗浄機を4校で試行、84年に皮膚障害調査などを経て、84年4月には25校で二槽式洗浄機が導入。同時に、 調理員の家庭でも石けんを使用する運動や購入方法を確立して石けん使用の実績を高めていきました。さらに、94年に洗浄作業の手引き書を、 全市の栄養士、調理員、パート等に配布、8月より、5校で石けんの実験、試行を1年間行ない、 その後も手引き書の再配布や手作り廃油石けんなどの活動などを続け、石けん使用校は年々増え90年には170校を数えるまでになりました。 そして、現在では石けんを全校で取り入れています。

(学校給食ニュース6号 1998年10月) 

 

 

[ 98/12/31 石けん・化学物質 ]

学校給食とアレルギー問題 はじめに

 アレルギー・アトピー児が増えています。また、糖尿病や低血糖症のように、食の面で配慮を必要とする子どもが増えています。
 お弁当を持参させる、別メニューや除去食食を作るなど、対応されている学校も多くなりました。
 しかし、その対応に明確な指針はなく、学校では、どのように対すべきか、どこまでできるのか、親はどこまで学校に求められるのか、 悩みはつきません。
 学校給食は医療食ではありません。しかし、現実には、様々な悩みがあり、取り組みがあります。食教育としての学校給食に、 この問題に対してどのような可能性があるのか。一緒に考えてみませんか?

 

[ 98/12/31 アレルギー ]

アレルギー、アトピーとは何か?

●アレルギー・アトピーのしくみ
 アレルギーの発症は、人間の免疫と深く関わっています。アレルギーには大きく分けて4つのタイプがありますが、 一般にアレルギーとして多いのは、Ⅰ型のアレルギーです。
 人間の免疫システムは、食べたり、飲んだり、また、吸い込んだりすることで入り込む異物を身体に入れないようにしています。 異物を判断するセンサーを、免疫グロブリンE(IgE)と言います。免疫グロブリンEは、アミノ酸のような小さな分子には反応しませんが、 タンパク質のように大きな分子が外から入ってくると異物と判断して身体に警告を出し、防護の体制をとらせます。
 その結果、ヒスタミンや、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学伝達物質が体内に放出され、それらの刺激で毛細血管が拡張し、 水分が出て、気管がせまくなって呼吸が苦しくなったり、粘膜が赤くはれたり、皮膚にかゆみが出てきます。その症状も、ぜんそく、鼻炎、 じんましん、結膜炎と人により様々です。
 本来は、血液中に入ることもなく、また反応する必要のない卵や、牛乳、 大豆などのタンパク質に免疫グロブリンEが過剰に反応し防護しようとすることで発症するのが食物アレルギーです。
 卵、牛乳、大豆などは、タンパク価の高い食品です。このタンパク質は、胃や腸で分解され、アミノ酸になって腸から吸収されます。ところが、 消化能力が未発達な乳幼児にとってこの分解がうまくいかず、腸からむりやりタンパク質が体内に入ることがあります。腸は傷つきますし、 そのタンパク質に免疫グロブリンEが反応することになります。

●アレルギーの原因
 アレルギーが発症するには、発症の直接の原因だけではなく、アレルギーになりやすい体質であること(素因)、そして、原因によって発症してしまうまでの状況を生み出す誘因もかかわります。
 よく指摘される原因には、卵、牛乳、大豆などの「食物抗原」と、ダニ、カビなどの「環境抗原」があります。
 誘因は、人により様々で、物質とは限りません。入学、進級など生活環境の変化によるストレスも誘因です。また、食品添加物や残留農薬、 大気汚染、家庭用殺虫剤のような環境中や食に含まれる化学物質の複合的な汚染や、生活空間が高気密、 高断熱になり冷暖房が完備されて自然状態と変化していること、食生活の変化や、生活スタイルの変化など、社会全般、 環境全般の大きな変化も誘因になり得ます。
 アレルギー・アトピーが増えている背景には、これらの社会的、環境的な背景があると考えられます。
 たとえば、入学までは牛乳が原因での発症はなかったのに、入学したら牛乳が原因となって発症するというようなこともあります。 その誘因としては、たとえば、入学にともなう生活環境の変化によるストレスかも知れず、また、 学校給食で毎日牛乳を飲むようになったからかも知れません。
 アレルギー・アトピーは、原因、誘因が多岐に渡り、また、素因もかかわるため、治療の方法も、原因物質の除去、 薬物治療などが行われていますが、決め手となる方法はありません。

●アレルギーマーチ
 アレルギーの症状は、気管支に起こるぜんそく、 鼻に起こるアレルギー性鼻炎、皮膚に起こるじんましん、目に起こる結膜炎、耳に起こる中耳炎と様々です。子どもによっては、成長に伴って、 ひとつの症状がおさまっても、次に別の症状が起こるというように、症状が移り変わることがあります。これをアレルギーマーチと呼んでいます。

(学校給食ニュース4号 1998年7月)  

[ 98/12/31 アレルギー ]

学校給食の重さ~ひとつの死をめぐって

 札幌でそばアレルギー裁判というのがありました。そばアレルギーの子が、間違って学校給食のそばを食べてしまった結果、 死亡してしまったという1988年に起こった事故で、1992年に一審の判決が札幌地方裁判所で出されました。そして、 判決では担任の教諭と札幌市教育委員会の安全配慮義務違反、過失とする判決を出しました。裁判は、その後控訴審で和解しています。
 この事故の判決を通して、アレルギーと学校給食の問題点を見ていきます。

●事故の経過
 被告の教職員は、死亡した児童(Aくん)が5、6年生のときの担任です。 3、4年生の頃の担任から、Aくんは、ぜんそくがひどいという指示を受けています。また、児童調査票というのがあり、親が「給食で注意すること、 そば汁」「小児ぜんそくがありますので、ご迷惑をおかけすることがあるかと思います」と書いていました。さらに、家庭訪問に際して、 Aくんの母親からぜんそくは「発作をおさえる薬を持っているので、その薬を吸引して休んでいれば大丈夫」という説明を受けていました。また、 「そばを食べるとぐあいが悪くなる」という説明も聞いていましたが、対応については、聞いていませんでした。
 母親に対しては、給食でそばが予定されているときは「おにぎりやパンを持参させるように」という要請は行ってありました。
 ぜんそくの発作は、5年生の時もあり、発作がひどいときには、Aくんを保健室につれていき、養護教員がみたり、 学校職員がつきそって帰宅させたことや、担任がつきそったこともあったといいます。
 事前の「給食だより」にはそばが出ることが書いてありました。事故当日、母親もそばが出ることは知っていましたが、 それまでもおにぎりやパンを持たせることはなく、その日も持たせていません。給食がはじまり、Aくんは担任に「給食のそばを食べていいか」 と尋ねています。担任は、「うちから食べていいという連絡がきていないから食べないように」と注意します。
 しかし、Aくんはそばの3分の1ほどを食べ、「口の回りが少し赤くなっている」と担任に申し出ました。担任が調べたところ、特に異常はなく、 Aくんに「そばを食べたらどうなるか」をたずねました。Aくんは、「顔じゅうにぶつぶつができて、2、3日は治らない。 病院に行って注射しなければならない」と答えます。
 そのため、担任は母親に電話し、状況を説明しました。母親からの「帰してほしい」との返答に、ひとりで帰してもよいと判断し、 養護教員にみせず、帰宅させました。その途中で倒れて吐き、それを呼吸で吸い込んで気管につまり、Aくんは死亡しました。

●何を問われたのか
 この事故の裁判で問題になったのは、担任教職員の予見可能性です。 担任は、教育委員会、学校、学校長からそばアレルギーについての具体的な情報を得ておらず、 そばアレルギーによる気管支ぜんそくの危険性について知りませんでした。しかし、Aくんがそばを食べられないこと、 気管支ぜんそくを持つことは知っており、担任には学校内の児童の安全性に配慮する義務があるとして、予見可能性を認め、 情報を入手していなかったことも含め、過失としました。
 同時に、教育委員会も、情報を入手し、学校給食でそばを出すことに危険がともなうことと、そばを食べることによる事故を予見し、 回避することは可能であり、その義務を怠ったとして過失としました。
 この裁判は、学校給食で食べたそばのアレルギーによる死亡という極端な例ですが、現在、 学校で取り組まれている給食とアレルギーや病気に対する関わり方と同じ問題を持っています。
 全国には、アレルギーの子どものために、別メニューをつくったり、除去すべき食材を除くなどの配慮をしている学校給食がたくさんあります。 文部省もアレルギーに対しての配慮を求めています。しかし、具体的な方法が決められているわけではありません。
 弁当持参、特別食などは、すべて学校としての判断であり、善意の対応なのです。そして、この善意は、 同時に責任を問われることであるということを、学校給食に関わる栄養士、調理員、教職員、養護教員および、保護者は理解しておく必要があります。

(学校給食ニュース4号 1998年7月) 

 

[ 98/12/31 アレルギー ]

各地の対応事例

 さまざまな取組みの事例を紹介します。事例につきましては、その多くをアトピッ子地球の子ネットワーク事務局に協力していただきました。

事例1
自校式給食での対応(栄養士に聞き取り)

 入学時に相談があり、診断書をもとに学校で対応を検討し、保護者と話し合って、対応方法を確立しました。毎月、 栄養士がメニューを保護者に送ります。それを保護者がチェックし、食べられないものには○印をつけて栄養士に送り返します。栄養士は、 それに対して、「別鍋で、除去してつくる」「対応できないので、これにあたるものをお弁当でもたせてください」というようにメモを付け、 ふたたび保護者に送ります。基本的には、これで対応し、保護者は、持参するもの、食べ残す指示を出すなどをしています。

事例2
自校式給食での対応(保護者から)

 東京都内で、入学後の給食開始時より別メニューを作っていただいていました。自校方式、直営、食材の個別購入をしていたところです。 入学前診断の時に話をしましたところ、入学後、教頭、担任、栄養士、調理員3名と話し合うことになりました。栄養士は、常勤していないそうです。 要請された診断書を持ち、状況を説明したところ、他の児童とともに対応していただけました。 鍋は調理員さんが家庭から持ってこられたものを使ったりしていました。

事例3
センターでの対応(保護者から)

 500人規模のセンター給食を行っている小学校へ入学した児童の例。栄養士から給食メニューと、食品添加物の表示、 詳細な原材料表を保護者に送ってもらっています。それをもとに、子どもに食べていいもの、だめなものを指示。 学校としての特別な対応はありません。場合によっては、一部お弁当持参ということもあります。
 このセンターでは、すでにアレルギーを持つ子どもの保護者によって、使用する油を大豆油からナタネ油に変更していましたので、 油は問題ありませんでした。ところが、遺伝子組み換え問題が出て、知らないうちにコメ油に変っていたため、ちょっと困りました。
 特に、診断書などは求められませんでしたが、学校からアレルギーの調査票をいただき、記入しました。 この調査票がぜんそく対応用のものを作り直したようで、アレルギーの調査としては項目に過不足があったと思い、必要なことは別に添付しました。

事例4
学校全体としての対応(保護者から)

 ずっと学校給食では担任、栄養士の方と話を続け、アレルギー対応に理解をいただいていました。特に、栄養士とは、密接に連絡をとりあい、 どこまでが大丈夫なのか、など細かいところまで話し合っていました。ところが、修学旅行になって、ついていくのは養護教員ですから、 連絡しましたところ、この栄養士との蓄積が養護教員には伝わっていませんでした。そのため、旅行先の食事などで説明や理解を得るのが大変でした。

事例5
情報提供について(保護者から)
 卵と鶏を除去していますので、メニューに加えて、 それらが何グラム入っているのかを確認しています。たとえば、うずらの卵は切ってあるのか、丸ごとかにより対応が違い、栄養士に確認しながら、 丸ごとならばよけて食べるように子どもに言っています。そして、だめなときのみ代わりのお弁当を持たせています。ここでは、 栄養士が大豆油をやめ、ナタネ油に変えました。大豆油はだめでもナタネ油なら食べられる場合の方が多いです。ところが、 いつの間にか変わっていても、メニューには植物油としか表示されておらず、告知もありませんでした。 油が変わるだけで食べられるメニューが増える子どももいるのですから、告知して欲しいとお願いしたところ、メニューの表示が詳しくなりました。 助かります。

事例6
いじめについて(保護者から)

 低学年の小学生。別メニューを自校式の学校で作ってもらい、何も問題がなかったけれど、あるとき、別メニューのスープを見て、他の子どもが 「おいしそう」と言ったことに対し、担任が「これは、○○くんのだからだめです」と厳しく言った。そのことから「まずいもんを食べてる」 というような形で、いじめがはじまってしまった。あのとき、「じゃあ、一口だけ」とか、別の機会にそれを給食メニューに取り入れるとか、 アレルギーの子どもとの「違い」を理解させ、分かり合わせられていたら、いじめは起こらなかったのかも知れないと思わずにいられません。


●学校で対応しなかった事例
 多くの学校では、アレルギー児などの対応について、個別に保護者と学校の間で相談しながら、弁当持参や特別食の対応をしていることと思います。 しかし、なかには、対応せず、門前払いをした事例もあります。

事例1
お弁当もだめ
 小学校入学時に診断書も持って学校に話をしたが、特別食(除去食)の対応はもちろん、 お弁当持参も認められませんでした。やむなく、給食メニューを見て、子どもに「これは食べてはだめ。残しなさい」と指示し、 自主的に残させていました。メニューによっては、1週間白いご飯だけとか、まったく食べられない日もあります。さらに、 残さずに食べようという教育がされており、このままでは学校に行けなくなりそうです。

事例2
牛乳を強要
 アレルギー体質でしたが、食事ではバランス良くとっていれば問題がなく、 アレルギーとして特に症状が出ていたわけではなかった児童。小学校に入学し、学校給食がはじまって毎日牛乳を飲み続けていたら、 牛乳により症状がひどく出るようになってしまいました。牛乳を飲まないよう、自主的に残させていました。そして、 牛乳を残すことについて担任と相談したところ、逆に、残すことはよくないと、しばらくの間、監視つきで飲ませられました。病院の診断書をもとに、 ねばり強く交渉して、数カ月かかってようやく飲まなくてもよくなりました。

 このような対応は、子どもの人権を侵害するものであり、また、心にも身体にも悪い影響を与えるものです。学校は、 教育を受ける機会を損なわないよう最大限配慮する必要があります。


(学校給食ニュース4号 1998年7月)

[ 98/12/31 アレルギー ]

まとめ~学校給食にはなにができるのか

●人権の問題です
 事例の中にあったような、お弁当もだめ、特別な対応もしない、牛乳は飲まなければならないというのは、人権を無視した問題です。 栄養の面や集団教育という側面から行われる「残さず食べる」指導は、子どもひとりひとりの個性を無視してはいないでしょうか。
 体調が悪ければ残してもよい、好き嫌いではなく、食べられないものがあるという、子どもの「違い」を前提に、子どもたち同士が「違い」を認め、 分かち合えるような教育がなければ、食教育としての学校給食の価値はありえません。
 文部省や当局は、この配慮に対し、具体的な指示をしていません。しかし、そばアレルギーの裁判にあるように、学校は、 食教育として給食を行っており、それは命に関わる責任を持つものであることは明らかです。
 その責任を自覚して、学校単位でできる最大限の配慮を行うこと、これが現在できることです。

●子どもへの配慮を
 学校給食は医療ではありません。また、福祉でもありません。学校給食は「食」教育そのものです。ならば、アレルギー、アトピーをはじめ、 ひとりひとりの体質や病気なども含めた個性を前提としての食教育があってもいいはずです。
 アレルギー、アトピーなどの対応を考える際にも、他の問題と同様、「最大限子どもたちに配慮できるか」という視点で考える必要があります。
 すると、やはり、ここでも、自校式、直営、栄養士の配置、食材の直接購入が必要になることは言うまでもありません。そして、 十分な人員と設備食材にかける予算があれば、様々な工夫の余地が生まれます。事例の中でも、また、 他にもセンターなどでの対応をされているところは数多くあろうかと思います。しかし、より自由度があり、細やかな対応と、食教育が可能なのは、 自校直営方式です。
 食教育の必要性と、学校給食の質の充実を求めていく運動が引き続き必要です。

●食教育の機会として捉える
 たとえば、 大豆アレルギーの子どもも一緒に食べられる給食を全校で行ない、一緒に食べることを経験させ、その上で、 大豆を抜くことの理解をさせることができます。
 牛乳のない日があってもいいはずです。低塩の日があってもいいでしょう。もっと広く、肉や魚のない日があって、 菜食というテーマでもよいかもしれません。
 そのような、多様な食生活への理解も、自分たちの食文化を学ぶ上でも必要ではないでしょうか。
 きちんとした学校給食を出しているところならば、子どもたちが好きな肉料理をカロリーを多めに出した上で、これを教材として、 毎日これを食べ続けると、問題があることを教えることもできます。
 1回の食事でのバランスだけでなく、いろんなものをバランスよく食べていくこと、そのことで、 食を選ぶ力を養うことのような積極的な教育にまで発展できる可能性を秘めているのではないでしょうか。 このようなことが可能になるような働きかけが必要です。

●情報公開を
 アレルギー、アトピーの子どもが、自治体単位でどのくらいいて、どのような問題を抱えているのかという調査はほとんどなされていません。身長、 体重の統計はあっても、子どもの身体的特性についての記録はなく、取組みは遅れていると言えます。
 そのような中で、個別対応する際、大切なのは保護者と学校の教職員、栄養士、調理員、養護教員を含めた話し合いと、日頃のコミュニケーション、 そして、情報公開です。
 今は、アレルギー、アトピーを持つ子など、対応を必要とする子どもは少数です。
 しかし、環境の悪化や生活の変化によって、リスクを抱えた子どもが増えるという予測もあります。たしかに、保育園、 幼稚園などの幼児保育の場では、この10年、20年の間に、アレルギー、アトピー児が確実に増え、対応が必要不可欠となっています。
 小学校、中学校でも、今のうちに、徹底した話し合いと、過去の事例の蓄積によって、常に最善の方法をとれるよう、取組みが必要です。

●最後に
 アレルギー、アトピーの問題には、今のところ確実な治療の方法はありません。 また、症状や状況もひとりひとり違います。
 食教育と医療のはざまにある、アレルギー、アトピーだけではない問題は、「この方法がよかったから」「これは大丈夫だったから」 「少しぐらいなら食べさせても」など、前例や経験、または、単純な善意からくる行為が時には取り返しのつかないことにつながることもあります。
 学校給食とは何か、が、突き詰めて問われる場でもあります。
 設備の充実や、地域での対応など、全体の運動としての部分と、個別の対応と両面に取り組んでいくことになります。


(学校給食ニュース4号 1998年7月)

[ 98/12/31 アレルギー ]

学校給食について思うこと~赤城智美(アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長)

アトピッ子地球の子ネットワーク
1993年に設立。アレルギー・アトピー問題について、個別対処の側面と、根本的解決のためには環境の改善が必要という側面から、 多方面にわたって活動。電話相談、情報発信、患者交流会(子どもの患者の母、成人患者と家族など)のほか、環境調査、実態調査、 企業のアレルギー対応に関しての協力なども行っています。


 市民団体アトピッ子地球の子ネットワークの事務局長で、自分自身も、子どももアレルギーを抱える、赤城智美さんに、 体験や電話相談の経験を通してのお話を聞きました。

【学校給食の質は?】
 学校給食でアレルギー、アトピーの子が、別メニューを作っていただいたり、お弁当を持参させていただいたりしていますが、これでいいのかな、 と思うときがあります。それは、アレルギー、アトピーの子だけがいいものを食べさせてもらっているということなんです。 除去食のために学校給食のメニューや詳細な仕様を見せていただくと、油や砂糖の使用が多いのにびっくりします。それと、 加工食品や添加物が多いことも気になります。
 そういうメニューを見ると、バランスのよい食事とはなんだろうと考えます。そして、カロリーと計算上のバランス重視になり、 加工品が多い学校給食は全体的には質が低いと言わざるを得ないのではないでしょうか。もちろん、お金がなかったり、安い給食費を使っていたり、 制度上のことはあるかと思いますが、子どものために、きちんとお金をかけて食事をすることが必要ではないでしょうか。

【話し合いましょう】
 学校入学時、親も心配で感情的になったりすることがあるのですが、やはり、 冷静に子どものために学校と二人三脚で取り組めるような関係をつくらなければなりません。そこで、入学前検診などの後、診断書、食物の記録、 発症時の写真などの説明資料を用意して、学校と話し合いを持てる場を作りたいものです。
 理想を言えば、学校からは、担任、栄養士、調理員、養護教諭に出てきていただきたいですね。食は、担任の先生、栄養士さん、 調理員さんにお願いすることですが、万が一発症したときには養護教諭に対処をお願いしなければなりません。写真などを見ながら、 どのようなとき発症して、どのように対応するのかを打ち合わせできていればいいですね。これは、アレルギー児に限ったことではなく、 低血糖症や糖尿病の子どもについても同じです。
 この話し合いだけでなく、アレルギーなどの子どもの問題については学校、 場合によっては他の保護者も含めて理解し合う場をできるだけ作ることが、アレルギーの子だけでなく、他の子どもにとっても有意義だと思います。
 
【違いを分かち合う】
「残さずに食べよう」というテーマが、クラスや学年、学校の目標になることがあります。たしかに、残さずに食べる教育もあると思いますが、 除去食で残す子どもがいる班やクラスは、かならず残すことになり、その結果、子どもがいじめられたり、また、「学校に行きたくない」 など除去食であることが引け目になることがあります。
 栄養の面も大切ですが、体調が悪いときには残してもいいという教育であって欲しいと思います。
 また、ときには、テーマを決めて、卵を使わないとか、雑穀の主食とか、牛乳・乳製品を使わない、または、塩分を控えた給食というものを出し、 食生活の違いや多様性を学び、理解し、分かち合うことがあってもよいのではないかと思います。


(学校給食ニュース4号 1998年7月)

[ 98/12/31 アレルギー ]

1998年発行の主な内容

【1998年 学校給食ニュース】
98.02 ダウンロード
すすむ民間委託 ~問題整理と各地の動き~

98.04 ダウンロード
98.2.23 学校給食全国集会報告

98.05 ダウンロード
食中毒と衛生管理

98.06 ダウンロード
学校給食食器

98.07 ダウンロード
アレルギー・アトピーと学校給食

98.09 ダウンロード
学校給食は環境ホルモン問題にどう対応するか

98.10 ダウンロード
あらためて、合成洗剤追放を

98.11 ダウンロード
遺伝子組み換え食品が学校給食にも登場しています

98.12 ダウンロード
食生活に大きな影響を与える  学校給食のあり方

学校給食ニュースは、四者共闘が発行母体となり、全国学校給食を考える会が発行しています。
会員の方は、内容をダウンロードすることができます。購読(会員)については、http://gakkyu-news.net/jp/000/002/post_6.html をご覧ください。

[ 98/12/31 紙版ニュース ]

衛生管理 食中毒関係 はじめに

 1996年の病原性大腸菌O157食中毒以来、まるで学校給食の現場は食中毒菌のたまり場のような扱いを受けています。「衛生管理」や 「食中毒防止」を錦の御旗として、施設の改修や設備の改善よりも、その中で働く栄養士、 調理員に対して厳しい管理を行うことで食中毒を防ごうという方向にあります。そのため、もともと多忙な調理現場が、さらに余裕を失い、 学校給食に対する創意工夫の時間や余地が減っています。
 多くの栄養士、調理員が、調理以上に日々の衛生管理に追われ、疲れています。
 誰も子ども達が食中毒になって欲しくはありません。だから、多くの栄養士、調理員は、矛盾や学校単位では解決できないことを感じていても、 決められた衛生管理にのっとって働いています。
 おかしいと思っても、「O157対策」という言葉の前に、発言がしにくい状況に置かれているのかも知れません。
「よい学校給食は、安全や栄養の前に、なにより信頼があることです」と、98年の学校給食集会で堺市の保護者が言いました。 その通りだと思います。衛生管理が、かえって子ども達に信頼されない学校給食になっているとしたら、そのことが問題です。
「調理の現場ではこれだけ厳しい衛生管理をして食中毒を予防しています」その説明で、保護者や地域の人々は安心します。 そして食中毒が起こってから「調理の現場」だけの問題ではなかったことに気がつきます。
 1998年3月に東京・神奈川・岩手・福井の1都3県にまたがる加工済み冷凍ケーキのサルモネラ菌による食中毒が発生しました。
 このことは何を示しているのでしょうか。

 食中毒と衛生管理について、調理員、栄養士だけの問題とせず、一緒に考えていきましょう。

 

[ 98/12/31 衛生管理 ]

東京都荒川区

●東京都荒川区

「荒川SOS!学校給食を考える会」は、95年9月、区の民間委託方針を受けて、区内の調理員、保護者により発足しました。96年1月に 「学校給食民間委託計画を白紙にもどす陳情書」を2万6千人余の署名と共に議会に提出しました。しかし、文教委員会で不採択。そのまま、 96年から小学校と中学校1校ずつで学校給食民間委託が開始されました。会では、民間委託決定を白紙に戻すことを要求しています。 公募による子どもの委員を含めた給食検討協議会を発足させたり、96年6月には会を含めて「あらかわ給食まつり」を開催し、 学校給食問題への関心を高め、参加を呼びかけ、運動を継続しています。


(学校給食ニュース0号 1998年2月) 

 

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

東京都品川区

東京都品川区

 品川区での学校給食は、87年に合理化施策が打ち出され、民間委託への討議が行われました。民間委託には大きな反対運動が展開され、 89年12月に民間委託は見送られましたが、別の合理化施策として「学校給食を一人暮らしの老人に配食サービス」することが決まりました。 これは、学校給食を福祉サービスの一環に組み込むことで区行政の合理化を進めているという観点から行われましたが、 いくつかの問題を抱えています。
 大きな問題は、「子どもと同じものをお年寄りに食べさせてよいのか」という点と、これにより「子どもの食教育を担う学校給食が変節しないか」 という点です。
 学校給食は、老人給食とは献立内容の目的が根本的に異なり、たとえば、成長期の栄養、子どもの嗜好、アゴや歯の発達のために、 噛みごたえのある料理の導入など、老人食の観点からはマイナスとなる要素が多くあります。一部の学校では、 保護者がボランティアとしてお年寄りに呼びかけ、別メニューのお弁当を作り届ける活動を繰り広げています。お年寄りも、 子ども向けの学校給食より、お年寄り向けに作られた弁当の方が好評です。しかし、行政側も、 学校給食の配食サービスを継続するためにお年寄りを探してくるなどしており、ボランティアの存在を無視した形となっています。 学校給食のあるべき姿のためにも、区全体の福祉のあり方を問う必要があります。
 この学校給食配食サービスは、葛飾区、北区などでも一部実施されています。


(学校給食ニュース0号 1998年2月)

 

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

東京都小平市

東京都小平市

 85年の合理化通達を受けて、小平市では88年11月の教育委員会において小学校給食の調理員一部民間委託案が議決されました。実は、 小平市では、すでに79年には給食職員の新規採用をやめ、嘱託職員として補充をしており、また、82年には、 東京都内ではじめて中学校給食の民間委託(センター方式)が行われていました。
 7年前の中学校給食民間委託、センター化への反対運動で形成されていた「学校給食を考える小平市民の会」 が1取りやめの陳情を行うなどの動きが生まれました。
 一方、新聞報道に不安を覚えた保護者たちの間から、草の根的運動的な動きが生まれ、「小学校の学校給食の民間委託に反対する会」 が88年12月に結成され、44名の署名で陳情書を提出し、動きが本格化します。「反対する会」は、 PTAや子ども劇場などの集まりを通して各校区に呼びかけを行い、自発的な動きとして校区ごとにつぎつぎと「有志の会」「考える会」「連絡会」 などが結成され、学習会なども開かれました。
「反対する会」で89年2月に4万弱の署名を提出。文教委員会では陳情不採択となりました。しかし、当初から、市側の経費削減論に対し、 子どもたちの学校給食問題は経費削減論ではなく、お金はかけてよいものであるという教育姿勢に対する論点を貫いたこと、さらには、 経費節減試算が、仮説に過ぎず、立証できないことを明確に指摘したことは特筆に価します。費用節減論のくずれが、 与党会派の一部を委託反対に回すきっかけにもなりました。
 3月3日の本会議にかけて、状況は二転三転し、最終的に民間委託に関する28の反対陳述が採択ないしはみなし採択され、民間委託は見送られ、 調理員補充は正職員で行われることとなりました。
 この運動の特徴は、極めて短時間の間に、草の根的な運動として各校区の保護者に対する呼びかけが行われた点と、保護者のみならず、調理員、 栄養士、教職員など、あらゆる点で参加でき、結束できる状況が自発的に生み出されたことにあります。
 もちろん、すべてがスムーズにいったわけではなく、運動の流れが大きくふたつに分かれたり、 草の根運動と労働運動の接点の見いだし方などは今後の課題であると、「反対する会」でも率直に述べています。


(学校給食ニュース0号 1998年2月) 

 

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

給食食器の現状(古い)

●食器素材の現状

 学校給食食器に使用されている素材は、急速に代わりつつあります。全国の学校給食で使われていたアルマイト製食器が徐々に減り、 代わってポリプロピレン、メラミン、ポリカーボネートといったプラスチック製の食器が導入されていることが分かります。また、 陶磁器や耐熱強化ガラス、木などの日常の食器と同じ材質のものも増えています。
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 食器具の場合を同じ1994年時点で見てみます。はしの使用校は全国で30,147校(96.5%)、小学校22,946校(97.7% )、中学校7,201校(93.1%)と、かなり普及しています。しかし、先割れスプーンもいまだ17,693校(56.6%)が使用しており、 先割れスプーンのみの学校も760校(2.4%)残っています。また、スプーンは、42.7%、フォークは28.3%、ナイフは3.3% の使用率です。(学校給食ニュース3号 1998年6月

●学校給食食器のうつりかわり

 かつて学校給食の食器は、先割れスプーンとアルマイトの食器に代表されていました。アルマイト製の食器は、 熱いものを入れるとすぐに持てないほど熱くなります。また、洋食器のように手では持ち上げにくい構造をしています。先割れスプーンは、 先の切り込みがあるためこぼれやすく、口から迎えに行くようになります。このふたつによって、いわゆる「犬食い」の子どもが多くなりました。
 1976年に正式に米飯給食が正式に導入されたことなどと平行して、はしを使う学校が徐々に増えました。しかし、 先割れスプーンはなかなか減らず、1983年の文部省調査でははしの使用が約7割、先割れスプーンも併用で9割を超えていました。 それから11年後の94年でも56.6%と半数以上が先割れスプーンを使用しています。
 食器については、1970年代の終わりから82年頃にかけてポリプロピレン食器導入が急速に進められました。 なにもかもをポリプロピレン製のランチ皿1枚に盛りつける学校が増えたのはこの頃です。
 ポリプロピレンからは、添加剤として酸化防止剤のBHTが使われ、溶出したため、社会問題となり、 東京都練馬区や兵庫県西宮市などで導入に対し大きな反対運動が起こりました。しかし、ポリプロピレンの食器は全国的に広がりました。
 次に登場したのがメラミン樹脂製の食器でした。プラスチック食器メーカーは、色づけが可能で、陶器に似た質感であることや、 熱伝導が低く持ちやすいためマナー向上になること、硬く、傷が付きにくいことを売り文句に導入を働きかけました。しかし、 メラミン樹脂製食器からは、毒物劇物取締法で「劇物」に指定されているホルムアルデヒドが溶出します。
 メラミン製食器については、1980年代の終わりに導入がはかられ、 東京都北区や福岡県飯塚市などをはじめ大きな反対運動のうねりが起こりました。
 このメラミン製食器に代わって、ホルムアルデヒドなどの溶出がなく、「ほ乳瓶にも使っている」「安全な」 素材として持ち上がったのがポリカーボネート製食器です。現在、メラミンに替わって増えている食器です。
 このポリカーボネートからはビスフェノールAという化学物質が溶出することはわかっていましたが、その安全性はよく分かっていません。 ところが、今年になって「環境ホルモン(=内分泌かく乱物質)」としてのビスフェノールAが取り上げられ、学校給食食器に注目が集まっています。
 ポリプロピレン、メラミン、ポリカーボネートはどれもプラスチックです。この素材に対する問題点は後にまとめますが、 プラスチック食器の導入に反対する動きは、子ども達にとってどんな食器が望ましいかという検討を生むきっかけになりました。
 各地で議論が起こり、陶磁器、強化ガラス(強化ガラスはその後、 割れたときの危険性が大きく使用されなくなりました HP移行時追記)など、日常的に使われている素材を使った食器を導入したり、 地場産業である陶磁器や木製食器を導入する学校・地域も徐々に増えています。(学校給食ニュース3号 1998年6月

[ 98/12/31 食器 ]

福岡県

福岡県

 福岡県では、91年より春日市、94年より太宰府市が民間委託を取り入れました。大野城市では、 96年に新設の小学校より開始予定となり、反対運動が起きましたが、民間委託が実施されました。委託校では、 97年5月に食中毒事故が起きています。


(学校給食ニュース0号 1998年2月)

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

千葉県松戸市

●千葉県松戸市

 1990年、松戸市の中学校に導入された「弁当併用、メニュー選択、ランチルーム」の給食は、松戸方式として全国に注目を集めました。 すなわち、家庭から弁当を持ってきてもよいし、学校給食でもよい。しかも、メニューは2つの中から選べ、 ランチルームも設置されるというものです。
 この方式は、民間委託を前提にしています。メニュー2つからの選択ということは、実際にはパンとご飯を選べるという程度のものであっても、 調理員の労働は増大します。また、弁当併用のため、調理数も日によって異なります。松戸市は、 当初実施した2校について直営で調理員のパート雇用によってこれに対応していましたが、同市でその後導入された中学校では民間委託となりました。
 この方式は、民間委託とセットになった学校給食の導入として注目され、その後、千葉県船橋市などが取り入れました。
 ところが、松戸市の場合、直営(人件費)と民間委託(契約料)を比較すると1食あたりの経費では、 必ずしも民間委託が安いとは限らないということが、決算結果などから分かってきました。特に、後から導入された中学校ほど、 契約金額が高くなっていることがうかがえます。


(学校給食ニュース0号 1998年2月)

 

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

兵庫県宝塚市~「合理化」通知以前

●兵庫県宝塚市~「合理化」通知以前

 1976年に兵庫県宝塚市では全国にさきがけ、3つの中学校給食調理を民間業者に委託しました。しかし、その時の調理内容、 衛生管理ははなはだひどく、サラダからナメクジ、チャーハンに鶏のくちばしなどの異物混入があったり、 異臭がして食べられないなどの問題が相次ぎました。また、保護者が調査したところ、栄養士の作成した献立が勝手に変えられていたり、 調理師免許を持たない少年が調理主任として配置されていたなどといった具合でした。委託業者のパート労働条件も劣悪でした。しかし、 人の管理については公務員が指示できることではなく、契約条件を満たしている以上、自治体は強い態度に出ることができませんでした。結局、 PTAや教職員組合、市職員組合などの反対によって、業者が受託を返し、直営に戻りました。
 現状の民間委託業者は、これほどひどくはないようですが、民間委託の問題点が噴出した例として、記憶しておくべき事例です。

 

(学校給食ニュース0号 1998年2月) 

 

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

時事情報1998年 民間委託関係

●広島県廿日市市、民間委託へ
 98年12月23日付の中国新聞によれば、 広島県廿日市市議会は99年度から学校給食センターの調理を民間委託するための条例改正と余生予算を可決。 白紙撤回を求める約27000人分の署名が出されていた。広島県では、安芸郡海田町が調理の民間委託をしている。 (学校給食ニュース9号 1999年2月)

●大阪府堺市、民間委託へ
 98年11月19日付の読売新聞他によれば、大阪府堺市は、99年度から小学校92校中17校の学校給食調理を民間委託する方針を固めた。 また、順次、民間委託を拡大する方針。(学校給食ニュース9号 1999年2月)

●堺市の民間委託に対しPTAが要望書
 10月30日付の読売新聞大阪版によると、大阪府堺市が小学校92校の学校給食調理を民間委託に切り替える動きを急いでいることに対し、 小学校39校のPTA代表が教育長、市長、議会宛に、慎重な議論を望み、小学校ごとの説明会や、民間委託についての資料提供、 大多数の保護者の意見を聞くことなどを求める要望書を提出した。(学校給食ニュース8号 1998年12月)

●堺市、調理の民間委託
 9月23日付け読売、朝日新聞などによると、大阪府堺市教育委員会は、 市内小学校92校の学校給食調理を段階的に民間委託に切り替える方針を決めた。来年度には、10校前後が調理の民間委託となる予定。 (学校給食ニュース7号 1998年11月)

●調理員からO-157で給食中止
 9月18日付け東京新聞によると、東京都中野区の区立北中野中学校で、調理委託会社の調理員から病原性大腸菌O-157が検出されたため、 9月16日の給食を急きょ中止した。9月7日の検便による結果が16日になって分かったというもの。中野区では、 9月より調理の民間委託を数校試験導入したが、その矢先の出来事。(学校給食ニュース7号 1998年11月)

●堺市懇話会、民間委託の提言
 8月19日付け朝日新聞他によると、 O-157集団食中毒後の学校給食のあり方を検討してきた堺市の学校給食懇話会は調理の民間委託などを提言した。 より豊かで安全な給食を実施するための投資を優先するという…。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●堺市、給食調理員の新規採用中止
 8月5日付け朝日新聞によると、大阪府堺市では、調理の民間委託を検討しているが、それに先立ち、99年度の給食調理員採用を見送った。 その結果、現在学校給食を行っている小学校90校、養護学校2校の調理員368名(内非常勤68名)のうち、退職する40名(内非常勤15名) は補充しないことになる。
 民間委託についての議論を行うことすらせずに、40名もの欠員を出そうとしている堺市の対応は、 学校給食を改善するという市政方針とはまったく相反するものです。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●札幌市教委、民間委託の方針打ち出す
札幌市内小中学校学校給食調理部門に99年にも民間委託を導入する方針を、市議会で明らかにした。北海道では、 調理部門の民間委託を18の市町村ですでに実施しているが、札幌市は北海道最大の都市であり、他の市町村への影響も大きい。 (北海道新聞 3月3日)(学校給食ニュース1号 1998年4月)

●富山県
 97年12月の県行政改革懇談会で、学校給食の民間委託を検討課題にすることが報じられています。(学校給食ニュース0号 1998年2月)

●東京都江東区
 97年10月に実施方針が発表されました。98年4月から現在の自校直営方式を、自校委託方式に切りかえ予定。実施方法としては、 区の調理職員を退職者不補充とし、退職予定者数に見合った学校数を原則として民間委託に切り替え。 委託実施校の調理員は他校へ配転することとしています。(学校給食ニュース0号 1998年2月)

●東京都目黒区
 98年3月に区の基本方針策定することを、97年秋に発表。実際には、はじめに民間委託ありきの方向で進んでいます。 (学校給食ニュース0号 1998年2月)

●東京都北区
 98年4月から1小学校、2中学校で調理の民間委託を実施する予定です。(学校給食ニュース0号 1998年2月)

●東京都世田谷区
 97年6月の区議会で、議員が共同調理場の民間委託を質問の形で提案。区側は、現段階では考えていないとのこと。 (学校給食ニュース0号 1998年2月)

●埼玉県草加市
 現状は自校方式ですが、自校からセンター化、調理員のパート化、民間委託なども検討するとしています。 (学校給食ニュース0号 1998年2月)

 

 

[ 98/12/31 委託・合理化 ]

食器の種類

●アルマイト
 アルミニウムの表面に酸化膜をつくり、耐久性を増したもの。
 軽くて割れず、積み重ねてもかさばりません。耐熱性が高いため高温殺菌が可能で衛生的な管理ができます。 油脂の吸着や化学物質の溶出の恐れがないということで広く使われてきました。
 熱伝導がよいため、熱いものを入れると持てなくなり、犬食いの原因にも。また、触感が冷たく、作業時には高く大きな音が出やすいことや、 割れないけれどへこみなどが起こりやすい欠点があります。耐久性は優れています。
 調理器具にはアルマイト製もありますが、日常の食器としてはほとんど使いません。


●ステンレス
 鉄とクロムの合金。アルマイトより重く、外力に強い。表面の光に耐久性があり、 磨けば元の輝きになります。それ以外は、アルマイトとほとんど同じ特徴と問題点を持ちます。耐久性はアルマイトよりも優れています。

●プラスチック
 ポリプロピレン、メラミン、 ポリカーボネートはいずれもプラスチックです。
 プラスチックは、原料となるモノマー(単量体)をたくさん結合(重合)させて大きな分子(ポリマー)に変えて作られます。 プラスチックの名前にポリエチレンやポリプロピレン、ポリカーボネートなど「ポリ」がつきますが、 これはポリマーすなわちたくさんつながっているという意味です。
 プラスチックの多くは、150度から200度程度の比較的低い温度で製造されます。 一般に料理を盛りつけるなど使用条件よりも離れた温度で製造された方が、溶出などの危険が少ないと言えますが、 プラスチックは強化磁器などの1300度とは比べものにならないほど低い温度で製造されます。
 また、プラスチックは、製造工程で様々な触媒などを使い、添加剤も使われます。
 主に使われる添加剤には、
 可塑剤(柔らかくする)
 安定剤(熱や紫外線からの劣化を防ぐ)
 界面活性剤(静電気を防止したり、曇り止めのため)
 難燃剤(燃えにくくする)
 着色剤、充填剤、発泡剤などがあります。
 プラスチックは、その性質上、原料のモノマーや添加剤などが溶けだす恐れがあります。添加剤などは種類だけでも1,000を超えており、 人体や環境に対し作用がよく分からない物質や人体に危険な物質も含まれています。いくつかの物質については、 用途に応じ溶出量の規制が決められています。
 97年10月に大阪市などの調査により(株) オーエスケーが製造販売した抗菌剤入りポリカーボネート樹脂製の子供用の茶碗等食品用器具から主製造原料(モノマー)のビスフェノールAが、 材質試験をした結果、基準値の500ppmを超えて検出されたとして、大阪市が回収命令を出した事件は記憶に新しいところです。なお、 溶出規制は2.5ppmとなっており、この食器でも溶出試験をしたところ、範囲内で問題ないというのが厚生省の見解でした。
 プラスチック製品は一般に油となじみやすく、油汚れが落ちにくい素材です。そのため、石けんではなく合成洗剤の使用をもたらします。
 また、プラスチックは埋め立てても分解しないものが多く、焼却すると発熱量が高いため炉を傷めたり、有害物質を発することがあります。
 プラスチック製品は性質上、細かい傷が付きやすく、耐久性はよくありません。

★ポリプロピレン
 軽くて割れにくく、積み重ねてもかさばりません。また、 熱伝導が悪いため、食器が熱くなりにくく扱いやすいという特徴をもちます。そこからランチ皿などに使われています。
 欠点として、ポリプロピレン自体が油を吸着することと、油になじむため、油汚れが落ちにくい素材です。また、添加剤が溶出し、 使われていた酸化防止剤BHTの溶出では大きな問題になったことがあります。現在、BHTはほとんど使われていませんが、 他の酸化防止剤や添加物などの問題は残ります。
 ポリプロピレンは熱に弱いため、殺菌保管庫の温度設定を低くしなければならず、衛生管理に不安が残ります。
 また、表面に傷が付きやすく、黒ずんでくるため漂白剤を使うことになります。

★メラミン樹脂
 ポリプロピレンとの違いは、ポリプロピレンが熱を加えると柔らかくなるのに対し、メラミンは硬くなることです。また、 重さもポリプロピレンより重く、表面も硬いといえます。重さは、アルマイトの約2倍ほどになり質感はあります。
 メラミン樹脂は正しくはメラミン・ホルムアルデヒド樹脂といい、メラミンとホルムアルデヒドを重合してできたプラスチックです。 新しいうちは反応しきらなかったホルムアルデヒドが溶け出します。古くなるとメラミンとの結合がはずれたホルムアルデヒドが溶け出します。 製品によって溶出量にはばらつきがあります。
 ホルムアルデヒドは毒性が強く、毒物劇物取締法の「劇物」に指定されています。アメリカでは、ホルムアルデヒドは発ガン物質として指定され、 日本の厚生省でもメラミン樹脂のホルムアルデヒド溶出を規制していますが、その規制はイギリスなどと比べても低くなっています。 学校給食のように毎日熱風消毒をしたり、傷が付きやすい場合には、溶出量が増える結果もあり、不安です。
 メラミン食器はあまり温度を上げると劣化が激しくなるため、比較的低い温度での殺菌となり、また、熱伝導率が低いため、 食器籠の中心部には熱が回りきらなかったり、周辺部は熱がかかりすぎて食器が傷みやすいなどの欠点があります。細かい傷がつくため、 汚れによる黒ずみ、漂白剤を使用しなければならなくなる欠点もあります。
 ある自校式のメラミン食器使用校を例にとると、毎年の食器更新率は10%から20%になります。また、基本的には3年で更新(更新率33% 平均)することになっていますが、守られていません。

★ポリカーボネート
 透明度が高く、耐熱温度が比較的高い素材です。 使用しているうちに細かいひび割れができ、もろくなることもあります。ビスフェノールAが溶出するが、 それ以外ではメラミンなどより溶出しないため、「安全」をうたって近年取り入れられるようになりました。
 しかし、ビスフェノールAは「環境ホルモン(内分泌かく乱物質)」であるという指摘がされ、今年になって大きな社会問題となっています。

●陶磁器など
 陶器、磁器、ガラス、強化ガラス、などは、日常の食卓で使用されている素材です。
 適度な重さ、熱伝導率であり、熱いものは熱い、冷たいものは冷たく、それでも持てないということはありません。
 陶磁器やガラス、強化ガラスなどは、1000度を超えるような非常に高い温度で焼かれ製造されるため、溶出がほとんどなく、 安全性が高い素材です。さらに、傷もアルマイトやプラスチックよりつきにくく、耐久性も優れています。
 いいことずくめのようですが、欠点があります。それは、割れるということと重く、かさが高い点です。 耐熱強化ガラスや強化磁器などは比較的軽量化がはかられていますが、総じて重くなることは間違いありません。
 割れることは、子ども達にとっては大切に扱わなければならず、マナーを伝えるという体験になります。実際、 佐賀県有田で有田焼を食器として導入した時は、破損率が予想よりもかなり低く、1%台を記録したり、子ども達が割れることを前提に扱うため、 かえってていねいに利用するようになったという報告がありました。
 長期間使っても傷まないため、破損を除くと基本的にプラスチック食器のような傷や劣化による更新の必要がありません。つまり、 導入当初のコストはかかりますが、導入後の回転コストは安くつきます。
 しかし、重い、かさばる、割れるという点は、調理現場の作業性を悪くします。
 陶磁器などの和食器には糸底があり、さらにかさばります。一方強化ガラスは、糸底がないため和食器よりもかさばりませんが、 持ち上げにくくなります。また、表面が滑りやすく、割れるとき細かくなるため、子どもにとっては少々危ない面もあります。この点は、 食器籠を増やし、一度に持つ量を減らすなど工夫が必要です。

(強化ガラス食器は、破損時の危険性が大きく、使われなくなりました。 HP移行時追記)

学校給食ニュース3号 1998年6月) 

 

[ 98/12/31 食器 ]

1988年学校給食食器に関する私たちの見解

 80年代のメラミン食器反対運動と、現在のポリカーボネート食器の持つ問題は、溶出する化学物質が違い、 その影響が違うということがありますが、学校給食全体から見たとき、本質はまったく同じです。
 他の学校給食問題と同様に、食器についても子ども達にとって何が最善か、この一点で考えるべきです。
 日常的に当たり前に使う食器を選び、また、地域の特色ある食器を使って、 食文化や食生活を身につけることができるよう配慮することが最善ではないでしょうか。そして、ポリプロピレンやメラミン、 ポリカーボネートといったプラスチック食器は、安全性に不安があるだけでなく、まがいものであり、 教育としての給食の質を損なうものであることを前提に考えるべきです。
 プラスチック食器を導入しようとする側は、厚生省の基準や現在の知見で「安全性に問題ない」として議論を止めようとします。しかし、 安全性だけの問題ではないのです。
 メラミン食器反対運動のさなか、1988年に出され、今日的な意味を失っていない四者共闘(自治労、日教組、全国学校給食を考える会、 日本消費者連盟)による「学校給食食器に対する見解」を全文掲載いたします。


学校給食食器に関する私たちの見解
(四者共闘学校給食食器検討委員会)


1 はじめに

 1987年11月18日以後、全国学校給食を考える会、日本消費者連盟、日本教職員組合、全国自治団体労働組合の四者は、 昨今大きな問題となっている学校給食へのメラミン樹脂製食器導入問題を契機として、 学校給食食器のあり方について様々な観点から検討を重ねてきました。
 また、1988年1月20日、九段会館において開催した「ともに生きよう学校給食!…食と平和の結び付きを!…1・20全国集会」においても、 学校給食食器の問題に議論が集中しました。その中では当局による一方的なメラミン食器導入に対して、父母・地域住民と学校職場で働く調理員、 栄養職員、教員が一体となって行動し、ついにメラミン食器の追放の結論を引き出すに至った飯塚市のような画期的な報告もありました。
 安上がりの行政を求めた「地方行革」攻撃の中で、学校給食現場においては1:給食調理員のパート化、2:共同調理場方式への切り替え、3: 民間委託の推進が進められています。このような攻撃の中で、給食食器のメラミンをはじめとするプラスチック化の動きが文部省・ 各自治体教育委員会の手によって推進されており、さらに、プラスチック食器メーカーが1,600万の子ども達の給食を市場としてねらっています。 具体的には、学校給食を民間の食品産業の手に売り渡す第一歩としてプラスチック食器の導入を強力に押し進めています。


2 プラスチック食器の問題点

(1)安全面の問題
 プラスチック食器から原料モノマーや添加剤をはじめとするさまざまな化学物質が溶け出してくることは実験結果からも明らかです。 現在焦点となっているメラミン樹脂にあっては、原材料のメラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン) とホルムアルデヒドが溶出することが知られています。しかも、この両者とも発ガン物質であることから、 心身の成長期にある子どもたちにとって好ましくない食器であることはいうまでもありません。
 メラミン以外で多用されるポリプロピレン食器からは添加剤のBHTなどが、また、 最近使われ始めたポリカーボネート食器からはビスフェノールAが溶け出してきます。
 製造工程で1300度もの高温で焼成される陶磁器と異なり、実際に使用される条件と大差のない温度で製造されたプラスチックは、 本来的に化学物質が食品中に移行しやすい性質をもっているといえます。

(2)衛生面の問題
 メラミンなどのプラスチック食器は熱伝導率が低いため、殺菌保管庫中にあっても熱が十分に伝わらず、 殺菌が完全に行われない恐れが多分にあります。事実、給食時間に提供される食器がびっしょりと濡れていて、 不衛生だとの苦情が出されている現場もあります。
 また、使用中や洗浄時に表面についた無数の傷の中に汚れがこびりつき、黒ずんだり酸化物質が生成して非衛生的になることも報告されています。

(3)食文化の問題
 メラミンなどのプラスチック食器は、しょせんは陶磁器に似せて作られたまがい物に過ぎません。
 本物の食器で、いのちある食べものを食べる中からこそ、食の文化や食=いのちの大切さ、そしてマナーが確立されます。地域ごとに気候風土、 自然環境に応じた食文化が形成されてきたように、食器も地域毎に特色ある伝統が保たれてきました。そのような食文化を絶やすことなく、 積極的に次の世代に伝えていくことこそ「教育の一環」としての学校給食本来のはたすべき役割です。

(4)その他の問題
 これら以外にも、メラミンなどのプラスチック食器には多くの問題があります。たとえば、
単価が高い。
耐久性が劣り、総合的にコストが高くなる。
黒ずみを防止するため、漂白などの作業が新たに必要となる。
プラスチックの材質そのものを傷め、有害な化学物質の溶出を促進する。
油汚れが落ちにくいため、せっけんによる洗浄に適さない。合成洗剤に逆戻りする。
廃棄する時、「燃やせないゴミ」をぼう大に生み出すことになる。
 等々です。


3 四者共闘としての結論

 これらのことから、学校給食食器のプラスチック化は、教育の一環として「真に子どもたちのための学校給食の確立」 をめざす四者共闘の基本的立場に真っ向から反するものであるとの結論に到達しました。
 四者共闘としては学校給食食器は1~4の項目を充分に満たすものでなければならないことを改めて確認します。
 つまり、
学校給食用食器は安全性や衛生面にまったく不安がないこと。
食文化の伝承にふさわしい材質でなければならないこと。
日々の食事を通して、確かで、あたたかい生活習慣の収得など、教育的見地にかなうものであること。
「学校給食食器」として特別視するのではなく、あくまで家庭の食事の延長線上に位置づけ、子ども達がおいしく食べられるものであること。
などのポイントを原則にするべきだと考えます。
 しかし、だからといって機械的に陶器や磁器食器に切り替えれば良いというものでもありません。それぞれの学校給食現場の施設・設備の状態、 人員配置、労働条件など、様々な陶器や磁器食器導入の阻害条件を克服する中から、最適な食器材質や食器の種類、数などが決定されるべきです。


4 私たちの手による「食器検討委員会」の確立を!

 メラミン食器を導入したほとんどの自治体では、行政・教育委員会が一方的にメラミン食器への切り替えを決定し、押し付けています。 そこには学校給食の主人公である子どもたちを中心に考えるという視点がまったく欠落しているばかりか、調理室内における作業手順すら考慮されず、 著しい労働強化を招いている例すらあります。また、たとえ陶器や磁器のようなすばらしい材質の食器が導入されたとしても、 設備や人員の改善が伴わなければ、全体としての学校給食の質を向上させることは望めません。
 行政当局による一方的な食器「改善」ではなく、学校給食を作り、食べる当事者である子ども達・父母・地域住民、栄養職員、調理員、 教員の手になる「給食食器検討委員会」を、最低限各自治体レベルで確立しましょう。
 その中では、調理室内の作業手順の見直し作業が重要です。現在の洗浄方法、洗浄剤の種類が適切か否か、日々の作業の時間配分はどうか、 休憩時間の完全確保とその活用法や、現在の人員配置が適切かどうかなど、職場点検作業をただちに開始しましょう。
 それぞれの立場から率直な意見を出し合い、個々の現場に最もふさわしい材質の食器を選び取り、その食器を使いこなすための、 人員の増員も含めた条件の整備をかち取りましょう。
 食器問題は単に食器の材質やppmレベルでの安全←→危険論争の問題にはとどまりません。85年1月21日の文部省合理化通知以降 「学校給食をいかに守り、充実・発展させていくか」、という私たちが全国各地で繰り広げてきた運動の真価が今問われています。


5 具体的な取り組みを始めよう

 以上のような結論をふまえ、四者共闘として当面下記のような取り組みを提案します。
自治体ごとに、メラミンなどプラスチック食器の新規導入の動きを常に監視し、事前に情報をキャッチできる態勢をつくりましょう。自治体が、 プラスチック導入を決定した後から運動をすめるのでは、飯塚市の運動のように導入阻止のために大変な努力がいります。
上記のような「食器検討委員会」などを組織し、「かわるべき食器」についてさま ざまな角度から検討し、対案が出せるよう準備をすすめましょう。 その際、まず陶磁器導入の可能性から検討を始めましょう。
検討のポイント例を挙げると、
ランチルームのある学校では、まずランチルームで使用してみることは不可能か。
また、ランチルームがない場合は、たとえば一学年からでも部分的に導入できるよう提案できないか。
全部を一度に切り替えるのは大変。まず「ご飯茶わんから変えていく」というように部分的導入からでも提案できないか。
岐阜県土岐市のように、センターで陶磁器を使っているところもある。
 実践例にならって、食器を変えるための施設・設備の改善を具体的に検討・提案できないか。 ちょっとした工夫で陶磁器など導入による問題解決が可能になる場合もある。
神経を使うと思いますが、割れることを気にしないで、陶磁器などの導入検討を始めよう。
 すでに導入している有田町では破損率1.2%という報告が出ている。一方、メラミンでも20%に至る、という報告もある。子ども達は 「食器は割れるものだ」ということを知り、ものの大切さを学ぶことができる。その結果、扱いが非常にていねいになったという実例報告がある、 「破損によるコスト高」という論理はうち破ることができる。
陶磁器は重い、という問題は残る。
 「重量感」は子ども達にとってもある。しかし、逆にそのために、子ども達には「カゴ」を増やし、「給食当番」の数を増やすなどの工夫をし、 それが「協力して準備する」という教育的効果を生む場合もある。
 洗浄作業については、腰痛やけいわん症を起こさないためにも、常に、 休憩時間をとりながら午後の時間を洗浄に十分使えるよう労働条件などを要求・提案していけるよう準備しよう。
補足:すでに東京都武蔵野市などセンターで陶磁器を導入したところや、大阪府守口市のように陶磁器を導入し、 洗浄方法に工夫をこらして作業負担の軽減をはかるなど、陶磁器導入のためのノウハウ、プログラムは確立しています。ぜひ、最新事例を参考にして、 陶磁器導入への一歩を踏み出しましょう。

学校給食ニュース3号 1998年6月

[ 98/12/31 食器 ]

時事情報1998年 主に給食運営・施設設備

●給食米値引き制度廃止の影響
 1月29日付、北海道新聞では、98年度からの給食米の値引き制度削減、廃止により、道内の米飯給食に影響が出ていることを伝えている。 それによれば、札幌市や函館市は給食費を値上げしたものの、自治体によっては97年の消費税引き上げに合わせて値上げしたところが多く、 経済状況の悪化で未収も増えているため対応に苦慮している。中には、米飯を一部麺類に替える自治体もある。また、北広島市では、 米の入札制度をとりいれた。現在のところ、地場産のきらら397限定であるが、将来、価格のみで入札されることへの懸念も出されている。 (学校給食ニュース10号 1999年3月)

●仙台市、給食費値上げ
 98年11月19日付の河北新報によれば、仙台市教委は、99年度から給食費を値上げする。値上げの理由は、 国の給食用米穀の値引き措置が段階的に廃止されることと原料費物価の上昇を上げている。値上げは19円~23円の幅で、小学校が225円 (219円)、中学校が268円(263円)となる。(かっこ内は一部地域)(学校給食ニュース9号 1999年2月)

●神戸市、給食センター建て替えへ
 6月24日付建設通信新聞によると、神戸市教委は2001年始動をめざし北区の北学校給食共同調理場の立て替え計画を本格化している。 現在のセンターが老朽化していることなどを受けての動き。約8000食、市内16の小学校を対象にしている。 (学校給食ニュース5号 1998年9月)

●上越市内全校が自校式給食に
 4月より市内すべての小中学校で自校給食がとりいれられた。 これまで市が合併する以前から自校式だった高田地区と共同調理場方式だった直江津地区に分かれていたが、 直江津地区の父母らから自校式への要望があり、共同調理場の更新期に合わせ94年に自校式への移行が決まった。(新潟日報4月19日) (学校給食ニュース3号 1998年6月)

●給食センターから弁当給食への方針
山梨県北巨摩郡双葉町では、小中学校約1,400食を配食している老朽化した共同調理場を新築し、生徒数の増加などに対応する予定だったが、 建設費が当初予想額より大幅に高く、外注方式の弁当給食を検討、来年度より実施する方針を打ち出した。 保護者などからは唐突な方針変更への不信感や自校方式を求める声が上がっている。(山梨日日新聞4月20日) (学校給食ニュース3号 1998年6月)

●給食センターから自校式へ
福岡県宗象市では、2年前、小学校7校の約640人が給食センターを原因とする食中毒となったことから、 本年度の河東西小を皮切りに自校方式への切り替えをすすめている。(西日本新聞5月7日)(学校給食ニュース3号 1998年6月)

●堺市学校給食懇談会4回目
3月4日、堺市学校給食懇談会の4回目会合が開かれた。懇談会発足時に一部給食不要論もあったが、 今回の会合で給食の教育的な効果などで意見が一致したという。(朝日新聞 2月5日)なお、懇談会は非公開で行われている (学校給食ニュース1号 1998年4月)。

 

[ 98/12/31 施設設備 ]

環境ホルモンとは何か?

 今、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)について関心が高まっています。環境ホルモン(内分泌かく乱物質)とは、 環境に放出された化学物質が生物内に入り、生体がもともと持っているホルモンと似た働きをして生体をかく乱したり、 生体のホルモン量を変化させたりし、その結果、生殖機能を阻害するなどにより、生殖を困難にしたり、生存にかかわるというものです。
 現在のところ、その仕組みや、どの物質がどのような条件で引き起こすかなどの詳しいことは明確にはなっていません。しかし、 これまでの化学物質汚染とは異なり、 ごく微量でも生命が誕生し分化する大切な一時期に作用することで大きな影響を与えることなどが指摘されています。
 人体に対しては、自己免疫疾患や神経系などの異常、精子の減少や不妊、ガンなどへの関わりが考えられ、また、野生生物のオスのメス化、 精子の減少、大量死、行動異常なども関連が指摘されています。
 指摘されている物質としては、農薬や工業化学物質などが指摘され、ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニール(PCB)、DDT、スチレン、 ビスフェノールAなど数多くの化学物質が挙げられています。
 学校給食の食器では、ポリカーボネート製食器からビスフェノールAが溶出します。
 また、缶詰の内側のコーティングからもビスフェノールAが溶出します。また、スチレンは発泡スチロールから溶出することが分かっています。
 環境ホルモン(内分泌かく乱物質)については、すでに製造が中止されたものの食物連鎖などで生体内に蓄積されている物質や、 あらゆる生活の場面で使用されている様々な化学物質が対象となっており、すぐにすべてを排除することはできません。 食品保存に使われているものなど優先順位をつけて代替品に変えていくとともに、 社会全体が化学物質の無制限な放出をやめるようにしていく必要があります。

学校給食ニュース3号 1998年6月) 

 

[ 98/12/31 環境ホルモン ]

環境ホルモンのより詳しい説明

●環境ホルモンのより詳しい説明

 環境ホルモンは、日本語として正しくは「内分泌かく乱化学物質」と呼ばれています。その名の通り、生命の内分泌系を混乱させることで、 生命に深刻な問題を引き起こします。
 内分泌物質(ホルモン)はきわめて微量で体内のバランスを保ったり、生殖機能をコントロールする大切な物質です。 このホルモンと構造が似ている化学物質が、本来のホルモンの働きをじゃましたり、異常な働きをさせて、 人体や生殖機能に影響を与えることがあります。これが環境ホルモン問題です。
 ホルモンには、その化学構造からステロイドホルモン、ペプチドホルモン、アミノ酸誘導体ホルモンの3種類があります。今、 問題になっている環境ホルモンは、主に性ホルモン(エストロジェン、アンドロジェン) や副腎皮質ホルモンなどステロイドホルモンの働きと同様のふるまいをしたり、じゃましたり、異常にするものです。ステロイドホルモンは、 遺伝子の活動にまで直接作用するため、影響が大きくなります。
 また、作用が終わると肝臓などですぐに分解され、排出されるホルモンとは違って、環境ホルモンは分解されにくく、油に溶け、 体からはなかなか排出されません。そのため、長期に渡って影響が続くことになります。

 環境ホルモンが深刻な問題なのは、
ホルモンのようにきわめて微量でも作用すること
種の生存に関わる生殖機能に異常をあらわすこと
胎児期のように、特定の時期に影響を極度に受けやすいこと
精子の減少、子宮内膜症など、成長後に大きな影響が出ること
免疫系の異常や行動異常など生命の根幹に関わる異常につながりかねないこと
                                    です。

●人体への影響
 もっとも影響を受けるのが、次世代の子どもたちです。胎児は胎盤を通じて母親から栄養を受け取りますが、この際、 環境ホルモンや人工的な毒物などが胎盤を通過し、胎児に影響を与えることがあります。
 撹乱作用があるかどうかわかりませんが、サリドマイド症は胎児の特定の時期にサリドマイドにさらされることで直接被害を受けています。
 環境ホルモンの例では、 アメリカで50年代から60年代にかけて妊娠期の流産予防や避妊薬として使用された女性ホルモンと同様の働きをする合成ホルモン剤DES (ジエチル・スチルベストロール)があります。胎児期の特定の発育状態でDESに曝露すると、生まれた子どもが、女性の月経異常、膣ガン (きわめてまれなガン)、男性の尿道下裂、停留精巣、精巣ガン、精子数の減少などになる例がありました。
 環境ホルモンの人体への影響としては、男性の精子数が過去50年間で半減しているという指摘があり、比率はともかく、 精子数が減少しつつあるのは間違いないようです。また、精子の質も劣化しており、運動能力の低下や奇形率の増加により、 生殖能力が衰えつつあります。この他、男性への影響としては、精巣ガンの増加、尿道下裂、停留精巣、 小陰茎症などの生殖器異常の増加が指摘されています。
 女性の場合、乳ガンの増加が指摘されています。乳ガンは、女性ホルモンのエストロジェンによってガン細胞が増殖することが知られています。 環境ホルモンによって乳ガンが誘発されていることは十分に考えられます。不妊症の原因のひとつである子宮内膜症も過去には例が少なく、 急増している症例です。
 これらはいずれも性ホルモンが大きく関わる病例であり、性ホルモンのようなふるまいをする環境ホルモンとの関わりが考えられる例です。
 また、男女を問わず増加しているものにアレルギー、アトピーなどの増加があります。
 さらに、学習障害、行動障害児の増加、多動症やストレスへの過剰反応などが明らかに増加しており、 胎児や幼児期の甲状腺ホルモンのかく乱などによる影響で、脳や神経系の発達に障害が起こっているのではないかという指摘もあります。

●野生生物への影響
 野生生物への影響はとてもたくさんの事例があります。身近な例では、 神奈川県三浦半島でみかける巻き貝のイボニシが採取されたメスのほとんどに男性器が発達し、メスがオス化しています。そのほか、 多摩川のオスのコイの精巣が小さくなったり、精巣と卵巣を持つ魚体が上がっています。
 世界的には、変態によって水と陸の両方の環境で生きる両生類が激減しています。環境ホルモンの影響だけではありませんが、 環境破壊とあいまって、ひとつの種を超えた絶滅への危機が心配されています。また、 かつて旧日本軍や米軍の弾薬庫だった福岡県北九州市の山田緑地では、近年多足のヤマアカガエルが何匹も発見されています。
 鳥類も、卵の殻が薄くなって繁殖しなかったり、成鳥でも巣を作らなかったり、子育てをしない例が増えたり、 奇形などが地域や種ごとに増えています。
 ほ乳類もアメリカのフロリダピューマに精巣や精子に異常のある群が発見されたり、アザラシやイルカなどの大量死が世界で起こり、 それらの体内からは高濃度のPCBやDDEといった化学物質が検出されています。

 しかし、今のところ確かな因果関係が明らかになってきたのはごく一部であり、精子の減少や、 様々な野生動物の異常が環境ホルモンという視点で考えると説明がつくようになったという段階です。 世界中の研究者や機関が今まさに研究や調査を行なっています。

●代表的な環境ホルモン
 環境ホルモンの多くは、合成された有機化学物質です。 現在までに分かっている代表的な物質は、
ダイオキシン類
PCB
フタル酸エステルやスチレン、ビスフェノールAなどのプラスチック添加剤や原料
DDTなどの有機塩素系農薬
水銀や鉛などの重金属を含んだ有機化合物
界面活性剤のノニルフェノール

 などです。(天笠啓祐著『環境ホルモンの避け方』より引用)

 製品としては、塩化ビニール、ポリカーボネート、スチレンなどのプラスチック製品(おもちゃ、食器、ラップ、発泡スチロール、水道管、 缶詰の内コーティング他)、農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤)、アルキルフェノールなどを含む合成洗剤、酸化防止剤などの食品添加物…。さらに、 ごみの焼却で発生するダイオキシン類や生産されなくなった現在も環境中に存在するPCBなどが挙げられます。


●環境ホルモン問題の背景

(有機化合物)
 環境ホルモン問題は、それ以前から毒性や発ガン性などが指摘されているダイオキシン、PCBといった化学物質、農薬、合成洗剤、また、 ごみ問題を引き起こしているプラスチック製品などと共通の問題点を抱えています。
 これらの大半は合成された有機化学物質(有機化合物)です。「有機」とは炭素を含む化学構造をもつという意味で、ヒトを含む動物、植物、 菌類などすべての生命は「有機」です。そして、「有機」物質は生命が作り出した物質です。石油や石炭なども元は植物であり、 生命がつくりだした物質です。
 しかし、人類は人工的に有機化合物を作り出すことに成功しました。そして、これまで自然界には存在しなかったり、 ほとんど見ることのできなかった物質を次々に生み出したのです。

(自然界にないふるまい)
 人体の有機化学物質はタンパク質や核酸に代表され、ほとんどが水溶性です。その回りを細胞膜などの油の膜で保護しています。 ステロイドホルモンの場合、タンパク質と結びついて水に溶けるようになり、血液を通して運ばれます。そして、この油の膜を通って細胞の中に入り、 決まった受容体とくっつくことで作用しますが、体内での役目を終えると肝臓で分解され、排出されてしまいます。
 合成した有機化学物質(有機化合物)の多くは油に溶ける性質があり、細胞膜などを通過してしまいます。さらに、 これまで自然界に存在しなかった物質は、人体など生命系が対応できず、分解や排出がなかなかできません。そのなかで、水に溶けず、分解せず、 油分の多いところに溜まってしまう性質を持ち、ステロイドホルモンの受容体とくっついて、ホルモンと同様の働きをしたり、 ステロイドホルモンの働きをじゃましたり、そのような反応系を混乱させるのが環境ホルモンです。

(現代社会の問題点)
 有機化学物質が誕生したのは1828年のことで、1856年に人工染料として製品化されました。 第一次世界大戦により毒ガスの成分として塩素が大量に生産、使用されるようになり、戦後、 余った塩素が有機塩素系化学物質として生産されるようになります。PCB、DDT、塩化ビニールや農薬、殺菌剤などが次々に生み出され、 1950年代以降は石炭から石油へと原料が変わりながら、プラスチック、農薬、合成洗剤、合成ゴム、食品添加物、フロンガスなどの大量生産、 消費がはじまりました。有機化学物質は、現在生産が行なわれているものだけでも数十万種類になっています。
 これらの製品によって、今の日本のような大量生産、大量消費、大量廃棄社会は成り立っています。
 環境ホルモン問題は、オゾン層の破壊や地球温暖化、ごみ問題や、様々な環境汚染、健康被害などとまったく同じところから発している問題です。 だからこそ、根本的な解決は、この大量生産、消費社会のあり方や、産業のあり方までも問いかけることになり、 すぐに解決できることではありません。
 緊急に対処すべき行動をとりながらも、他の問題と合わせて解決の道を探すしかないのです。


学校給食ニュース5号 1998年9月

 

[ 98/12/31 環境ホルモン ]

学校給食と環境ホルモン

 学校給食の現場でも環境ホルモンの問題があります。

(ポリカーボネート)
 まず、 問題とされているポリカーボネート製食器から原料のビスフェノールAが溶出します。ビスフェノールAは、 食品衛生法の規格基準で2.5ppm以下の溶出であることとしています。ポリカーボネート製食器の問題で、自治体が 「厚生省の基準を満たしているから問題ない」というのは、この点を指しています。
 ビスフェノールAには弱い女性ホルモン作用があります。「その強さは女性ホルモンの1000~2000分の1程度でしたが、 その濃度2~5ppb(1μg/リットル)で、細胞に対するホルモン活性を示した」(※1)ことが分かっています。
 リターナブル食器の材質として「ポリカーボネート製容器を調べた検討結果で、未使用品で6ppb(水、85度で30分後)、 15回の洗浄品で6ppb(4%酢酸、95度で30分後、以下同様)、容器の白化がみられる50回洗浄で最大64ppb、 さらに100回洗浄品で180ppbの溶出例があります」(※1)、同様に給食食器の「溶出試験の例として、 油性食品の類似溶剤n-ヘプタンに20度、60分摂食していると約29-39ppb溶出する例があります」(※1)とのことです。
 給食食器のように毎日使用するものは、ずっと続けて微量に環境ホルモン物質を取り入れることになります。

(プラスチック)
 学校給食では、ポリカーボネート製食器以外にも問題があります。ラップ等や容器として使われるプラスチック製品、 とりわけ塩化ビニール製品の添加剤(可塑剤)として使われるフタル酸エステル類(フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル他) やアジピン酸エステル類(アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソデシルなど)は環境ホルモンとして挙げられています。これらは、 添加剤といっても使用される割合は高く30%近く配合されていることもあります。
 また、発泡スチロールやカップ麺などの容器に使われるポリスチレンからは原料のスチレンモノマーが溶出します。環境ホルモンとしては、 このモノマーが重合したスチレンダイマー(二量体)、スチレントリマー(三量体)が挙げられており、溶出が疑われています。
 これらは特に油に溶出しやすい性質があり、 たとえば油製品をラップにかけておくだけでも常温でラップから添加剤が微量ながらも溶出すると考えられます。
 プラスチックは意外なところでも使われます。缶詰の内側には金属が溶出しないようエポキシ樹脂でコーティングされていますが、 この樹脂はビスフェノールAが原料なので、当然、ビスフェノールAが溶出します。長い時間保存するものだけに気がかりです。 国内の多くのメーカーでは、市民団体や生協などの要請を受けて、順次、溶出量の少ないものや、 溶出しない別のコーティングに変えることにしていますが、まだしばらくは時間が必要です。

(食材)
 食材も、その包装材の多くがプラスチック製品です。また、野菜などによっては農薬の残留が心配されますが、 多くの農薬が環境ホルモンという指摘があります。また、 食品添加物で酸化防止剤として魚介製品などに使われるBHAも環境ホルモンの指摘があり要注意です。

(学校環境、ごみ)
 学校環境でも、全校の「消毒」やセンター、調理室などの「消毒」 として、殺菌、殺虫剤が使用されることもあります。その成分によっては環境ホルモンに指摘されるものが入ることも十分に考えられます。「消毒」 とよばれるものは、いずれも農薬と同様の成分ですから、注意が必要です。
 発ガン性、毒性が非常に強いダイオキシン類は、同時に強力な環境ホルモン物質でもあります。プラスチックごみの焼却や、 小型焼却炉での低温度の焼却は、ダイオキシンの発生源となっています。すでに、全国で小型焼却炉の使用を中止するようになりましたが、まだ、 自治体によっては対策が遅れ、学校の小型焼却炉がそのまま使用されているところがあります。もちろん、小型焼却炉を廃するだけでなく、 地域でのごみの分別や削減、さらに、ごみ処理施設からダイオキシンが発生しないようにするための構造的な工夫を行なうことが求められますが、 ダイオキシン濃度は焼却炉の周辺がもっとも高いという指摘もありますので、早急な対応が必要です。

(※1)…片瀬隆雄著 プラスチック食器・哺乳瓶・おもちゃ等と“環境ホルモン”『食べもの文化』1998年8月号(芽ばえ社)


学校給食ニュース5号 1998年9月) 

 

[ 98/12/31 環境ホルモン ]

環境ホルモンにどう対処するか~提案

 環境ホルモンの問題は、日々新しい情報が登場し、なおかつ、詳しい因果関係などは明確になりにくい状態にあります。その中で、 私たちが子どもたちやその次の世代の未来を守るにはどうすればいいのでしょうか。
 学校給食の現場でできること、地域の運動としてできること、社会の問題として取り組むことがあります。

 (学校給食の現場で取り組むこと)
 食材を選ぶこと。 残留農薬の可能性が高い輸入農産物ではなく、地場の生産者と提携したり、低農薬・無農薬の有機野菜を選ぶなど、素材を工夫することができます。
 包装資材から塩ビなどを減らしていくこと。納入業者との間で話し合い、包装資材の簡易化などに努力することができます。また、缶詰などは、 業者にコーティングが何でできているのかを問い、ビスフェノールAが溶出しないよう求めたり、残留検査を求めることができます。
 合成洗剤から石けんに切り替えること。環境ホルモンの候補となる化学物質は、次々に登場します。 これまでも安全性や環境への不安が指摘されている合成洗剤をやめ、石けんに切り替えることができます。
 ごみの総量を減らす努力をし、特にプラスチックごみを減らす。

(地域の運動としてできること)
 ポリカーボネート製食器の使用を中止し、 プラスチック製食器からより安全性の高い陶磁器、木製食器などへ変更する。これは、まず、給食の現場、学校や父母から声を上げ、 地域に訴えながら取り組むことが大切です。
 地域によっては、ポリカーボネート製食器を中止しながらも、メラミンやポリプロピレンなど他のプラスチック製食器に替えるところも出ています。 しかし、プラスチックは、総じて陶磁器などよりも低い温度で作られるため、原料物質の溶出が多くなります。また、 主原料物質だけでなく多くの添加剤が使われており、その実態は明らかにされていません。運動の際に注意が必要です。
 次に、ごみ焼却などごみ処理の方法を考え、ダイオキシンの発生を抑える。学校の小型焼却炉はもちろん、自治体ごとにごみ処理方法は異なります。 ごみ処理の実状を把握し、改善を求めることが必要です。また、これらのことは教材としても活用できるはずです。

(社会の問題として取り組むこと)
 アメリカでは、アメリカ環境保護局が6万種類の化学物質に対しホルモン作用があるかどうか調べつくす計画を打ち出しています。そして、 まず生産量の多い1万5千種の化学物質を予備的に分析し、1999年の夏には予備分析を終了させるとしています。
 また、食器などのプラスチック製品に対してはすでに添加剤などを明らかにするよう法的な整備は整っています。
 アメリカやヨーロッパのいくつかの国では、プラスチック製品の添加剤など原料を明らかにするような食品衛生上の法整備がなされていますし、 塩化ビニールについては早くから規制があり、生産量やプラスチック全体にしめる塩化ビニールの比率がかなり低くなっています。
 一方、日本では、環境庁をはじめ各省庁が環境ホルモン対策の研究調査予算を元に行動計画を打ち出していますが、 政府としての方針がばらばらな感は否めません。
 まず、なにより情報の公開が必要です。プラスチックの添加剤に何が使われているのか、それは環境ホルモンの可能性があるのか、 メーカーや関係行政に対して情報開示を求めることが、対策の近道です。これは、学校給食の現場からでもできることでもあります。

 現実には、どの取り組みも様々な難関があるかも知れません。しかし、まずなにより子どもたちや自分たちの生命のために、 「疑わしきは使用せず」を大前提にして、ひとつずつ取り組むことが必要です。
 夏期学習会の中で、日本大学生物資源化学部教授の片瀬隆雄さんは、 「20年前に市民運動が提起していたPCBやBHCなどの影響を受けた子どもたちが、今、大学生になっている。今、 環境ホルモンの運動をやっているが、今時点での状況が現実になって現れるのは20年先です。今、対応をすれば、 20年後は少しはましになっているかも知れない。人間は知恵があります。明るく、元気に、問題の解決に努力しましょう」とおっしゃっていました。
 環境ホルモン問題は、一気に解決できることではありません。ひとつずつ確実に取り組みを広げましょう。


学校給食ニュース5号 1998年9月

 

[ 98/12/31 環境ホルモン ]

環境ホルモン関係の書籍紹介

『ダイオキシンと環境ホルモン』
天笠啓祐著 日本消費者連盟発行 700円
日本消費者連盟

Q&A方式でダイオキシンと環境ホルモン問題をまとめた本。入門書としておすすめです。
入手方法…日本消費者連盟で販売しています。1冊の場合、700円+送料180円を上記郵便振替口座に入金してください。その際、書名、冊数、 住所、お名前を振込用紙に記入してください。なお、2冊以上ご希望の方は、送料が異なりますので、 電話で日本消費者連盟までお問い合わせください。

『環境ホルモンの避け方』
(シリーズ安全な暮らしを創る2)
天笠啓祐著 コモンズ発行 1300円+税
前著よりもより詳しく環境ホルモンについて知りたい方へ。購入は書店でお申込ください。

『奪われし未来』
シーア・コルボーン他著、長尾力訳 翔泳社発行 1800円+税
環境ホルモン問題を世界中に広げるきっかけになった1冊。アメリカ合衆国のゴア副大統領が前書きを寄せたことでも有名。 誤訳が多いという指摘があります。購入は書店にて。

『メス化する自然』
デボラ・キャドバリー著、井口泰泉監修・解説、 古草秀子訳 集英社発行 2000円+税
イギリスBBCテレビのプロデューサーが、特集番組『男性への攻撃』を制作する過程で得た情報をまとめた1冊。購入は書店にて。

『環境ホルモン入門』
 立花隆+東京大学教養学部立花ゼミ著、新潮社発行 1400円+税
学生がまとめた環境ホルモンの入門書。書籍などから環境ホルモン問題を項目ごとに整理。また、書籍リストや年表、 インターネットでの情報入手先などがまとめられている。購入は書店にて。


学校給食ニュース5号 1998年9月

 

[ 98/12/31 環境ホルモン ]

時事情報1998年

●文部省、学校給食実施状況調査発表
 文部省は、10月10日、学校給食実施状況調査結果の概要を発表しました。これは、97年5月1日現在の状況をまとめたもので、 実施状況は毎年、食器に関しては3年に1度行なわれています。
 概要によると、学校給食を実施しているのは小学校786万人のうち99.4%の781万人、中学校448万人のうち82.1% の368万人となっています。少子化にともなって小中学校ともに人数は減っています。
 調理場形式としては、単独校が96年よりも78校減って14,323校となり、センターが80施設増えて16,695施設となっています。
 学校栄養職員数は、前年度から35人増えて11,811名とほぼ横ばいですが、学校給食調理員は、195人減って79,586人となりました。 また、非常勤が占める割合も24.3%と、1年間で1.3%も増えており、調理員の非常勤化、民間委託化が進んでいることを示しています。なお、 調理の民間委託は前年度より0.4%増えて7.8%となりました。
 給食費の保護者負担は、96年度にくらべ97年度は小学校で2.8%、中学校で2.4%の値上げとなっています。これは、消費税率が3% から5%になったことが大きな背景にあると考えられます。
 米飯給食については、完全給食実施校のうち98.7%が実施しており、月平均10.7回、週平均2.7回は前年と変っていません。
 3年に1回の食堂・食器調査調査では、94年と97年の比較になりますが、食堂(ランチルーム)の設置は、小学校、中学校とも増え、 小学校で26.9%、中学校で13.6%となり、いずれも2.6%増加しています。
 食器具については、箸の使用率が全体で0.7%上がり、97.2%となりました。
 先割れスプーンのみ使用校はこの3年間で95校減り、残りは665校です。また、先割れスプーンの使用校も全体の45.1%となり、スプーン、 フォークを利用する率が上がっています。
 食器については、アルマイト、ステンレス、メラミン、ポリプロピレンの使用率が減り、 ポリカーボネートの使用校が5,240校から10,465校(33.5%)と顕著に伸びています。一方、陶磁器も3,121校から4,112校 (13.2%)と増えています。
 この調査は、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)問題が社会的に大きく取り上げられる前の97年5月1日現在の調査であり、 昨年まで急速にポリカーボネート製食器が普及していたことがここから読みとることができます。
 一方で、陶磁器が着実に伸びていることは、より安全性が高く、日常的に利用する陶磁器を求める声が確実に根付いていることを示しています。 (学校給食ニュース8号 1998年12月)

●PC使用禁止はしません
 11月10日付の日本経済新聞などによると、厚生省の「内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会」は中間報告をまとめ、 ポリカーボネート製食器については、現段階で直ちに使用禁止などの措置を講じる必要がないとしている。
 あわせて、健康影響の可能性は否定できないとしており、疑わしくても使うという姿勢を示していることは、 国民の健康をあずかる省庁の検討会方針として納得がいくものではない。 今後の調査研究で問題が明らかになった時点で使用禁止などを打ち出しても遅いのである。(学校給食ニュース8号 1998年12月)

●喜多方市・特産の漆器を利用
 11月4日付の朝日新聞福島版によると、喜多方市教育委員会は、使用しているポリカーボネート製食器に対し、疑わしきは使用せずとの考えから、 地元の漆器を食器として利用することとした。
 会津喜多方漆器商工協同組合の協力で4月からテストをはじめ、洗浄・乾燥試験や調理員・教員の声を聞きながら改良を繰り返し、 10月に4度目の完成品が仕上がった。収納や運搬のために重ねやすくなるよう工夫し、今の収納庫を利用するなどの対応ができたという。 来年1月より、順次小学校の食器を切り替えていく方針。(学校給食ニュース8号 1998年12月)

●福島県、木製食器の可能性を検討
 11月4日付の福島民友によると、福島県では、60市町村がポリカーボネート製食器を学校給食で使用している。県では、 現時点で使用中止などの指導方針を持たないが、来年度からPC食器の溶出試験を実施するとしている。 このなかで県木材加工技術開発推進連絡調整会議に検討会を設置し、郡山市のハイテクプラザ、林業試験場、県教委、 衛生公害研究所などの職員により、学校給食用木製食器の可能性について検討することとなった。(学校給食ニュース8号 1998年12月)

●学校給食食器用の信楽焼
 10月31日付の読売新聞大阪版などによると、滋賀県信楽町の信楽陶器工業協同組合は、メーカーと共同で学校給食用の信楽焼食器を開発した。 アルミナを混ぜて強度を増し、樹脂粉末を混ぜることで陶器内に空洞を作り軽量化をはかったもの。 通常よりも100度高い1300~1350度で長時間焼き、強度を増した。重さもPC食器の2~3割増しにおさめたという。 (学校給食ニュース8号 1998年12月)

●広島でPC食器使用禁止を求める運動
 11月10日付の中国新聞によると、広島市内の小学生の母親たちが、「給食食器を考える市民ネットワーク」を発足させた。広島市では、 市内小学校135校のうち102校がポリカーボネート食器を使用しているが、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)問題が起こったため、 今年度の26校への導入を中止し、食器検討委員会で検討することになっている。しかし、検討委員会は6月の初会合以来開かれていない。 市民ネットワークでは、使用中止に向けた活動を行なう予定。(学校給食ニュース8号 1998年12月)

●横浜市、安全宣言その後
 9月12日付け、朝日新聞によると、8月31日に横浜市教委が公表したポリカーボネート製給食食器の調査結果と使用継続の「安全宣言」 に対して、疑問の声が上がっている。環境ホルモン問題に取り組む日本子孫基金では、検出限界を指摘、疑念をなくせる結果ではないとしている。 市議会でも、使用中止を申し入れたり、疑念を指摘する声がある。
 9月17日付け、神奈川新聞によると、神奈川ネットワーク運動・横浜ブロック協議会は、横浜市、市教委に対し、小学校給食で、 ポリカーボネート製食器と合成洗剤の使用中止を求める署名を16627名分を提出した。
 9月19日付け、神奈川新聞によると、横浜市の高杉教育委員長は、18日に開かれた市会常任委員会で、「中間発表を急ぎすぎた」として、 いわゆる「安全宣言」を修正した。また、10日の市会本会議でも市長が引き続き調査すると答弁している。 (学校給食ニュース7号 1998年11月)

●いわきの学校給食を考える会
 いわきの学校給食を考える会の早坂静枝さんの情報として、9月5日、個人30名と考える会を含めた4団体で 「いわきの学校給食にかかわる食器検討委員会」が発足した。いわき市の学校給食にはポリカーボネート製食器が使われており、今後、 行政への働きかけや情報収集、市民への広報活動などを展開するとしている。(学校給食ニュース7号 1998年11月)

●宇和島市 PCからアルマイトへ
 9月10日付け愛媛新聞によると、 愛媛県宇和島市教育委員会は市内の小中学校で使用しているポリカーボネート製食器をすべてアルマイトに切り替える。同市は、 94年から昨年にかけて、アルマイト製食器をポリカーボネート製に切り替えたところであるが、 独自調査によりビスフェノールAが一部から溶出されたためアルマイト製を再導入することに。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●群馬県が独自調査へ
 9月7日付け上毛新聞によると、群馬県は、10月から県内のポリカーボネート製食器の溶出検査などを行なう方針。 全国平均より高い率でポリカーボネート食器が使用されていることと、96年に起きた県内でのO-157食中毒発生以後、 高温での加熱消毒などを指導してきたために、高温などの条件での溶出試験をするという。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●春日井市、強化磁器を導入
 9月4日付け中日新聞によると、愛知県春日井市はポリカーボネート製食器から強化磁器食器への全面的切り替えを決定した。 来年1月までに公立保育園28園で切り替え。来年度中に市内全小中学校を切り替える予定。これにともない、 自動食器洗浄機や消毒保管庫の導入も行なう。愛知県でポリカーボネート製食器から切り替えを決めたのは春日井市がはじめて。 保護者の不安に対応して。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●柳川市、竹製の箸を使用
 9月11日付け西日本新聞によると、福岡県柳川市教育委員会は、 ポリカーボネート製箸を使用していた小学校5校で2学期より竹製の箸に切り替えた。食器はポリプロピレン製を使用している。 (学校給食ニュース6号 1998年10月)

●設楽町、箸を買いかえ
 9月9日付け中日新聞によると、愛知県設楽町は、町内の公立保育所、小中学校で使用しているポリカーボネート製箸を、 すべて強化ナイロン製に切り替えた。なお、食器はメラミン製を使用している。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●喜多方市、漆器食器を使用
 8月29日付け福島民友によると、福島県喜多方市は10月1日より小学校1校で、ポリカーボネート製食器にかえて地元産漆器を使用すると発表。 地場産業の振興も念頭に入れての措置。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●大町市、ポリプロ食器へ
 8月26日付け信濃毎日新聞によると、 長野県大町市教育委員会は現在使用しているポリカーボネート製食器をポリプロピレン製食器に切り替えることを決定。補正予算案を提出した。 (学校給食ニュース6号 1998年10月)

●沼田市、食器の安全性調査へ
 9月3日付け上毛新聞によると、群馬県沼田市教委は、 市内で使用しているポリカーボネート製食器の安全性を調査するための補正予算案を提出した。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●横浜市、安全宣言?
 9月1日付け神奈川新聞などによると、神奈川県横浜市教委は、ポリカーボネート製食器からのビスフェノールA溶出試験結果を8月31日に公表。 通常の使用条件ではビスフェノールAは溶出しないとして現時点での他の食器への変更を不要とする結論を出した。「学校給食用食器調査委員会」 の調査によるもので、食品衛生法に基づく溶出検査の他に、80℃と60℃の水、スープ、オリーブ油を使用した溶出検査を行なったもの。 食品衛生法の検査では、1ppbレベルの溶出が認められたが、独自調査(検出下限0.5~50ppb)では溶出が認められなかったとしている。 編集部でも独自に資料を入手したが、スープ、オリーブ油での検出下限が10ppb、 50ppbと埼玉県の調査などよりも高かったことに疑問をもたざるを得ない。微量での影響が心配されていることなので、 厚生省の現在の溶出基準2500ppb以下をもって安全とするのはとても疑問である。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●文部省、PC食器実態調査
 8月27日付け新聞各紙ならびに文部省からの発表資料によると、 文部省は今年5月現在の状態として全国の公立小中学校におけるポリカーボネート製食器の使用状況をまとめた。その結果、給食実施校の約4割、 12,409校がポリカーボネート製食器を使用しており、207の自治体では、他の材質に切り替え、 または切り替えを予定していることが明らかになったという。文部省としては、今後安全性についてなどの情報提供を行なうが、 食器選択は自治体の裁量として特に見解を示していない。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●山形県の動向
 7月4日付け山形新聞によると、 山形県下で給食を行っている公立小中学校436校中199校がポリカーボネート食器を使用しているということが県教育長保健福利課の調査で分かった。 山形県では、今後関係する部署で対応策を検討する、としている。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●群馬県の動向
 6月17日付け上毛新聞によると、群馬県下で給食を行っている小中学校、 養護学校545校中58市町村の393校がポリカーボネート食器を使用していると県教委保健体育課の使用状況調査で分かった。そのうち、 川場村が強化磁器に切り替えを行っており、5町村が変更を検討、残りは検討計画もないという。なお、前橋市、 高崎市はポリカーボネート食器を使用していない。また、県では、従来から行っている食品、 容器の化学検査にポリカーボネート容器のビスフェノールA溶出調査を加えることとしている。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●新潟県の動向
 6月6日付け新潟日報によると、新潟県では97年5月時点で、完全給食実施の小中学校858校中、 354校でポリカーボネート製食器を導入されていることが新潟県教委保健体育課のまとめで分かった。県教委では国の明確な方針が出されておらず、 判断材料となる情報を各自治体に随時提供することにしている。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●石川県の動向
 6月18日付け北国新聞によると、石川県内で学校給食を実施している368校中小学校167校、中学校43校、 合計210校でポリかカーボネート食器が使用されていることが、県教委の調査で分かった。県教委では、厚生省や環境庁の調査を見守るという。 石川県では美川町でポリカーボネート食器を使用禁止する方針を出している。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●静岡県の動向
 7月1日付け静岡新聞によると、静岡県内で学校給食を実施している775の小中学校のうち小学校366校、中学校143校の計509校が、 養護学校と定時制高校の30校中6校が、ポリカーボネート製食器を使用していると県教委体育保健課の調べで分かった。 (学校給食ニュース5号 1998年9月)

●神奈川県の動向
 7月5日付け神奈川新聞によると、 神奈川県内で学校給食を実施している35自治体930校のうち16自治体307校が食器の全部または一部にポリカーボネート製を使用し、 18自治体316校ではポリカーボネート製はしを使用していることが分かった。県では、 情報を提供しながら判断は各市町村という立場をとっている。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●徳島県の動向
 7月18日、8月5日付け徳島新聞によると、徳島県内で学校給食を実施している公立小中学校342校のうち小学校106校、中学校36校、 合計142校がポリカーボネート製食器を使用していることが県教委の調べで分かった。なお、徳島県下では、 鳴門市が使用しているポリカーボネート製食器を今年度中に強化磁器に変え、アルマイト製使用校も今後強化磁気製に変更することを決めた。 徳島県下で変更を決定したのは鳴門市のみ。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●長野県大町市は切り替え決定
 6月11日付け信濃毎日新聞によると、長野県大町市は、 市内小中学校で使われているポリカーボネート製食器類を年内に別素材に切り替える方針を6月10日に発表。市教委では、 疑わしきは使用せずの立場で決めたとしている。代替素材については未定。なお、塩尻市では、市内小学校3校、 中学校1校でポリカーボネート製食器を使用しているが対応策は研究中とのこと。飯田市では、ポリカーボネートからの変更は検討していないという。 ただし、食器洗浄を90度以下にするなどしている。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●千葉県野田市、PCからPPへ
 6月16日付け日経産業新聞によると、千葉県野田市は、現在17校でポリカーボネート製食器を使用しているが、 これをポリプロピレン製食器に切り替えることにした。94年以前は、ポリプロピレン製食器を使用していたが、 製造工程にフロンを使っているため環境対策の面からポリプロピレンに切り替えた経緯がある。しかし、現在は、 製造工程でフロンを使用していないとして、ポリプロピレン製に戻すことを決定した。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●仙台市、小中学校に続き、保育所などでも代替食器へ
 6月10日付け河北新報によると、仙台市は市内の小中学校に続き、市営保育所、 障害児施設でもポリカーボネート食器の使用を2学期から中止することとした。市内小中学校では2学期からステンレス製食器へ切り替える。 保育所では、強化磁器なども検討。(学校給食ニュース5号 1998年9月)
 
●給食センターで、代替食器へ
 6月6日付け南日本新聞によると、鹿児島県日置郡伊集院町は、学校給食センターで使用していたポリカーボネート食器を、温食器は強化磁器に、 パン皿、小鉢はポリプロピレン食器にそれぞれ変えることを決めた。この給食センターでは、幼稚園3校、小学校5校、 中学校3校の計3200食を作っている。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●古賀市、強化磁器で給食センター稼働
 6月9日の西日本新聞によると、給食センターの新築にともなってポリカーボネート製食器を導入する問題で、 センター稼働が延期されていた福岡県古賀市では、検討の結果、二学期より強化磁器を導入して新給食センターを稼働することが決定した。 (学校給食ニュース5号 1998年9月)

●PC食器中止の請願、趣旨採択
 6月30日付け南海日日新聞によると、愛媛県八幡浜市市議会は、八幡浜の「学校給食を考える会」 が提出した学校給食でのポリカーボネート製食器使用を中止して欲しいという趣旨の請願を全会一致で趣旨採択した。 趣旨採択は即時中止を拘束するものではないが、市は今後対応を求められることになる。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●塩ビ系ラップからの撤退
 6月18日付け毎日新聞によると、三菱アルミニウムは99年3月までに家庭用塩化ビニール製ラップを全廃し、 ポリエチレンなど非塩ビ系に切り替えることを決定した。環境ホルモン全国市民団体テーブルが塩ビ系ラップのメーカーに対し、 製造販売中止を申し入れたことに回答して。
このほか、江崎グリコや明治製菓、 不二家といった大手製菓メーカーがダイオキシン対策などの理由で今年から2000年にかけて塩ビ系素材不使用に踏み切るなどの動きがでています。 (学校給食ニュース5号 1998年9月)

●学校での塩ビ不使用努力要請採択
 6月18日付け読売新聞などによると、東京都北区議会は、 6月17日の本議会で学校など公共施設が塩化ビニール製品を使わないようにするよう区に対し努力を求めた陳情を採択した。 政府に対して塩ビ製品の生産や使用抑制に関する意見書の採択は、多くの自治体で行われているが、自治体に対しての陳情採択は全国ではじめて。
 このような動きが全国に広がるよう、環境ホルモンと合わせて運動を作っていきましょう。(学校給食ニュース5号 1998年9月)

●鹿児島県のゴミ焼却対策
 6月6日付け南日本新聞によると、鹿児島県内96市町村のうち、61市町村の公立学校で学校でのゴミ焼却を中止しており、 対策をはじめているのが11市町村、24市町村が学校でのゴミ焼却を継続するということが県教委の調査で分かった。県教委では、 97年9月に公立学校での原則焼却中止を通知しており、県立学校90校は98年4月で焼却を中止している。 (学校給食ニュース5号 1998年9月)

●岡山県勝央町プラ食器全廃へ
6月7日付け山陽新聞によると、岡山県勝央町では、学校給食のポリカーボネート食器をはじめ、メラミン、 ポリプロピレン製の食器も含めて強化磁器に切り替える方針を出しました。1中学校、4小学校、5保育所、計1,700人分。 補正予算約1,000万円を計上し、6月議会に提案。可決されれば、1学期中にも導入したいとしています。 子どもの安全を最優先に考えた方向性です。このような自治体、教育委員会の動きが全国に広がるよう取り組みたいものです。 (学校給食ニュース4号 1998年7月)

●相模原市、PC食器全廃
6月4日付け日本経済新聞によると、神奈川県相模原市は、9月までに学校給食のポリカーボネート食器を全廃することを決めました。 市内の給食施行校53校のうち、5校が食器使用、また、42校は箸がポリカーボネート製。しかし、 代替食器にポリプロピレン製などの導入を検討していると報じられており、この点には問題があります。ぜひ、 陶磁器の検討をしていただきたいものです。(学校給食ニュース4号 1998年7月)

●三鷹市、PC食器全廃
5月29日付け東京新聞によると、東京都三鷹市では、 私立保育園5園で使われていたポリカーボネート製食器を疑わしきは使用しないとの立場で全廃し、6月より強化磁器に切り替えます。 学校給食では使用していなかったとのこと。(学校給食ニュース4号 1998年7月)

●山梨の動向
5月24日付け山梨日日新聞によると、山梨県内でポリカーボネート製食器を使用している小中学校は98校あり、 その所管である25の教育委員会のうち、芦川村教委は箸のみの使用を別の素材へ変更することを決定しました。 安全性に配慮し変更する方針で検討しているのが6教委、変更すべきかどうかを検討しているのが7教委、 更新時などの理由で変更することを検討しているのが2教委、変更すべきかどうか検討しているのが4教委、変更を考えていないのが3教委、 その他が2教委だったそうです。この調査によると、中には、環境ホルモン問題を知らない、というところがあったり、 変更するところでもメラミンへの変更を予定しているところがあり、地域ごとの働きかけが必要です。(学校給食ニュース4号 1998年7月)

●名古屋市も実態調査へ
5月19日付け中日新聞によると、名古屋市教委に対し、ポリカーボネート食器の使用に対して保護者からの不安の声が上がっていることと、 本年度からポリカーボネート製食器に切り替えた小学校で、保護者と学校が導入をめぐって話し合いをもつなどの事態が起きていることから、 実態調査を行なうこととなりました。名古屋市では、1988年に、望ましい食器を強化磁器とする結論を持っていましたが、 ワゴンや保管スペースなど設備の問題で導入は27校にとどまっているとのこと。調査は、ポリカーボネート食器の用途や使用年数を含めたもので、 使用校が強化磁器に変更可能かどうかを含むものとされています。調査の結論によっては年度内の切り替えもあると報じられており、 今後注目されます。(学校給食ニュース4号 1998年7月)

●缶の内面塗装を変更へ
5月23日付け日本経済新聞、6月3日付け読売新聞などによると、合わせて国内市場の約9割のシェアを持つ製缶業大手3社の東洋製缶、大和製缶、 北海製缶は、金属缶の内面塗装をエポキシ系塗料から変更します。年内は有機溶剤を使わず、 ビスフェノールAの溶出量をこれまでより大幅に減らす塗料の実用化を行ない、来年からは、ペット樹脂フィルムの貼り付けにしていく方針。 缶の内面塗装からビスフェノールAが溶出していることを受けての対応。3年後をめどに切り替えを完了する予定。 厚生省の溶出基準からは大きく下回るが、消費者の不安を背景に切り替えることにしたようです。なお、アルミ缶の場合、 技術的にエポキシ系塗料を使わない缶の技術が確立していないとのこと。ビスフェノールAをはじめ、環境ホルモンとされる化学物質について、 代替品を検討したり、使用を中止する動きがいくつかの業界でみられます。「疑わしきは、使用せず」という原則での対応を望みます。 (学校給食ニュース4号 1998年7月)

●ポリカーボネート容器と温度
6月2日、毎日新聞によると、ポリカーボネート製の容器は、水温が上がるにつれてビスフェノールAの溶出量が増えることが確認されました。 高橋敬雄教授(新潟大学工学部水産工学)らの研究によるもの。6月5日の第7回環境化学討論会で発表。
調査は、ほ乳瓶とマグカップを対象にしており、いずれも95度で0.753~1.963ppb(10億分の1、 厚生省の溶出基準は2.5ppm=2500ppb)の溶出。給食食器でも熱いものを入れることが多いわけですから、やはり不安です。 (学校給食ニュース4号 1998年7月)

●栃木県小山市
市教委学校教育課によると、今年度からアルマイト製食器をポリカーボネート製に買い換える計画だったが、再検討することに。しかし、 検討の方法や時期については未定。陶磁器の使用について聞いてみたところ、「施設の問題で無理」との返事。(聞き取り調査) (学校給食ニュース3号 1998年6月)

●大分県大分市
市教委体育保健課によると、アルマイト製食器をつかっており、7校でポリカーボネート製食器の試験導入を予定していたが、中止した。 厚生省生活衛生局の内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会の結論を待ち、あらためて考えることになりそうだとのこと。 判断まではそうとうな時間が。今のところ陶磁器を検討する考えはなく、食器検討のふりだしに戻っているようである。(聞き取り調査) (学校給食ニュース3号 1998年6月)

●神奈川県横浜市
横浜市は、給食用食器調査委員会を設置し、ポリカーボネート食器のビスフェノールA溶出試験などを実施し、98年度中に報告をまとめる予定。 横浜市は、全体の約7割、238校の小学校がポリカーボネート食器を使用している。市民団体などが議会で使用中止を求めており、 市教委が調査を行なう方針を決めた。調査はポリカーボネート以外の陶器やアルマイトも対象とし、溶出調査だけでなく、容器内の食事温度、保管、 運搬などについても検討する。教育委員会は4月上旬に「煮沸消毒の禁止」や「85度の熱風殺菌の要請」などの通達を出している。 (日経産業新聞5月12日)
市教委学校保健課によると、この溶出試験は、食品衛生法にのっとった方法と、横浜市独自の方法として、1年目、2年目、 3年目と実際に使用されている食器を使用し、スープを入れたり、油を含む料理を置いて、現状に合わせた調査にするとのこと。 横浜市学校給食用食器調査委員会を5月6日に立ち上げ、これから検討に入るという。(聞き取り調査)(学校給食ニュース3号 1998年6月)

●埼玉県が実態調査
埼玉県健康福祉部は、実際に給食で使われているポリカーボネート製食器を集め、ビスフェノールAの溶出測定を5月中にも開始する。埼玉県では、 昨年5月現在で全公立小中学校の27%にあたる401校でポリカーボネート食器を使用。
埼玉県久喜市でも全14校でポリカーボネート食器を使用しており、議会でも問題が取り上げられ、独自調査を行なう。(読売新聞5月1日)
埼玉県健康福祉部生活衛生課によると、この検査は生活衛生課の通常の調査の一環として行なうもので、 食品衛生法に違反していないかどうかを調べるもの。実態把握であって、学校給食用食器としての判断は健康福祉部では行なわないという。 (聞き取り調査)(学校給食ニュース3号 1998年6月)

●福岡県古賀市
市内11の小中学校給食約7,000食を実施。老朽化した給食センターの新築に合わせ、 従来のアルマイト製食器に替えてポリカーボネート食器を使用することとし、3月末に納入、5月6日から使用する予定にしていた。しかし、 市民からの安全性を懸念する問い合せなどにより校長会などで再協議することとなった。(西日本新聞4月25日)
この問題に対し、4月25日、学習グループ「こが風の学校」が主催したシンポジウムが開かれた。導入反対論が相次ぎ、 市や市教委に対しポリカーボネート食器利用廃止を訴える申入書を提出する予定。(西日本新聞4月26日)
5月19日、市教委は、磁器食器を取り入れている福岡県飯塚市を視察するなど検討作業の結果、 「将来環境ホルモンの影響が出てくる恐れがあるのなら、現時点で磁器に変更した方がいい」との判断で、ポリカーボネートの導入を取りやめ、 磁器食器とする方針を決めた。市議会で承認変更が得られれば、 現在稼働を延期している新設給食センターで磁器食器を利用した学校給食を9月より開始する。(西日本新聞5月20日) (学校給食ニュース3号 1998年6月)

●愛知県小牧市
市内8小中学校へ供給する給食センターの完成に合わせポリカーボネート食器を導入。予定の変更はない。(日本経済新聞 4月8日) (学校給食ニュース3号 1998年6月)

●大阪府池田市
市内11校で、4月よりアルマイト製食器からポリカーボネート製食器に切り替え。事前の親への説明がなく、 保護者が撤回を求め署名運動を行なっている(毎日新聞4月17日)(学校給食ニュース3号 1998年6月)

●2メーカー生産中止
 昨年の10月にポリカーボネート製子ども用食器の回収命令が出された大阪の化学製品メーカーオーエスケーは、 ポリカーボネート製子ども用食器の製造を中止し、ポリプロピレン製にする。 千葉県柏市の化学製品メーカー大日本ポリマーでも今年2月に同様の回収命令が出されており、 今後はポリカーボネート製ではない製品にするとのこと。(毎日新聞4月11日)(学校給食ニュース3号 1998年6月)

●地場産業漆器を学校給食へ
富山県高岡市は、市議会で地場産業の高岡漆器を学校給食食器として取り入れる方針を出した。 高岡漆器の大半には化学塗料のカシュー塗料が使われており、加温、洗浄などに問題があるため、当面はトレー導入を検討。また、 輪島市などに視察を出して衛生面など使用に向けた研究を開始する。(富山新聞4月19日)(学校給食ニュース3号 1998年6月)

●横浜市が、PC溶出調査
ポリカーボネート(PC)食器の調査を横浜市が全国に先駆けて実施。市民団体や神奈川ネットワーク運動が議会で使用中止を求め、 市教委が調査方針を決定した。調査は、本年度中にまとめる方向で、ポリカーボネート食器に加え、陶器、アルマイトも含めて行ない、 溶出検査に加え、容器の劣化、容器内の食事温度、保管、運搬などを検討し、食器選択を行なうとしている。なお、横浜市では、 1994年度に10校でポリカーボネート食器が導入され、現在は、給食実施校の約7割にあたる238校が使用しているという。 (朝日新聞 3月28日)(学校給食ニュース2号 1998年5月)

●環境ホルモンで厚生省の部会が開かれる
厚生省食品衛生調査会毒性・器具容器包装合同部会が3月13日に開かれた。検討されたのはポリカーボネート、ポリスチレン、 ポリ塩化ビニルの3種。現時点では、内分泌かく乱のメカニズムがはっきりしておらず、問題にするためのデータも不足しており、 現在のデータでは対策が緊急のものではないとして、情報を収集するという方向で終わっている。積極的な対応を望みたい。 (学校給食ニュース1号 1998年4月)

●ポリカーボネート食器の見直し検討を表明
北海道議会において、堀知事は道内の学校給食や道立病院で使用されているポリカーボネート樹脂食器の使用見直しを検討すると表明。 ビスフェノールAの人体への悪影響に懸念して。道庁内の環境政策推進会議で具体的な検討がされることになった。道内では、 近年ポリカーボネート食器の導入がすすみ、97年の調査では効率小中学校の38%に導入されている。(北海道新聞、3月12日) (学校給食ニュース1号 1998年4月)

[ 98/12/31 食器 ]

今の衛生管理は正しいか?

 病原性大腸菌O157による集団食中毒が発生した96年以降、食中毒に対する過剰なまでの衛生管理が叫ばれました。 96年の1学期に堺市をはじめとするO157食中毒が発生し、全国の学校給食現場に対して生野菜の自粛や衛生管理の徹底などが求められましたが、 2学期になっても岩手県や北海道でO157による食中毒が発生してしまいました。
 97年4月には、文部省体育局長名で「腸管出血性大腸菌O157発生状況を踏まえた食中毒発生の防止等について」 「学校給食における衛生管理の改善充実及び食中毒発生の防止について」という通知が出され、これまでの衛生管理関係通知通達をまとめる形で 「学校給食衛生管理の基準」が出されました。
「学校給食衛生管理の基準」には、栄養士や調理員が当たり前に行なっていることも書かれています。その一方で、学校や共同調理場(センター) ごとの実状に応じた工夫を認めないような記述も多く、栄養士や調理員に不安と混乱を招きました。
「学校給食衛生管理の基準」を見て、ベテランの栄養士や調理員が疑問に感じた点をいくつか挙げてみます。


●原材料は50gずつ、調理済食品は1食分を保存

 学校給食現場の作業環境は決してよいとは言えません。個別の状況は地域や設置時期などによって大きく異なりますが、手狭な調理室、 不足しがちな調理用具、少ない調理員などの中で、創意工夫をこらしながら子ども達に給食をつくっているのが実状です。
 そんななか、O157食中毒以降、真っ先に調理現場に導入されたのが、原材料・調理済食品保存用の冷凍庫でした。
 基準により、原材料は各50gずつ、調理済食品は1食分、すべて2週間の冷凍保存が義務づけられています。万が一、 食中毒が発生したときに原因を追及するのが目的です。
 野菜や肉、魚、豆腐などを保存することになりますが、中には、味噌や醤油、乾物なども保存している給食現場があります。そして、 多くの栄養士や調理員がこのことに無駄を感じています。
 たとえば、桜エビやバターを50g、2週間保存して、問題がなければ捨てます。毎日、 日本全国すべての調理場で同じようなことが繰り返されています。
 調理済み食品の保存は、食中毒が発生した際の原因究明に役立ちますが、原材料からは食中毒菌の検出がされないケースがほとんどです。 食中毒菌にはかたよって存在する性質のものもあり、50g程度の保存では検出できる可能性が極めて低いからです。
 この原材料保存については、原因究明に有効なのかどうか検証が必要ではないでしょうか。


●加熱処理した食品の中心温度は75度1分

 揚げ物や焼き物などの加熱調理を行なったときには、中心温度計を使い3点を計り、中心温度が75度以上になり、 それが1分以上加熱されているかどうか確かめることが求められ、調理現場で行われています。
 食品ごとの性質を考えない一律な基準には問題があります。たとえば、 揚げ出し豆腐などは中心が75度になるようでは表面は食べられないほど焦げてしまいます。また、すべての加熱品が対象なので、 ご飯や味噌汁の中心温度も計ることになっています。
 病原性大腸菌O-157の食中毒で死者がでた大阪市堺市などではこの基準を忠実に守るあまり、ジャムまで加熱していました。 笑い話ではありません。そこまで調理員は必死なのです。
 不必要なものまでを加熱したり、中心温度を計るような過剰な対応を求められることで調理作業が煩雑になり、実質的な調理時間が短くなります。 この基準が、学校給食のメニューを必要以上に制約したり、味を悪くすることに栄養士、調理員は頭を悩ませています。


●逆性石鹸で2分間、手をこすれますか?

「基準」の別添に、「衛生管理チェックリスト(日常点検表)注意書」があり、その中で手洗いの基準が示されています。

 1:水で手をぬらし、石けんをつける
 2:ブラシを使って指、腕を洗う
 3:指の間と指先をよく洗う
 4:石けんをよく洗い流す
 5:逆性石けん液をつける(50倍希釈)
 6:2分以上手指をよくこする
 7:よく水洗いする
 8:ペーパータオル等でふく
 試しに逆性石けんで消毒するつもりで、時計を見ながら2分間手をこすってみてください。2分間というのは、短いようで長い時間です。
 基準では、作業が変わるたびに、この手洗い、消毒を行うように求めています。
 東京都の栄養士たちが実験したところでは、仮にこの通りに手洗いを行なっても、一般生菌検査をするとかなりの菌が検出されたそうです。つまり、 もしも大腸菌O157が手に着いていたら残ってしまう可能性があるということです。
 この手洗い基準自体に問題があり、かつ、現場としてできないことを押しつけている感が否めません。さらには、 「この基準通りやっているから安心」という間違った油断をしてしまうことにもなりかねません。

●マスクをすれば、衛生的に見えますが…

 多くの学校給食調理現場は、高温多湿の環境です。ドライシステムで冷房も効いていて、働きやすいという調理現場はまだまだ少数です。
 その中で、調理現場では、作業中ずっとマスクの使用を求められています。
 しかし、多くの作業はマスクをしていないからといって非衛生的だということにはなりません。
 むしろ、高温多湿の調理現場でのマスク使用は、気になって顔を手で触ってしまいブドウ球菌等、 肌の表面に存在する菌を手に付着させてしまう危険性もあります。
 たしかに、一般の人にとってみれば調理現場でマスクをして作業をしている姿は、していない姿よりも衛生的に見えることがあります。
しかし、必要なことは、適切な衛生管理であって、過剰な対応ではありません。

●パート化、民間委託と衛生管理

「基準」には、「学校給食調理員に対する衛生管理に関する研修機会を積極的に設けること。この際、 パート職員も含めできるだけ全員が等しく受講できるようにすること。」とあります。
 実際には、パート職員に賃金を保証して研修を受けさせているところは少ないのではないでしょうか。この項目は、 現実の問題として各自治体で取り組んで欲しいところです。
 ところで、現在「合理化」によって給食調理員のパート化、民間委託化がすすんでいます。
 給食調理員には、衛生管理や調理に対する知識や経験が求められます。その調理員にパート労働者を増やしたり、 パート労働者が欠かせない民間委託を行なうことは、衛生管理上からもおかしいことです。
 パート労働の場合、直営でも民間委託でも身分が保障されておらず、労働が厳しかったり、 賃金が低いなどの理由で調理現場ではパート労働者が定着できないことが多いのです。
 また、民間委託の場合社員調理員の交代も多く、東京都立盲・ 聾養護学校の例では民間委託校の受託会社社員調理員が1年間の間に交代するケースが調査12校中10校あり、 またパートを含めると11校に調理員の交代があったそうです。これでは安心して調理を任せるというわけにはいきません。 研修しても追いつかないことは十分に予想できます。

●塩素殺菌が復活

 O157のあと、しばらくの間、生野菜や果物は学校給食から姿を消しました。その後、生野菜や果物の使用が認められたところでも、 次亜塩素酸ナトリウムを使った塩素殺菌をするように指導されたところが数多くあります。
 また、指導により調理前後の洗浄・消毒に塩素殺菌が復活したところもありました。
 塩素は強力な殺菌剤です。0.15~0.25ppmの濃度と15~30秒の時間でチフス菌、コレラ菌、赤痢菌、大腸菌などは殺菌されます。 もちろん人体にとっても危険な薬剤です。
 短期的には、濃度15ppmで眼、鼻、喉の刺激による痛みや咳などがあり、50ppmで胸の痛みや喀血、1000ppmで即死します。 長期暴露では、鼻や咽頭粘膜の潰瘍や気管支炎などの呼吸器疾患があります。
 さらに、塩素は有機物と反応して発ガン物質のトリハロメタンを生成します。
 野菜・果物の洗浄には、50~100ppmの溶液に5分以上ひたして殺菌されます。
 そのような野菜や果物を子ども達に食べさせる方が心配です。流水で十分です。
 大量の塩素殺菌は、調理員の健康にも不安があります。
 あなたは、家庭で毎日塩素殺菌した野菜や果物を食べる気になりますか?


(学校給食ニュース2号 1998年5月) 

 

[ 98/12/31 衛生管理 ]

給食の施設設備に問題はないか?

 衛生管理をきちんと行ない、食中毒を防ぐ上で、緊急にやらなければならないことに施設の改善があります。冷蔵庫の設置、温蔵庫の設置、 センターの配送車増車、温度管理車の導入、ワゴン車の温度管理などなど、立て替えや改築をしなくても、すぐにできることはあります。ここでは、 給食調理現場の設備と衛生管理についてまとめてみました。
 まずは、みなさんの子どもが通う学校の給食設備がどうなっているか、調べてみることからはじめませんか?

●2時間ルールを守りたい!

「基準」では、調理後2時間以内に食べることを求めています。作りたてを、温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たく食べるのが、 食中毒を回避し、おいしく食べる基本です。2時間と言わず、できる限り作りたてを食べられるような状況であって欲しいものです。 なぜそんなに時間がかかるのでしょうか。
 給食センター(共同調理場)の場合、1日数百から多いところで1万食を超える給食を作っています。たとえば、あるセンターから学校まで、 配送車で運ぶ時間が30分かかるとすると、前後の時間を合わせても作ってから食べるまでに1時間以上はかかってしまいます。まして、 1台の配送車で2校、3校と回るときには、午前中早い時間にセンターを出発しなければならず、当然、調理にかけられる時間も短くなりますし、 食べるまでに時間がかかることになります。
 そのため、センターからの配送車を増やすよう「基準」には書かれていますが、現実はどうでしょうか。
 この配送時間があるため、センター方式の方が、自校方式よりも食中毒の危険性は高くなります。自校方式の場合、 作ってから食べるまでに配送する必要はありません。その分、作りたてに近い状態で食べられるのです。
 しかし、自校方式でも、設備が不十分なために食べるまでに時間がかかることもあります。
 たとえば、600人分の焼き魚を100個焼けるオーブンひとつで調理するとなると、6回に分けて調理することになります。 調理する人数に合わせたオーブンの規模や数があれば問題はないのですが、多くの学校では調理設備に限りがあり、何度も使い回すのが現状です。 そのため、最初に焼いた魚は時間が経ってからしか出せないということになります。


●冷蔵庫、温蔵庫があれば

 食中毒を防ぐのにもっとも大切なのが温度管理です。食中毒菌が繁殖する条件をできる限り減らすためには、 繁殖に適した温度になっている時間を短くすることが大切です。食中毒菌の繁殖では、16~52度が危険とされ、 この温度帯に2時間以上放置しないことが必要です。
 届いた原材料のうち、冷蔵の必要なものは原材料専用の冷蔵庫へ冷蔵しておき、調理後、デザートやサラダは冷蔵庫へ、 温めておく焼き物などは温蔵庫へ保管することができれば、食中毒の危険性はずいぶん減らすことができます。
 ところが、実際に配置されている温度管理設備は、せいぜい牛乳用の冷蔵庫くらいではないでしょうか。保存食用の冷凍庫を見ながら、「これが、 冷蔵庫だったら」と思う調理員、栄養士は少なくありません。
 同じことは、配膳までのワゴン車や配送車にも言えます。配膳用のワゴン車には、温かいものも冷たいものもあわせて積まれます。 温度管理を行なうならば、配膳方法も含めて取り組むべきです。


●汚染区域と非汚染区域

 各調理場では、床に線を引き、汚染作業区域と非汚染作業区域を明確にしています。下処理などの区域は食中毒菌がいる可能性のある区域 (汚染作業区域)、盛りつけ場など菌が入り込むことを防ぐべき区域(非汚染作業区域)として、それぞれの区域間の移動にあたって、 衛生管理上注意するための線です。しかし、調理現場によっては構造上区分けできなかったり、作業が困難になるところもあります。
 調理員、栄養士は、この線があってもなくても、食中毒菌に汚染されないよう、作業の特徴に合わせて衛生管理を行なっています。 調理現場としての衛生管理を行なうのに線を引かせるだけではなく、設備や調理場の構造から見直す必要があります。


●設備の不備は、基準の無理

「基準」は、原則としてすべての作業が終わり、調理済食品が調理場から出た後に洗浄・消毒を行なうよう求めています。「原則」 とありますので、ある程度現場の判断というようにもとれますが、日常点検表では守っているかどうかをチェックするようになっており、 現場の調理員、栄養士は従わざるを得ないことになります。しかし、汚れ物をすべて置いておく場所や台もない調理場が多く、 作業効率も極端に悪くなってしまいます。
「基準」が求めている意味は、洗浄の際、水がはね、二次汚染につながらないようにということです。
 本来、洗浄などの区域と調理区域が物理的に分かれていれば問題ないことです。その施設設備を改善せずに、過重な労働を強いています。
  現状に対応して、肉や魚、卵などが触れたものは調理済み食品が調理場から出た後に洗浄・消毒を行ない、問題ない器具やお釜などは、 「洗う場合、水はねに注意して行なうこと」ぐらいの記述が必要ではないでしょうか。


(学校給食ニュース2号 1998年5月)

 

[ 98/12/31 衛生管理 ]

食材の安全性を見過ごしがちでは?

 食中毒を防ぐキーワードは、「菌をもちこまない、他の食材にうつさない、ふやさない」ことです。
 給食調理現場では、食材に移さず、増やさないために工夫を凝らしています。
 しかし、「菌を持ち込まない」がおろそかになると、食中毒が起こります。
 1998年3月に発生した東京、神奈川、岩手、福井の1都3県にまたがるサルモネラによる食中毒は、 加工済み食品として購入した冷凍ケーキが原因食材でした。
「基準」は、学校給食従事者に月2回の検便を指示しています。
 また、これまで指摘したように、「基準」の過剰な衛生管理は、 あたかも調理員や調理現場が食中毒菌にまみれていることを前提にしているかのようです。
 しかし、もっとも大切なのは原料食材の安全性ではないでしょうか。


★★★「基準」から引用します。★★★


3 食材の選定
ア 食材の購入に当たっては、過度に加工したものは避け、鮮度の良い衛生的なものを選択するよう常に配慮し、特に、 有害なもの又その疑いのあるものは避けるように留意すること。
イ 有害な食品添加物はもとより、不必要な食品添加物 (着色料、保存料(防腐剤)、漂白剤、発色剤)が添加された食品、 材料の内容が明らかでない半製品等については、使用しないことにすること。
ウ 地域における伝染病、食中毒の発生状況に応じて、食品の購入を考慮すること。

4 共同購入等
ア 統一献立と結びついた共同購入は、あまりに大規模である場合には、食材の品質管理や確実な検収を行ううえで支障を来すおそれがあるため、 地域ブロック別や学校種別等の単位にわけること等による適正な規模での実施を検討すること。
 なお、その際、物資選定のための委員会等を設け、学校栄養職員の意見が十分尊重されるような仕組みを整えること。
イ 学校給食用物資の製造を委託する場合には、衛生上十分に信用のおける製造業者を選定してこれを行わせるとともに、業者の有する設備、 人手等から見た能力以上の製造加工を委託しないこと。

 冷凍ケーキや、大阪府堺市のO157のように、大量製造、大量購入することは、 食中毒が発生した場合の危険を増大させるだけではありません。
 誰が、どこで、どのように作った素材なのかが分からないということでもあります。
 堺市のように、牛肉が国産なのか輸入なのかも判別つかず、発表が二転三転するということが日常的に起こっています。
 地域の実情に応じて、新鮮な素材を使い、不要な添加物を排除し、安全で信頼できる食材を取りそろえるためには、栄養士が調理場単位で考え、 それを購入することができるようにする仕組みが必要です。
 学校給食の素材、米や小麦、肉や野菜は、誰が選び、どのようにして決まり、いくらで入っているのか、そして、信頼できるのか。
 調べて見ませんか?


(学校給食ニュース2号 1998年5月)

 

[ 98/12/31 衛生管理 ]

教育環境は無菌でなければならないの?

無菌な世界はない
 ここ数年、除菌、無菌、殺菌ブームです。抗菌グッズが飛ぶように売れ、食器、台所用品、衣料品、バス・トイレタリー用品、 あらゆるものが抗菌をうたうようになりました。
 まるで、すべての菌が害毒かのような風潮です。
 学校給食現場の衛生管理も同じ考え方から来ているようです。
 もちろん、病原性大腸菌O157などは非常に少ない菌数で発症するため、十分な対応が必要なのは言うまでもありません。
 しかし、発生源をできる限り断ち、きちんと洗浄し、加熱し、できたらすぐに食べるという、 これまでの調理の基本をくつがえすことではないはずです。
 一般に無害な菌や、少数の食中毒菌は、私たちの生活のあらゆるところに存在します。特に人間は手、顔を含め、 菌とともに生きていると言っても過言ではありません。
 これまで、人類は菌がいることを前提に、加熱すべきものと、加熱せずとも洗えば大丈夫なものとを経験的に学び、食生活を築き上げてきました。 さらには、菌を利用して味噌や醤油、酢、納豆、日本酒などの加工食品を作り、それをつかって安全に保存するなどの知恵を生み出してきました。
 抗菌ブームは、その知恵を忘れ、まるで今、急に病原菌が増えたかとでもいうような不思議な状況です。

 繰り返しますが、適切な衛生管理が大切なことは言うまでもありません。しかし、すべての菌を排除するという考え方は、 食中毒が食中毒菌によって発症することを忘れてしまい、ときには発症者や保菌者の人権を無視しかねないような考え方におちいることもあります。 食中毒を防ぐには、なにをすればよいのか、きちんと理解し、行動することが大切です。

子ども達に配慮を
 毎年、複数の学校で大規模な学校給食による食中毒が発生します。それとは別に、日常的にお腹をこわしたり、 給食後調子を悪くする子どももいます。
 食べたくないと子どもが思っていても、残さずに食べなければいけないという常識の前に食べさせられている子どもがいることも事実です。
 食べて欲しいのに、残食が多いという調理現場の苦悩があると同時に、食べたくないときも、 食べさせられているという子ども達の悩みがあることも事実です。
 いつから、学校給食はこのような重荷を背負ってしまったのでしょうか。
 学校給食は、単なるお昼ご飯ではないはずです。子ども達に栄養があって、おいしくて、安全な食事を食べさせるためのものですが、 それだけでもありません。
 学校給食を通して、楽しく、生きた食教育を行うこと。子ども達が、自分で食のあり方や考え方、見きわめ方を学ぶ場が、学校給食です。
 そこでは、子ども達の食に対する主体性をどうはぐくむかに配慮しなければなりません。現実的にはありえない「子ども達を菌から隔離する」 発想で、調理現場の菌に対する衛生管理ばかりが強まり、子ども達の主体性に配慮した食教育がなおざりにされています。
 
調子が悪いときには食べなくてもよいという教育、
食中毒とはどういうもので、どんな食生活、調理によって防げるのかという教育、
菌が常に、どこにでもいて、その中で暮らしている事実と、菌の種類や性質によって防ぎ方が違ってくるという教育、
菌だけでなく、添加物や化学物質など、様々な危険性がある中で、より安全なものを選択するという教育、

 学校給食を食べるのは子ども達です。子ども達が主体的に食中毒を予防し、衛生管理を身につける、 具体的な工夫が学校給食と食教育に求められています。

(学校給食ニュース2号 1998年5月)

 

[ 98/12/31 衛生管理 ]

衛生管理からみた理想の学校給食

 これまで述べてきたことをまとめる意味で、衛生管理や食中毒の面から見た、ひとつの理想の学校給食を提案してみます。

栄養士が、地域の食材を含め幅広い食材から選択でき、
調理前から調理後まで適切な温度管理ができる設備があり、
栄養士、調理員が、学校給食の特性に合わせた衛生管理知識を持ち、
衛生的に調理できる給食室の設備と構造があり、
調理後、温かいものは温かく、冷たいものは冷たいまま配膳でき、
食事にふさわしい状況で子ども達が食べることができ
給食を通して食中毒や衛生管理についての知恵を身につけること

 言い換えると、
自校方式で、食材購入は個別であり、栄養士が配置され、直営で正規の調理員が配置され、冷蔵庫、温蔵庫などがあり、適切な設備になっていて、 調理室と併設された食堂があり、学校ぐるみで食教育を行なう給食です。

●自校方式
 センターでは、作ってから食べるまでの時間がかかってしまいます。小規模で、学校の中にある自校方式は、食中毒の危険性を回避する上で、 センターに勝ります。

●直接購入
 原材料の一括購入は、万が一食中毒菌が混入していた場合、大規模な被害につながります。また、大量加工製品は、添加物などの心配もあります。 栄養士が地域や学校の特徴に合わせ、食材を選び、献立をたてていくことは、衛生管理の面だけでなく、学校給食の幅を広げます。

●栄養士の配置
 自校方式直営の学校には、栄養士が配置されていないことがあります。 専門職として学校栄養士の配置は必要です。

●直営で正規の調理員
 学校給食の衛生管理は、最終的には調理員の経験と技能が頼りです。「基準」では、 パート職員も含めてできるだけ全員に衛生管理に関する研修機会を設けることとあり、これはぜひ実行して欲しいことですが、パート職員に、 常勤の調理員と同じだけの経験と技能を求めることには無理があります。また、 自治体によっては正規調理員に対する研修の予算をつけないところもあり、早急な対応が必要です。
 民間委託の場合、業者に対し衛生管理の徹底や教育の徹底を求めることになっていますが、委託調理の現場ではほとんどがパート雇用であり、 チーフとなる業者社員を含め、人が代わりやすいという報告もあります。
 衛生管理の上で、常勤の正規調理員はより明確な位置づけが必要です。

●設備と食堂
 限られた設備で栄養士と調理員は工夫を凝らしていますが、限界はあります。衛生管理の上でもドライシステムの導入や設備の増設、 調理室に隣接した食堂の設置など、子どものための経費は惜しまないで欲しいものです。
 ちなみに、97年9月に保健体育審議会(保体審)が出した答申では、「学校給食を活用した食に関する指導を一層充実する観点から、 学校栄養教職員が個々の給食実施校に配置され、これにより、児童生徒の実態や地域の実情に応じて、 豊かできめ細やかな食事の提供や食に関する指導が行われることが望ましい。したがって、 このような食に関する指導等が可能となるような単独校調理場方式への移行について、運営の合理化に配慮しつつ、 児童生徒の減少等に伴う共同調理場方式の経済性や合理性と比較考慮しながら、検討していくことが望ましい。」とあります。
 もし、センターが老朽化したり、改築するという状況にあるならば、衛生管理の面も含め、自校方式への移行を地域の運動として盛り上げましょう。

●食教育
 教職員、養護教員を含め、栄養士、調理員が、それぞれに食材や、食品加工、調理、手洗いなどのひとつひとつの意味を自覚し、 その意味を子ども達に伝えること。菌の恐ろしさだけでなく、合わせて共生している意味、添加物、消毒液などの問題などを伝え、 選び行動する力をはぐくむ手助けをすること。
 学校給食にはそれだけの可能性が込められています。
 そして、学校ぐるみでの食教育が、なによりも食中毒予防につながるはずです。

(学校給食ニュース2号 1998年5月) 

 


 

 

[ 98/12/31 衛生管理 ]

提案~まず知ることからはじめましょう

 学校給食の衛生管理と食中毒について、簡単にまとめ、その上で、ひとつの案として、衛生管理から見た理想の給食を描いてみましたが、 栄養士、調理員のみなさんが現在勤務しておられる学校や調理場はいかがでしょうか。
 また、保護者や地域のみなさんの学校はどのような状態でしょうか。
 食中毒は、発生してからでは遅いのです。
 栄養士、調理員は、みんな食中毒を発生させないよう日々の仕事をしています。
 でも、起こるかもしれない可能性と危険性は、どの調理場にもあります。
 栄養士、調理員のみなさん、実状を声に出してみませんか?
 保護者、地域のみなさん、一度、教育委員会や学校、調理場に聞いてみませんか?
 O157の食中毒があった堺市の保護者が言っていました。
「食中毒が起こるまで、あまりにも給食のことを知らなかった…」と。


(学校給食ニュース2号 1998年5月)

 

[ 98/12/31 衛生管理 ]

時事情報 1998年 衛生管理・食中毒関係

●金属探知器導入
 1月21日付けの読売新聞によると、長野市教委は、市内3給食センターに金属探知器を2台ずつ配置し、金属混入のチェックを開始した。 長野市では、昨年末から給食のパンやワンタンから鉄くぎなどの異物混入が連続して発生していたため、 年末の18日より汁物調理を中止するなどの対応をしていた。(学校給食ニュース10号 1999年3月)
●大阪市、異物混入事故データを公表
 98年12月19日付の毎日新聞によれば、大阪市では298小学校で、14万食の学校給食を自校方式で配食しているが、 98年4月から9月までの6カ月で異物混入が約100件起こっている。業者納入のパン、米飯、牛乳に由来するものが63件、 自校でつくる副食によるものが、4月から10月末の7カ月で40件。発生件数は横ばいだという。(学校給食ニュース9号 1999年2月)

●調理員からO-157で給食中止
 9月18日付け東京新聞によると、東京都中野区の区立北中野中学校で、調理委託会社の調理員から病原性大腸菌O-157が検出されたため、 9月16日の給食を急きょ中止した。9月7日の検便による結果が16日になって分かったというもの。中野区では、 9月より調理の民間委託を数校試験導入したが、その矢先の出来事。(学校給食ニュース7号 1998年11号)

●1197人発症の食中毒
 9月13日付け福島民友によると、福島県本宮町と大玉村の小中学校で児童生徒教職員1197人が腹痛、下痢、 吐き気などの食中毒を発症した件で、福島県生活衛生課は、原因菌、原因食不明のまま本宮方部学校給食センターの学校給食が原因と発表し、 行政指導を行なった。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●職員がO-157感染で給食調理中止
 9月11日付け北海道新聞によると、北海道小樽市の市学校給食オモタイ共同調理場で施設管理をしている男性職員から、 病原性大腸菌O-157菌が検出されたため、11日から16日までの給食調理を中止し、二次感染などを調べるという。男性職員は、 健康状態に影響のない健康保菌者で、7日の定期検診で検便を行ない、10日午後にベロ毒素が確認された。小樽市保健所は、 10日に調理場内の消毒、男性職員の家族ならびに他の職員の検便を行なった。市教委は、児童生徒の安全面に配慮した措置というが…。 (学校給食ニュース6号 1998年10月)

●堺市懇話会、民間委託の提言
 8月19日付け朝日新聞他によると、 O-157集団食中毒後の学校給食のあり方を検討してきた堺市の学校給食懇話会は調理の民間委託などを提言した。 より豊かで安全な給食を実施するための投資を優先するという…。(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●乾燥ワカメでO-169集団食中毒
 小松茂さん(学校給食情報ネットワーク、兵庫県洲本市)
 1998年4月、大阪府堺市と兵庫県洲本市で、相次いでO-169集団食中毒が発生しました。いずれも事業所給食が発生場所であり、 しかもその調理は給食産業大手の神戸に本社を持つウオクニが受託していました。
 このほど明らかになった概要によりますと、原因食材は乾燥ワカメとほぼ断定されています。 兵庫県の行った細菌検査でワカメより当該菌が検出され、しかも両事件の患者便、食材ワカメより検出された菌のDNAパターンが一致しました。
 私の調査をあわせて一連の経緯を報告します。
 洲本市の事故では、食材のほとんど全ては淡路島内で調達されており、唯一ワカメのみがウオクニ本社から供給されていました。 洲本市の当該調理場で働いていた調理員の話しでは、非常に品質の悪いワカメであり、「あまり使いたくなかった」食材の一つであったそうです。 淡路島はご存知の通り、鳴門ワカメの産地であり、非常に品質の良いワカメが日常的に消費されています。しかし当該ワカメは、 少し火を通しすぎるとずるずるに溶けてしまい、歯ごたえも無く極めて低品質であったとのことです。
 当日、乾燥ワカメをざるに入れてボウルで戻し、戻ったワカメに熱湯をかけた上で和えて供したとのこと。熱湯の量が不足していたため、 加熱不足で菌が残存したものと思われます。加熱に絶えられない粗悪なワカメであったための調理方法が、食中毒を引き起こしたと言えます。
 このワカメは中国から輸入されたものであり、加工処理の際に使用した原水がO-169に汚染されていたものと考えられています。 カイワレダイコンの種子からO-157が検出されたこととあわせて、病原大腸菌のいくつかの種は、 きわめて乾燥に強い性質を有していると言えるでしょう。
 なお、本件の調査の過程で、堺市の対応が極めて不誠実であったことも特筆しておかねばなりません。 当初は食中毒事故の発生そのものすら公表しようとせず(別添新聞報道の日付けを参照してください)、その後も情報公開に極めて消極的でした。 96年のO-157食中毒事故発生時の不手際と言い、行政姿勢そのものに大きな欠陥があるのではないかと疑わざるを得ません。
 ともあれ、いわゆる「乾物」であっても、集団給食の場での取り扱いは、生鮮食品と同様の注意を要求されるものであることを、 本件は示していると考えます。
以下、厚生省資料 
(中川智子衆議院議員を通じて入手)

病原大腸菌O-169について
1 特徴
・病原大腸菌の中で、毒素原生大腸菌(ETEC)に分類される。
・ETECが感染すると、菌は小腸上部で増殖し、水様性の下痢を起こす。下痢の持続時間は約30時間くらい。いわゆる「旅行者の下痢」 の主な原因であり、水や食物による集団発生のあることが知られている。

2 O-169による食中毒事件発生状況
      平成10年 4件、 781人
      平成 9年 8件、3357人
      平成 8年 4件、 188人

3 乾燥ワカメから検出された件
 堺市の事業所で毒素原生大腸菌O-169を原因とした集団食中毒が発生し、その後、兵庫県でも同様の事件が発生した。両自治体の疫学調査より、 共通食材としてワカメが疑われ、その後の兵庫県の行った細菌検査でワカメより当該菌が検出された。
 なお、国立感染症研究所の行った、両事件の患者便、食材ワカメより検出された菌のDNAパターンが一致した。
 兵庫県の調査によると、原因は調理段階での加熱を含む衛生管理が不十分であったことにより、食材に付着していた菌が残存し、 食中毒発生につながったものと推測される。


(事例1)
(1)発生年月日        H10/4/7
(2)発生場所         大阪府堺市
(3)患者数/摂食者数(死者数) 762/2,035 (0)
(4)原因施設         事業所給食
          (受託給食事業者:ウオクニ)
(5)原因食品    キュウリとワカメの酢味噌和え

(事例2)
(1)発生年月日        H10/4/13
(2)発生場所         兵庫県洲本市
(3)患者数/摂食者数(死者数)  17/56 (0)
(4)原因施設         事業所給食
          (受託給食事業者:ウオクニ)
(5)原因食品     磯煮(ワカメ)

◆食中毒から発表まで
(新聞報道を素に時間を追ってまとめました~編集部)
6日:大阪府堺市の機械メーカー・クボタ堺製造所にある従業員食堂で病原性大腸菌O-169による集団食中毒発生。 16日にかけて759人が発症し、146人が医師の診断を受ける。食堂営業は、神戸市の「ウオクニ」。
13日:洲本市の事業所社員食堂で病原性大腸菌O-169集団食中毒発生。16日にかけて30名が発症。
15日:堺保健所にクボタ堺製造所従業員の家族から通報、食中毒が発覚。
18日:兵庫県生活衛生課、洲本の食中毒でウオクニを営業停止処分。21日まで。
18日:兵庫県生活衛生課、洲本の食中毒をマスコミ発表。
20日:クボタから保健所へ通報。
20日:堺市が「クボタ」従業員食堂の食中毒事故をマスコミ発表。
20日:堺市「クボタ」従業員食堂を営業停止処分。26日まで。
(学校給食ニュース6号 1998年10月)

●食中毒
6月6日付け中日新聞によると、富山市と周辺6町、1村の小中学校で、961人の食中毒が発生。原因は、3日の給食で出された牛乳によるもの。 製造した「富山牛乳」では、数日前から原乳貯蔵タンクの冷蔵設備が故障し、予備機を使用していたが、 適切な温度管理になっていなかった可能性があるとのこと。食中毒の時期になってきました。 この事故のように調理現場では対処できない事故も起こりやすくなります。仕入先や流通ルートなど、調べることは、安全性の確認とならび、 教材としても活用できます。地域や学校で取り組んでみたらいかがでしょうか。
(学校給食ニュース4号 1998年7月)

●広域食中毒事件発生
冷凍ケーキのサルモネラ菌で1159人が発症
3月の終わり、年度の学校給食も最後というところで、残念なことに広域に渡る食中毒が起きてしまいました。
簡単にまとめますと、ニュース1号でもお伝えしましたが、3月12日から13日にかけて東京都昭島市の3中学校(昭和中、清泉中、拝島中) の657人が食中毒症状を訴え、28人が入院しました。その後、3月16日または17日の給食で、神奈川県秦野市南小、相模原市新磯小、 寒川町小谷小の児童、教職員合わせて419人が食中毒症状を訴えました。
岩手県宮守村の3小学校(鱒沢小、達曽部小、宮守小)でも、66人が食中毒症状を訴え2人が入院。福井県武生市白山小、 白山幼稚園では18日の給食で食べ、17人が食中毒症状を起こし、7人が入院し、 合計で4都県にまたがる1200人弱の患者を発生させたことになります。
原因食材は、学校給食用に3月2日か4日に同一メーカーで製造された「三色ケーキ」というスポンジケーキで、直径7センチのカップ入り。 冷凍状態で出荷され、解凍して食べさせていたものでした。原因菌はサルモネラ菌でした。
この冷凍スポンジケーキは、2月から3月4日にかけて約8万個ほど製造され、岩手から沖縄までの24都道府県に、 主に学校給食用として出荷されたものでした。食中毒の対象となった製品は、2日間の分、13,534個です。 3月20日に大阪府が業者に対し7日間の営業停止と回収命令を出しましたが、多くは給食として使用されていたといいます。 (毎日新聞大阪 3月21日)(神奈川新聞 3月21日)(東京新聞3月21日)(産経新聞 3月21日)(読売新聞大阪 3月22日) (学校給食ニュース2号 1998年5月)

●97年度の食中毒10件~文部省まとめ
文部省のまとめによると、小中学校の学校給食で、97年度は10件、3493人の食中毒が発生。そのうち、サルモネラ菌によるものが4件。 鮮度が劣るマグロのヒスタミンによると考えられるものが2件などとなっている。(読売新聞 4月2日)(学校給食ニュース2号 1998年5月)

●堺市の続報
堺市教委は、ジャムの加熱をやめ、見合わせていたふりかけやデザートを出す、野菜はすべて当日配送にし、見合わせている果物も今後検討する、 米を地場産に切り替える瓶牛乳を紙パックにするなどの方針を発表した。98年度給食より適用。(朝日新聞、読売新聞各大阪版、4月8日) (学校給食ニュース2号 1998年5月)

●カイワレ大根とO-157
厚生省は、関東南部と東海地方で97年に発生したO157食中毒について、 神奈川県内の生産業者がアメリカから輸入したカイワレ大根の種子が原因と発表した。農水省とアメリカからは疑問視する声がある。また、この件は、 堺市を中心とするO157の原因食材とは無関係とされている。(朝日新聞 3月31日)(学校給食ニュース2号 1998年5月)

●富山県高岡市の食中毒
よりよい学校給食をすすめる高岡市民の会より
「3月12日、富山県高岡市内の保育園において腸管出血性大腸菌O26食中毒が発生。4月16日現在、7園131名に上っています。 県健康課発表によると検出された菌のDNAパターンはすべて一致しているが、共通食材等からの菌の検出はないとのこと。 市内保育園児の家庭に逆性石けんを配布、希望者および各施設関係者、業者等の検便を行なうとともに、県・市が “食中毒防止に関する衛生管理の徹底”通知を再三出しています。
食材の品質などを問題にせず、消毒・殺菌だけで解決するとは思えません。O157事件以来、調理員は検品、洗浄、手洗いに多くの時間をとられ、 休む間もなく疲労困憊しています。なお、発症者を出した保育園などは、私立、公立ともあり、給食が原因となるかどうかも分かっていません。」
※市民の会は、父母を中心に調理員らも入り、教職員や父母への情報発信、行政交渉などを行なっています。 (学校給食ニュース2号 1998年5月)

●東京都昭島市で集団食中毒
東京都昭島市の昭和中、清泉中、拝島中で、3月11日から13日にかけて生徒教職員約512人が腹痛、下痢、発熱などの症状をうったえ、 12人が入院する食中毒事故が発生。この3校は昭島市学校給食共同調理場で調理されている。昭島市の中学校は自校3校、センター3校で給食実施、 センターでは約2200食をつくっている。小学校は、15校中9校分を中学校の隣のセンターでつくっているが、発症者はいない。 患者からサルモネラ菌の検出があったが、原因食材については、3月19日現在明らかではない。週末と重なったため、 市教委が生徒への連絡などの対応をとらず、批判もある。(学校給食ニュース1号 1998年4月)

[ 98/12/31 衛生管理 ]


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